【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side 作:高坂 源五郎
ー連邦軍ジャブロー基地ー
「君達に、北米へ飛んでもらう。」
レビル将軍は、マチルダを呼びつけて重々しくそう宣告した。
「北米、最前線で私達は何をすればよろしいのでしょうか?」
マチルダは激戦区投入を覚悟した。ジオンとの間の戦況は逼迫している。ペガサス級は最新鋭艦なのだ。戦力が整っていないように見えても、他の連邦軍から見ればマシな状態である事も確かなのだ。
「何、不必要な危険はない。前回のような回収任務だな。ジオンの邪魔も、恐らく問題とはなるまい。」
「そうなのですか。」
マチルダは拍子抜けした。確かに回収任務なら、今の少ない人員でも対応できる。それにペガサス級は輸送艦としては極めて使い勝手がいい。
「コアファイターの追加は手配してある。評価を見る限り、現状の戦力でも空ではなんら心配はないな?」
「はい、その通りです。」
MSは空を飛べない。そうである以上、〈ペイルホース〉とコアファイターの組み合わせは空では優位性がある。
「詳細は命令書を渡す。では、頼んだぞ。」
念を押すような老人の強い視線をマチルダは受け止め、しっかりと頷いた。
—北米中西部郊外—
ジオンの防空識別圏を突破し、マチルダは北米の荒野に〈ペイルホース〉を着陸させた。ミデア輸送部隊の指揮官として、何度も同じ事を経験している。慣れていれば、山脈スレスレに飛んで敵に存在を気取らせない移動は大の得意だった。
岩陰に強襲揚陸艦を潜ませてから、荒野仕様のエレカを走らせる。助手席にはリュウ・ホセイの姿がある。なんだかんだ言って、護衛に相応しいのは巨漢の彼だろう。
「今から現地の協力者と合流します。ホセイ曹長は車の見張りを。なるべく騒ぎは起こさないで待機して。」
「了解です。」
今は二人とも私服姿だ。といってもデートに使う格好ではない。目立たない作業着風である。
「あの店よ。私が一時間経っても戻らなかったり、騒ぎになったら様子を見に来てね。」
「任せてください。」
ジオンの勢力圏である北米、砂漠を走る国道沿いの酒場で相手はマチルダを待っている。
「では、いくわ。」
油断なく周囲を警戒するリュウに短く声をかけて、マチルダは少し緊張しながら店に入る。
「久しぶりですね、センパイ。」
すぐに声をかけられた。その声と容姿で、マチルダも相手に気がついた。
「まさか、貴方がここにいるとはね。」
相手も軍服姿ではない。砂漠用のコートの下は露出が多く、胸元が大きく開いていてスカートもミニだ。酒場という場所柄だけに、娼婦めいて見える。自分の格好の方が、場違いかと思える程だ。マチルダも軍人らしくしていないつもりだが、彼女の変装には負ける。それでも、懐かしい輸送部隊の後任の姿がそこにあった。
「私の後を任せた筈なのに、ね。アンネ…」
「アンキー、ここではアンキーとそう呼ばれています。本名は、やめてください。」
名前を口にしかけると、小声で訂正が入る。やはり、これはまともな任務ではないらしい。
アンキーに導かれて、分厚い扉の小部屋に通される。恐らくは商談用の場所なのだ。二人は用意された席に座った。酒瓶とコップが置いてあるのは、勝手にやってくれというサインだろう。ボーイを呼べない客に向けての用意なのだ。
「ね、それで積荷は何?」
「…ザクですよ。」
事もなげにアンキーは答えた。小声ではあるが、この部屋の中だからかそこまで秘密にする内容でもないらしい。
「ええっ、そんなものが手に入るの?」
「はい。過去に一度、手に入れていますよ。その作戦には、センパイも関わったと聞いていますが。」
ニンマリと、アンキーが笑う。すぐに作戦とはV作戦の事だと思い当たった。MSの動きを研究するのにザクは必須だったし、仮想標的として鹵獲ザクを用いていた筈だ。赤いガンダムに撃破されたという報告を、確かに読んだ記憶がある。
「一体全体、どうやってそんなものを?」
「蛇の道は蛇ですよ。まずは一杯飲みながら、話しましょう。」
アンキーは慣れた手つきでグラスに氷を入れると、バーボンを注いだ。そして黙ってマチルダへと差し出す。飲めと目で合図するので、マチルダも一口飲む。素面のままでは、きっと酒場では悪目立ちするのだ。
「ま、最初は大変でした。最新鋭の秘密兵器でしたからね。手を尽くし、危ない橋を渡ってようやくって所です。」
そういってから、アンキーはバーボンを飲む。カラカラとグラスの中の氷が音を立てた。
「そんな危ない真似を」
そう言いかけてから、マチルダはアンキーの雰囲気の変化の理由に気がついた。初々しかった後輩は、どこかスレて投げやりな雰囲気をまとっている。
「ねえ。貴方まさか?」
「ええ。人脈もない敵軍の女が伝手を得るのは大変なんです。使える方法は、全部使いましたよ。」
そう事もなげにアンキーは応える。それはつまり、文字通り身体を張ったのだ。マチルダが同じ選択を迫られても、アンキーと同じ方法を取れるという自信はない。
「駄目よ、もっと自分を大事に…。」
「勝つか負けるかなんです。綺麗事じゃないんですよ。後悔して死ぬよりかはマシです。後生大事に取っておいても、命より大切な筈はありませんから。」
いなされたマチルダは、黙ってグラスを口に運んでバーボンを飲んだ。この調子なら、今日は悪酔いしそうである。
「さ、そろそろ時間ですよ。取引用の座標の書かれた紙をください。」
「ええ。」
マチルダは紙片を取り出した。ジャブローから空輸した貴重な積荷を、この座標の場所に目立たない様に隠してある。探そうとしてもそう簡単には見つからない場所だ。
アンキーは紙片を受け取ると、黙って胸の谷間に挟んだ。そのまま二人とも沈黙し、ただグラスを傾けた。それから十分もしない内に、部屋の扉が乱暴に叩かれる。アンキーが扉を開けて、相手を確認してから中に引き入れる。予想通り、相手はジオンの軍服を着ていた。
「で、彼女が運び屋か?」
「ああ、そうだよ。」
ジオンの男とアンキーは短く会話を交わす。
「座標はここだ。既に品物は用意してある。」
男が折り畳まれた紙を取り出すと、アンキーも胸の谷間から先程の紙片を取り出した。
「こちらも、ここに置いてあるよ。」
二人は座標を書いた紙を交換し、一瞥するとそれぞれの隠し場所にしまう。
「裏切ったり、追跡したら分かっているよな?」
「そちらこそ。」
「足元を見るなよ。こちらは廃棄した品を漁らせてやっているだけだ。精々、尽くす事だ。」
吐き捨てるようなジオン軍人のセリフに、アンキーは沈黙する。それは今のジオンと連邦の力関係そのものである。
「おい、今度はその女に相手させろよ。話もしたいしな。」
乱暴にテーブルに座りながら、男がマチルダに話しかける。
「彼女は、そんな事はしない。」
キッパリとアンキーは言い返した。彼女の手には、いつの間に取り出したのか拳銃が握られている。
「チッ、分かった分かった。ちょっと頼み事があるだけだ。ポケットから物を出すだけだ、撃つなよ。」
そう言いながらジオン軍人は慎重な手つきで、内ポケットから写真を取り出した。
「写真?」
アンキーが怪訝そうな表情になる。写真にはジオンのルッグン偵察機が写っている。近くから撮影したらしく、翼の機体番号が読み取れる。もしかしてこの機体を探している、という事だろうか。
「情報が欲しい。運び屋なら、見かけたかもしれないからな。どうせザクだって連邦に高く売るつもりなんだろう?だが、これに関しては別だ。もしこの機体を乗員ごと確保出来たらザクを十二機渡そうじゃないか。」
「十二機も」
アンキーが絶句した。恐らくは今回渡した資源で得られるザクは一機や二機、多くても三機なのだろう。
「それだけ、こちらも本気という事だ。この機体を探している情報は連邦には伝えるな。絶対にこちらが確保したい。」
「確かにザク十二機なら、とんでもない金になるね。」
アンキーが乗り気になったと見たのだろう、ジオン軍人は畳み掛ける。
「ああ、いい話だろう。では頼んだぞ。」
「ああ、気を付けておくよ。」
「じゃあ行けよ。先に来たものが先に帰る、それが決まりだ。」
アンキーは黙ってドアを開けて、マチルダを見た。思わず顔を伏せながら、マチルダは戸口に向かう。
「いい女だ。気が変わったならいつでも歓迎するぜ。」
そんなマチルダの横顔を盗み見るようにしながら、男が下品な賞賛を口にする。
「センパイにそんな口聞くんじゃねえよ。このアタシが相手してやったろ。寝言は寝て言いな。」
アンキーは叩きつけるようにドアを閉めた。男の哄笑が、ドアにより立ち消えになる。それでもマチルダの耳の奥底に、いつまでも嫌な感触は残った。
「さ、いくよセンパイ。」
何事もなかった様に、アンキーはマチルダを誘った。赤毛の女二人連れで店を出る。きっと彼女達は酒場でも目立っていただろう。でもそれはきっと、この取引の内容のヤバさを掻き消すための良きカモフラージュとなるのだ。
心配顔をして車で待っていたリュウ・ホセイに、マチルダはアンキーを紹介した。
「彼女はアンキー、私の後輩よ。身元は確か。だから安心して。」
「同じ所属という事でありますな。自分は、リュウ・ホセイです。」
敬礼こそしないが、リュウの物言いは軍人と分かるそれである。アンキーもリュウは気に入ったらしい。
「よろしくね。次からはアンタが取引現場に来な。センパイは綺麗すぎるから目立つのさ。」
ジロリ、とリュウの目がマチルダを見る。
「やはり、婚約者がいる方がこのような盛り場は。」
「そうね、以後気をつけるわ。」
私は守られてばかりだな、とマチルダは感じる。アンキーもリュウも彼女を守ってくれようとしているのだ。本来は正式に艦長となった彼女こそ、下を守る立場の筈なのに。
「さ、行こうか。品物の回収を急ぐよ。邪魔が入らないとも限らない。」
アンキーがそう急かした。ジオンはザクを廃棄した体て取引している。その場に行ってみて、誰か第三者に持ち去られている可能性だってあるのだ。まあ民間人がそうそう簡単に持ち去れる大きさではないだろう。が、騒ぎになるのはごめんだった。夜のうちに全ての積み込み作業を済ませて離陸する必要がある。
座標の地点に行くと、カモフラージュ用の防水シートの下でザクがニ機用意されていた。完動品である上に、マシンガンもヒートホークもバズーカまで置かれている。同行したパイロット候補生達は少なからず驚いている。そこでアンキーは胸を逸らして自慢した。
「当然さ。このアタシが、身体を張って手配したんだからさ。」
ー北米中西部ー
ザク闇取引の為の北米と南米との往復移動は、すぐに定番の任務となった。完動品のザクだったのは初回だけだ。片腕がないくらいの損耗ならまだ良い方で、両脚が破損しているザクもいた。部品状態としか呼べない程度の機体も少なくない。修理工場送りになったザクの横流しなのは明らかだった。
「ま、仕方ないね。あちらも焦ってんのさ。」
とはアンキーの言である。最初にジオン軍人から持ちかけられた『ルッグン探し』の件は、思っていた以上に重要だったらしい。
「重要人物の暗殺未遂でもあった、ってところかもしれないよ」
「秘密を持ち出したスパイの捜索、などではなくて?」
マチルダもアンキーとの会話に応える。二人は今、リュウのガンタンクがザクを積み込む様子を眺めていた。マチルダは軍服だが、アンキーはいつものラフな服装にサングラス姿だ。サングラスは、荒野をうろつくにも顔を隠すにも都合がいいらしい。
「いや、あれは探し人だね。センパイも、そう思うだろ?」
「ええ。実は、ちょっと調べてみたの。」
マチルダは資料を取り出した。
「ジオンの軍人があの話を我々にした理由、それはジオン側の管制空域内にいないと考えているからではないかしら。」
「え?」
マチルダが真剣に探していた事に、アンキーが驚く。
「それで空軍の記録を調べたわ。話を聞いた三日ほど前に、ルッグンと交戦した記録がヒットしたの。相手の機体の型番までは報告書に記載がなかったけれど、ガンカメラに映し出された範囲での記号は一致した。」
入手した写真を取り出す。これは大切な品と直感して無理して受け取ってきたのだ。取引に使えるかもしれない。
「よく分かったね、そんなの。」
アンキーは物証が示された事で、興味を惹かれた様子だった。
「部下の空戦訓練の教官を頼ったの。空軍さんのお食事をお付き合いする代わりに、ね。あ、これは本当に食事だけで…」
「そこはいいよ、それで続きは?」
「出発地点が分かれば、断定できそうなの。」
「多分、ニューヤーク。寝物語にそう聞いた。」
「やはり、そこか。」
マチルダは地図に直線を引いた。
「ニューヤークから交戦した位置を線で結ぶと、こうなるわ。」
「海のど真ん中じゃないか。」
「線の先をよく見て、おそらくはここよ。」
マチルダの手は線の伸びた先、メキシコ湾のフロリダ半島南西部を指し示した。メキシコ湾は、連邦とジオンの干渉地帯である。
「ここはきっと捜索範囲の外。でもジオン側の警戒網をどうすれば潜り抜けられるか、それを知る立場にある人ならきっとここまで飛べるでしょうね。」
メキシコ湾は干渉地帯で、両軍の防空識別圏が重なる空域。連邦もジオンも監視レーダーを展開しているが、島の多い海域では低空の完全な監視は難しい。
「だから連邦側の警戒網にだけ引っかかったのね。」
「それですぐに逃げて隠れられた、と。」
「ええ。連邦も、ジオンの勢力圏の中までは探しに行かないわ。メキシコ湾は最前線だとしても、お互いに手を出しにくい場所よね。」
民間航路や貨物船が多いこの海域では、低空飛行の小型機はレーダー網をすり抜ける。そのためこの海域は、密輸業者や情報屋にとって格好の通り道になっていた。
「おそらく候補はここ。キャプティバ島。フロリダ西岸の高級リゾート島よ。そして何より、ニューヨーク富裕層の避暑地なの。彼らが、見ず知らずの場所に逃げるなんてあり得ない。きっと、知り合いの別荘に逃げ込んでいるわ。」
アンキーは唾を呑む。
「センパイ、そこまで分かれば。」
「ええ。ザク、ちゃんと貰えるといいわね。」
ーザンジバル艦内ー
「キシリア様、吉報があります。」
「ほう?」
アッザムの評価試験を眺めていたキシリアは、マ・クベの方へと振り向いた。
「連邦軍がガルマ様のルッグンと交戦した記録です。ルッグンはすぐに逃れたとの事ですが、機体番号の一部がガンカメラ映像と一致しています。」
「それで?」
マ・クベが最初に吉報と言ったのは正解だった。連邦とガルマが交戦したと聞いて、安否が不明ならキシリアは平静ではいられなかったかもしれない。
「ニューヤークからの直線上に、キャプティバ島があります。調査によると、イセリナの母方の叔父が別荘を持っていると。」
「それで?」
「防犯カメラの映像です。ガルマ様はご無事です。」
キシリアは食い入るように、差し出された端末の画面を見つめた。そしてゆっくりと息を吐く。
「この場所をランバ・ラルに教えてやれ。ここにいるぞ、とな。」
「え? それで、よろしいのですか。」
「居場所を見つけた以上、あの男がちゃんと連れ戻す筈だ。ただし、相手の女を殺せと命じろ。」
「か、かしこまりました。」
「私とて、弟から恨まれたくはないのだ。ランバラ・ラルは兄の遣いだからな、恨まれ役になってもらう。」
「流石はキシリア様、それでご相談が。今回の情報、少し高くつきました。資源と引き換えにザクを供与する約束をしたそうですが、取引相手の情報屋を処分しますか?」
「構わん、渡してやれ。ザクは旧式となるのだからな。」
「よろしいのですか?」
「ああ。それでガルマの部下にも情報を流せ。」
「なんと!」
「ガルマの居場所を教えて感謝させろ。貴様は善意の第三者として、北米を掌握するのだ。」
「なるほど、そういう事ですか。」
ガルマの失脚は既定事項である。その時、ランバ・ラルとガルマの部下を鉢合わせさせる。ランバ・ラルを悪者にすれば、ガルマの去った北米の掌握は容易い。
「ではその通りに。早速、情報屋はランバ・ラルと合流させます。」
「後は頼んだぞ。私も表向きはアッザムの評価試験を見に来たのだ。関わっているとは、弟に知られたくないのでな。」
—マ・クベの執務室—
来訪者を確認したウラガンは、すくっと立ち上がると主人の執務室のドアをノックした。
「何か?」
「ランバ・ラル大尉がお越しです。」
「通せ。」
「こちらへ。」
ランバ・ラルがウラガンの手で執務室へ招き入れられる。マ・クベは書類から目を上げた。
「ラル大尉か。いいタイミングだ。」
「呼び出しとは勘弁して頂きたい。こちらも任務を抱えて忙しいのですがな。」
「ガルマ様を発見した。」
ラルの目が鋭くなる。
「……これまで発見できずにいていきなり、とは。誰かジオンの高官が匿っていたなどではありますまいな。」
ラルの詰問をマ・クベはさらりとかわす。
「情報提供者だよ。連邦の戦闘機のガンカメラ映像を売りにきた連中がいた。その座標地点からの移動先の推測とともに、な。」
沈黙。ラルは腕を組む。
「…連邦の罠ではないと?」
「裏どりはしております。半日前の防犯カメラ映像です。」
ウラガンが仁王立ちするラルの横から端末を差し出す。紛れもなく、女と連れ立ち歩くガルマ・ザビの姿があった。
「どこなのですかな、ここは?」
「まあ待て、その前に条件を詰める。こちらへの協力を頼みたい。」
「タダではないと仰られるか。ギレン閣下の総帥府が知ったら、さてどう言われるかな。」
「なに、簡単な話さ。情報の見返りを約束して欲しい。それにギレン総帥からも命令されているのだろう?この女、イセリナ・エーベンハイムは始末しろと。」
「ええ。確かにギレン総帥からは、『女は必要ない』と厳命されております。」
「それだよ。見返りの件、頼んだよ。」
マ・クベは微笑した。そして地図を取り出すと、一点を指す。
「ここ、キャプティバ島だ。案内に情報提供者をつける。報酬目当てに働かせろ。」
ラルは鼻で笑う。
「その男、信用できるのですか。」
「もしもガルマ様がそこにいなければ——、そいつらの責任だな。」
マ・クベは静かに付け加える。
「ちなみにその情報屋は、アンキーと名乗る女だ。」
ー北米中西部ー
アンキーとジオンの担当士官はいつもの酒場で落ち合っていた。今日は報酬を受け取れると、アンキーは考えていた。しかし、ルッグンにザク十二機の価値があるはずがない。しかし、だ。男は満面の笑みを浮かべている。アンキーは警戒した。
「閣下が報酬の支払いに同意された。しかし、一働きしてもらうぞ。」
「何をさせようってんだい?」
ジオンの担当者の物言いに、アンキーの目が細くなる、
「お前が、回収部隊に同行しろ。」
「いやだよ。機体の回収なんかそちらでやんな。責任を取らされるのは真っ平だ。」
「いいのか?報酬は支払えないぞ。」
「空振りだと、八つ当たりで殺されかねない。巻き込まれるのはごめんだよ。」
「安心しろ。こちらも裏どりはしたさ。」
男の取り出した端末には監視カメラの映像が、そこには女と連れ歩くガルマ・ザビの姿がある。
「なっ!」
「お前も知ってしまった以上、逃すわけにはいかん。心配するな、全てが順調なら殺しはしない。閣下が、報酬の支払いに同意されているんだからな。」
ドタドタと男が入り込んでくる。アンキーは、忽ち男達に両腕を掴まれる。
「大人しく店を出ろ。何、悪いようにはしない。俺とお前の仲さ。」
「…乱暴は、よしな。」
アンキーが項垂れる。男はそれを、アンキーの諦めとそう解釈した。
「ラル大尉、これが情報提供者のアンキーです。」
酒場の2階で待たされていたランバ・ラルは、ウラガンの部下が連れてきた赤毛の女を眺めた。不貞腐れた様子である。まともな説得などせず、強引に連れできた雰囲気だ。
「安心しろ、キシリア閣下が報酬を支払われる件はこちらも聞いている。大人しくすれば、解放してやるさ。」
副官役のクランプに目をやる。クランプも心得たもので、アンキーの片腕を掴んだ。
「乱暴はおよしよ。ついていくよ。」
「そうだ、それでいい。」
「では行くぞ。」
ラルの号令一下、彼の部下達はラルとアンキーを中心に酒場を出る。その時である。
「待ちな!」
背後から声が浴びせられた。すかさずアンキーが叫ぶ。
「リュウ、無茶するんじゃないよ。コイツら手練れだ。敵う相手じゃないよ。」
ラル達はゆっくりと周囲を見渡した。拳銃を手にした若者達が取り囲んでいた。だがその手は震えている。ラルは一瞥しただけで理解した。
(素人か。)
横にいるクランプの手が無意識に腰の拳銃へ伸びる。一瞬の判断を誤れば、この場は血の海になる。
その時、拳銃を構えた一人の少女の視線がラルを射抜いた。
「面影がある、まさかな。」
思わず出た独り言に、少女が反応する。
「その声、やはりジンバ・ラルの。」
「…おおっ、やはり貴方は。」
ランバ・ラルは一歩進み出た。そして部下達を振り返り、告げた。
「皆銃を降ろせ。見張れよ、クランプ。どうやら知り合いらしい。争う必要はなさそうだ。」
「どういう事かしら?」
マチルダは尋ねた。『セイラと二人きりで話をさせろ』それがランバ・ラルの要求である。
「我が父の知り合いなんだ。消息を尋ねたい。積もる話もあるしな。」
「セイラさんを人質にする気だぜ、このロリコン野郎!」
「しっ、カイさん、黙って。」
カイと呼ばれた若者が、別の若者に羽交い様めされていた。マチルダはため息をついてから、ラルに向き直る。
「あの子を人質にはさせないわ。」
「なら、君が同席したまえ。それでいいですな?」
ラルに問われてセイラはコクリと頷いた。その時初めて、この場の決定権は自分ではなくセイラにあるらしいとマチルダは気がついた。
改めてラルの部下が酒場を占拠した。騒ぎの間にジオン軍人は関わり合いになるまいととうに姿を消していた。拳銃を持たせたパイロット候補生達は、もうラルの部下達に敵いそうにない。武器は取られていないものの、完全に気を呑まれている。
マチルダとセイラとラルだけが奥の小部屋に向かう。
「センパイ、巻き込んでごめん」
未だに人質とされているアンキーが、小声でマチルダに謝ってきた。
「いいのよ。平和的に話をつけてくるわ。皆を抑えていて。」
「分かった。」
女二人と青い巨星である。一声発っすれば部下も駆けつける。こちらは勝ち目がない。しかし意外なことに、個室の中で青い巨星と呼ばれた男は床に片膝をついた。
「アルテイシア様、ご無事でしたか。このランバ・ラル、お二人の無事を願わない日はありませんでした。」
「ええ、ランバ・ラル。貴方も息災で何よりです。貴方のお父上、ジンバ・ラルは残念な事をしました。」
そしてセイラは手を伸ばし、ラルの腕を掴む。ランバ・ラルはゆっくりと立ち上がった。
「マチルダさん。」
セイラはゆっくりとマチルダへと向き直る。
「この人はジオンの軍人、けれど敵ではありません。」
「それは、どういう事かしら?」
マチルダは苦笑した。今は戦争をしているのだ。知り合いに会った位で、その前提が変わる訳がない。そう思っていたのだ。
「今まで黙っていてごめんなさい。私の本当の名前は、アルテイシア。アルテイシア・ソム・ダイクン。ジオン・ズム・ダイクンの娘です。」
「何ですって?」
マチルダは2人の顔を見比べる。そして冗談ではないのだと悟った。セイラの自己申告だけでは受け入れられなかっただろうが、ランバ・ラルの存在が事実を裏付けしている。
「それがどうして連邦で志願を。ああ。」
理解に至る。ジオン・ズム・ダイクンはザビ家に暗殺された。その遺児は、ジオンではなく連邦に保護されていたのだと。
「この人は、父や私達に忠実だった人です。力を合わせれば、きっと上手くいきます。ね、そうでしょう?」
セイラがラルを見て、次にマチルダを見る。セイラはこの2人を心から信頼していた。それがお互い伝わる。
「アルテイシア様に背く事はない、誓う。」
「…分かったわ。」
マチルダはその手を握り返した。最大の敵が味方に変わる、運命の数奇さに心の底から震えるような恐怖を感じながら。しかし部下を守ると決めたのは、マチルダ自身なのだ。
「では、急ぎましょう。安全は保証します。アルテイシア様と付いてきて頂きたい。話は道中で。ガルマ様とイセリナ様の身が危ないのです。」
「ガルマ・ザビ?!」
どういう事だろう、とマチルダは訝しむ。何か途方もない謀略に巻き込まれたらしい。まさか失踪者があのガルマ・ザビとは。北米ジオン最大の重要人物と言っていい。
(こうなるとジオンに事情を把握している味方がいるのは、とても助かる。問題は信用できるかどうか。)
マチルダは腕を組み、ラルをじっと見つめた。セイラがマチルダの決断を不安そうに見つめる。
「敵の言葉を信じるのは、軍人としては失格ね。」
「その通りですな。」
ラルは笑った。マチルダの決意を感じたのだ。
「だがアルテイシア様が信じるなら——私にとっては話は別だ。」
マチルダも、緊張で強張りながらもわずかに笑う。
「そうね。彼女が間に立つなら、私もあなたとは戦わない。」
マチルダが片手を伸ばす。ラルが応じる。泣きそうなセイラが安堵した笑みを見せる前で、マチルダとラルは硬くその手を握り合った。それは敵国の軍人同士で結ばれた、奇妙な同盟だった。
GQuuuuuuX Another side 第04話 謀略の北米(上)の感想を教えてください。
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ジオンの政治劇が良かった
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アンキーの掘り下げ良い
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マチルダの活躍が良い
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ラル登場で緊張高まる
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各勢力の思惑が面白い
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【要望】ダイクン派の動き期待
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【要望】ラルの活躍もっと
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【要望】連邦側の反撃期待
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【要望】ジオンの裏側期待
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【要望】ガルマの行方期待