【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第12話 正義のありか

—衛星軌道 ザンジバル級〈ラグナレク〉—

 

「マ・クベ大佐。本当に降下の必要はないのですな?」

 

探るようなラルの問いかけに、画面の中のマ・クベが応答する。

 

『レビルの策で、地上の足場は不安定化した。これではまともに戦えん。降下は不要だ。』

 

「では、衛星軌道で待機していた我々はもう役目を終えたという理解でよろしいですかな?」

 

『ラル少佐には、オデッサからの撤退の支援を頼みたい。』

 

少し硬い表情で頼みを口にするマ・クベに、ラルは頷いてみせた。

 

「了解しました。」

 

『では、頼んだ。』

 

ラルに対する借りとまでは思っていないだろうが、僅かな態度を軟化させたマ・クベの雰囲気ではあった。

 

一連の短いやりとりを横から眺めていたシーマ・ガラハウ大尉が感想を漏らす。

 

「こんなところまで来たのに、そんな役目でいいのかい?」

 

これまでのジオン海兵隊は扱き使われる立場だった。ここに来て客人待遇での待機続きである。『活躍が少なければ帰還後に譴責されるのではないか』と、シーマはその事を心配しているのだ。ラルはその懸念を笑い飛ばした。

 

「構わない。マ・クベはキシリア少将の配下で、我々はギレン総帥の指示で動いている。我々がキシリア少将の為に奉仕するのは、ギレン総帥が嫌われる。」

 

複雑なジオンの政治事情である。そんなものを戦争に持ち込むのかと、シーマは呆れ顔になる。

 

「じゃ、支援を済ませたら引き上げかい?」

 

楽なもんだねえ、と呟くシーマにラルは首を振ってみせた。

 

「派閥的な立ち居振る舞いとしては、それも悪くない。が、これだけでは我らが出向いた成果が足りん。」

 

推進剤や人件費もタダではない。何より準備をして部隊を動かした以上、目に見える成果を出せねば出世に響く。

 

「……と、すると?」

 

「撤退支援をしながら、機を待つ。少し耳寄りな情報がある。そこが動くなら、ひょっとするかもしれん。もし動くなら、その流れに乗らねばなるまい。」

 

 

 

 

—ワルシャワ・連邦軍前線基地—

 

デザートザク隊による水爆弾頭の無効化、砲撃によるHLV周辺のドムの排除、歩兵隊による基地の占拠、最後のHLVの離脱。バスク・オムの離脱。そう言った諸々の事を終えて、連邦軍の前線基地では除染作業が急ピッチで進められていた。

 

「艦体はこちらで清掃します。艦内の床は乗組員(クルー)の皆さんでお願いします。」

 

除染担当士官に促されて、乗組員(クルー)が作業を進める。パイロットは別に呼び集められていた。艦内にいた者とは被害の程度が変わる可能性があるからだ。

 

「これ、本当に必要なんですか?」

 

少尉でもあるミライが担当士官に詰め寄っている。歴とした士官である彼女なら、誤魔化しづらいという意図もそこにはある。

 

「海水も浴びたんです。船体の対策は絶対に必要ですよ。」

 

そう言いながら、担当士官はガイガーカウンターをミライやセイラに向けた。

 

「ちょっと、失礼ね。あなた。」

 

ミライは怒るが、担当士官は涼しい顔をしていた。

 

「海中で爆発した水爆の飛沫を浴びたんです。除染も必要ですよ。仮に低線量でも長期被曝する可能性がありますから。これ、軍の温情なんですよ。」

 

「そう言われてもね。そんな作戦に参加させられてる身にもなって。」

 

ミライはプリプリと怒っている。担当士官に詰め寄っても仕方ないが、不満は出るだろう。

 

「はい。現時点で深刻な被害はないですから、ヨウ素剤の摂取は不要でしょう。ただし、気分が悪くなったら申告してください。」

 

「女性の皆さんはこちらへ。優先的にシャワーを使ってください。」

 

女性士官の案内で、ミライ達はシャワールームへと向かった。

 

「艦長、貴方もです。」

 

担当士官がマチルダへと振り返った。女性士官がそっとマチルダに囁く。

 

(赤ちゃんを産めない身体になったら、困るでしょう?)

 

確かにそうなってしまうと、婚約者のウッディーには申し訳ない。仕方ない、とマチルダは判断した。そもそも今は戦闘後の基地内だ。この状態なら許容範囲内だろう。

 

「ブライト・ノア少尉、頼むわ。」

 

マチルダも女性乗組員(クルー)を引きつれると、ミライやセイラの後に続いた。

 

 

 

 

 

—オデッサ・ビッグトレー—

 

レビル将軍は怒れるエルラン中将と対峙していた。無論、通信越しにである。

 

『レビル将軍、これはあんまりだ。なんと言っても、正義がない。』

 

エルランの怒りは一点に根ざしている。それはつまり、連邦軍による水爆の使用である。

 

「全ては勝利の為だ。水爆をそのまま兵器として利用したのではない。それにジオンが水爆を用意していた証拠も押さえた。」

 

レビル将軍は冷徹に言い放った。彼は凱旋将軍を気取っている。連邦の勝利を疑う者は否定しなければならないとそう思い定めている。

 

『だとしても、です。これでは南極条約の意味がない。あっという間に核の冬ですぞ。それよりも、条約すら守れぬ戦争に何の意味があるのかっ。』

 

怒りを滲ませたエルランの言葉も、レビル将軍には馬耳東風とばかりに聞き流した。

 

「勝たねば意味がない。全て勝つ為だよ、エルラン。正義だけ振り翳して、敗北しては意味がない。」

 

『いいえ。それこそ、人類が滅亡しては意味がないのです。これでは“核による相互報復の時代”に戻りかねないと私は強く危惧しているのです。』

 

「ムウ」

 

レビル将軍が沈黙せざるを得ないのは、その点を蔑ろにした自覚がある為である。政治的に綱渡りをした自覚はあったのだ。しかしバスクの献策を入れて水爆を用いなければ、勝利はあり得なかったとも感じていた。それだけ薄氷の勝利だったのだ。

 

『いずれにせよこの地は逗留には不適当だ。我が第二軍はマドラスへと帰還しますぞ。』

 

「君がそう望むなら、それもやむを得まい。」

 

レビル将軍はそれを受け入れた。エルランの言ももっともだが、海中の水爆爆発による津波は辺りを壊滅させた。復興は可能だろうが戦時に長期滞在する場所ではなくなっている。

 

「我が軍も出発地点に帰還だ。最小限の守備隊を残してな。」

 

「はっ。」

 

部下達は応える。連邦軍はオデッサ鉱山基地を占拠した。しかしながら、黒海周辺は被災地と化していた。

 

 

 

 

 

 

—ジオン軍・ラサ秘密基地—

 

「いや、参った参った。」

 

被弾したガウ空母でラサへと降り立ったユーリ・ケラーネ少将は出迎えに出たギニアス・サハリン少将と抱擁を交わした。

 

「そういうのは秘書官にしたまえ。いや、それではハラスメントになるか。」

 

「気にするな。すでに俺の女だ、彼女は。」

 

そう言い捨てて、ケラーネ少将は基地の奥へと進む。一礼した秘書官が後に続いた。この基地の司令であるサハリン少将が遅れて後を追う形となる。

 

「聞いたぜ。お前の妹とガルマ様との相思相愛ぶり。」

 

漸く追いついて、並んで歩き出したサハリン少将にケラーネ少将が話しかけた。サハリン少将も応じて見せる。

 

「政治的な結びつきだ。お陰でアプサラスの開発支援は万全だ。ま、お前はこの基地の研究に口出しできず悔しいだろうが。」

 

「抜かせ。」

 

ハハハ、とケラーネ少将は笑う。それは尾羽打ち枯らした敗将の姿ではない。

 

「やけに元気だな。敗戦にはへこたれないのか?」

 

そう尋ねるサハリン少将に、ケラーネ少将はニヤリとした顔を向ける。

 

「お前にも裏の事情を教えてやる。が、慌てるな。まずはどこかゆっくり出来る部屋はないか?」

 

 

 

 

二人が腰を落ち着けたのはサハリン少将の執務室である。秘書官は当てがわれた宿舎へと姿を消し、二人の少将の会話を邪魔するものはない。

 

「聞かせてくれ。今回の始末をどうつける気だ?」

 

サハリン少将は秘蔵のバーボンを取り出すと、二つのグラスに注いだ。そして相手に渡し、単刀直入に問うた。東アジアの連邦との最前線に位置するのがラサ基地である。東南アジア戦線へのアジアからの連邦の戦力投入を遮断する位置にある。

 

東南アジアを巡る両陣営の戦いは、西のマドラスから押し寄せる連邦と南の島伝いに補給ルートを構築するジオンとの衝突となっている。肝心のマドラスが戦力を大きくオデッサに向けて転用した為、ジオンは一息つく状況となっていた。とはいえジャングルの戦況は一進一退である。

 

「平野部に位置するオデッサは守りにくい。連邦が鹵獲したザクまで持ち出したのは予想外だが、撤退は参謀本部の作戦でも許容範囲だ。守りきるのは難しい。」

 

「そうか。」

 

「が、勝つつもりで策もあった。そこはレビルに上をいかれたな。」

 

「……どんな策があったのだ?」

 

サハリン少将は率直に尋ねた。

 

「連邦第二軍団のエルラン中将が内通していた。」

 

「そんな事が。しかし、それでなぜ負ける?」

 

「だからレビル将軍が上だったのだ。南極条約に抵触する海中での水爆破壊による津波の誘発。俺も技官に説明されるまで何が起こったのか理解できなかった。」

 

「津波誘発、そんな事が可能なのか。」

 

「海沿いだからな。爆発の規模と威力を査定すればシミュレーションは可能らしい。我らジオンには無い発想だったな。」

 

黒海は内海であり外洋と異なる。津波を起こしやすい構造である。

 

「それでエルランは裏切らずか。予定ではどのようになっていた?」

 

「こちらに手心を加えつつ、引いてみせたカスピ海方面の我が軍が展開すれば総崩れになるそんな手筈だったのだがな。」

 

ケラーネがグラスの酒を一息にあおった。サハリンが飲み干されたグラスにお代わりを注ぐ。

 

「で、これからは?」

 

「エルランはマドラスに戻る。そこで寝返る。」

 

「寝返るだと?」

 

「そうだ。レビル将軍も全くいい事をしてくれた。」

 

クックックっとケラーネ少将は敵を嘲笑う。

 

「南極条約に抵触する行為に、連邦の中のレビル将軍支持はガタ落ちらしい。エルランは内通していても寝返りには慎重だったが、ここに来て自立すると連絡が来た。」

 

「自立?」

 

「そうだ。マドラスの連邦を率いて連邦軍を離脱する。独自の軍閥を立ち上げて、我らジオンと独自講和だ。」

 

「受けたのか、その話。」

 

「受けたさ。マドラスが落ちれば、アフリカ・中東・インド・東南アジア・オセアニアがひとつながりとなる。」

 

ケラーネ少将は拳を突き上げた。勝利のポーズである。

 

「これで地上戦の趨勢は決したな。まあ、戦力の低下した北米は苦しめられるだろうがな。」

 

「……そうか。やったな。」

 

「ああ。参謀本部は宇宙での決戦志向だ。例の量産機の生産も予定されている。それが決まれば、宇宙を完全に制圧する事になるだろう。」

 

「では、ジオンの勝利に乾杯するか。」

 

「おお。」

 

グラスをぶつけた二人は唱和する。

 

「ジオンの勝利に!」

 

ギニアス・サハリンとユーリ・ケラーネの二人は乾杯を交わした。アイナの婚約に、マドラスのエルランの内通。今夜は、乾杯の題材には不足するまい。

 

「酒を運ばせろ。今夜は飲み明かすぞ。な、いいだろう?」

 

「ま、今日ばかりは仕方あるまい。」

 

ケラーネ少将の誘いを、サハリン少将は断れない。二人の目には、ジオンの勝利はそれだけ具体的な形ある未来として描き出されていた。

 

 

 

 

—ワルシャワ・連邦軍前線基地—

 

(もう、限界だわ)

 

マチルダの抱くその感情は生理的なものである。嫌となったら嫌、なのだ。オデッサ戦後の連邦軍の雰囲気は最悪である。

 

(みんな、浮かれすぎているのよ)

 

勝利したのはめでたい。MSもないのに連邦軍がよく勝てたものだと思う。デザートザク中隊など、どう取り繕っても鹵獲したザクの二個小隊でしかない。まともにぶつかれば、ドムの一個小隊に駆逐されかねなかった。しかも相手には飛行試験型のグフの一個小隊もいたのだ。数で同数なら、普通は勝てない。

 

(でも、敵の司令官が逃げて敵も浮き足立っていたから……。)

 

全て薄氷の上の勝利である。それを実現させたのは水爆を利用した作戦であり、それを採択したレビル将軍の度量だ。しかもそれはバスク大尉の献策だったらしい。これはマチルダの視点でも“正義を欠いている”と言いたくなる。エルラン将軍がレビル将軍をそう非難したのは、既に噂として前進基地中に広がっていた。

 

(私達がキャリフォルニアで救出した大尉が、そんなアイディアを披露するなんて。)

 

自分たちが黒海上空に展開していると知りながら、水爆を海中起爆したレビル将軍には思うところがある。被曝の危険性はあまり高くないようだが、それは結果論に過ぎない。

 

(戦争に命を賭ける覚悟はしているけれど、蔑ろにされるのは違う。)

 

究極的にはそこなのだ。レビル将軍に蔑ろにされたという思いが拭えない。これまで“幸運の女神”だなんだと持ち上げられてもこれである。自然、レビル将軍に呼び出されてもマチルダは仏頂面で応対する事になる。

 

「そうむくれるな。約束通り、君達を昇進させる。今日から君はマチルダ・アジャン大尉だぞ。」

 

取りなすようにそう言うレビル将軍に対して、マチルダの反応はあくまでも冷たかった。心の中ではこの老将軍に三行半を突きつけている。これは彼女だけの問題ではない。可愛い部下達が、蔑ろにされたからだ。

 

「私たちは、ゴップ提督と合流させて頂きます。」

 

マチルダの反応は切り口上である。レビル将軍はため息を吐いた。幸運の女神を逃すのは惜しい。しかし、決定的な関係性の断裂よりはましであろう。

 

「約束だからな。仕方あるまい。」

 

「ありがとうございます。」

 

マチルダはサッと敬礼を果たすと、早々にレビル将軍の元を去った。昇進は勝ち得た。正義を喪失したこの地には、もう長く留まるつもりはなかった。

 

 

 

 

—衛星軌道・ザンジバル級〈ラグナレク〉—

 

『……では、キシリアに貸しを作れというのだな?』

 

通信画面の中のドズル中将が凄む。ラルは慌てずに頷いた。

 

「その通りです。“黒い三連星”をグラナダに送り届ければ、我らジオンの連帯を示す事になりましょう。」

 

結束こそ勝利の要とは、言われずとも軍事に精通するドズルには分かる。そしてドズルは決して狭量な男ではない。

 

「それがジオンが勝つ為の条件と、そう言いたいのだな?」

 

「はい。ジオンの勝利こそが正義と確信します。」

 

『その言や良し。分かった。この件は一任する。ジオンが勝利するなら俺の面子などどうでもいい。』

 

「ありがとうございます。」

 

会釈するラルを尻目に、ドズルとの通信は切れた。振り返ったラルは、控えていたセタ中尉に声をかける。副官役としてギレン総帥から送り込まれた人物である。

 

「聞いていたな、セタ中尉。」

 

「はっ」

 

「ドズル閣下の了解は取り付けた。黒い三連星はグラナダまでの輸送部隊の護衛役だ。遺漏なきように頼んだぞ。」

 

「了解しました。」

 

「ドムはザンジバルに積み替えだ。俺がいいというまで、輸送部隊は発進させるな。」

 

「ハッ」

 

衛星軌道上では現在、オデッサから飛来したHLVの振り分けを行っている。大半はHLVをそのままムサイに取り付けて終わりだ。しかし、行き先の割り振りがある。グラナダに行くか、ソロモンを経由してジオン本国へと向かうか。装備の一つ一つに名前が書いてある訳ではない。

 

マ・クベ大佐は早々にザンジバルで引き上げたので、この場の仕切りはラルに任されていた。

 

「ガイア大尉!」

 

ラルが“黒い三連星”の隊長のガイアを通信で呼び出す。ドズルの決定を待ち構えていたガイアはすぐに応じた。

 

『なんだ、ラル少佐』

 

「ドズル中将には了承を得た。貴様らはファルメルでグラナダへの護衛役を務めてもらう。専用ザク三機は用意してある。これでドムは私に返してもらうぞ?」

 

通信先のガイアが頷く。

 

『地上用の機体などもう要らん。オレ達は宇宙の方がやり易いからな。』

 

「こちらの作戦を手伝って貰う手もある。」

 

『特別な任務か?』

 

尋ね返したガイアの目の色が変わった。昇進や報酬に弱い男なのだ。ラルは誘いをかける事にした。思い付きである。

 

「成功したら昇進は堅いが、どうする?」

 

しかし、尋ね返したガイアは躊躇している。他派閥に手を貸してはキシリアに申し訳が立たないと思い立った様子である。

 

『ラル万年大尉殿の出世に華を添えたい気はあるが、やめておこう。もうオデッサで働いたからな。』

 

案の定、ガイアは断った。これはラルの推測通りである。断られると承知で誘ったのは、相手に断らせた方が軋轢がないからだ。これならば作戦が成功しても、文句を言われる事はない。向こうから、誘いを蹴ったのだから。

 

「そうか。まあそれもいい。では、こちらから中尉を一人出す。グラナダ到着までは好きに使え。ファルメルのソロモンへの回送は彼が行う。」

 

『了解した。』

 

通信の切断後、ラルは押し黙った。黒い三連星の戦力は惜しいが、あくまでも誘ったのは形の上である。それより今は考えるべき事が山積みである。

 

「シーマ・ガラハウ大尉。」

 

ラルはシーマへと向き直った。

 

「ようやく出番かい?」

 

シーマはラルに尋ねる。待機続きに焦れた様子である。

 

「大尉に用意して貰った、ジオン海兵隊のパイロットがいたな。」

 

ラルとシーマの連れてきた戦力はたかがザンジバル一隻分に過ぎない。しかし海兵隊所属のパイロットを多めに連れてきた。それはザクならば現地で調達可能と踏んだからだ。

 

「彼ら予備のパイロット達には、自分のザクを選んでもらう。それで戦力を一気に増やす。」

 

シーマの目が細く鋭くなる。

 

「なんだって、今更になってザクを? しかも、あそこにあるのはみんな地上用のセッティングだろう?」

 

シーマが顎で窓の外に並ぶHLVを指し示す。予めコムサイを取り外したムサイに、HLVは順次取り付けられている。

 

「それは問題ない。我々は地球に降下する。」

 

短く肯定するラルに、シーマは更に怪訝な目を向ける。

 

「折角上がったってのに、地球に戻る。解せないね。降下先はアフリカか、それともオーストラリアかい?」

 

探るような視線なのは、碌でもない仕事にならないかと警戒している為だろう。

 

「標的は連邦のマドラス基地だ。とはいえ心配するな。私と部下も降下する。我々は一蓮托生だよ。」

 

ラルは地図を指し示した。

 

「オデッサから回収したザクの一部で、マドラスへ降下して殴り込みをかけるのだ。」

 

「……勝算は?」

 

シーマも地球降下作戦の経験者である。ラルの意図は察した。規模としてはだいぶ小さいが、連邦基地への直接降下自体には慣れている。しかし簡単な話ではないことも身に染みている。

 

「問題ない。敵の司令官エルラン中将がジオンに内通している。それが勝算だ。」

 

ラルのその返答はシーマの度肝を抜いた。

 

「……連邦にハメられてんじゃないだろうね?」

 

「マ・クベ大佐が道を作り、ユーリ・ケラーネ少将が事を決したとのことだ。」

 

シーマが感心したような音色の口笛を吹いた。

 

「それなら何故、オデッサで負けたんだい?」

 

「いい質問だ。」

 

ラルは手短に答える。

 

「レビル将軍の策だ。足場を崩されて、MSの展開が困難になった為らしい。」

 

「それがどうして今更、連邦を裏切る。オデッサで勝ったのに。」

 

シーマの指摘は至極もっともである。しかし、ラルはその疑問にも答えられる。

 

「レビル将軍は水爆で地形を変えた。この南極条約違反を、エルラン将軍は口実に用いる。」

 

「つまり、裏切る為の大義名分を手に入れたと。しかし正義だけじゃ、成り立たないだろう」

 

「そうだ。軍の首脳は裏切りたくて堪らない。兵士達も劣勢の戦争には乗り気じゃない。誰だって命は惜しい。その上で正当性も主張できる正義を手に入れたのだ。後は我々が他の連邦軍から孤立させさえすれば……。」

 

「自然にこちらにつく、という訳か。」

 

連邦の大軍を殲滅するのには、海兵隊の戦力では不足する。しかし連絡線を遮断するだけなら可能だ。

 

「間違いない話だろうね?」

 

その質問に対しては、ラルは虚勢を張った。シーマに見抜かれるのを承知の上である。

 

「ああ、確実だ。」

 

(アルテイシア様に幸運の女神が微笑めば、だがな。)

 

そこでふっとシーマを誤魔化す為に微笑を浮かべる。

 

「仮に目論みが外れても、ケラーネ将軍が責任を取る。我らは総帥の為に支援するだけだ。」

 

シーマはニヤリと笑った。ラルに誤魔化されるのを感じてなお浮かべた、会心の笑みである。

 

「気に入ったよ。成果は我らに、責任は奴らにってね。」

 

「そういう事だ。」

 

「これがうまくハマれば、アタシたちは戦争の英雄間違いなしだね。約束の報酬、期待しているよ。正義じゃ腹は膨れないからね。」

 

「ああ、任せておきたまえ。サイド3に戻る時には、君も少佐の地位を約束されている筈だ。私は約束を守る。それこそが己の正義だとそう信じているからな。」

 

 

 

 

 

—地中海・空母〈ラ・グランパ〉付近の仮設基地—

 

ゴップ提督の座乗艦〈ラ・グランパ〉は、地中海の陽光の中で煌めいて見えた。

 

「ご苦労だったね。」

 

丘に仮設基地を構えたゴップ提督は、大尉に昇進したマチルダと中尉に昇進したミライを出迎えた。

 

「ありがとうございます。」

 

敬礼する二人に、ゴップ提督はため息をついて本題を切り出した。

 

「早速で悪いが、君たちに任務だ。」

 

「はい。」

 

「エルラン中将の留守を狙い、ジオンがマドラスに降下作戦を仕掛けたようだ。オデッサから脱出した部隊の一部を転用したらしい。」

 

緊張が走った。マドラスは地球連邦軍の戦略上の要地である。最重要拠点がジャブローなのは揺るがないが、マドラスこそが重要なハブとして機能している。そこを喪失すればインド洋を喪失し、南米とマドラスで分断していたジオンの東西が接続されてしまう。

 

「君達を応援で派遣したい。無論、ザクも出す。」

 

「はい。了解致しました。」

 

方角は地中海とは逆方向だ。正直オデッサから移動した方が早かったかもしれない。しかしレビル将軍との意思疎通に困難を抱えた今のマチルダでは、命令されても反発していたかもしれない。

 

「衛星軌道は未だジオンに塞がれていると見ていい。上空を飛翔するのは控えた方がいいかもしれんな。」

 

 

 

 

—マドラス近郊—

 

「連邦は弱いねえ。」

 

シーマのザクが放つバズーカ弾が、連邦の主力戦車を直撃した。61式戦車は一撃で破壊される。

 

『大尉、この先には進まないのですか?』

 

部下のザク乗りが声を上げた。連邦軍の抵抗は脆弱である。このまま押し込めば、基地内まで問題なく入り込めそうである。

 

「ラル少佐からは、待てとだけ言われている。」

 

シーマは短く答えた。エルランの寝返り予定は、今の所部下達にも秘密である。開示できる理由としては、ユーリ・ケラーネ少将の合流予定がある。

 

彼の軍団は大きく損耗しているが、兵士は多い。これはつまり、基地の制圧に必要な兵力の提供が可能という事だ。また、直接エルランと対話できる関係性と格のあるジオン側の指揮官としても大切である。

 

(敵がこれだけ弱ければ騙されたって訳ではないんだろうが……。)

 

ラルの思惑を知るだけに、シーマの心中は複雑である。仮にラルが裏切る気なら、この場はシーマ達海兵隊の死地になり得る。ただシーマはラルの恨みを買った記憶はない。だから全てはラルの説明した通りと信じられる。今のところは、まだ。しかし完全に信用して良いものかどうなのか。

 

『見えました。ガウです。予告通りの時間だ。これでラサ基地と補給路がつながった!』

 

シーマは息を吐いた。どうやらラルの手配は彼の言葉通りだったらしい。宇宙から降りてきた海兵隊は手持ちの食糧弾薬が尽きたら全滅しかねない。ケラーネ少将が補給品と共に到着した事は、大いなる助けである。

 

「ケラーネ少将に失礼をはたらくんじゃないよ。私がそちらへ行く。もし間に合わなければ、それを説明しておきな。」

 

シーマはそう指示を出すと、部下達のザクに後退を指示した。どうせマドラスの連邦は基地内に逼塞している。少し戻ってケラーネ少将を出迎えた所で、これだけ相手を押し込んだ問題など起きるはずがなかった。

 

 

 

 

ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉がマドラスに到着したのは、シーマのザクが引き上げた直後である。

 

『北部方面のザク部隊は撤退していくようです。』

 

現地の担当士官からの連絡が入る。

 

「なんとか間に合ったのかしら?」

 

「どうでしょうね。また現れると思いますが。」

 

マチルダは生真面目なブライトの応答に安堵した。この所、バスク・オム大尉に調子を狂わされていたのだ。バスク大尉はレビル将軍の元に戻っている。実に平和の限りだ。マチルダとしては勢いづくものを感じる。

 

「とにかく警戒にあたりましょう。我々がいる限り、ここを抜かせない意識よ。」

 

艦内に檄を飛ばしながら、マチルダはようやく戦争に貢献している充足感を得ていた。

 

 

 

 

—ザンジバル級〈ラグナレク〉—

 

「少佐、捉えました。敵の最後尾です。」

 

クランプの声がザンジバルの艦橋に響いた。ラル達はエルランの第二軍の最後尾に接触を果たしていた。マドラスを東アジア方面から遮断するのがジオン海兵隊なら、エルランの第二軍をオデッサ方面から遮断するのがラルの役割である。

 

「ドムで出る。仕掛けるぞ。」

 

ラルの方針は明確である。オデッサでは出番の少なかったドムであるが、三機揃えば地上に敵はない。特に第二軍最後尾のダブデは奪い返しておきたかった。そこには第二軍に投降したジオンの捕虜が満載されている。そんな情報まで、ジオンに内通したエルランから寄せられていた。

 

「コズン、アコース。ダブデに傷をつけるな。捕虜共々解放して戦力に加える。」

 

欲張りすぎだろうか? そんな事はない。そこまでやらなければこの作戦に勝ち目はない。

 

「連邦に預けていたものを、返して貰おうではないか。」

 

自信満々にそう言い放つと、ラルはドムを走らせてザンジバルの格納ハッチから飛び降りた。

 

 

 

 

—第二軍指揮艦・ビッグトレー艦内—

 

そのビッグトレーは第二軍全体を指揮するエルラン中将の座乗艦である。

 

「閣下。背後に敵です。」

 

「ぬう、レビル将軍のやり方では敵を逃し過ぎたのだ。」

 

エルランは部下達の前でうめいて見せた。半ば演技であるが、本心でもある。

 

「まだ戦える状態で無理に敵を戦場から遠ざけた。だからこうして再度挑まれもする。」

 

未だにMSをまともに開発・生産できていない連邦軍に限界はある。無理を承知で戦うしかないとはいえ、自ずから限界があるというのがエルランの政治的な立場である。それは日に日に第二軍内では賛同を集めつつあった。特に水爆利用については、やりすぎとの声が上がっている。

 

(今ならばジオンへの降伏は阻まれようが、自立という形は通る。)

 

エルランがマ・クベやケラーネと導き出した結論はそれである。いかに内通者とはいえ、即座に部下ごとジオン軍人となれるほど現実は甘くない。将棋のような遊具と現実は異なるのだ。

 

初期案では、オデッサでの敗北を理由に敗兵を纏めてマドラスまで後退し自立である。現実に即して修正された現行案では、連邦の水爆利用に憤って自立して中立化を宣言する。どちらにせよ、ジオン優位になって貰わねば困る。

 

「キャタピラ式のダブデ、ホバー式のビッグトレーより低速な筈だな?」

 

部下に諮問する。担当士官は戸惑っているが、腹心たるジュダックにはその意図は明白である。

 

「どうせジオンにダブデを奪い返されかねん。ビッグトレーを追跡不可能になるならここで捕虜ごと切り捨てる。敵が収容している間に、我が軍が逃げ切れる可能性が高まる。将軍はそう仰っているのだ。」

 

部下達から反駁の声が上がった。

 

「まだ、ダブデには監視役として味方の将兵がおります!」

 

エルランとジュダックは素早く視線を交わした。

 

「ジュダック、交渉を頼めるか。」

 

「はっ、ダブデを引き渡す代わりに我が軍の将兵の無事の脱出を交渉します。」

 

ジュダックは慣れている。ドラゴンフライで移動すれば、ビッグトレーからダブデまではすぐである。連邦の将兵の移動も、空からなら行える。

 

「ミデア輸送機をお借りしても。」

 

「無論だ。誰一人とて犠牲にするなよ。」

 

ジュダックの問いかけに、エルランは笑みを見せた。既にジオンに内通し交渉のチャンネルを得ているからこその芸当だが、周囲からはそうは見えない。不利の中で最善を模索する連邦軍士官の鑑というべき立ち振る舞いに見えている。

 

「これを見越して、ジオンの捕虜を多めに確保されていたのですね。」

 

納得したような士官の言葉に、ジュダックは乗った。

 

「エルラン閣下の意図はそういう事だ。常に先回りして考えておられるのだ。」

 

エルランを自然に売り込みつつ、来るべき自立の時に備える。エルランとジュダックは目の前に迫ったその瞬間を掴み取るべく、準備に余念がなかった。

 

 

 

 

『ラル少佐、早速連邦が連絡してきました。ダブデを引き渡す代わりに、連邦の将兵を引き上げさせたいと。』

 

「例の男か?」

 

『はい。マ・クベ大佐からケラーネ将軍を通じて引き継いだジュダックとかいう中佐です。』

 

「受けてやれ。こちらも警戒体制に緩める。コズン、アコース聞こえているな?」

 

「「はい!」」

 

ラル達は既にドムの力で、ダブデを停止に追い込んでいた。独力でもダブデを奪い返せるが、交渉に乗ったのは相手に花を持たせる為である。自立して傀儡化するには、相手にも得点を稼がせる必要がある。そして裏で通じ合っていれば、このような操作も容易い。

 

「適度に追い込みつつ、追い込み過ぎるな。奴らにはまだまだ役に立ってもらう。我らの功績はダブデを取り戻して見せるだけで充分だ。」

 

この調子ではあまり派手な戦闘にはならないだろう。補給に難があるラルとしても、元よりその腹積りである。

 

『問題は例の艦が派遣された事だが、そちらはエルランになんとかしてもらう他ないな。』

 

アルテイシアを引き取るのは今のラルの立場では難しい。ダイクン派を立ち上げる構想の実現には数年は要する。ハモンに会いたい気持ちは募るが、今は離れている必要がある。もしも目の前にあのペガサス級が姿を見せれば、ラルはなんとしても彼らを自然に逃さなくてはならない。

 

(頼むぞ、ハモン)

 

ラルは彼らのためにならないとは知りつつ、連邦を追い込む必要がある。そうなると、エルラン将軍と通じ合った出来レースである事はかなり具合が良いと思えた。

 

 

 

 

—マドラス近郊—

 

警戒にあたっているペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉に朗報が届いたのは、彼らが配置についた二日後である。

 

「今日はなんか基地の雰囲気が変ですよ。」

 

「そんな事ないだろう? 俺の目にはいつも通りに見える。」

 

ブライトとマーカーが雑談を交わしている中で、オスカーがマドラス基地司令部からの通信を受け取る。

 

「エルラン将軍が、第二軍を率いてマドラス基地に戻られたとの事です。」

 

「やったわね。」

 

マチルダは緊張を緩めた。艦橋の空気も弛緩する。

 

「基地の雰囲気が違う理由、これじゃないのか。」

 

「確かに基地司令が戻るとなると、そりゃピリつきますね。」

 

ブライト達の会話を耳にしながら、マチルダは今後の状況を整理した。これでマドラス基地内の連邦の戦力は充実する。弾丸や修理も進む筈だし、将兵も休めるだろう。出没する敵を打ち負かした訳ではないが、上手くいけばこのままジオンも撤退するのではないか。

 

(希望的観測に縋るのは、良くないけれど。)

 

「指定座標への着陸を求められました。エルラン将軍が使者を派遣されるとの事です。閲兵に備えてザクを降ろし、パイロットを並ばせるようにと。」

 

「了解したわ。将軍の指示に沿って進めて。」

 

マチルダとしてもエルラン将軍とは顔を合わせておきたいところだ。ジオンのザクを追い払うところまではしたいが、ゴップ提督の艦隊と共にジャブローへと帰る予定もある。無事に艦隊を引き上げさせるには、護衛なり陽動なりは必要だろう。

 

ペガサス級は滑るようにマドラス基地上空を移動した。管制の誘導に従い、指定座標の駐機スペースへと向かう。着陸し、ザクを下ろす。パイロット達は閲兵に備えてザクの前に立つ。それはごく当たり前の軍務である。そう、それがいつも通りなら。

 

『艦長、違和感があります!』

 

出撃に備えて待機していたミライから通信が入ったのはその時である。

 

「ミライ?どうしたの?」

 

応じたマチルダは戸惑った。ここは連邦の基地内なのだ。しかしすぐに考え直す。ジオンの手が迫っているのかもしれない。

 

『セイラも私も何か異常を感じています。念の為です。出撃の許可を。』

 

マチルダは素早く決断した。この上申は只事ではない。

 

「許可します。警戒にあたって。オペレーター、管制に連絡を。ジオンの兆候あり。警戒にあたると。」

 

「はいっ」

 

慌ただしくコアブースターが発進した。四機全てである。マチルダは二機の指示をしたつもりだが、ミライ達の警戒ぶりは凄い。

 

『マチルダさん、敵よ。緊急発進を!』

 

それはミライの声かセイラの声か判然としなかった。二人の同時の声だったもしれない。しかしマチルダとブライトは即座に敵の存在を悟った。半ば強引に悟らされた。

 

「緊急離床!全員掴まりなさい。艦は浮かびます。格納庫のハッチ閉鎖、急いで!」

 

マチルダが指示を飛ばすのとほぼ同時に、ブライトが艦を離床させる。

 

「緊急脱出だ、ほら、ハッチの閉鎖急いで。」

 

「上空警戒、敵の位置を探して。」

 

突然の状況に戸惑いつつも、乗組員(クルー)は良く反応して敵ジオンの姿を探す。しかし彼らが見たものは意外な光景だった。

 

「え、パイロットが拘束されているというの?」

 

エルラン将軍の閲兵を受けるべく展開していたゴーストザク中隊のパイロット達が、味方の筈の兵士達に拘束されている。こちらを見上げている兵士が多いのは、艦内に突入する直前だったからだろう。

 

「あれ、エルラン将軍のコマンド部隊ですよ。」

 

オスカーが呟く。

 

「どういう事?コマンドを差し向けられる理由などこちらにはないのに。」

 

戸惑うマチルダ。その時、基地司令であるエルラン将軍がオープンなチャンネルで演説を開始した。

 

『悲しい事に連邦軍はオデッサで自らの正義を喪失してしまった……。』

 

「こんな時に、何を?」

 

『南極条約に違反した核兵器利用は、人類を絶滅の危機に追いやる連邦軍の愚行である。我らはこの愚かな振る舞いに抗議する。今ここに我々マドラス駐留軍は自立する。』

 

そこで静寂が場を支配した。恐らくマドラス基地全体が鎮まり返った。艦橋では誰一人言葉を発せずに、この異常事態を理解しようとしていた。

 

(戦時のこの非常時に、何を馬鹿な事を。)

 

『ジオン軍とは単独の停戦交渉に合意した。人類を再び絶滅の危機に追いやる愚行に対し、我らは共同で対処する。』

 

「……信じられない。よりにもよって、ジオンと手を組むだなんて。」

 

マチルダの口から悲鳴じみた言葉がこぼれ落ちる。

 

『南極条約の理念こそ、絶対に守られるべき人類種の存続に他ならないからである。それこそが絶対的な正義なのだ。』

 

(違う。それが正義だなんて大間違いよ。)

 

それがマチルダの直感である。もしこんなものが正義だというのなら、これまでの彼女の苦労はなんだったのか。この数日は何の為にあったのか。

 

(それでレビル将軍は、あれ程までに頑なに自らの信じる正義を貫こうとしたのね。)

 

レビル将軍が右腕と頼んだ人物がこれである。水爆利用にはマチルダも憤ったが、レビル将軍には敵に勝とうとする気概がある。この腰抜けと断じて同列などではない。セイラを預かっているのは、ジオン内の親連邦勢力の芽としてだ。単なる敵への迎合ではない。

 

「正義なんて、そんな簡単に口に出来る言葉じゃないでしょう。」

 

マチルダの口からエルランを否定する言葉が自然に溢れでた。しかも語気がいつになく荒い。これまでの不条理な体験への反応が今ここで噴き出ていた。

 

「正義とは心に秘めて、自分の手の届く範囲だけでも守ろうとするものよ。それが人の行える最善の正義ではないのかしら。」

 

マチルダの怒りは沸点を超えた。レビル将軍には蔑ろにされ、ゴップ提督はマチルダの意思を差し戻す形でエルラン将軍の下へ派遣した。肝心のエルラン将軍は偽善者で、あっさりとジオンに降伏してしまう。これではあんまりだ。

 

『我らはジオンと人類の存続という点で志を同じくする。諸君、今ここに我らの戦争は終わったのだ……。」

 

「私は、この戦争で自分の正義を貫いてみせるわ。部下や戦友は私が守る。それこそが私の正義。正義はこの心で決める。」

 

それはマチルダ個人の想いである。しかし胸は秘めた筈の言葉が自然に溢れでる。

 

「艦長…」

 

ブライトがマチルダの言葉に心を突き動かされた顔をしていた。

 

「誰かに想いを託しても、こうして蔑ろにされるだけだもの。」

 

それは、この艦にいる誰もが胸の奥で抱いていた想いだった。




【あとがき】

お読みいただいてありがとうございます。オデッサ戦の既存パートとの接続にかなり苦労した回でもあります。多少甘い点はご容赦いただければ幸いです。

エルランが裏切っていたという点は初代で確定されている点ですが、体像はやや曖昧でした。GQuuuuuuXではそれがどうなるのか、というのが今回のテーマです。

マチルダにとって「どの上官が一番理想的か」という形で描いてみました。ジオンではラル自身がシーマの上官として振る舞い始めています。

マドラスは「エルランの裏切りによってジオン側に入った地域」と定義しました。

①パンフレット年表で大規模攻略作戦は発動していない
②インドは核戦争の描写はない(青空のまま)でジオン軍人が娼館に出入り
③ジオンは一年戦争時点で地球上の半分程度を占領している
④ジオンは北米とオデッサを喪失している

そのため、ナチスドイツ占領下のヴィシー政権をイメージしています。

これはアンキーの帰属の問題も関係します。「かつてジオン国籍を持っていたけれど、連邦のシイコとは結婚前からの知り合いである」為です。そこで「エルランに従ってジオン側へ移った連邦軍人」という形にしています。

アンキーはゾックを仕入れたりしている訳ですが、真っ当なジオン軍人よりも外部の交渉相手である方がこの点では有利だったりしたのではないかとその方が自然だと考えました。

今回のお話はいかがでしたか? 貴方の気持ちに近いものを選んでください。

  • 正義って結局どこにあるの
  • マチルダの正義が一番刺さる
  • ラルの現実主義が一番納得
  • レビルの正義は割り切りすぎ
  • 正義が全部食い違ってるのが良い
  • 結局勝った側が正義なのか
  • エルランの選択は賭けすぎる
  • 全員違う正義なのがリアル
  • 面白かった
  • 続きが気になる
  • 全体的に満足
  • ハマーンも出して欲しい
  • 意外とシーマが活躍
  • マチルダの影が薄い
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