【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第11話 オデッサ戦

連邦軍の大規模反抗作戦、オデッサ作戦が開始された。これはレビル将軍の率いる第一軍とエルラン中将の率いる第二軍による挟撃を企図したものである。それを可能とするのは、海上からの大規模な航空支援に他ならない。

 

航空母艦〈ラ・グランパ〉――オデッサ方面艦隊の旗艦である。

 

「レビル将軍からの合図はまだかね。」

 

航空母艦〈ラ・グランパ〉の艦橋ではゴップ提督が焦れていた。彼の艦隊は地中海に展開している。ここから黒海沿岸のオデッサは指呼の距離にある。しかし、彼の感覚からすればまだ遠い。攻撃機のインターバルに時間がかかりすぎる。本来の作戦では、レビル将軍の合図でポスポラス海峡突破を計ることになっている。

 

「ポスポラス海峡を、どうにか確保できないのか。見通しはどうか?」

 

「ジオンのMSが海中にも潜んでいます。接近は危険との報告が。」

 

連邦軍の地中海艦隊は、黒海へ進みたい。ジオンは断固それを阻止する構えである。ポスポラス海峡は機雷とゴッグ部隊が封鎖をしていた。

 

「レビル将軍から通信です。『黒海は危険、地中海に留まられたし』です。」

 

「ふむ。これ以上は危ういか。」

 

ゴップ提督は初期の作戦を撤回する判断を下した。無理はしないで戦力は温存する、それが彼の信条である。

 

「レビル将軍に、何か策が。代案があると信じよう。不用意な接近は控える。ジオンのMSへの警戒は厳にしろよ。ここで艦隊が沈められては洒落にならん。」

 

今のところ航空偵察を厳にする事で、艦隊へのゴッグの接近は抑止していた。連邦は艦隊直掩用の対潜水哨戒機を開発している。

 

「ハッ!」

 

部下の返答もMSの危険性を熟知した、心地よいものである、

 

「対潜哨戒機のエスカルゴは仕事をしてくれているようだ。」

 

「はい、あれほど頼りになる存在もありません。」

 

艦隊直掩機を除き、攻撃機の大半はオデッサ周辺に振り分けられていた。航空優勢は、MSのほぼない地球連邦軍の生命線である。

 

「しかしMSがないのは辛い、辛すぎるな。」

 

ゴップ提督は痛感した。想定より、陸上側の押し込みが弱すぎる。エルランの第二軍に至っては、ロクな前進が出来ていない。

 

「やはり、我らもMSの開発が急務か。V作戦、惜しい事をしたと悔やまれるな。」

 

「まだ、間に合います。我々もMSの開発を進めています。」

 

副官の言葉に、ゴップは頷き返した。

 

「ああ、そうだな。ソロモンまでにはどうにか間に合わせたいものだな」

 

 

 

 

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

「レビル将軍から入電。『目標変更、黒海上空を確保せよ』です。」

 

オペレーター席に座ったイセリナが電文を読み上げる。艦長席のマチルダは眉を顰めた。

 

「ポスポラス海峡の突破ではないの?」

 

「レビル将軍は、我々にアッザムを対処させて海上を確保させたいのでしょう。」

 

副長のブライトがマチルダに返答する。

 

「例のガンシップとして用いるバスク大尉の秘策、アッザムに試せということね。」

 

「はい。レビル将軍はMAの対処にこだわられていましたから。」

 

ガンタンク、これも連邦のV作戦の成果の一つである。タンク型であり、永らく工作用のモビルワーカーの一種という扱いを受けてきた。しかしこの機体、工作用としては豪華すぎるのである。肩のクレーンは換装可能であり、武装を取り付ければ砲戦用MSとなる。永らくこのMSは、武装を秘匿されたまま生産されてきた。そしてバスク・オム大尉の発案で、ペガサスの機動力とガンタンクの火力を組み合わせてガンシップとして運用するに至っている。別の作戦に従事している彼の遺産のようなものだ。

 

「ガンタンク隊、準備はどう?」

 

「四機とも万全です。」

 

彼らペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉にはレールキャノンを搭載したガンタンクが四機配置済みだ。現在はこの全機をペガサス級の甲板とカタパルトデッキに配置し、固定してある。レールキャノンの威力は、固定砲台として有用と見做されていた。特にペガサス級は、ミノフスキークラフトによって空中を自由に機動できる。

 

「問題は敵ね。」

 

「間違いなく、例のMAがいるはずです。ジオンは量産していると聞いています。」

 

アッザム。かつて北米で対峙した恐るべきMAである。アッザムもまたミノフスキークラフトで飛翔する空の要塞というべき存在だった。かつてコアファイターでは手と足も出なかった。強力な火力がなければ、対処は困難である。

 

ペガサス級では、対峙したくない相手である。特にアッザム・リーダーを喰らうと、ペガサス級でさえ行動不能にされかねない。

 

「空域確保の為、MAの数を揃えたとの情報があります。」

 

「厄介ね。本当にガンタンクで対処出来るかしら?」

 

マチルダは制帽を深く被り直してブライトに問うた。緊張した時の、彼女の癖である。

 

「レールキャノンなら、遠方からでもアッザムの装甲をぶち抜けると技術部が保証しています。」

 

「全てぶつけ本番ね。」

 

技術部はいつも勝手なものである。机上の空論を現場に押し付ける。彼らが保証した兵器が、所定の性能を発揮しなければ死ぬのは前線にいる自分達なのだ。ザクの装甲を貫けても、本当に敵MAの装甲を貫けるかは試してみるまで分からない。

 

「予定のコースに沿って前進せよ。」

 

「了解」

 

マチルダの指示で、ペガサス級〈ペイルホース〉が前進する。

 

「ガンタンク各機、標的を発見次第速やかに撃て。海の上だ、周囲は全て敵と思え。」

 

『『『『了解』』』』

 

リュウ・ホセイ、ジョブ・ジョン、カイ・シデン、ハヤト・コバヤシの声が一斉に答える。まだ少年の面影を残す彼らパイロット候補生の顔を思い浮かべながら、マチルダは何人が生き残れるのかとそう考えていた。

 

 

 

 

ドップの編隊を随伴して、アッザムが現れる。二機もいる。こちらの射線を避ける意図があるのだろう。海上スレスレを飛んでいる。アッザムがペガサスの天敵なのはこれが理由だ。ペガサスでは、下方向の敵に致命的に弱い。リュウ・ホセイは落ち着いた声で指示を下した。

 

「カイ、ハヤト。落ち着いて狙え。コアブースター各機、射線に注意だ。」

 

『了解』

 

『敵との間に挟まらない様に注意するわ』

 

ペガサスが前傾姿勢をとる。射角が変わる。それでも、艦の上部からではアッザムは狙えない。しかし、カタパルトデッキにもガンタンクは配置してある。

 

『いけえー』

 

『そこだ!』

 

まずハヤトの、少し遅れてカイのガンタンクのレールキャノンが放たれた。高速で飛翔した弾頭に貫かれて、アッザムの装甲が火を吹く。爆散した機体はその破片で周囲のドップを巻き込むと、すぐに海中に沈んだ。

 

『よっしゃぁ!』

 

『いける、いけるぜこれは』

 

結果は圧倒的だった。ペガサス級に対しては小回りの効くアッザムも、水平方向からガンタンクに狙い撃たれると脆かった。ただでさえペガサスのメガ粒子砲を避ける為に降下していた。頭を抑えられると、逃げ道が少ない。ガンタンクの旋回能力の方が、彼らが飛翔するよりも速い。

 

『こうなればどんどんいくぜ。お代わりをもってこい』

 

「いい調子だな。こちらにも残しておけよ。」

 

〈ペイルホース〉より高く飛べば、リュウとジョブのガンタンクの餌食となる。四機ものガンタンクを搭載した彼らに、死角はない。

 

『ドップの編隊はこちらで対処します。セイラ、ハモンさん。後に続いて。』

 

『『了解』』

 

コアブースターの編隊を指揮するミライも絶好調だった。厄介なアッザムが即退場してくれるなら、空にコアブースターの敵はいない。

 

「通信手、レビル将軍に報告だ。『ガンタンクは所定の性能を発揮。我、敵MAの排除に成功。』だ。」

 

「はいっ!」

 

現地徴用兵として保護したイセリナが応える。この戦場にガルマも、彼の部下もいない。ジオンに命を狙われた彼女には、連邦の側に立って戦う事に躊躇いはなかった。

 

 

 

 

 

「閣下。〈ペイルホース〉から入電です。黒海上空を制圧しつつあると。」

 

「よし。“幸運の女神”は我らに微笑んでくれたようだな。」

 

レビル将軍にとって、それは待ちかねていた知らせである。これで計画を進められる。

 

「例の作戦を発動するよう、バスク・オム大尉に伝えよ。」

 

「ハッ。」

 

レビルの指示で待機させていたミデア輸送機の部隊が個別に黒海の指定海域に侵攻している。指揮官は作戦立案者のバスク・オム大尉だ。“戦術の天才”と一部では囁かれる彼の能力が、今試されようとしていた。

 

アッザムを華々しく蹴散らせしながら進むペガサス級〈ペイルホース〉に敵の注目は引き付けられている。優先度の低い攻撃対象であるミデア輸送機が飛び回ろうと、敵の関心を引くはずがない。アッザムを処理させたのは、この黒海での策略に関係がある。

 

レビル将軍は作戦の展開をジリジリと待っていた。この作戦の為に、彼の部隊は鉱山基地から距離をとって迂遠な砲撃戦を展開している。本来なら、海へ向かってすぐに駆け降りていきたい程なのだが。

 

「各機、所定の位置に投下完了とバスク・オム大尉から報告が来ました。」

 

「ミデアは上空に退避させたな?」

 

「はい。」

 

「ペイルホースは?」

 

「既に陸地に差し掛かっている様です。」

 

「では、やれ。」

 

レビル将軍は短く指示を下し、海中に投下させた水爆を一斉に起動させた。巨大な水柱が海面から噴き上がる。その水量に呑まれれば、航空機などひとたまりも無いだろう。

 

エルランやゴップという同僚にさえ秘匿した作戦の実行である。その意図する所は、水爆それ自体による破壊力ではない。複数の水爆による黒海海底の地滑り誘発にある。それは巨大地震を引き起こし、数度の巨大な津波を誘発する。

 

戦略価値などない海中への爆弾投棄など、ジオン軍から見れば意味のない行動にしか見えなかった。正確な効果など誰にも分からない。抑止する発想もなかっただろう。スペースノイドには地球環境への理解は乏しいからだ。しかし、地球の猛威を知るアースノイドにより慎重に計算されたその効果は絶大である。

 

巨大な地震に海面が揺れ動く。地震に動揺するスペースノイド達の隙を狙って、爆撃機は港湾部の護岸設備を集中的に空爆した。そして爆撃の後を追うように、オデッサ周辺を津波が襲う。津波は濁流となり都市を飲み込むと、平野に浸潤した。MSであれば押し流される程度で済むが、問題はその後である。

 

ジオンの航空機はもう飛べない。乾いて開けた滑走路が存在しないのだ。弾薬を使い切れば補充する術はない。MSはその運動性能に重大な障害を抱えた。平野部は巨大な水溜まりと化している。動けはするが、その機動力は劣悪極まりない。いずれも連邦軍の砲兵の良い的であった。キャタピラ式のダブデも、マゼラアタックも泥濘の中で移動に障害を抱えた。こうなるともう、ジオンは作戦実施どころではない。

 

そんな泥沼の上を、レビル将軍のビッグトレーは悠々と進む。ホバークラフトならば、沼地での作戦展開に支障がある筈がない。

 

「予想以上の出来だ。これならばジオンの鉱山基地も落とせよう。」

 

戦後の被害には目を瞑る。オデッサの街の住民は避難している筈である。海水を浴びた穀倉地帯がどうなるか、考えたくもない。今考えるべきは「ジオンを倒す」ただそれのみだ。

 

ゴップもエルランもこの無謀な作戦を知れば、反対したに違いない。だから絶対に秘匿しなければならなかった。作戦の全貌は誰に対しても秘匿し、だから実行し得た。この老将軍はV作戦の失敗で、その思考を先鋭化させている。こうなればどれほど汚れた手段でも構わない。使える手は全て使う。勝利しさえすれば、それでも正当化される。

 

「チェックメイトだな。さあ基地の制圧だ、虎の子を出せ。」

 

ビッグトレーはジオンの抵抗を排除せず突き進んだ。悠々と鉱山地帯のある岩場に到達する。そして“ゴーストザク中隊”と称するMS部隊を展開させた。

 

全て鹵獲したザクである。それらは厳しい訓練を積ませた精鋭にのみ与えた。ジオンのザクは一般的なパイロットの乗機だが、連邦のザクはトップエースの乗る機体だ。質が違う。ジオンのマニュアルを解析し、最適な対策も叩き込んだ。相手が同数なら、負ける筈がない。

 

「さあ。いよいよ基地を占領するのだ。」

 

 

 

 

ジオンにも対抗策はある。レビル将軍を討つ為にマ・クベが用意したのはドムの小隊とそれを支援するグフ飛行試験型の小隊だ。グフ飛行試験型は航空機対策である。アッザム程ではないが、装甲が厚く敵の航空機には脅威となる。容易には落とせない。

 

黒い三連星の乗るドムまたホバークラフトである。彼らは高速で敵に接近し、バズーカという最上位の火力で敵を屠る。この組み合わせに連邦の通常兵器は到底太刀打ち出来ない。

 

この集団はレビル将軍のビッグトレーという分かりやすい標的へ向けて接近しようとしていた。しかし彼らとて、戦場の変化には気がつく。

 

「まずいぞ、ガイア。動けるのは俺たちだけだ。これでは突出する。」

 

爆撃機もコアブースターも、ろくに動けないジオンのMSを始末するのに忙しい。しかしそんな中で軽快に動けば、目立ってしまう。目をつけられるのだ。グフ飛行試験型の小隊がドムの上で、襲ってくる航空機の相手をしている。だがこうなっては大して時間を稼げないだろう。それに手間取れば、彼らの天敵が訪れかねない。

 

「おい、来たぜ。」

 

噂をすれば、と見上げると遊弋する巨大な影がある。ミノフスキークラフトにより飛翔するその物体は、航空機ではない。ペガサス級と称される強襲揚陸艦だ。青く塗られた艦体、因縁の敵である。そしてそのカタパルトデッキには、二機のMSが展開していた。その両肩の砲門がドムを狙っている。

 

「まずいぞ、あの砲は直線で来るっ!」

 

ガンタンクのレールキャノンの威力は既に思い知らされていた。MAであるアッザムを一撃で破壊したと通信で耳にしたのだ。あれに当たれば、ドムとて助からない。流石にそうそう簡単に命中させる気はないが、相手は空中である。直接は手出しできない。ドムの胸部ビーム砲は射程が短い。ジャイアントバズーカならば届きうるが、高度を上げられると避けられやすい。

 

「こんな岩場では自由に動けん。逃げるが勝ち、だな。」

 

マッシュの言葉にガイアも同意する。

 

「ああ同感だ。こんな所で命を張るのは割に合わん。味方がやられている間に引き上げるぞ。」

 

黒い三連星は反転する。レビル将軍を再び捕える為には、邪魔が入らない環境が必要だった。これは明らかに負け戦である。こんな環境で、あのルウムの偉業の再現はできない。自分達はここでは必要とされていない。

 

「覚えてろよ、連邦のクズ共。次は容赦しねえぞ。たっぷり仕返ししてやるからな。」

 

オルテガが呪いの言葉を吐く。相手に伝わっているかなど考えもしない。彼はただ、来るべき次の戦いで確実に勝つ為に士気を昂らせているだけなのだ。

 

 

 

 

「ドムが逃げていくわ。ペイルホース、追撃を?」

 

ミライのコアブースターがドムを追跡しようとして、グフ飛行試験型に阻まれる。セイラは自機をグフに寄せるとビーム砲の砲門を開いた。地球では大気で減衰してしまうが、これだけ近づくとその威力は絶大だった。グフは装甲を切り裂かれて飛行装置を爆散させる。そして錐揉み状態で落下した。コクピットに直撃させてはいないが、あれではパイロットは助からないだろう。

 

3機いた飛行型のグフも今ので最後である。スコアはセイラが1機、ミライが1機、ハモンが1機だった。

 

『コアブースター各機、こちらマチルダ。追撃は不要よ。彼らは敗北を悟って逃げて行くの。我が軍の勝利よ。』

 

セイラとミライは冷静さを取り戻し、周囲を見渡した。ハモンはその2機を支援するように少し上空を飛んでいる。泥濘に足を取られたザクには、コクピットを解放して降伏の白旗を掲げる機体も多い。こうなれば戦いにならない。連邦には碌なMSがない。有り難く鹵獲したザクを使う筈だ。そもそも、砲撃と航空機だけで勝てる筈などなかった。しかし剛腕のレビル将軍は津波を引き起こす事で、連邦に最適な戦場に作り替えてしまったのだ。

 

「レビル将軍、本当に恐ろしい人ね。」

 

『ええ、これだけ必死になると少し背筋が寒くなる』

 

セイラの独白じみた声に、ミライが同意した。ミライはゴップ提督と懇意にしている。同じ連邦軍に比較対象がいるだけに、レビル将軍の過激さには感じるものがあるのだ。

 

『セイラさん、ミライさん。それにハモンさんも。オレのガンタンクの射撃はどうだった?』

 

カイから通信が入る。勝ったと知って油断しているようだ。だがその軽薄さも、今はどこか頼もしさを感じる。

 

『カイ軍曹、ドムには1発も命中させていないのは確認済みよ。』

 

『ミライ軍曹はひどいな、オレのレールキャノンに恐れをなしたから、ドムは逃げたんだぜ。』

 

『はいはい、分かったわ。これでも感謝してるのよ。』

 

実際、ガンタンクは有用だった。ペイルホースは黒海上空を突っ切ってオデッサまで到達した。黒海上空は、アッザムが遊弋する魔の空域である。アッザムにはコアブースターでさえ苦戦する。しかし、ペイルホース隊のガンタンクはアッザムの群れを一掃したのだ。航空優勢を確立する上で、彼らの貢献は絶大である。それは全て、ガンタンクのレールキャノンをアッザム対策に活用するバスクの案とマチルダの手腕による成果だった。

 

「凄い人ね、マチルダさん』

 

それも独り言だったが、相棒のミライは応えてくれる。

 

『ええ。とても信頼できる艦長だわ。ブライトも、いつもマチルダさんは凄いって言っているもの。』

 

『そこ、私語は慎むように。』

 

短くマチルダ艦長からの叱責が飛ぶ。そういえばまだ空の上だったと、ミライもセイラも慌てた。ミライはきっとヘルメットの中で舌を出している。MAVを組んだ今は、相棒のそんな仕草もセイラには容易に想像ができた。

 

『カイ、ハヤト。お前達も浮かれるな。セイラさんやミライさんを惑わすんじゃないっ!』

 

リュウ・ホセイの怒号が飛ぶ。

 

『へーい。それじゃまた後でね、お二人さん。』

 

叱られてもなお、カイは軽薄だった。カイの熱意に応える気はセイラにもミライにもない。だがいつもと変わらない空気感は、陰惨な戦いの終わりに気を楽にしてくれた。だから2人も、カイを邪険に扱う気はない。それにカイの視線は常にマチルダ艦長を追っている。臆病な彼がガンタンクで戦っているのも、きっと良いところを見せたいだけなのだ。婚約者がいると知ってなお、諦められないカイの恋心をミライもセイラも密かに応援していた。

 

 

 

 

「おのれ、レビルめ。」

 

三連星のドムが反転したのを確認したマ・クベは、レビル将軍の悪辣さを罵った。南極条約ではABC兵器の使用を禁止している。核兵器など論外だ。しかしこれはどうだ。確かに水爆を使用している。しかし水爆は海中に投じられて、直接的な被害を受けたわけではない。南極条約に明らかに抵触している。しかし南極条約違反とは言い切れない。

 

「基地の被害状況を知らせよ。」

 

「それが、再稼働は絶望的です。」

 

最悪なのは鉱山基地だった。指向性を持たされた濁流は鉱山基地にまで到達した。ハッチ閉鎖が間に合わなければ完全に水没していたかもしれない。しかしハッチを閉鎖しても濁流の侵入を完全に防げてはいない。鉱山は浸水し、深層に水は残った。完全に排水するまで再稼働は絶望的である。この環境では籠城などおぼつかない。頼みの核ミサイルも浸水した。動作するかも分からない核ミサイルに、自分のキャリアをかける趣味などマ・クベは持ち合わせてはいない。

 

「なんとしても敵の侵入は喰い止めろ。動かせるMSは全て出せ。」

 

「それが、展開していたMSが多く。基地内にはごく僅かしか。」

 

ジオンはマ・クベの作戦に沿って戦線を押し上げていた。その為にMSを既に多数投入している。その大半が泥濘に脚を取られた。レビルの奇策は完全にマ・クベの意表を突いたのだ。

 

「敵のMSは食い止められているのだろうな?」

 

「それが、既に内部に入り込まれています。」

 

マ・クベは決断した。この基地を放棄する他に道はないと。

 

「用意したザンジバルへ移動する。宇宙へと上がるぞ。」

 

不本意な逃亡である。予め用意させていた事で、ザンジバルが脱出に支障ないのだけが救いだった。

 

「ええい、忌々しい。ここでレビルもろとも、奴の部隊を殲滅したかったのだがな。」

 

核ミサイルによる斬首戦術、レビルのビッグトレーを破壊する。その上でエルランと協調しての敵主力の包囲殲滅。MSを持たない敵など、接近されればひとたまりも無い。勝利は目前だった。レビル将軍のこの卑劣な奇策さえなければ。

 

彼は嘯いた。

 

「この基地からジオン本国へ送った資源を見ろ。ジオンは後十年は戦える。」

 

 

 

 

エルラン中将は漸く進撃を指示した。慎重な彼が遂に勝利を確信したと部下達も安堵した。しかし、彼の思惑は少しだけ異なっている。

 

(マ・クベが逃げるのは仕方がない。ジオンの残存部隊は可能な限りこちらで収容する。上手く話を持っていけば、自活する道もある筈だ)

 

エルランとしては、遺棄されつつある敵のMSを確保したい。エルランはジオンに寝返る腹である。その際にジオンの将兵を連れていけば、身の安泰は確実となる。

 

「レビル将軍には、鉱山の確保に専念されたしと伝えよ。周辺の残敵はこちらで巻き取る。MSは貴重だ。可能な限り、こちらで確保する。降伏は全て受け入れろ。ダフデも、身動きが取れん。こちらで確保するぞ。交渉ラインを開け!」

 

慌ただしく指示を飛ばす。部下は誰も疑問に思わなかった。エルランの手腕は部下には評価されている。局面がハッキリした事で、エンジンがかかったと皆一様に解釈したのだ。

 

「ジュダック」

 

「は、ここに。」

 

エルランは腹心を呼び寄せた。

 

「ダフデへの降伏勧告はお前が担当しろ。」

 

目を見て、己の意思を伝える。

 

「相手が降伏を受け入れるなら兵を率いて乗り込め。連邦の他の隊に手を出させるなよ。」

 

無傷でジオンの部隊を手に入れる。エルランがジオンに寝返った際は、彼らが大いに役立つ筈であった。レビル将軍もゴップ提督もこの地には長く留まれない。つまりエルランこそがこの地の支配者となるのだ。その彼がジオンに寝返れば、連邦の地球奪還は頓挫するに違いなかった。

 

(オデッサでなくても良い。アフリカのジオンと連携するなら中東方面に進出するのが最善か)

 

新たな環境に適応すべく柵を巡らせながら、エルランは来るべき蜂起の日へと思いを馳せた。




【補足】

本作は最初にオデッサ戦パートを作成し、サイド7から順次展開していきました。内容が追いついたために、最小限の改定のみ行なって順番を変更して掲載しています。
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