【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第02話 ミライ出撃

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

志願兵となったパイロット候補生達を収容しても、避難民はなかなか帰ろうとしなかった。秘策を披露したのはタムラ料理長である。

 

「艦長、私が行きます。許可をください。」

 

そう請われたマチルダは、コック長が発狂したのかと思ったがそうではなかった。難民に艦の食料を与えるという。その許可を求めてきたのだ。

 

「それは構わないが、焼け石に水ではないのか?」

 

難民の総数は未だ不明だが、人口の総数はオペレーターに調べさせていた。9割が生存していたらそれでも三千人近い。艦の収容可能人数の6倍である。

 

「コロニーは自活出来ます。ほんの数日もたせれば良いのです。」

 

五百人分の食料の二週間分、備蓄のほとんどだがそれで解決するという話だった。

 

「それでは良くて2日分くらいにしかならないが。」

 

「それでいいんですよ。」

 

タムラ料理長は気安く請け負った。

 

「今は少しパニックになっているだけです。コロニーは一千万人は収容できます。これまで自活出来たのだから、落ち着けば立て直せるんです。」

 

「ふうん、そんなものか。試す分には構わないが。」

 

弾薬類と異なり、食料には余裕がある。ジャブローに戻れば廃棄されるかもしれない。重量物を積み込んだのだ。軽くなる分には問題ない。

 

「艦の食糧が足りなくなる危険は?」

 

「今の乗組員(クルー)の数をお考えください。」

 

「そうか、愚問だったな。」

 

候補生は4人ほど増えたとはいえ、サイド7にはコロニーの維持に必要最低限な人員しか正規軍人が残されていなかった。それでも技術者が不足している。マチルダとしてはテム・レイ博士の息子のアムロも連れて行きたったかが、「彼がいないとコロニーが立ち行きません、勘弁してください」とコロニー側に泣きつかれた。

 

確かにコロニーで生命維持に必要なインフラの維持管理可能な水準の技術者が1人もいなくなる事は緩慢な死を意味する。軍の強権を発動できるにしても、それは限度を超えている。

 

「許可する。出航までに戻ってくれよ。遅くなればなるほど、こちらが不利になる。」

 

「ハイっ」

 

マゼランとて、いつまでもいてくれる訳ではない。マチルダも軍人ではあるが、今の戦力でジオンのムサイが来れば勝ち目がないと承知していた。そもそも、戦力の中核たるMSがないのだ。

 

 

 

 

タムラ料理長には手伝いを送ると約束して、マチルダは艦橋からカーゴベイへと移動した。パイロット候補生達を探しに出たのだ。彼らはマチルダの想像通りの場所にいた。セイラの声が聞こえる。

 

「この機体、すごいんですね。こんな事も出来て。私が使ったモデルよりかなり進化してます。」

 

「コアファイターは、教育型コンピュータを採用しています。だから、単体で仮想シミュレータとして機能するし高性能なんですよ。」

 

ジョブ・ジョンは女性陣に向けて嬉しそうにコアファイターのシミュレータ機能について説明を加えている。パイロット候補生達は、出航予定時刻よりかなり早く乗船したらしい。

 

「教育型コンピュータ?」

 

興味を惹かれて思わずそう尋ねながら、マチルダはそちらに近づいていった。

 

「はい、艦長代理。一種のAIであります。」

 

敬礼しながらジョブ・ジョンが答える。他の者もバラバラに見様見真似で敬礼らしきものを行う。素早く答礼して、マチルダは状況を確認した。この場にいるのはリュウ・ホセイ以外のパイロット候補生達だ。彼女が命じたパイロット訓練に取り組んで参るのだろう。

 

「今はどうなっているの?」

 

「はい。コアファイターの一機をシミュレータモードにしています。今は一巡して、全員の結果を出せました。」

 

マチルダはジョブ・ジョンの手にした端末を覗き込んだ。カイとハヤトは低い。百点満点中の六十点代だ。八十点が合格ラインなのでまだまだとも言える。

 

「君達は、今後の伸び代に期待ね。」

 

カイとハヤトにそう言葉をかけて笑いかける。すると、2人は嬉しそうなそれでいて気弱な笑みを見せた。彼らは数合わせに呼んだだけで、あまり期待していない。自然に少年組への反応も甘くなる。

 

少女二人組の成績は良かった。ミライが八十八点、セイラは八十二点である。共に合格ラインだ。特にミライが高い。

 

「凄いわね、彼女達。これ、同じテストでいいのよね?」

 

マチルダが実態を知りたいとジョブにそう声をかけた。詳しい彼ならば、少女達だけ難易度を下げる事もやりかねない。

 

「はい。テスト内容は全員同じです。セイラさんは士官候補生採用の際に九十点を出しています。今回は、色々試してこの点数…」

 

「2人とも、申し分ないわ。」

 

ジョブ・ジョンの言葉を背中で聞き流しながら、マチルダは満面の笑みで少女二人に向き直った。彼女達、思わぬ拾い物かもしれない。

 

シミュレータの成績は初回が実力に最も近いとされる。訓練で上達もするが、ポテンシャルを測るには初回の成績が最善である。セイラもミライもかなり有望である。

 

「この調子で続けなさい。あ、君達はこちらね。タムラ料理長が人手を必要としているから。」

 

カイとハヤトに声をかける。マチルダには意外だったが、少年二人は嬉しそうについてきた。女の子に負けるシミュレータから逃げ出せるなら、気晴らしを歓迎する気分だったのかもしれなかった。

 

 

 

 

タムラ料理長は完璧な仕事を見せた。避難を希望する民衆は保存食を手に姿を消し、ホワイトベースの出航を見送る為に残ったのは僅かに数人だけである。

 

その中にマチルダは赤毛の少年の姿を認めた。好みで言えば、マチルダには彼が一番好ましい。

 

「アムロ君は、連れていけなかったわね。」

 

思わず本音が出た。ブライトが応じる。

 

「テム・レイ博士の関係者ですからね。置いていくには忍びないですが、流石にコロニーの生命維持装置に必要な人員は連れ出せません。」

 

「そうね、その通りだわ。」

 

マチルダは気を切り替えた。ある意味では、ここからが正念場である。

 

「出航します。オスカー、マーカー。外部スピーカーで周囲に知らせて。」

 

「「了解」」

 

出航を知らせるサイレンが鳴り響く。ハッチは全て閉じていることをブライトとマチルダでダブルチェックする。気密は完全に保たれていた。

 

「出航!」

 

ブライトがホワイトベースを離床させる。ミノフスキークラフトの効果で、ペガサス級はふわりと空を飛ぶ。そのまま静かに、コロニーの港湾部へと向かった。

 

そろりそろり、と〈ペイルホース〉は鼻先を宇宙に覗かせる。敵艦の姿は近傍にない。いるのは味方のマゼランのみだ。ひたすらに警戒を続けてくれていた。

 

『〈ペイルホース〉、こちらワッケイン。支障はないかな?』

 

通信を要求してきたのは、驚くことにワッケイン司令その人である。マゼランに乗っているらしい。

 

「はい、全て順調です。破壊されたガンキャノンから、戦闘データの回収にも成功しました。」

 

ガンキャノンはコクピットを貫かれている。恐らくは一撃。しかし頭部が無事だった。そしてジョブ・ジョンの説明によると、頭部こそがデータ収集の集約部位なのだ。AIの隠蔽や欺瞞を避ける意図で、隔離した生データを保護する必要がある。それで、そのような独立保持の仕組みが採用されたらしい。

 

「V作戦のMSは頭部に生データを保管しています。ガンキャノン頭部からデータを回収し、こちらのコアファイター内に保管しました。」

 

そのコアファイターはシミュレータとして使用している。出撃で貴重なデータを喪失させるわけにはいかないので、当然の措置とマチルダは割り切っていた。

 

『そうか。こちらもゼロヒトガンダムの頭部を回収済みだ。ランチで、そちらへ移動させよう。』

 

「はっ」

 

『ガンダムの戦闘データだ、貴重だろう。必ずジャブローへ持ち帰ってくれ。』

 

「了解致しました。」

 

 

 

 

—ムサイ級巡洋艦〈ファルメル〉—

 

「ドレン艦長代理、動きがありました。」

 

「おう、すぐに行く。」

 

ドレンは仮眠していた自室を飛び出して、艦橋へと向かった。ごく短時間の睡眠だが、頭は冴え渡っている。

 

「2隻目の木馬はどうなった?」

 

「は、マゼランと別れて加速しました。」

 

ドレンは部下の声に、艦橋の大スクリーンを注視した。鹵獲したペガサスとガンダムを僚艦に委ねて、彼らは再びサイド7空域に舞い戻っていた。

 

ガデム艦長はペガサスの輸送を快く引き受けてくれた。『赤い彗星の大手柄だ、ワシも花を添えさせてもらうとしよう』と。その上で、動作不良品のジーンのザクの交換までしてくれている。

 

「ガデム爺さんのおかげで、ザクの稼働状況も改善した筈だ。おい、いけるな?」

 

「はっ、3機とも稼働状態にあります。」

 

控えている当直士官が素早く回答する。こちらはデニム、ジーン、スレンダーと3機のザクが出せる。その上、あの型の艦の性能は入手済みだ。負ける要素がない。

 

「進路は?」

 

「地球へ降りるので、間違いないようです。」

 

迂闊な敵だ、とドレンは断じた。本来はもっとギリギリまで、どちらに進むか読ませない航路を取るべきなのだ。もう敵はいないと安堵して、真っ直ぐ帰る道を選んでしまった訳だ。彼らの上官は赤い彗星ではない。だから『帰り道こそ背中に気をつけないと危ない』と、教えてくれる者がいなかったのだろう。

 

「マザランが邪魔だが、奴らはこのままルナツーへ帰るだろう。加速したら簡単には引き返せん。」

 

ドレンは考え込む。今の連邦にはMSなどない。赤い彗星が強奪したあの機体こそ、現存する唯一の稼働機体だと連邦の開発スタッフから裏は取れていた。他のガンキャノンはコロニー内で、ゼロヒトガンダムは近傍空域で撃破済みである。

 

「…これは好機か? そういえば少佐が、この状況での追撃戦の考えを前に披露されていたな。」

 

ドレンは上官から、ある作戦を示唆されていた。それは無論ムサイの副長として当意即妙に対処させる為だ。だが、艦長代理として試す手はある。戦術など模倣されて当然、披露される為に存在している。

 

「少佐も、模倣するなとは言われんだろう。むしろ首尾をお聞きになるはずだ。おい、やるぞ。追撃戦だ。」

 

MSがいないと分かりきっている敵の艦を、上官直伝の戦術で倒す好機。つまりドレン大尉の前には、上司であるシャア・アズナブル少佐のおかげで成功がほぼほぼ保証された道が示されているのだ。

 

 

 

 

「このタイミングで攻撃、でありますか?」

 

デニム曹長は嫌な顔をした。

 

『元は少佐の作戦だ。危なくなったらコムサイを出す。そのまま降下しても構わん。』

 

「コムサイには、2機しか搭載出来ませんが。」

 

『なら、突っ込ませるのは2機までにしておけばいいだろうが』

 

頭を使え、と言いたげなドレン艦長代理のお言葉である。デニムの視点からすると、ドレンは今回の成功にすっかりのぼせている。赤い彗星は赤い彗星だから赤い彗星なのだ。簡単に真似できる筈がないのである。自分が真似しようとするだけならいい、だが部下に赤い彗星の真似をする上司にはついていけない。少佐はまだ、自分が体を張って部下のフォローも欠かさないお人だったのだが。

 

『やれますよ、曹長。手柄を立てるチャンスです。』

 

部下のジーンは強気だった。彼は手柄をあげ損なってむくれていた。ここに来てチャンスが巡ってきたことに興奮を隠せていない。横暴な上官に野心的な部下、中間管理職は常に大変である。

 

「これも命令だ。行くぞ。ジーン、スレンダー。」

 

デニムは務めて冷静に指示を下す。好機なのは確かだ。軍人としての本能は、確かに大物を前に疼いていた。

 

 

 

 

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

「敵です。直上にムサイ級、ザクを3機出撃させました!」

 

悲鳴のようなオペレーターの声、あればオスカーとマーカーのどちらだろうか。他人だが、彼らは双子のように似ているように見える。付き合いの浅いマチルダは、まだ二人の区別がはっきりしない。

 

「オペレーター、報告が遅いぞ。何をしていた。」

 

「ミノフスキー粒子が濃いからです。それにマゼランからは何も。」

 

「ミノフスキー粒子が濃い場所には敵がいると思え、常識だろうっ」

 

副長として部下を怒鳴りつける声を聞きながら、マチルダは思考を巡らせた。コアファイターを出すしかない。時間を稼がせて、艦は守る。上手くコアファイターが囮役を務められれば、逃げ延びる可能性はある。

 

「パイロットを呼び出して、コアファイターを使うわ。射出に備えて回頭の準備を。」

 

「艦長代理、正気ですか?」

 

「生きるか死ぬかよ、選択の余地はない。」

 

ザクは脅威だ。地球への降下中なので斬り込みはしないだろうが、バズーカを打ち込んでくるだろう。よりにもよってこちらは大気圏に突入しようとしている。バズーカで装甲が破られれば、大気との摩擦熱が艦内に及びかねない。ここは無傷で切り抜ける必要があるのだ。使えるものは使うしかない。

 

『パイロット、出撃の用意を。出せるコアファイターは、データを格納していない一機のみよ』

 

務めて冷静に指示を下す。これは『死ね』というに等しい命令だ。マチルダは反発を予期した。パイロット候補生達は、誰も彼もがヒヨッコでしかない。

 

『マチルダさん、私が志願します』

 

画面にその姿を現したのはミライだった。彼女の目は透き通っているが、どこか怒りに燃えている。

 

「ミライさん、危険な任務だ。俺が行く。』

 

そう言うリュウ・ホセイを、ミライは言葉で押し留めた。

 

『私はスペース・グライダーで大気圏に突入した経験があります。シミュレータの成績も、私が一番でした。』

 

ミライには自信があるらしい、そうマチルダは見た。それに彼女には強烈な動機がある。それは父親の復讐である。最後に勝敗を決めるのは、覚悟だ。マチルダとしては志願するミライに賭けるにやぶさかではない。

 

「本当に、貴方にそれが出来て?」

 

「はい。それにこれは戦闘じゃありません。相手を翻弄させて、地球へ降りるのに付き合わせてやればいいんです。向こうも、地球の重力に戸惑う筈です。」

 

意外と冷静なんだな、とマチルダは感じ取る。そうであるのなら、もう止まる気はない。

 

「分かったわ。ミライ士官見習生に託します。時間がないわ、早く支度して。」

 

『艦長代理、どうか再考を!』

 

画面ではリュウ・ホセイ曹長が吠えている。しかしマチルダは通信を打ち切った。

 

「本当に、宜しいのですか?」

 

ブライトが声をかけてくる。意外な反応だった。

 

「え?ああ、ヤシマ家のお嬢さんを、という話ね。どの道、このままでは危ういの。賭けに出るしかないのよ。」

 

ブライトにはそう返答しながら、マチルダは訝しんだ。彼はもっと軍人らしく、割り切りを見せるかとそう思っていたのだがと。

 

 

 

 

 

ザクの姿はすぐに視認できた。三機。漆黒の宇宙を背景に、緑色の機体がゆっくりと間合いを詰めてくる。

 

「ミライ、出るぞ!」

 

ハンガーデッキ内でリュウの声が飛ぶ。彼の手でコアファイターのキャノピーが閉じられ、機体がカタパルトへと固定された表示が点灯する。

 

「ミライ・ヤシマ、行きます。」

 

『了解、カタパルト発進。』

 

機体が射出された。瞬間、ミライの視界に宇宙が開けた。コアファイターは小さく、そして速い。しかしわざわざ回頭してカタパルト射出してくれたのだ。ザクまでは一瞬である。すぐにザクの一機がこちらへ向けてバズーカを構えた。だが遅い。ミライはスロットルを踏み込んだ。機体は横へと滑るように移動する。バズーカ弾が通過した。

 

「当たらない…!」

 

苛立った声が通信に乗る。全てのザクが彼女の機体を狙ってバズーカを射出する。〈ペイルホース〉を狙うには、まだほんの少しだけ距離が遠いのだ。連邦のカタパルトデッキの優位性である。ジオンも同じものを使用していたら、既に〈ペイルホース〉はザクの攻撃で被弾していただろう。ミライは旋回しながらさらに距離を詰める。ザクの巨体は大きすぎる。狙う必要さえないほどだった。だが撃たない。バルカンでは有効打にならないのだ。だから回避に専念する。それにザクは、自分より高速な相手は苦手にしている。そしてコアファイターは、これまで戦場に登場したどの連邦の戦闘機よりも俊敏だ。

 

「さあ、追いかけてきなさい…」

 

コアファイターはわざと進路を外した。デニムとジーンのザク二機がそれを追う。

 

「曹長、弾が!」

 

「撃ちすぎだ、スレンダー!」

 

デニムの怒声が響く。バズーカの弾が次々と空間を裂く。しかしコアファイターはその間を縫うように回避していた。

 

「くそっ、小虫め!」

 

ジーンはさらに追う。その背後でスレンダーが声を上げた。

 

「曹長、時間です!コムサイに戻ります!」

 

デニムは舌打ちした。

 

「……仕方ない。ジーン、引き上げるぞ。」

 

「まだ木馬を落とせます!」

 

「時間だ、限界だぞもう!」

 

二機のザクが後退を始めた。コムサイに退避し、戦域を離脱するのだ。だがジーンは止まらない。

 

「俺がやる!」

 

ジーンのザクはそのまま〈ペイルホース〉へ向かって突進した。それは帰還限界点を超えかねない危険な動きだ。しかし〈ペイルホース〉に届き、ギリギリでコムサイに戻れる可能性を秘めていた。

 

「まずいわ…!」

 

艦橋でマチルダが叫ぶ。ザクのバズーカが再び構えられる。その瞬間。コアファイターが急旋回して割り込んだ。

 

「させない!」

 

それはザクの真正面だった。撃てば自機も爆発に巻き込まれる距離だ。

 

「ふざけるなっ」

 

ジーンのザクが拳を振りかぶる。格闘距離だった。だがコアファイターはひらりと身を翻す。その瞬間、艦体が動いた。〈ペイルホース〉が急加速し、ザクへ向けて突進したのだ。巨大な艦首がザクを弾き飛ばす。

 

ジーンのザクが制御を失い、あさっての方向へ吹っ飛ばされた。そして地球の重力へ捕まる。加速したザクは、絶対に助からない角度とスピードで地球へと突っ込んでいく。

 

「うわあっ!」

 

大気圏の炎がザクの機体を包む。

 

「燃える…!暑い…!」

 

乱れる通信の奥底から、幽鬼のようなジーンの声が響いた。

 

「助けてください、曹長!」

 

炎の中でジーンのザクはもがいている。コムサイと合流したデニムとスレンダーはその声を聞いて、涙した。

 

「ジーンの奴…」

 

「曹長、助けに!」

 

「無理だ。もう手遅れだ。」

 

しかしデニムが止めるのも聞かず、スレンダーは機体を反転させる。その時だった。スレンダーの背後から小さな影が迫る。ミライのコアファイターだった。

 

「来ているぞ!」

 

デニムが叫ぶ。デニムのザクがコムサイのハッチへ飛び込む。体勢を変えたスレンダーのザクは直ぐには続けない。

 

「そこよっ!」

 

放たれたコアファイターのミサイルが、2発ともザクの脚部に直撃する。プロペラントタンクが破損し、推進剤が漏れ出る。ザクの推力が落ちただけでない。おかしな方向へ揺らぎ、地球の重力に囚われコムサイより離れる。

 

「パイロットスーツで脱出しろ!バーニアを使え。お前だけでも収容してやる!」

 

だが。

 

「させないわ。」

 

ミライの声が響く。これまで温存していたバルカン砲が火を噴いた。ザクを追い越してその背後の、ハッチを解放したままのコムサイの内部に火花が走る。

 

次の瞬間。遠くで、炎が弾けた。ジーンのザクが完全に爆散したのだ。デニムは息を呑む。

 

「……ジーン。」

 

損傷したコムサイはパイロットスーツで逃げ出したスレンダーを収容し、ふらふらと進路を変えた。逃げるしかない。だがコムサイはすでに深く傷ついていた。

 

(恐らくあれでは大気圏突入は保たないわ)

 

ミライは手応えからそう判断した。彼女は復讐を果たしたのだ。一気に緊張が解ける。

 

『ミライさん、もう時間がない!』

 

リュウの声が通信に割り込む。

 

『前部カタパルトデッキだ!回頭したままだ、後ろから入れ!』

 

「了解!」

 

コアファイターは〈ペイルホース〉の艦首側へ滑り込む。大気圏突入に備えて、〈ペイルホース〉は回頭姿勢のままだ。推進装置は地球側を向いている。今はカタパルトデッキのハッチが開いていた。

 

「早く!」

 

リュウが叫ぶ。機体が滑り込んだ瞬間、ハッチが閉じた。直後、激しい振動が艦を揺らした。

 

「大気圏突入だ!」

 

艦内で警報が鳴る。

 

「コアファイターを固定しろ!」

 

リュウがガンタンクのクレーンを操作する。ワイヤーが伸び、ジョブ・ジョンとリュウ・ホセイが素早い動きで機体を固定した。艦は激しく震えていた。まるで涙を流すかのように。その時、遠くで鈍い衝撃が響いた。コムサイが爆散した音だった。コクピットから飛び出したミライはその場に座り込む。勝利を実感し、緊張が一気にほどけたのだ。

 

「……あ……」

 

ただの少女に戻った彼女は思わず悲鳴をあげた。

 

「ミライ!」

 

パイロットスーツ姿のセイラが駆け寄る。二人は床の上で抱き合った。重力が戻りつつあるのだ。振動する艦内で、転がりそうな身体を懸命に抑える。そして振動は次第に弱まり、やがて燃えていた窓の外に青が広がった。

 

「綺麗……」

 

床から窓を見上げてミライが呟く。

 

「地球へ戻ってきたのね。」

 

セイラが答える。二人は手を取り合ってお互いを支えながら、ゆっくり立ち上がった。ペガサス級〈ペイルホース〉は、ジオンの追撃を逃れた。そして今、彼らの眼下には青く美しい地球が広がっていた。




【あとがき】

お読み頂きありがとうございます。今回は地球降下でした。GQuuuuuuXのソロモン落下阻止では、ドレンの姿はあれどデニム、ジーン、スレンダーは不在でした。本編での生死は不明ですが、ここでは死亡したものとして扱っています。

前回カイやハヤトが志願したり、今回マチルダに褒められて嬉しそうで後を素直についていくのはマチルダに憧れの気持ちを持っているからです。ファーストでもカイはマチルダに惚れて写真撮影を頼んでいましたので、この辺は原作遵守と考えています。ミライも影響を受けており、「マチルダが頑張っているなら自分もやれる」という感覚でしょう。

シャアの妨害はない為、次回はジャブローへの帰還からとなります。
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