【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第14話 核の冬前夜

—ニューヤーク—

 

「こちらが、マッドアングラー隊のもたらした報告です。」

 

ダロタ中尉はニューヤーク基地の司令室で、シャア・アズナブル大佐に報告書を提出した。北米を総括するガルシア・ロメロ少将はキャリフォルニアを統括し、ニューヤークはシャア・アズナブル大佐が代理司令官として委託された形式を取っている。

 

だがこれはあくまでも建前である。司令官のロメロ少将は、既に故人であるとジオン軍の上層部には知られていた。彼の死体は荼毘に付されており、シャアとダロタがロメロ少将の権限を使用している。

 

「ほう。」

 

報告書を精査したシャアは、大西洋エリアにおける戦況について把握した。そして一つの疑問を得る。

 

「マッドアングラー隊のスパイの報告では、連邦の侵攻目標は北米であり侵攻間近とある。この情報、信じられるのか?」

 

シャアがダロタにそう尋ねたのは、連邦のスパイが最後はマッドアングラー隊を罠に掛けた事に起因している。シャアの予想に反して、ダロタは情報を真であると見ていた。

 

「嘘は、真実に織り込ませる事で効果を発揮します。連邦の北米侵攻が既定路線なのは事実であり、マッドアングラー隊はその阻止を誘導されて罠にかかり失敗をした。今回の報告書については、そのように考えるべきかと。」

 

「ふむ。」

 

全てが偽ではない、というのが現地の事情に精通しているダロタの見解である。シャアは腕組みをして考え込んだ。

 

「大西洋方面からの連邦の攻撃となると、このニューヤークが標的となるな。」

 

「はい。我々に与えられた戦力の限りにおいて、防衛環境は整えてあります。」

 

現在の北米の戦況は悪くない。概ね想定されたラインに前線を押し返している。その一方で、ジオンは北米の資源や転用可能な戦力を宇宙に搬出しつつある。ジオンの目的は北米を泥沼の戦場にする事であり、完全な防衛は望んでいない。

 

「そろそろ潮時か。北米を捨てる戦略を実行するほかあるまい。」

 

恬淡とシャアは述べた。

 

「君はニューヤークで敵に痛打を与えよ。『キャリフォルニアには容易に到達できない』と、連邦にそう理解させるのだ。私が仕込んだザク部隊ならば、それが可能な筈だ。ニューヤークは犠牲にして構わない。それが上層部の意向だ。」

 

彼らは従来の穏健的な占領行政方針を切り捨てて、略奪や徴発も行なっている。民間人相手ではなく政府機関が主な対象である。しかし対象は美術館の収蔵品にまで及んでおり、悪名は免れそうにない。名目上は、“戦災からの避難”とはしているのだが。マ・クベなどは先んじてそれを行なっていた。保護なのか私蔵する為の略奪なのかは際どいところである。シャアも既に宇宙に持って上がる為の金塊を得ている。

 

「大佐、お言葉ではありますが。」

 

ダロタはシャアの発言に憤ってみせた。ガルマと共にジオンの北米を手塩にかけて統治してきた彼にはこの地への愛着がある。

 

「大佐が陣頭指揮を取られれば、今の戦力でも連邦の艦隊など容易に撃破できる筈です。」

 

「私も随分と見込まれたものだ。」

 

ダロタの鼻息の荒さに、シャアは苦笑して見せた。

 

「私が全権指揮官であったなら、或いはそうかもしれんな。だが、そうではない。」

 

そしてシャアはとある地域を指し示した。連邦軍の本拠となるジャブローである。

 

「参謀本部の意向は北米からの戦力の抽出と速やかな撤退だ。そしてドズル中将の意向はジャブローへの強行偵察だ。その二つを満たすだけで、この私には精一杯というものだ。」

 

シャアの指摘にダロタは沈黙した。上層部の意向は明確である。そして所詮、彼らは上官の意向には逆らえない。それはわかりきった話である。しかし前線指揮官の範囲内で華麗な勝利を得られるなら、或いは防ぎ切れるとダロタはそう願ってしまったのだ。ガルマ時代の輝かしい統治の名残を知る者として、それは或いは自然な感情であったのだろう。

 

「連邦の迎撃よりも、ジャブローを優先されるというのですか。」

 

「ああ。それがドズル中将の指示だからな。」

 

シャアとしても手柄は欲しい。ジャブローはその点で極めて分かりやすい。負けると決まった防御作戦に、彼はあまり価値を見出せる男ではないのだ。ガルマとはそこが違った。部下というだけで、無条件に従ってくれると思えるほど甘い男ではない。大局を見れないわけではないが、シャアはそこに自己を献身させる必要もまた感じていないのである。

 

(全てが私に忠実な兵と言えるなら、或いは私とて気持ちを変えていたかもしれないが。)

 

軍閥と言える立場にいたのなら、北米に根を張りジオンと連邦を手玉に取る戦略も取り得たかもしれない。だが大佐としてのシャア・アズナブルの立場は、たかが独立部隊の指揮官でしかない。ドダイに乗ったザクを率いて見せたのは余技のようなものだ。何故なら、彼がドズル中将より与えられたMAは水中用のグラブロと呼ばれる機体だからである。

 

「水陸両用MS部隊を率いて、長躯してジャブローをつく。マッドアングラー隊と合流すれば、彼らの母艦で南米の警戒網は突破可能だろう。」

 

「大佐が留守にされた、このニューヤークはどうなりますか?」

 

「君に任せよう。残る部隊は好きに使うがいい。ドダイに乗せたザクは機動性が高い。機を見て艦隊に襲撃をかけさせろ。この日の為にバズーカを練習させていた筈だ。」

 

「では、ザクに対艦攻撃を命じられると?」

 

「その通りだ。連邦の海上艦隊など、ザクのバズーカで全て沈めてしまえばいい。」

 

 

 

 

—ニューヤーク沖・連邦艦隊—

 

ニューヤーク沖を連邦軍の大艦隊が進んでいた。主力はベルファストを発したゴップ提督の艦隊であり、ジャブロー沖を警戒した南米艦隊も合流を果たしている。北米ジオンの牙城、ニューヤークを攻め落とすべく連邦軍は総力を結集していた。中でも中核戦力は多数の艦載機を搭載する空母である。

 

「対潜哨戒が肝だぞ!抜かるな!」

 

空母〈ラ・グランパ〉では艦橋で艦長が声を張り上げていた。航空戦力は連邦軍が優位である。それは主にFF-4と呼ばれる低性能機とTINコッドと呼ばれる高性能機のハイローミックス運用による。しかし航空優勢が、海中からの脅威に対抗可能な唯一の方策であるのが確かである。

 

「海中から巨大な敵影が迫っています!」

 

「やはり、来たか!」

 

ニューヤーク沖には魔物が棲むと海軍で噂されている。本物の魔物ではなく、それはジオンのMAである。グラブロと呼ばれる両腕に巨大なクローを装備した機体が、軍艦の破壊活動を繰り返していた。

 

「艦隊に警報を発せよ!慌てるな、艦に肉薄して攻撃してくる水深ならば対処可能だ!」

 

対潜哨戒機の攻撃は、敵艦の水深に左右される。だが敵の水深が浅ければ余裕を持って対処できる。しかも海中を進む機体は、速度が航空機には及ばない。敵が攻撃を仕掛ける危機も、反撃の好機となり得るのだ。

 

「左舷方向、敵が姿を見せます!」

 

海面が盛り上がり、海中から姿を見せたグラブロが護衛役の駆逐艦をクローで切り割いた。だが、過去の対戦からグラブロの行動可能範囲はシミュレーションされている。空母の周囲に駆逐艦を展開する事で、空母を直接は狙えない配置としてある。これが連邦側の対策であり、集団戦である。

 

「姿を見せているうちに対処させろ!」

 

怒号が飛ぶ。待ち構えていた連邦の航空機が敵目掛けて殺到する。しかし、グラブロはフライマンタの爆撃やドンエスカルゴによる対潜攻撃を全ていなした。全ての攻撃が回避されたわけではない。命中弾も少なからず存在していた。しかしグラブロの厚い装甲に阻まれ、有効打を与えるには至らないのだ。

 

「厄介だな、巨大で硬い敵というのは。」

 

たかが一機のMAに、この連邦の大艦隊が行く手を阻まれていた。そして脅威はグラブロだけではない。グラブロも護衛役の水陸両用MSを引き連れている。それらのクロー攻撃や魚雷攻撃も陣形を維持する艦隊の障害である。

 

「対潜哨戒機と爆撃機を全部出せ。戦闘機は後回しで構わん!」

 

ジオンのMAもMSも戦闘機の機銃で対処可能な敵ではない。今はジオンの潜水部隊の対処こそ、最優先である。

 

「艦長、〈ペイルホース〉から最優先で着電です!」

 

「何か!?」

 

担当士官は、最優先指示の付された電文を読み上げる。

 

「こちらのMSにて対処する、と。」

 

「馬鹿な、ここからどれだけ距離があると。」

 

連邦軍の強襲揚陸艦は、主に砲戦を担当してきた。それを踏まえて今回の配置では艦隊後方の守られる位置に置かれている。艦載機の発進には支障ないだろうが、コアブースターと呼ばれる機体のメガ粒子砲は海中の敵には効果が薄い。それは周知の事実であった。しかもMSはザクしかいない筈である。そしてバズーカを持たせた所で、簡単に倒せる敵にも思われない。

 

「来ます!」

 

その時、轟音と共に援軍が来援した。カタパルト射出された機体が、最高速度で彼らの上空にまで到達したのだ。

 

「なんだ、あれは。」

 

〈ラ・グランパ〉の頭上で、飛翔する機体が分裂した。まるで殻を割って、中の種を取り出したかのような動きを見せる。二つに割れた機体の中央から、MSが飛び出した。そしてそのMSはザクではなかった。

 

「あれが噂の新型MSか!」

 

連邦軍の最新鋭試作MSと、それを輸送するGファイターと名付けられた高速移動パッケージである。コアブースターより鈍重なその機体は、内部にMSを搭載可能なのだ。そして姿を見せた連邦の新鋭MSは、巨大なハンマーをその手に携えていた。

 

 

 

 

『シイコ、狙うべき敵の位置は見えていて?』

 

「ええ、分かります。お姉様。」

 

シイコは射出された速度を活かして軽キャノンの機体を降下させた。今はペガサス級のカタパルトによる推進力と共に、スラスター噴射による加速の恩恵がある。この軽キャノンはザクよりも鈍重な機体であるが、だからこそ充分に加速された際の衝撃力は大きい。しかも今は地球の重力までも味方にしている。

 

『やり直しは出来ないわ。一撃で決めて見せて。』

 

「ええ、分かっています!」

 

巨大なハンマーを振り回しながらシイコは降下する。ハイパーハンマーと呼ばれる巨大なその物体は、加速バーニアを内蔵された立派な質量兵器である。

 

「そこよ!」

 

グラブロは極めて優秀な兵器だ。海の中では未だ敗北を知らない。しかしミノフスキー粒子下において、海中に潜む機体であるが故の制限がある。それは空が死角となり易い点である。空を高速で移動してくる敵から、大質量攻撃を喰らうなど全く想定されていないのだ。

 

シイコの駆る軽キャノンは、セイラの狙い通りの位置に落ちた。シイコもまた、NTとしての感応力でグラブロの位置を正確に捉えている。グラブロは、見えない敵からの必殺の一撃を叩き込まれた。

 

「な、なんだ。」

 

グラブロを操作していたフラナガン・ブーン大尉は、突然機体の操作が失われた事を知覚した。そして次の瞬間、彼の身体は機体の爆発と共に蒸発する。

 

「た、大尉どの。」

 

グラブロに追随していたズゴックのカラハン少尉は瞠目した。彼は正確に何があったかを目撃した。巨大なハンマーを振り下ろす連邦の新型MSが、空から突如襲ってきたのだ。その体験は、連邦のMSの脅威をカラハン少尉に過大に評価させた。いや、それは過大評価というのは難がある。グラブロを一撃で破壊した敵など、前代未聞なのだ。それは実際にそこにある脅威に他ならない。

 

「撤退だ。撤退。マッドアングラー隊は、引き上げだ!」

 

カラハンの叫びがグラブロの護衛機の間に伝達される。元々、この攻撃は陽動である。ジオンの本命攻撃が海中から来る、そう思わせる為の仕掛けに過ぎない。

 

「ブーン大尉は、調子に乗って深入りされすぎたのだ。」

 

敵の旗艦を仕留める好機。それがジオンの限られた勝機であった。カラハン少尉としては、それにブーンが拘泥し過ぎたと映った。もう少し敵艦の数を減らす行為に終始していれば、連邦がグラブロを捕捉するのは不可能だっただろう。

 

『う、うわぁ』

 

カラハンの背後で、僚機のズゴッグが撃破された。それは上空からの攻撃ではなく、海中に落ちた連邦のMSの攻撃である。カラハンほど、状況に適応できずに逃げ遅れたのだ。

 

ズゴックを貫いたのはビームサーベルの放つ閃光である。

 

「連邦のMS、遂に戦場に登場してきたか。」

 

赤い彗星が連邦のMS開発計画を阻止したのは有名な話である。しかし、いずれ連邦も再開発を達成すると言われてきた。それが遂に今、実戦投入されたのだ。

 

「今はこの情報に価値があると、そう信じよう。」

 

カラハンは全力で逃げた。他のMSも後に続いた。グラブロを盾に出来なければ、他のMSも連邦の航空機の餌食となりかねない。幸い、連邦のMSは海中では鈍重である。しかしグラブロとズゴックを仕留めた敵なのだ。カラハンは一切の油断をするつもりはなかった。

 

 

 

 

〈ラ・グランパ〉の艦橋に、勝報がもたらされた。巨大な爆発が、どちらの被害か分からなかった連邦軍は勝利の知らせにドッと歓声を上げた。彼らの目には、ニューヤーク制圧の障害は消失したと映っている。

 

「〈ペイルホース〉より電文。ジオンのMAおよびMSを撃破したとの事です。パイロットはシイコ・スガイ少尉。」

 

「“ユニカム”か。さすがだな。」

 

撃墜王を意味するシイコの異名は、連邦軍内では有名になりつつある。今までは頭ひとつ抜けたパイロットという扱いだった。その点、〈ペイルホース〉のミライ・ヤシマ中尉と扱いには大差なかった。しかしここに来て覚醒した観がある。

 

「ジオンのMA撃破は快挙だ。この戦闘の英雄と呼ばれるのだろうな。彼女は無事なのだろう?」

 

「ええ。回収には少し手間取るようですが。本艦の甲板を貸して欲しいそうです。」

 

艦長は、エースパイロットのその要請を快諾した。

 

「ジオンのMAを倒してくれたんだ。それくらい、喜んで協力しようじゃないか。」

 

 

 

 

 

海中向けて突撃したシイコは、苦労して軽キャノンを空母〈ラ・グランパ〉の甲板に這い上がらせた。

 

「ねえ、MSは海に突撃するようには作られていないのよ。」

 

Gファイターを駐機させたセイラが、コクピットから降り立ったシイコに呆れ顔を向けていた。海水をダバダバと垂れ流す軽キャノンのコクピットを這い出ると、シイコもヘルメットを外した。海上の太陽が、汗にむれたシイコの顔と髪を温める。

 

「これも貴重な実験データ収集ですよ、お姉様。早く、合体しましょうよ。」

 

Gファイターに軽キャノンを収納する工程を、さも意味ありそうに告げるシイコ。しかしセイラは流されない。

 

「まだダメよ。海水を、よく洗い流さないといけないから。」

 

セイラの言葉を証明するかのように、メカニックが多数シイコの軽キャノンに取り付いていた。海では貴重な真水による洗浄である。海水を残したままでは不具合が出る。宇宙を想定した機体なので気密性は保たれた筈だが、不純物の残留は思わぬ支障に繋がりうるのだ。

 

「水中、思ったより動けませんでしたねー。」

 

「そりゃあ、ザクでも同じでしょう?」

 

「ザクと比較しても、ちょっと身体が重いですよ。宇宙だと、格闘戦では不利かもしれません。」

 

軽キャノンと命名されているが、従来のガンキャノンが極めて鈍重だっただけである。シイコの感覚では地上で乗ったザクと比べてさえ、連邦のMSにはまだ鈍重さがある。

 

「火力は、ザクには負けないのではないかしら。装甲があると見ると、バランスはいいわよ。」

 

コアブースター乗りのセイラの経験からすると、両者は五十歩百歩の違いでしかない。所詮はMSの機動力だと割り切っている。シイコのようにザクに乗って戦った事がある訳でもないからだ。

 

「お姉様も、ザクと格闘戦すれば分かりますよ。」

 

シイコはそう断言した。彼女はセイラは自分と同じ側、格闘に適性がある側と判断している。コアブースター歴とシイコとの仲を買われてGファイターを優先的に回されたが今回だけの特別な編成だ。いずれセイラも自分の軽キャノンを持つ筈である。

 

「私、そんなハンマーなんて嫌だわ。」

 

セイラからつい本音が出た。その様子にシイコが笑う。

 

「ハンマー、意外と悪くないですよ。」

 

その言葉を、セイラは後に意外なところで証明する事になる。その未来を彼女はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

—ニューヤーク—

 

『我々はジャブローへ向けて離脱する。後は適当にやりたまえ。責任は全てロメロ少将が取ってくださる。ま、気楽にやりたまえ。』

 

「はっ!」

 

ダロタ中尉は複雑な表情で、赤い彗星の出撃を見送った。彼はマッドアングラー隊の生き残りを収容し、海中を南米方面に突破するのだ。

 

(任務とはいえ、大佐もあまりにも情がない。)

 

ダロタはシャアを薄情だとも思う。しかしシャアが主張するように、これは上層部の意向である。そして今のジャブローが手薄なのもまた事実である。

 

まさか北米の防衛をかなぐり捨てて、ジャブローへの偵察を強行するとは連邦も想像だに出来ないだろう。ダロタとて、これが真実と受け止めきれない程だ。

 

(シャア大佐は功績を挙げられるかもしれないが、北米に残る我らはますますジリ貧ではないか。)

 

グラブロは本来はシャアの為にドズル中将が用意した機体である。それをマッドアングラー隊に与えて、連邦の旗艦を狙っただけでもシャアは多大なる貢献をしていた。とはいえ、その試みも今は潰えてしまった。希望のなさに、ダロタは打ちのめされている。

 

(大佐自身が操縦されていたら、結果は変わっていたのではないか。)

 

物思いに耽るダロタに、通信担当士官の一人が声をかける。

 

「ダロタ中尉、待機させているザクの指揮官から連絡です。第二次攻撃にあたり、中尉に確認があると。」

 

「繋いでくれ。」

 

ダロタは通信を繋がせる。連邦の艦隊がニューヤーク沖合に接近し、間も無く上陸が始まる。予備隊として温存したドダイ搭乗ザクはそろそろ出番となる。

 

『司令部、戦術核の使用許可を求める。』

 

「なんだと?」

 

指揮官の意外な要請に、ダロタ中尉は顔を引き攣らせた。

 

『副官殿では話にならん。シャア大佐か、ロメロ司令はおられないのか。』

 

指揮官の物言いに、ダロタは冷静に対処する。こんな所で言いくるめられる程、やわな体験はしていないのである、

 

「シャア大佐は既に作戦に沿って出撃された。ロメロ少将からは、私に一任頂いている。」

 

『ならば副官殿の権限でいい。敵の旗艦を確実に沈める為だ。戦術核を利用したい。』

 

相手はキャリフォルニアベースに所属するガルマ親衛隊の指揮官だった男だ。

 

「イアン・グレーデン中尉。核兵器は明白な南極条約違反だ。貴官は正気か?」

 

『連邦もオデッサで水爆を利用したと、そう聞いている。ならばこちらも使える筈だ。』

 

ザク部隊の指揮官は食い下がった。そしてダロタに決断を迫る。

 

『お互いにこれ以上失敗出来ない身だ。違うか?』

 

拘束されたガルマがサイド3へと連れ戻され、ロメロ少将は戦死している。イアン・グレーデンはそこまで知らされている訳ではないが、これまでやかましい指示を下していたロメロが通信を絶てば異常には気がつく。それを見て見ぬふりをしてくれる男なのだ。ダロタとしても、邪険にはしづらい。

 

「…どうしようもなくなった、最後の手段としてならば検討しよう。」

 

『既にその段階だ、とこちらではそう認識している。』

 

イアン・グレーデン中尉は強硬である。遂にダロタは折れてしまった。赤い彗星という頼れる上司が去った今、ダロタもまた分かりやすい力に縋りたい気持ちは強くある。

 

「では、一発だけだ。それで確実に敵指揮官を殺せ。そうでなければ、上に説明が出来ない。」

 

『了解した。では、出撃する。』

 

イアン・グレーデン中尉は敬礼と共に姿を消した。ダロタは気がついていなかった。彼は部隊全体で一発の核の発射を認めたに過ぎないと理解していた。恐らくは、イアン・グレーデン中尉が自らその射撃を行うのだろうと。

 

だがそうではなかった。イアン・グレーデン中尉は部下の全機に一発ずつの戦術核を装備させたのだ。それもダロタの意図した最後の一発ではない。最初の弾頭に、戦術核を指定していた。

 

 

 

 

「艦長、敵です。ザクが出ました!」

 

空母〈ラ・グランパ〉の副長が、警告を発したのはシイコとセイラが再び出撃していくのを見送った直後である。

 

「なんとしてでも、阻止しろ!」

 

グラブロの対処を終えた今、空母にとって最大の敵の襲来である。北米を暴れる元ガルマ親衛隊機が“赤い彗星”の下で襲撃部隊として再編成されたのは有名だった。頭上から降り注ぐザクバズーカの破壊力は凄まじい。

 

「安心しろ。バズーカ弾を一発二発は喰らっても沈まんよ。落ち着いて対処させろ。支援も受けられる筈だ。」

 

部下の手前、強気を示している。しかし、艦載機の過半を占めるのはFF-4という廉価な戦闘機である。ジオンの制空戦闘機に対抗する為に産み出された機体で、ザクを撃墜するのには武装が非力すぎた。バルカン砲しかないのだ。豆鉄砲でザクを落とそうとするようなものである。

 

「時間さえ稼げばいい。」

 

艦長は公然と言い放った。彼の認識ではそうである筈だったのだ。

 

「敵、阻止できません!」

 

艦橋を怒号が飛び交う。空母〈ラ・グランパ〉の主力戦闘機は、FF-4と呼ばれる低性能機である。その機銃は確かにザクに命中していた。しかし小型ミサイルの直撃に耐えるのがザクの装甲である。決死で突っ込むザクを押し留めるのには至らない。

 

「味方の砲撃で阻止できないのか!」

 

頼みの綱は、ガンタンクを擁する〈ペイルホース〉の火力である。空中の火力担当艦としては、空母〈ラ・グランパ〉を支援して然るべきなのだ。だが、彼らにも課題があった。

 

「この距離じゃ飛ぶ相手には当たらないぜ!」

 

ガンタンクのコクピットではカイが弱音を吐いていた。ガンタンクのレールキャノンは高速で敵機を貫き一撃で破壊し得る。しかしそれも狙えればの話である。

 

これまで〈ペイルホース〉が相手にしてきたのは極めて低速な敵である。それは空から見れば地上を這うように移動するMSであったり、ミノフスキークラフトで浮いているだけのようなアッザムであったりする。

 

「カイ、落ち着いて狙え。敵を近寄らせなければそれでいい。」

 

ガンタンクの長い砲身は、高速で動く敵を狙うのに限度がある。リュウやジョブは既に弾幕としての役割に徹している。しかし狙撃の才能を開花させつつあるカイとしては、やはり仕留めておきたい。ここでやらねば、己が成長できない焦りがある。

 

「そこだ!」

 

カイのガンタンクのレールキャノンの放った弾丸が、ふわりと浮いた敵のザクを正確に撃ち貫いた。未来を予測したかのように正確な射撃である。

 

「ようやく、一機。」

 

「ここまでだ。ミライさん達が取り憑いたぞ。」

 

見れば直掩についていたミライ以下のコアブースターが、ザクの迎撃に駆けつけていた。コアブースターのメガ粒子砲ならば、ドダイに搭乗したザクと互角以上に渡り合える。

 

「間に合ったのかい。」

 

カイがバイザーを開いて額の汗を拭った、その時である。

 

『ダメ!』

 

セイラとミライとシイコが叫んだ。誰もが油断していた訳ではない。皆最善を尽くしていた。しかし、一機のザクが空母〈ラ・グランパ〉への直撃コースに入る。そしてバズーカを撃ち放った。

 

放たれたバズーカ弾が引き起こした爆発は異様な衝撃をもたらした。空中を衝撃波が伝い、FF-4の群れが吹き飛ばされる。大半は態勢を立て直すが、何機かは錐揉み状態で海中に突入した。

 

ミライ以下のコアブースターは離脱を開始している。衝撃波を背に加速するように逃れた。そして低空で海上を飛翔して、何隻もの艦を盾がわりにした。禍々しいものを感じたのだ。

 

幸い、その弾頭は戦術核としては標的の破壊に特化していた。爆発半径はごく狭いエリアである。それでも、地球上で使うにはその威力は絶対だった。

 

爆炎の後に姿を見せた空母〈ラ・グランパ〉はまだ浮上していた。しかしそれは浮かぶ残骸と呼ぶに等しい。艦橋があった場所には大穴が空いている。飛行甲板は炎にまみれていた。無事な機体が残存していたとしたも、脱出を果たせそうにない。

 

核兵器としては、放射能もかなり抑制されていた。しかしそれでも汚れた爆弾である。直撃を受けた艦の乗員の生存は、絶望的である。連邦軍の将兵が唖然として見守る中、後続のザクが続々と戦術核を撃ち放った。

 

三発目の直撃で、〈ラ・グランパ〉は完全に沈黙した。敵と味方が結果を見届ける為に、奇妙な一瞬の静寂が生じていたのだ。そして艦体には閃光と共に巨大な孔が生じた。海水が押し寄せて、渦と共に空母の全てが海中に引き込まれる。その間は一分にも満たない。僅か数十秒の出来事である。

 

『やった、仕留めたぞ!』

 

ジオン側の通信回線がドッと沸き立つ。勝利は不可能かもしれない。しかし、連邦に確実に一矢報いた興奮が彼らを支配していた。

 

 

 

 

マチルダは目の前の光景を呆然と眺めた。連邦の艦隊の中央には、大穴が空いていた。今はその周囲の輸送艦に向けて、ザクのバズーカがばら撒かれている。

 

既に戦術核弾頭は使い果たされたようだが、これまでに空母〈ラ・グランパ〉と共に二隻の輸送艦が核弾頭の直撃を受けて沈んでいた。被害は更に増えるだろう。

 

(ここが海の上で幸いね)

 

マチルダは不謹慎な考えを抱く。放射能に塗れた船体は、海中に没した。乗員も余計な苦しみを受けずに済んだ筈である。問題はパイロット達だが、ノーマルスーツと機体で二重に防壁がある。コアブースターも宇宙の放射線に耐える設計だ。機体に被害がなく直撃でないのなら、まず心配は要らない。

 

(それよりも、今は指揮系統が危うい。)

 

今の連邦軍は、中核となる艦を喪失した。これは危機的状況となり得る。しかし、幸にして艦隊の指揮官はここに健在だった。

 

「通信回線を開け!私がここに健在だと艦隊全体に伝達するのだ!」

 

ゴップ提督の大音声が〈ペイルホース〉の艦橋に響き渡った。今回の作戦において、ゴップ提督は〈ペイルホース〉に座乗艦を移動していた。それは主に海中からの奇襲という形での、ジオンの断首戦術を警戒しての措置である。その予防措置は見事に当たった。予期せぬザクによる核攻撃という形で、である。

 

「狼狽えるなよ。連邦の価値は見えている。敵は苦し紛れの奇策を用いたにすぎん。」

 

ゴップ提督の健在は、指揮する声の直接的な中継という形で艦隊に伝達される。艦隊が勢いを取り戻した。被害は被害として、生気を取り戻す。そしてジオンの勝ち目は完全に喪失した。

 

「空中にいる友軍機の帰る場所を確保せねばならん。上陸作戦を開始せよ。滑走路が必要だ。寸土でももぎ取れ。」

 

ゴップ提督の指示は明瞭である。揚陸艦から戦車がそして歩兵が上陸を開始する。空母も〈ラ・グランパ〉一隻だけではない。連邦の物量の前に、手札を使い切ったジオンは成す術がない。

 

「進め、進め。敵を圧倒せよ。」

 

普段は沈着なゴップ提督が、昂って大音声を張り上げる。勝機は今しかない。少しでも引き下がれば、艦隊は瓦解する。ゴップ提督が健在なこの状況こそが勝敗の危うい均衡を持続させた。そして彼は今、天秤を連邦の勝利へと確定させるべく必死だった。その気迫は、全軍へと伝播した。

 

 

 

 

 

 

 

バズーカ弾を撃ち尽くしたザクは、都市へと撤退を開始している。

 

「逃すかよ。」

 

連邦の航空戦力は一丸となってそれを追った。特に脅威となったのは、テスト運用中の二機のMSである。Gファイターの上に、軽キャノンが搭乗していた。移動速度は低下するが、この形であればドダイ搭乗のザクとも渡り合える。

 

「死ねや、おら。」

 

ギャリー・ロジャース大尉の軽キャノンが、スレッガー・ロウ中尉の操縦するGファイターの上で吼えた。彼の軽キャノンは、肩のビームキャノンで逃げるザクを撃ち抜いた。ザクも万能の兵器ではない。より強い火力の前になす術を知らない。

 

「バズーカでは、ビーム兵器の前に不利か。」

 

イアン・グレーデン中尉は予期せぬ敵に歯噛みした。バズーカ弾の威力は絶大である。しかし弾速の遅さという弱点がある。ドダイ搭乗ザクのように、空を飛ぶ敵MSは不得手になり得る。

 

「要は接近すればいいのだろう。」

 

味方を支援すべく、反転して近い敵に肉薄する。距離が近ければ交わしきれない。それが彼の計算だった。そして彼らは数が多い。部下も使い、包囲して仕留めにかかる。

 

「何!?」

 

目の前の敵はビームサーベルを抜き放つと、公然と向かってきた。セオリー通りなら、敵はビームキャノンを用いるべき状況なのだ。わざわざ対等な格闘戦を挑むなど、意味がわからない。しかし剽悍なこの敵は、一撃で一機のザクを屠り去る。それは偶々、イアン・グレーデン中尉の機体ではなかった。しかし彼が狙われていたら、間違いなく仕留められていたに違いなかった。

 

「ち、逃げるぞ。」

 

イアン・グレーデン中尉は踵を返した。こうなれば全力で逃げる他ない。そんな彼を、背後からギャリー・ロジャース大尉の軽キャノンが付け狙う。しかし彼のビームキャノンは、ついに最後までイアン・グレーデン中尉を捉えることは出来なかった。

 

 

 

 

 

「追撃はここまでだ。」

 

遂にギャリー・ロジャースは部下に停止を命じた。深入りしすぎては、逆襲される危険がある。ジオンの航空機は未だ健在なのだ。ドップとはいえ、ザクと連携して反攻されては脅威となる。

 

「後退し、〈ペイルホース〉の直掩に戻れ。」

 

そしてあの核弾頭。一発が致命傷とされかねない。守るべき母艦を離れすぎる訳にはいかない。

 

「シイコ・スガイ少尉。なぜ、ビームキャノンを使わなかった?使えないのか?」

 

それは質問というよりは、心底不思議な疑問である。尋ねられたシイコが答える。

 

『それが、海に落ちた後で調整していなくて照準が狂ってて。』

 

「海に落ちた後、キャリブレーションしてないのか。」

 

ギャリー・ロジャース大尉は呆れた。だが把握しておいて良かったともそう考える。今の場面、シイコもビームキャノンを使えれば勝てていたかもしれなかった。

 

『ロジャース大尉、スガイ少尉が海に飛び込んでいなければMAは倒せていませんぜ。』

 

のんびりとした口調でスレッガーが上官を諭す。

 

「む、それはそうかもしれんが。」

 

グラブロ撃破はシイコの手柄である。〈ペイルホース〉直掩という役目があったとはいえ、何もしていない自分が非難できる話ではないとギャリー・ロジャースは気がつかされた。

 

『それにゆっくりしていたら、〈ラ・グランパ〉と共に沈んでます。これ以上は野暮ですよ。我々は勝ったんですから。』

 

「ま、そうだな。やれるだけの事はしたな。」

 

結果を見れば連邦は勝利しつつある。しかし、ザクによる核攻撃を防げなかった。犠牲も大きい。そのやり切れなさが、他者に責任を求めるあまり無理に瑕疵を探そうとしていたようである。要は、粗探しをしていたのは自分なのだ。

 

「悪かったな、スガイ少尉。君達は良くやっている。これは本心だ。」

 

『ありがとうございます。』

 

この軽キャノンとて、二機しかない試験運用中の機体である。

 

「やれる範囲で、やれる事をするしかないか。」

 

ジオンも苦しいが、連邦もまた苦しんでいる。それでも今彼らは、ニューヤークを取り戻しつつある。ようやく、北米に橋頭堡を築く日が来たのだ。

 

 

 

 

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

艦橋ではブライト・ノア中尉が報告すべく声を張り上げる。

 

「直掩機の軽キャノンは、二機とも帰還しました。これより警戒任務に当たらせます。」

 

「ご苦労。」

 

ゴップ提督は短く返すと、艦長のマチルダ・アジャンに話しかける。

 

「艦長、またも幸運の女神に救われたようだ。いよいよ、レビル将軍の世迷言と笑えなくなったな。」

 

「閣下までそのようなご冗談を。」

 

マチルダは少なからず困惑した。レビル将軍のアレは、兵の士気を高める為の方便であるとマチルダは理解している。しかし戦術核による破滅を免れた後だけに、ゴップ提督には本心からの信仰心に近いものを向けられたと感じていた。

 

「いやいや、私は感謝しているのだ。この艦の君たち全員にな。それに艦隊の全員にだ。皆よくやった。」

 

ゴップ提督のその言葉は、勝利を確信しつつあるが故の言葉だ。マチルダは黙礼した。未だ戦場にあるという自覚が彼女を張り詰めさせている。

 

「少し、話さないかね。」

 

ゴップ提督の誘いにマチルダは応じた。何か密談の気配を感じたからである。ゴップ提督に割り振られた椅子の横に立ち、プライバシーフィルターを起動する。立ち上がった透明な衝立が、作戦中の密談を可能にした。

 

「しかし、ジオンも破れかぶれだな。」

 

「核弾頭まで使用するとは。もう気が抜けませんね。」

 

「これ以上の地球の汚染は避けたい。そのための南極条約であったのだが。だが、核を使う方が手早くていい。そんな声もあるのは確かだ。」

 

ゴップ提督は、戦況を憂えて見せた。

 

「…このまま放置すれば、核の冬が来るのでしょうか。」

 

マチルダは声を潜めて問うた。プライバシーフィルターとはいえ、完璧な防音ではない。これは皆に聞かせられる話ではない。しかし、この点は聞いておきたい。ゴップ提督とこの件で会話出来るのは、今しかないかもしらないのだ。提督が座乗艦を移せば、まずこの距離での会話は不可能となる。

 

「ジオン次第と言いたいが、こちらの事情もある。難しいな。」

 

ゴップ提督の現状認識は辛口であった。

 

「やはりそうですか。」

 

マチルダの胸中を、何か苦いものがせり上がる。

 

「ニューヤークの街は、このまま解放されるのではないか。しかし戦場においては、我々は再び核の脅威に備えなくてはならん。厄介だぞ、これは。」

 

空母〈ラ・グランパ〉は轟沈した。数千に及ぶ兵と共に、多数の兵器がそれを動かす物資と共に消失した。ジオンから見れば赫赫たる戦果とも言える。

 

「やはりレビル将軍が水爆に手を出したことは失敗だったのだ。歯止めなき応酬が続けば、いずれこうなると分かっていたのだがな。やはり戦争にこそ、ルールは必要なのだ。本来は、こうならないようにこそ話し合いを行うべきなのだかな。」

 

核戦争の危機が顕在化したのだ、本来はここで仕切り直しをする潮時である。互いに以後の核兵器使用禁止を確認し合う、そうするだけでも効果がある。だからマチルダも、再度の話し合いを期待した。

 

「やはり、南極条約の遵守を確認し合う場が必要になるのですね。」

 

「核の冬を実現させないようにするためにはそうだ。しかし再度話し合いをするとなると、マドラスの件が俎上に上る。だからこそ、難しい。」

 

「ああ」

 

マチルダ本心からの嘆息である。彼女はそこで事態の全貌を把握した。

 

「エルラン中将の独立を、連邦軍は認める事が出来ない。それで話し合うことが出来ないのですね。」

 

連邦軍にとって今は時期がまずい。外交すれば、エルランの自立を既成事実として追認する事を求められる。

 

「その通りだ。感情的にも認められない。だが、何よりもあの男の立場を容認すれば後に続く者が出かねない。それこそジオンの思う壺だろう。連邦が一枚岩ではなく、地域地域の群雄割拠となってしまいかねん。」

 

マチルダには腑に落ちる話である。マドラスの独立という不測の事態は、未だに外交的に解決を見ていない。

 

「全てを解決するのは勝利あるのみだ。まるでレビル将軍の口癖のようだがな。この私でさえ、今はそう思ってしまう。」

 

それだけ、エルラン中将の裏切りはレビル将軍とゴップ提督に大きな影響を与えたのだろう。

 

「北米で勝利すれば、全てが好転するのですね?」

 

「その通りだ。オデッサの勝利はマドラスの件で塗り替えられてしまった。揺るぎなき連邦の存在を示すには、我々はここで勝利する他ないのだ。」

 

「……厳しい戦いになりますね。」

 

「北米を得るまでは、互いに汚れた手段に手を染めざるを得ないと。今はそういう事だ。」

 

北米を奪還してようやくジオンと対等に近しくなる。対話可能なのはそれからだ。つまり北米戦線は、なんでもありの汚い戦争になる。一歩間違えれば、抑制された核兵器の使用は全面的な核兵器の応酬になりかねない。

 

(指揮官が抑制的なゴップ提督で本当に良かった)

 

マチルダは本心からそう信じていた。そう、北米を無傷で奪還する希望を抱いていたこの時までは。

 

 

 

 

 

—フィフスルナ—

 

その物体はフィフスルナで発見された。一人の少女が父親に宇宙の異常を訴えかけたのだ。

 

「何か声が聞こえる。」

 

父は娘の神経症を疑った。仕事とはいえ、娘をこんな小惑星に連れて来てしまい悪かったとそう考えた。だから娘に言われるがまま、宇宙のその場所を訪れた。それは本来は、そこに“何もない”と示す為だった。

 

しかし彼らは、そこで発見してしまった。何かこれまでの物理法則からかけ離れた不思議な物体を。二重映しになっているかのように、輪郭が屈折して見えた。娘はそれを指差して言った。

 

「見て、彼女よ。」

 

指差した先にはその乗り物のコクピットらしき場所があり、そこにはノーマルスーツ姿の少女の姿があった。彼女には、何かイバラのようなものが巻き付いていた。

 

「まるで薔薇の女王ではないか。」

 

父であるマハラジャ・カーンの見たものは、コクピットらしき場所に座る少女の姿である。彼女の姿は、時を停止させられたかのようにまるで動きがなかった。

 

 

 

 

—グラナダ—

 

ジオンの最高学府は、サイド3ではなくグラナダにある。フィフスルナで発見された“薔薇”は、マハラジャ・カーンの手で密かにグラナダに運び込まれた。それはこの謎がジオンの栄光に繋がるとマハラジャが考えたからである。

 

「なんなのですか、あれは。」

 

オデッサから脱出した部隊を率いてグラナダに帰還したマ・クベは、主君たるキシリア・ザビに“薔薇”を見せられていた。

 

「あれはフィフスルナで発見された“薔薇”だ。今は“シャロンの薔薇”とそう呼ばれている。」

 

「“薔薇”ですか、あれが。薔薇よりはユリに見えます。」

 

そこまで答えて、マ・クベは理解した。

 

「そうか“岸辺のユリ”という事ですな。確かに聖書にある通りの姿。流石はキシリア様。」

 

キシリアはその追従には直に応えず、ただマ・クベが理解してみせたことに満足した。彼女の望む水準について来られる者は、マ・クベの他に数名しかいない。

 

「あの物体は、時間が凍結されているそうだ。別の宇宙の物質ではないかという推測もある。その理由があれよ。」

 

キシリアの指し示した先に、荊に囲まれた少女の姿がある。しかし彼女が指し示しているのは、少女の更に奥である。

 

「フラナガン機関では、まだ設計段階だったアルファ型サイコミュだ。正直に言って、我々はあれを解析して完成させたと言って過言ではない。」

 

「サイコミュ。報告書でしか存在を知らされていませんでしたが、あれが。」

 

「長らく被験体がいなかったからな。フラナガン博士の理論、それを実証するに相応しい安定した数値を出せる者はこれまでなかったのだ。」

 

「まさか、未来から来たと?」

 

「或いは、別の宇宙かもしれん。実は発見者をここに呼んである。ハマーンをここに連れて来い。」

 

キシリアはそこで控えていた部下に、指示を出した。扉が開き、十代になったばかりのローティーンの少女が姿を現す。キシリアはその少女を招き寄せた。

 

「カーン家の次女、ハマーンだ。」

 

マ・クベは少女に目礼した。名家としてのカーン家に敬意を表して見せたのである。そして彼は知っている。ハマーンの姉であるゼナは、ドズル中将の妻となった事を。いわば彼女は、上官であるドズルの義妹にあたる。

 

「ハマーンよ、教えておくれ。“シャロンの薔薇”はなんと言っている?」

 

「はい。“早く、あの人に会いたい”って、そう私に訴えかけています。」

 

「なぜ、お前に?」

 

「彼女の声が、聞こえるから?」

 

「この歌のようなものが、彼女の声だと?」

 

無作法を承知で、マ・クベは二人の会話に割り込んだ。このままでは、彼の頭がおかしくなりそうである。

 

「キシリア様、私には何が何やらさっぱりです。」

 

マ・クベもついて来れなくなったと、キシリアは見てとった。しかしこれは知性の問題ではなく、感覚の問題である。

 

「これはフラナガン博士が、ニュータイプと呼ぶ能力だ。それを持つものと持たざるもの。見た目には差がないが、知覚での差が生じる。」

 

そしてキシリアはハマーンに再度振り返る。

 

「やって見せておくれ。」

 

ハマーンは頷くと、用意されていたとある装置に腰掛けた。フレームの中に椅子が置かれているような構造である。ハマーンが座ると、フレームが輝きを帯びる。そして装置の先に取り付けられた腕が動作を行う。腕はゆっくりとマ・クベへと伸ばされ、握手するかのように差し出された。

 

「よろしくね、マ・クベ大佐。ハマーンです。」

 

歌うような少女の声。マ・クベは機械の手を取り、慇懃に言葉を返す。

 

「マ・クベ大佐であります。ハマーン・カーン様におかれましては、以後お見知り置きを。」

 

丁重過ぎるマ・クベの態度に、少女が笑い声を上げる。

 

「凄いものだろう?」

 

キシリアは得意そうにそう呟いた。

 

「これは、脳波コントロール装置ですか。」

 

「そうだ。慣れれば、手で操縦するよりも容易いそうだ。兵器化を進めさせている。」

 

「実戦で、使われると。」

 

グラナダでMAが開発されていることはマ・クベも耳にしていた。それは別段不思議はない。しかし、腹心を自負する彼は今に至るまで知らされてはいなかった。そんなマ・クベに、キシリアは得意げに告げる。

 

「ああ。この手品こそが我々の切り札となるかもしれん。」

 

 

 

 




【あとがき】
お読み頂きありがとうございます。

核の冬については、GQuuuuuuX本編にて“核の冬の曇り空を解消する”イオマグヌッソの存在により既定路線でした。核戦争の主な場所をどこにするかについては

・バスク・オムのいた日本は青空
・ララァのいたインドは青空
・連邦はオデッサと北米で勝利
・南米ジャブロー攻撃は発生

以上の条件から北米を核戦争の舞台としました。なお、バスクのいたビルが廃墟化していたのは別の理由と判断しています。(コロニー落としに起因する津波の影響という認識です)

“シャロンの薔薇”は本編でフィフスルナ発見と示唆されています。またララァ不在にも関わらずアルファ型サイコミュが成立している点から、発見時点で天然NTの関与があったと解釈しました。

フィフスルナにいて違和感がなく、かつ著名NTである点からハマーンを登板させています。

GQuuuuuuX本編で、キシリアが少女NTを侍らすのに妙に慣れていたのは事前にハマーンという存在がいたから、という解釈です。

軽キャノン登場についてはタイミングを悩みました。量産がジャブロー戦前後としても、先行機はそろそろ出せるとの判断です。グラブロを倒す為には、最低限必要であると判断しています。

Gファイターと軽キャノンの関係は庵野シナリオワークス解釈に基づいています。軽キャノン前提の運用機として再解釈しました。

ジオンによる美術品収奪や、シャアの金塊などはファーストで語られた要素をうまく拾ったかなと考えております。

シイコもグラブロ撃破により、原作に沿った形でのエース“カラコム”として扱われる段階に入ったと考えています。

カラハン少尉の動きと、シャアのジャブロー強行偵察にもご期待ください。

今回のお話はいかがでしたか? 貴方の気持ちに近いものを選んでください。

  • 核戦争に至る経緯がリアル
  • エルランの独立がここで祟るなんて!
  • ダロタやマチルダの中間管理職の悲哀
  • ラ・グランパ轟沈しちゃうなんて!
  • シャアは冷酷だがそこがらしい
  • シイコのグラブロ撃破が良かった
  • セイラとシイコのじゃれ合いが癒し
  • カラハン少尉が地味に生き残ってる
  • ハマーンとシャロンの薔薇登場に驚いた
  • キシリアの動向が気になる
  • マ・クベも何か動きそう
  • 今回も戦闘が面白かった!
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