【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side 作:高坂 源五郎
-ルナツー司令室内-
「お呼びですか、閣下。」
マチルダ・アジャン中尉は、ルナツーの司令室に入室し、絶句した。正面のスクリーンには、破壊されたサラミス級が映し出されている。恐らくはルナツーから光学的に観測された映像だ。デジタルズームされて細部は甘いが、被害の甚大さは見てとれた。
「貴官の任務は、ペガサス級の廻航責任者だったな。」
入口へと振り返り、ワッケイン司令がマチルダへと質問する。その口調はいつになく険しい。詰問と言えそうだ。
「はっ。機関部に不調のあるペガサス級二番艦に代わり、一番艦をジャブローより廻航しました。」
「その一番艦に問題が生じた。」
ペガサス級に生じた問題が、自分の責任にされるのだろうか。マチルダの背筋が冷たくなる。マチルダは廻航責任者とはいえ、技術者ではない。所属は輸送部隊である。本来なら艦船の廻航自体、専門外に近い。
「問題とは、どの様な?」
「ジオンに強奪されたのだ。」
「は?」
意味がわからない。連邦軍の主力艦ともいうべき強襲揚陸艦が、強奪された?
「パオロ艦長以下の人員や装備は全て、二番艦から一番艦ペガサスに集約しておりましたが。」
万全の体制のはずです、という意味を言外に込める。
「そのペガサスがな、奪われたのだ。」
繰り返される言葉。自分に言われても困る、それがマチルダの直裁な反応である。一介の廻航責任者、たかが中尉が責任を負うべき範囲を超えていた。それこそパオロ艦長の責任ではないのか。
「リード艦長のサラミスがサイド7近傍宙域で、ゼロヒトガンダムの評価試験運用中だった。そしてジオンの強奪部隊と遭遇した。その結果があれだ。」
ワッケインがスクリーンに向けて顎をしゃくる。スクリーンに大写しされているのは横っ腹に大穴の開いたサラミス級である。空気が抜けたその姿からは、生気というものが全く感じ取れなかった。
「ゼロヒトガンダムの運用データも根こそぎ奪われた様だ。リード艦長が生きていても、きっとジオンの収容所送りだろうな。」
ワッケイン司令の声は、どこまでも冷たく響く。まるで真空に晒されているように寒い。
「自分は、何をすればよろしいのでしょうか。」
マチルダは問うていた。嬲るようなワッケインの物言いは好きにはなれない。それに事態が事態だ。一目見れば分かる。事は急を要する。
「ペガサス級二番艦にも出てもらう。サイド7のV作戦関係の遺物を可能な限り収容せよ。そしてジャブローへ帰還し、報告をするのだ。」
マチルダは唇を噛んだ。二番艦は元々ジャブローに帰還させる予定で用意してある。機関の応急処置も終わった。その報告は済ませているので、ワッケイン司令は二番艦に事後処理をするように命じたのだろう。しかし、失敗の報告役とは酷い扱いである。しかし、命令は命令だ。
「了解しました。ジオンはもう去ったのでしょうか?」
「恐らくはな。だが確実ではない。」
「本艦は主要な装備を一番艦に譲り渡し、ミサイルの残弾さえ心許ない状態ですが。」
「心配するな。護衛にマゼランを出す。流石に、失態の上塗りはできんよ。」
ワッケインの回答にマチルダは安堵した。戦力の規模は不明だ。だがマゼランが敵を引きつけるなら、無謀な作戦とまではいえない。
「了解致しました。」
「準備を急がせたまえ、可能な限り早く出るぞ。」
-ペガサス級二番艦〈ペイルホース〉艦橋-
「ブライト・ノア少尉、着任をご報告します。」
ペガサス級二番艦〈ペイルホース〉艦橋に出頭し敬礼したのは若い士官候補生だった。いや、今はもう違う。真新しい少尉の階級章が見える。敬礼もまだ未熟なこの若者が、だ。
「マチルダ・アジャン中尉だ。少尉任官は最近だな?」
答礼し、休むように身振りで命じてから新米少尉に声をかける。
「はっ、本日付で少尉に任官致しました。ひよっこではありますが、よろしくお願い申し上げます。」
(やれやれ、ワッケイン司令の指示ね)
人員を根こそぎ一番艦〈ペガサス〉に奪われた〈ペイルホース〉は
「本艦は人員不足だ。特に、士官が足りない。新任少尉でも副長をやってもらうぞ。いいな?」
「はっ、光栄であります。」
気楽な廻航任務だったはずなのだ。気がつけば新米少尉と2人で、艦長と副長の真似事である。
「少尉は、操艦は出来るな?」
「はい。」
「では、当面は操舵手だ。」
顎で操舵手の位置を示す。腕前は未知数だが、士官候補生なら一度は操舵手としての訓練がある筈だ。その為の士官教育課程なのだから。
「私も操舵手としての成績は良くなかった。私がやるよりもマシだろうよ。」
緊張を解すべく軽口を叩く。後でマチルダはこの発言を後悔するのだが、この時はそんな事になるなどとは予想だにしていなかった。
-サイド7-
航海は順調だった。ブライト少尉の他にも、二人のパイロット候補生が乗機と共に仲間入りした。パイロット候補生のリュウ・ホセイ曹長とジョブ・ジョン曹長である。いずれも少尉任官前の士官候補生であり、下士官待遇というやつだ。マチルダは早速二人を艦橋へと呼び出した。
「自分達は将校課程という名目で、機体を預かったパイロット候補生であります。」
そう自己紹介したのはリュウ・ホセイ曹長である。これは士官にしか認められていない地球連邦軍のパイロットを速成する裏技である。
「若者を戦場に送る方法を発明したとは聞いていたけれど。連邦も追い込まれたのもね。」
「腕の方はご安心ください。自分達はパイロット候補生として、志願した上で技能試験も通過しております。」
「そう?昨今は学生を徴用して強引にパイロットとして採用した事例もあると聞いているけれど。」
「それは士官見習生の事ですね。」
横から操舵中のブライトが会話に参加する。その返答でマチルダは事情が飲み込めた。士官見習生は、将校課程の前段階にある幼年学校などの学生である。要は学生だ。学生というのは、入学を認められさえすればいい。軍がその気なら、誰でも士官見習生扱いできるという事である。
「連邦のパイロット不足は深刻なようね。」
玉石混合の士官見習生に比べれば、試験があるだけ士官候補生の質は安定してはいるらしい。
「それで、機体の方はどんな具合なの?」
「それは自分からご説明します。」
口を開いたのはジョブ・ジョン曹長である。
「コアファイターは最新の戦闘機です。武装面は課題がありオプションパーツでの強化が検討中ですが、機動力は著しく強化されております。MSの推進装置を背負っているような構造でありますから。」
彼はメカに強いらしい。マチルダは興味を惹かれた。
「では、ザクの一機や二機は簡単に撃墜できて?」
途端にジョブ・ジョン曹長の顔が曇る。
「それは難しいかと。ザクの装甲は艦載機の小型ミサイルの直撃に耐えます。それに小型戦闘機で、ミサイルの搭載数も限られます。」
「武装の乏しい強襲揚陸艦に、ミサイルの搭載弾数の少ない2機の戦闘機ね。それでも、頼もしい戦力だわ。」
「本艦は訓練標的艦でありましたから。」
「詳しいのね?」
「自分達は、元々パオロ艦長の部下として本艦に乗り組んでおりました。」
操舵しながらブライトが応じる。聞けば、彼は元々〈ペイルホース〉の
「あら、では私よりこの艦では先輩ね。でもなぜ艦を降ろされたの?」
「真意は分かりません。『交代要員が来たから、お前達は艦を降りろ』とだけ説明されておりました。」
それはマチルダから巻き上げた
「皆が結果として生き残った。これを運命と思いましょう。」
ジオンが曳航するペガサス級は、ブリッジを破壊されていたとサイド7から報告が寄せられている。パオロ艦長以下の死亡は確定的だった。ブライトがそれに巻き込まれなかったのは、幸運と言える。
「見えました。港です。」
「サイド7側と連絡はついています。レーザー誘導に従って入港して平気よ。」
ジオンは去った筈である。海兵隊を載せていないこの艦では、ジオンの海兵隊が待ち構えていれば強奪されかねない。だが、それはないとルナツーの司令部は判断していた。通信回復した際、担当者が既知の者だからだ。アナログだが、顔見知りが対応するだけでも信頼度は変わるものなのだ。
「話はついている。港湾部をそのまま通過していいわ。誘導に従って、推進軸を進みそのままV作戦の試験場跡地を目指しなさい。」
「了解。」
ペガサスは港を通過して、更に奥へと進む。コロニーの推進軸に沿って配置された港は、そのまま複数のハッチを潜り抜けるとコロニー内部へと進行が可能だ。今回はV作戦の遺物を可能な限り回収する為に、彼らはコロニー内部に侵入する必要がある。それに、そのような役目の為にこの強襲揚陸艦は設計されている。
「3、2、1。着底。アンカー固定します。」
ブライトは危なげない様子でペガサスをドッグ内に移動させると、指定された通りの場所で着底させた。
「合格よ、少尉。良い腕だわ。これなら任せておける。」
「恐縮です。」
マチルダは高評価を与えた。少なくとも、マチルダ自身が操舵手を務めるよりマシである。マチルダは説明したほど操舵の腕前が悪いわけではないが、操舵しながら指揮を取るのは不可能なのだ。操舵手は絶対に必要なのである。
「軍を辞めても、シャトルの操縦で食べていけるわね。」
それは安堵したが故の、マチルダの気易い軽口である。
「自分もそう考えています。軍を退役した後は、喫茶店を開くかシャトルの運行を担当するかで悩んでるくらいで。」
同じ気易い口調でブライトも応じた。マチルダは
「では、被害の状況を見てくるわ。パイロット、付いてきなさい。少尉、貴方はここで連絡を待って。」
「了解致しました。」
試験場跡地は閑散としていた。ほぼ全ての物がジオンに運び出されていたからだ。開発担当のテム・レイ技術大尉の姿もない。ジオン本国へと連行されたのだろう。
「艦長代理、稼働するガンタンクを発見しました!」
唯一の朗報はそれである。
「見せて頂戴。」
リュウとジョブにマチルダが案内された先にあったものは、モビルスーツではなくモビルタンクというべき物体である。武装はなく、両肩にはクレーンが取り付けられている。
「武装はないのね。」
失望したようなマチルダの問いかけに、メカに詳しいジョブが応じる。
「肩の部分で砲に換装される形です。」
「で、砲はどこにあるのかしら?」
「ここにはありません。」
要は兵器として認識されていない。そうであるが故に鹵獲されなかっただけである。
「まあいいわ。機材は運搬できるでしょう。」
手早く打ち合わせを行う。彼らにはガンタンクで強襲揚陸艦に詰めるだけ詰め込めさせる。ジオンは厳選して持ち去ったようだが、運べる物は限られる。嵩張る機材は打ち捨てられたままだ。利用できるものは、持ち帰るべきだろう。
「ジョブ・ジョン曹長、回収品の選定を一任します。リュウ・ホセイ曹長、ガンタンクの操作を担当しなさい。」
指示を与えると、二人のパイロット候補生は動き出した。そこに軍用通信機宛でブライトからの通信が入る。
『艦長代理、聞こえますか?』
「ええ。聞こえるわ、少尉。」
『サイド7の代表がこちらに来ています。』
「軍の担当ね?」
『それが、難民の集団です。』
「…すぐに戻るわ。待たせておいて。」
マチルダはリュウとジョブを引き連れて、徴発したエレカで艦へと蜻蛉返りした。接近すると、ペガサスに人の群れが押し寄せている。
「…何事?」
訝しむマチルダの横を、リュウが駆け抜ける。
「避難民でしょう。連邦の軍艦が入港したと知って」
「…逃げ出したいのね。」
「こら、艦長のお戻りだ。道を開けろ。」
体格の良いリュウの声は、他を圧倒した。避難民も、別にそこまで無秩序というわけではない。リュウが旧約聖書のモーセのように人波を二つに分ける。マチルダとジョブは彼の後に続いた。
ハッチの前に立ち塞がっていたブライトがホッとした様子を見せる。彼の背後にいるのはコックだろうか?、とマチルダは訝しんだ。このペガサス級は本当に最小限の人員で動いているのだ。難民が入らない為に
「艦長代理、彼らが艦に乗せて欲しいと。」
小声でブライトがマチルダに囁く。彼の手が、腰の拳銃に伸ばされているのをマチルダは見逃さなかった。手でそっと押し留めて、目で合図する。
拳銃は副長に任命した際に持たせたものだ。ジオンが潜んでいる可能性もあった。だがこの局面では必要ない。むしろ有害だ。この大勢の難民が暴徒と化せば、事態の収拾は極めて難しくなる。
「俺たちも乗せてくれ!」
代表者なのかは定かでないが、近くの男が要求を突きつける。
「ダメよ。この艦には貴方達全員は乗せられません。」
マチルダはキッパリと答えた。それが事実だからだ。今目の前には、一千人近い人がいる。このコロニーは発展途上だが、ジオンの襲撃を受けてなお大勢が生き残ったらしい。それだけジオンも手際が良かったのだ。
「じゃあ、何人なら乗せられる?」
「民間人は乗せられません。この艦は敵の包囲を潜り抜けてジャブローへ向かいます。ジャブローは民間人を受け入れてはいないわ。」
場が静まった。彼らはただ逃げたいそれだけなのだ。戦場に或いは地球連邦の基地に行くなどとは考えていなかったのだろう。
「それなら部品を分けて貰えませんか。コロニーの設備を修理したいんです。」
その沈黙を縫うように少年の声が響いた。
「貴方は?」
マチルダの問いかけは名前を尋ねたのではなかったのだが、少年は名乗った。
「アムロ・レイです。父は、技術大尉のテム・レイと言います。」
「君はテム・レイ博士のご子息か。」
ブライトの問いかけに、少年は頷いた。
「それでレイ博士はどちらに?無事なのか?」
「父さんの居場所は分かりません、ジオンに連れて行かれましたから。」
息子が難民キャンプにいるのだ、それくらい分かるのだろうという口ぶりである。
「コロニーの環境管理は連邦の技術者が担当してたんです。みんな連れて行かれて。彼が今じゃ一番詳しいんですよ。」
コロニー公社の制服を着た男が答えた。本職が言うのなら間違いないだろう。技術畑ではなく、管理職なのかもしれなかったが。
「必要な部品は渡せるかもしれません。アムロ君、何が必要か説明出来て? ジョブ・ジョン曹長、彼に必要なものを渡して。コロニーの生活に必要な品は、渡して構わないわ。」
マチルダに技術の詳細が分からないのは幸いだった。自分なら躊躇しそうだ。だが、コロニーで使われるのは民生品主体の筈である。軍の極秘技術流出とはならないだろう。
「了解しました。アムロ君、こちらへ。」
ジョブがアムロを連れていく。その対応に難民の雰囲気が和らぐ、どんな形であれ譲歩が示され支援されると受け止められたからだろう。
「あの、私は志願します。乗せてもらえませんか。」
黒髪の少女が進み出た。横に金髪の少女を連れている。
「貴方は?」
「ミライ・ヤシマと言います。」
黒髪の少女が答える。マチルダは即座に彼女の正体を悟った。サイド7にはヤシマ財閥が関係している。彼女はそこの関係者と見て、間違いない。
「志願て。貴方、意味が分っているの?」
思わず詰問するような口調になったのは、少女を押し留めたかったからかもしれない。
「父が、ジオンに殺されたんです。」
ミライの目に涙はない。だが、その一言に志願の理由が込められていた。
「艦長、士官見習生として採用されては。」
ブライトが囁く。士官見習生は、軍の権限で徴兵を解除出来る。裏技の裏技として、軍艦に民間人を選別して乗せる名目とする場合もあるのだ。もし本当にヤシマ財閥のご令嬢なら、そのような措置を取る必要はある。それに軍に採用した形にすれば、民間人も不満は言うまい。
「貴方、戦えると証明できる特技は?」
「スペースグライダーの操縦経験があります。これがライセンスです。」
少女の差し出すライセンスに、マチルダは素早く目を通した。名前も操縦経験も自己申告通りである。ブライトと視線を交差させる。彼も頷いた。ライセンス持ちは即戦力である。
「では、士官見習生として採用します。艦に乗ってください。」
「ありがとうございます。」
ミライは敬礼の真似事をして見せた。既に軍人のような気迫が込められている。
「それで、貴方も志願を?同行者は残念ながら受け入れられないわよ。」
マチルダはミライにライセンスを返しながら、もう一人の金髪の少女に目を向けた。
「私は、こんな服装ですがパイロット候補生のセイラ・マスです。」
「え?」
少女が身分証を差し出す。
ブライトが目を通し、マチルダに渡した。
「本物です。ただし発行はサイド7ですね」
「ここで数日前に志願したんです。技能試験もパスしました。今度ジャブローへ向かう艦に、同行する予定でした。」
「そう、それなら歓迎するわ。」
マチルダは身分証をセイラに返しながら乗船を許可した。パイロット候補生とスペースグライダーのライセンス持ちだ。出番があるかは分からないが、人手は幾らでも欲しい。
「他にはいないわね。志願する者がいなければ、ここで打ち切ります。」
マチルダとしては、それは志願者を募る意図ではなかった。難民の解散を促す為に発した言葉に過ぎない。しかし、応じる声があった。
「志願するぜ!」
調子のいい、若い男の声である。
「ちょっと、カイさん。」
相棒らしき少年が嗜めている。しかし、志願した少年は意に介さない。
「なぁ、ハヤト。ここにいたって面白い事なんかないんだ。大体、コロニーの環境が安定するか分からない。それなら軍に入ってジオンと戦おうじゃねえか。」
口では勇ましい事を言っている。しかし本気だろうか。
(ここから逃げ出したいのが半分、あとは女の子達にいいところを見せようとしているのが半分かな。)
ミライもセイラも良家の子女という風貌で、美貌と育ちの良さが同居している。彼女達の前でカッコつける少年がいても不思議ではない。むしろ、よくある光景である。
「本気なら歓迎するわ。志願という事でいいのかしら?」
マチルダは尋ねた。正直、人手は欲しい。誰が使い物になるかも分からない。
「俺はカイ・シデン、こっちの相棒がハヤト・コバヤシ。2人とも貨物の搬入のバイトで重機が扱えるぜ。コロニーじゃ、学校で教えられるからな。」
悪くない人材だった。こちらが甘言で誘えば騙すような気がするが、向こうから飛び込んでくるのなら逃す気はない。
「一度軍人になれば、簡単にはやめられないわよ。本当にそれでいいのね?」
復讐を志すミライと異なり、この少年達は少し軽薄に見える。だからマチルダは翻意しないかを確認した。これはこの場で翻意させるよりも、予防的な質問だ。近い将来、あの時選択したのは自分自身だったと彼らに突きつける為の質問である。
大人である自分のそんな腹暗い思惑など知らず、カイは得意げに笑って見せた。
「ああ、そうだ。俺達は悪のジオン星人をぶっ倒しにいくんだからさ」
マチルダは黙ってハヤトに視線を向けた。彼はあまり乗り気に見えない。その視線は、セイラともミライとも違う別の1人の少女の上に注がれている。しかし少女は、ハヤトの事を見ていなかった。ハヤトは少しだけ逡巡するような顔を見せていたが、すぐに決意した。
「…志願します。」
きっとあの少女を振り向かせたかったのだ。でもそれは空振りだったらしい。だってあの少女は、ずっとジョブ・ジョンと話し込むアムロ・レイの姿を追っている。ハヤトの事は、眼中にないのだろう。
(…若いのね。)
マチルダは心中密かに述懐し、少年少女達の放つホルモンに打ちのめされる。そしてハヤトが「返答は如何に」と自分を見つめているのに気がついた。マチルダは一瞬だけ空を仰いだ。自分は青少年を拐かす罪深い軍人だ。でも、もう後戻りは出来ない。
「2人とも歓迎するわ。二時間後に出ます。全員、それまでに準備なさい。」
遅れたら置いていくわ、とは言わなかった。それは当たり前の事だからだ。もしも気が変わったのなら、マチルダとしてはそれで良かった。
「では、皆さん解散してください。」
ブライトが指示する。リュウ・ホセイがその横で胸を張る。仕方ないという雰囲気で、避難を希望する民間人は1人また1人とペガサス級〈ペイルホース〉から離れていった。
【あとがき】
お読み頂きありがとうございます。今回は導入部です。GQuuuuuuXのシャアが襲撃した後のサイド7をイメージしています。
ペガサス級は500人程度が最大乗員であり、少なくとも一千人は詰めかけた避難民は収容できません。GQuuuuuuXでのシャアの陣頭指揮よる不要な被害の抑制が、この違いを生んでいます。
アムロはこのまま必要とされる難民キャンプに留まり、フラウも残ります。アムロがガンダムに乗らないこの時間軸においては、フラウとハヤトが結婚する未来は生じません。
ミライは志願する形としています。これは復讐心が理由ですが、マチルダは意識していない事ですが女性のマチルダが艦長をやっている事にミライが触発されての行為でもあります。
オリジナルのミライはガンダムを上手く扱えるアムロを見て、アムロとは違う方面に役割を見出した解釈でいます。ただGQuuuuuuXではセイラがエースとして活躍する為、彼女と切磋琢磨する間柄で同性の軍人が必要と考えました。ミライはこのままセイラとMAV を組むパイロットとしての道を歩む予定です。