【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第03話 地上の楽園

—南米ジャブロー

 

ジャブローは連邦軍の巨大地下施設である。ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉は、無事に帰還を果たした。V作戦の成果としては余りにも細やかな、しかし今となっては貴重なMSの交戦データと共に。

 

「諸君らに3日間の休養を与える。」

 

担当士官はそう宣言した。これは事実上の軟禁である。申告に基づき、失敗したV作戦についての審判が下る。その審議の時間を、休養と称しているだけである。

 

しかし、若者達は喜んだ。命を狙われる緊張感から解き放たれて、連邦軍の中枢で安全にいられる。彼らの大半はV作戦とはほぼ関係なく、責任を問われる事も処罰の対象となる事もない。マチルダとて本来は同じ立場なのだが、責任者とされてしまった以上は拭いきれない不安もあった。

 

「よくやってくれた。」

 

満面の笑顔を見せたのは、意外にも派閥の領袖であるレビル将軍ではなかった。主流派のゴップ提督である。提督と呼ばれながらも、彼は宇宙艦隊の提督ではなく海軍の提督という変わり種である。いやこの時代にも海軍はあるのだが、その役割は連邦軍内部においては物流の根幹と見做されていた。

 

「ミライ・ヤシマをよく救ってくれたな。彼女の父親は私の古い友人でね。」

 

マチルダは青ざめた。ヤシマ家の御令嬢というのが、連邦軍の大物の知己とは考えなかったのだ。それは正確には考えようとしなかった、のだ。

 

「彼女の戦果も聞いている。見習生としての立場を解除して軍を抜けさせるか、或いは少尉に任官させる。彼女に選ばせるつもりだ。」

 

(とても太いパイプをお持ちなのね、ミライさん)

 

マチルダは別に悔しくはない。人は何かを持っていれば、別の何かを持っていないものだ。不足を嘆くより、配られた札で勝負するのは彼女の性分である。

 

「君の方は昇進はまだ先になるがね。同じ立場は確保しておいた。励みたまえ。ミライ君を、頼んだよ。」

 

一方的に話すと、ゴップ提督は慌ただしく去っていった。説明不足なのではない。時間がない中で、直に説明に来てくれただけ良心的な人なのだろう。

 

マチルダは敬礼して見送った。忠誠心を抱いたレビル将軍程ではないが、彼女はゴップ提督に淡い尊敬の念を抱いた。組織の上に立つ人は、大なり小なりカリスマの主であるのだろう。

 

 

 

 

—V作戦結果報告会—

 

「…以上、ゼロヒトガンダムの戦闘データを持ってもガンダムの再現は容易ではありません。我が軍のMS開発は、ガンキャノンとゼロヒトガンダムをベースに再度検討を…」

 

「もういい、十分だ。」

 

レビル将軍は乱暴にその報告を打ち切った。

 

「どうだね。通常兵器による勝利はあり得るのかね?」

 

レビル将軍としては、失敗したアプローチには興味がないのである。それは彼のギャンブラー気質がそうさせる。それに、思い描いた完璧を実現できないのだ。ならば代替案を探す方がマシというものである。

 

「航空戦力と火砲の改善でありましょう。それでも、MSは必要となります。」

 

予め答えを用意していたのだろう。スラスラと質問された参謀が答える。

 

「それで行こうじゃないか。後は物量で押し潰せばいい。ゴップ提督の理論の実践だな。」

 

レビル将軍がそう締め括ろうとすると、ゴップ提督が制止した。

 

「待ちたまえ。これはV作戦の総括だろう。このまま全て放り出すのか?」

 

レビル将軍は肩をすくめた。

 

「放り出すも何もない。ガンダムは奪われ、開発責任者は拉致されたのだ。終わりだよ。」

 

「待ちたまえ。新たなMSを開発できるのだろう、そのキャノンのついた。」

 

ゴップ提督の問いかけに、参謀は頷く。

 

「はい。ゼロヒトガンダムの不足部分を、ガンキャノンで補う形でしょう。」

 

「我々は得られるもので、満足するべきだ。理想を実現できなかったからといって全て投げ出すのは…」

 

「わかったわかった。MS開発の方は一任する。ザクと同程度の性能を確保できれば何も言わん。」

 

「その点に、苦慮しているのだがな。」

 

ゴップ提督と参謀は苦笑いを交わし合った。ザクはMSを実現化した傑作機だ。おいそれと代替などできない。だからこそ、ガンダムなどというコスト度外視の機体をまず作る必要があったのだ。

 

(ガンダムの量産化は、こちらで手掛けられると思っていたのだがな。)

 

ゴップ提督の得意技はこれである。高コスト機体を上手く低コスト化する。コスト低減率が性能低下の割合から乖離するほど成功だ。

 

(キャノン付、コストが嵩むだろうがやむを得ん)

 

 

 

ー宿舎ー

 

「ねえ、マチルダさんに怒られたんでしょう?」

 

つぶらな瞳が、ブライトの顔を見上げていた。いつもなら仕事を理由に逃げ出すのだが、強制休養期間となるとそうはいかない。

 

ブライトはミライに問い詰められていた。大気圏突入時の操船の件である。ミライを救う為に、ペガサス級をザクに体当たりさせた件だ。

 

「駄目よ、あんな真似をしては。」

 

ブライトは押し黙った。マチルダ艦長代理からは相当きつく咎められたのだ。人命救助という事で最後はどうにか許してもらったのだが、あの美人があんな激烈に怒るとは思わなかったというのがブライトの本音である。二度と逆らう気が起きないほど詰められた。

 

『ミライ、君が心配だったんだ』、とそう言ってしまえば楽なのかもしれない。しかしこの場には、野次馬が大勢いた。カイやハヤトはニヤニヤしているし、リュウやジョブも関心ありそうである。セイラは済ました顔をしているが、やはりこちらの反応が気になるらしい。

 

「あの時はそれが最善だと思って、気がついたら体が動いていたんだ。」

 

ブライトは、どうにか言葉を絞り出す。自分の淡い恋心には触れなかった。一目惚れだったから、艦に乗せることをマチルダに進言していたのだが。

 

「ブライト少尉、カッコいいー」

 

調子に乗ったカイが囃し立てるが、ブライトは無視した。

 

「ありがとう。お陰で助かったわ。一つ借りが出来たわね。」

 

ミライが頭を下げる。

 

(お転婆なように見えて、意外とちゃんとしているんだな。)

 

ブライトは余計なことを考えた。

 

「危険だったかもしれんが、誰も怪我をしてない。むしろブライト・ノア少尉の一機撃墜というところだったな。」

 

ガハハ、とリュウが豪快に笑う。それでどうにかいつもの空気に戻った。ミライはまだ何か言いたげだが、この御令嬢もこれ以上は衆人環視の中で口にしない事は心得ていた。

 

「それじゃあ、暇な者はシミュレータで訓練をしてくれ。休養といっても設備の利用は許可されている。腕を磨かないと、思わぬ不覚をとる事もあるのだからな。」

 

リュウが場を締める。

 

「へーい」

 

とカイが気のない返事をしてみせた。しかし、パイロット候補生は全員がミライの活躍に触発されていた。ミライは凄かった。しかしそれ以上に単なるテクニックとは異なる、独自の強さがあった。それはゲームの攻略法を見つけた気分にさせてくれる。

 

同じ環境で戦うなら、経験がある相手の方が有利だ。でも全く新しい環境に置かれたら、自分たちが相手より有利になれるかもしれない。それは簡単な事なようで、自分で気が付かないと理解し切れない点である。今訓練をつめば、勝利に近づく。コアファイターは、それだけのポテンシャルを秘めているように思えた。

 

 

 

ージャブロー野外演習場ー

 

『コアファイター各機、俺達が空戦のノウハウを伝授してやる。ついてこい。』

 

TINコッドはジャブローの防空を担当する制空戦闘機だ。訓練なので実弾は使用しないが、ロックオンによる空戦機動の確認だけでも勉強になる。

 

「負けたよ、完敗だ。」

 

コアファイターとTINコッドの空戦結果は劇的だった。コアファイターの圧勝である。ここでも、成績はミライ、セイラの順でずば抜けている。そしてまだ素人に近いカイやハヤトでさえ容易に相手の背後をとれるのだ。

 

「TINコッドはドップに対抗可能だ。もっと勝負になると思っていたんだがな。」

 

ドップはジオンの主力機である。高推力エンジンで強引に飛び、姿勢制御の多様でバランスをとる。空力学的には間違った形なのだが、今となっては格闘戦ではドップに軍配が上がる。

 

翼は航空機に安定をもたらすが、それが制約にもなるのだ。きりもみ落下から立て直せないのが旧来の航空機で、無理やり力技で立て直すのがドップと言える。

 

「コアファイターはその点、ドップに触発された機体ですからね。」

 

メカ好きのジョブ・ジョンが双方のパイロットを集めた反省会で自説を開陳する。

 

「翼がない方が有利という話か。翼に頼る身としては、信じられない気がするが。」

 

「コアファイターの姿勢制御は教育型コンピュータが担当します。それで失速したまま墜落しません。夢の機動が実現できますよ。」

 

要はAIが優秀で破綻させないのだ。

 

「そりゃずるいぜ。しかしいい戦闘機だな。俺達からも上に配備を希望しておくよ。」

 

教えるつもりで、教えられたという格好になった。だが兵器の性能であればまだ納得は出来た。

 

「各自、腕を磨けよ。ノウハウのない機体なんだ。今のうちに鍛えたものが強くなる筈だからな。」

 

ベテランの教官はそう締めくくってみせた。

 

 

 

 

—レビル将軍執務室—

 

「マチルダ・アジャン、入ります」

 

マチルダはレビル将軍の執務室に入室した。結果を言い渡される日なのだ。些か緊張している。今の彼女は慣れた輸送部隊に戻りたい気持ちと、若者に対する責任の間で揺れていた。

 

「君達はこのまま正式に部隊運用する事に決した。」

 

レビル将軍は重々しくそう告げると、表情を和らげだ。

 

「かけたまえ、説明しよう。」

 

「失礼します。」

 

マチルダが行儀良く正面に座ると、レビル将軍は身を乗り出した。

 

「まず、V作戦の総括だが。」

 

資料を広げた。

 

「ガンタンク、これはすぐにでも生産できる。機体の現物はある、データもある。構造も簡単だ。レールキャノンは作り直しだが、シンプルな装置だ。不安はない。君達に渡せるMSはこれだな。」

 

「はい。」

 

「ガンキャノン、これは作り直しになるな。担当者はゼロヒトガンダムと組み合わせることを考えている。それではザクに勝つのも苦労するだろうが、止めろと言っても反対されたよ。『連邦にはMSがありません』とな。」

 

レビル将軍はそのように会議の結果を要約してみせる。

 

「こちらが本命だが、開発は遅れるぞ。何故なら二つともデータのみで機体がない。それを掛け合わせてどうにかしようというのだからな。」

 

レビル将軍はガンダムについては触れなかった、死んだ子の歳を数えない主義なのだ。

 

「それとMSではないが、コアファイターの増産が決まった。空軍が乗り気でな。重武装化も検討する。コアファイターは予備もある。それを回そう。」

 

「ありがとうございます。」

 

返答しながらも、マチルダは戸惑っていた。これはどういう事になるのだろうか。

 

「あの、自分は何を期待されているのでしょうか。」

 

「なんだ、気がついていないのか。いやそうか。元は補給部隊勤務か。」

 

「はい。」

 

「ペガサス級は、新兵器の開発運用が任務だ。君はその指揮官になったのだよ、マチルダ・アジャン中尉。中尉の立場では異例だが、験担ぎだな。」

 

「験担ぎ、でありますか?」

 

「ああ。元々君は運が良いだろう。何度も敵の空域を潜り抜けて味方に物資を届けてきた。幸運の女神と見る向きがある。」

 

「私が、でありますか?」

 

「今回の事もそうだ。敵にひっくり返された箱の中に、まだ希望が残っていた。それを実現してくれた女神の幸運にあやかろうというのだな。」

 

レビル将軍は持って回った言い方をする。マチルダとしては能力ではなく運などという要素で判断されてはたまらない。しかし結論には、異存がない。このまま放り出してはいけないと、そう考えていたのだ。

 

「全力を尽くします。」

 

「あの艦を守れ。今の連邦には、あれしか残っていないのだからな。」

 

 

 

 

—ジャブロー 宿舎前広場—

 

休養期間の夜。ジャブローの宿舎前の広場では、若いパイロット候補生たちが思い思いに時間を潰していた。

 

「しかしさぁ」

 

芝生に寝転びながら、カイが空を見上げる。

 

「〈ペイルホース〉、美人が多すぎないか?」

 

ハヤトが呆れた顔をした。

 

「また始まった」

 

「いや重要だろ? 士気に関わる問題だ」

 

カイは真顔で言った。

 

「まずミライさん。あれは反則だろ。操縦も出来てあの顔だぞ」

 

「確かに綺麗だよな」

 

ジョブ・ジョンが頷く。

 

「セイラさんもいるしな」

 

ハヤトが言うと、カイが指を振った。

 

「セイラさんは別格だ。あれは高嶺の花だよ」

 

「勝手に格付けするなよ」

 

リュウが苦笑する。

 

カイはそこで腕を組んだ。

 

「だがな、やっぱりオレの本命はマチルダさんなんだよなぁ——」

 

そこで、ハヤトが指差した。

 

「あれ、マチルダ中尉じゃないか」

 

少し離れた通路を、マチルダがこちらへと歩いてくる。レビル将軍から伝えられた今後の方針を伝えようと出向いたのだ。

 

「やっぱり美人だよなぁ……」

 

カイが感心したように言う。

 

その時だった。背後から現れた連邦軍士官が、突然マチルダの腕を引いた。

 

「——っ!」

 

男はそのまま彼女を強く抱き寄せる。

 

「おい!」

 

カイが立ち上がった。

 

「痴漢か!?」

 

ハヤトとジョブも慌てて駆け出す。だがマチルダは抵抗しなかった。むしろ受け入れた。次の瞬間。男はマチルダの肩を抱き寄せ、そのまま唇を重ねた。熱烈なキスだった。全員の足が止まる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

しばらくして、熱烈な抱擁が終わった。

 

「もう、部下の前でこんな事して。」

 

マチルダが少し上気した顔で笑った。そして乱れた制帽を被り直すと、パイロット候補生に向き直る。

 

「紹介するわ」

 

そう言って隣の男を見上げる。

 

「ウッディ・マルデン少佐。ジャブローの技術士官で——」

 

少しだけ誇らしそうに言った。

 

「私の婚約者よ」

 

沈黙。カイの口がゆっくり開く。

 

「……マジかよ」

 

リュウが後ろから肩を叩いた。

 

「終わったな。」

 

カイは天を仰いだ。

 

「くそっ……」

 

両手を広げて叫ぶ。

 

「俺の恋が終わった……!」

 

ウッディは苦笑していた。マチルダは少しだけ首を傾げる。

 

「恋?」

 

「なんでもありません! ……今のは聞かなかった事にしてください!」

 

カイは即答した。広場には笑い声が広がった。

 

 

 

 

 

—北米方面軍司令部—

 

ガルマ・ザビは机上の報告書から目を離さなかった。室内には静かな緊張が漂っている。副官のダロタ中尉が、控えめに声をかけた。

 

「シャア少佐よりの報告です」

 

「読んでいる」

 

ガルマは短く答えた。報告書の内容は簡潔だった。RX-78ガンダムの強奪に成功。ペガサス級の鹵獲および技術者を確保。戦果としては破格だ。

 

「……あの男らしい」

 

ガルマは小さく笑った。シャアは昔からそうだった。大胆で、危険で、そして結果を出す。

 

「祝電を送りますか」

 

ダロタが尋ねる。

 

「当然だ。英雄の帰還だ。友人として祝ってやるさ。」

 

ガルマは書類を閉じた。

 

「しかし……」

 

一瞬だけ考え込む。

 

「……差がついたな、シャア」

 

ダロタは何も言わなかった。ザビ家の人間の発言に軽々しく触れられる立場ではない。数秒の沈黙の後、ガルマは立ち上がった。

 

「出かける」

 

ダロタ中尉の表情がわずかに曇る。

 

「……今夜もですか」

 

「問題あるか?」

 

「いえ。ただ、最近司令の外出が多いと」

 

言葉を慎重に選んでいる。ガルマは苦笑した。

 

「監視でもするか?」

 

「滅相もありません」

 

ダロタは姿勢を正した。

 

「車を用意します」

 

「頼む」

 

ガルマは帽子を手に取った。その横顔には、司令官ではなく一人の若者の表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

—ニューヤーク 市長公邸—

 

会場は華やかな光に包まれていた。北米の名士たちが集まる夜会である。

 

「ガルマ様」

 

振り向くと、そこに市長の娘のイセリナ・エッシェンバッハが立っていた。淡いドレスをまとい、穏やかな微笑みを浮かべている。

 

「待たせてしまったかな」

 

「いいえ。来てくださっただけで嬉しいです」

 

二人は並んで歩き出した。夜会のざわめきから離れて少し離れたバルコニーへ。付き従うダロタがそっとドアを閉め、恋人だけの空間を確保する。

 

「最近お忙しいのですか」

 

「まあな。戦争中だからね」

 

ガルマは肩をすくめた。イセリナは少し視線を落とす。

 

「危険ではないのですか」

 

「私が?」

 

ガルマは笑った。

 

「私は後方勤務だよ」

 

それは半分だけ本当だった。彼は地球方面軍司令である。イセリナはしばらく黙っていたが、やがて決意したように言った。

 

「いざとなれば、私も共に戦います」

 

それはイセリナなりの決意の示し方、愛の告白である。ガルマは思わず吹き出した。

 

「君が?」

 

「はい」

 

真剣な顔だった。

 

「銃の撃ち方くらい覚えます。戦闘機だって、飛ばせます。」

 

「それは困るな」

 

ガルマは笑いながら言った。

 

「それでは私の役目がなくなってしまう」

 

イセリナも小さく笑った。その笑顔を見つめながら、ガルマはふと黙り込む。

 

「お父様に……あなたのことを聞かれました」

 

ガルマは静かに頷いた。

 

「反対されたか」

 

イセリナは答えなかった。沈黙がそれを語っている。ザビ家の人間。地球方面軍司令。相手は地球の名家の娘。結婚など、政治問題になる。

 

「私も家族にはまだ話していない」

 

ガルマは苦く笑った。

 

「父様は許してくれる。でも兄上達にはきっと反対される」

 

夜会の灯りが遠くで揺れている。

 

「それでも」

 

イセリナは言った。

 

「私はあなたと一緒にいたいです」

 

ガルマは彼女を見つめた。

 

しばらくして、ふっと笑う。

 

「いっそこのまま駆け落ちでもするか」

 

冗談めかした口調だった。

 

イセリナは驚いたように目を丸くし、そして小さく笑った。

 

「……本当に?」

 

「まさか」

 

ガルマも笑った。ガルマはイセリナを引き寄せた。床に伸びた二人の影が重なっていた。

 

 

 

 

 

—サイド3 ズム・シティ—

 

美貌の秘書官がギレンの顔色を伺いながら報告書を差し出す。ギレン・ザビは無言でその報告書を読み終えた。

 

「ガルマが消えただと」

 

短く怒声を発した。ガルマ・ザビはニューヤークを最後に消息を絶っている。同行していたのはエッシェンバッハ家の娘で、駆け落ちしたとの推測が記されていた。

 

「……よりにもよって、アースノイドの女か。これでザビ家は笑い物だな。素直な弟だと信じて裏切られるとはな。」

 

ギレンはわずかに眉を動かした。戦争相手の女では、外聞が悪い。軍の士気にも関わる。暫し考えてから、秘書官に命じた。

 

「記録を開始しろ。ドズルとキシリア宛だ。」

 

「はい、総帥。」

 

カメラが起動し、録画が開始される。ギレンは静かに語り始めた。

 

「ドズル、キシリア。状況を伝える。ガルマが北米で消息を絶った。同行していたのはアースノイドの女だ。私的な逃亡の可能性が高い。」

 

一拍置く。

 

「追跡部隊を出す。任務は極秘とする」

 

さらに続けた。

 

「指揮官はランバ・ラル。彼奴なら北米の地理にも通じている」

 

ギレンはわずかに口元を歪めた。

 

「ザビ家の問題は、ザビ家で処理する」

 

映像はそこで切れた。

 

 

 

 

 

—グラナダ—

 

キシリア・ザビはギレンより送られた映像を最後まで見終えると、静かに立ち上がった。

 

「ガルマめ」

 

怒りというより、呆れに近い声だった。

 

「兄上はランバ・ラルを出すと言っている」

 

突撃機動軍の参謀長が頷く。キシリアは少し考え、そして言った。

 

「あの男は情に流れる。厳しい処分は出来まい。やはり、私も北米に降りる」

 

参謀長が驚いた。

 

「閣下自ら?」

 

「当然だ」

 

キシリアは冷ややかに笑った。

 

「ザビ家の醜聞を、他人任せには出来ん」

 

彼女は扉の方へ歩き出す。

 

「マ・クベには私が自ら出向くと伝えろ。」

 

彼女の目には殺意が込められている。

 

「キシリア機関も動員する。ガルマは必ず連れ戻せ。そして弟を誑かした女は処分しろ。」




【あとがき】
北米の話に一気に行きたかったのですが、無理でした。今回はジャブローのみの話となります。カイがマチルダさんに恋心を抱くのは原作通りですし、接触密度が違うので早めにわかって良かったなと。

カイはマチルダ推しなので、セイラやミライにべた惚れはしないのですよね。ブライトとミライは原作通り接近します。

今回はマチルダとウッディー、ガルマとイセリナ、一応ミライとブライトも含めた恋愛回の認識です。

ジムもなく当面連邦軍は苦しい台所事情を抱えることになります。

また、感想はログインせずとも残せるようになっています。「良かった」だけで結構ですのでモチベーション維持の為に好意的な反応をいただけると助かります。よろしくお願いします。

第3話「地上の楽園」で一番印象に残ったパートはどれですか? また次回以降、どのストーリー路線に一番期待していますか? いずれかを選んでください。

  • ペイルホース隊の若者たち
  • ジャブローでの軍上層部の会議
  • コアファイターの訓練・新兵器の描写
  • マチルダとウッディのシーン
  • ガルマとイセリナの恋愛パート
  • ジオン側の政治パート
  • その他(感想欄)
  • 【期待する】ペイルホース隊の成長と戦闘
  • 【期待する】ジオン側の人間ドラマ
  • 【期待する】北米戦線の大規模戦闘
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