【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第05話 謀略の北米(下)

ー酒場ー

 

「つまりだ。このお嬢様は、俺がお世話になった親分の娘さんという訳さ。」

 

ランバ・ラルはセイラを指さすと、物事をそのように単純化して酒場に集めた全員に説明した。彼らがジオン軍人という事は伏せておく腹だ。

 

アンキーもマチルダもそれに乗った。厄介事を乗り切れるなら、それに越した事はない。裏取引とはいえ、公然とジオン軍人と手を組むというのは差し障りがありすぎる。若者には秘匿したい。

 

「なぁる程ね、セイラさんは偉い親分さんの娘さんだったのね。」

 

納得顔でカイが頷く。セイラは否定したそうな顔をしていたが、黙っていた。彼女もここで口を挟むと、事態がややこしくなる事は理解していた。

 

ラルの部下達はどう見ても堅気ではない。とても軍人には見えない。しかもラルは見るからに色っぽい愛人まで連れている。誰がどう見てもギャングという構図であった。

 

「親分の娘さんは親分も同然。ま、そういう事だな。」

 

「ギャングの親分が、子供を真面目に育てるのって本当だったんだなー」

 

柄にもなくハヤトまでがそう口走り、ハッと口を押さえる。

 

「違います。義父は困っている人を見捨てられないだけよ。表向きの立場だって…」

 

我慢できなくなったセイラがそう抗弁した所で、アンキーは話を元に引き戻した。

 

「いざこざが解消できたのは、まあ良かったよ。それでここからどうするんだい。アタシが必要って話だったよね?」

 

「そうだな。」

 

ラルは暫し考え込む。

 

「どうだろう。ここは互いに人を預け合おう。」

 

「ほう、人質って訳かい。」

 

アンキーの目が光った。

 

「アンタに同行してもらう以上、こちらから代わりを出す。ハモン、お前はお嬢様にご一緒しろ。」

 

自らの愛人を振り向き、ラルはそう指示を下した。

 

「ええ。お嬢様のお世話は任せて。」

 

ハモンと呼ばれた女は頷いて見せる。彼女は明らかに水商売の女という雰囲気を漂わせていた。これは一朝一夕で身につくものではないだろう。ラルをジオン軍人と知るマチルダでさえ、彼女を軍人だとは見抜けない。

 

「そういう事ね。ハモンさんよろしくねー」

 

カイは浮かれ顔だった。ハヤトもリュウも顔を赤らめている。愛人業を公言するハモンは、青少年には刺激が強いらしい。ミライは些か不機嫌そうだが、相手がセイラの知人である為に沈黙していた。

 

 

 

 

—メキシコ湾上空 ザンジバル級〈ラグナレク〉—

 

ガルマ・ザビの居場所が判明し、メキシコ湾にジオンは過剰な戦力を集結させていた。ランバ・ラル隊が用いるザンジバル級〈ケルゲレン〉。ガルマ親衛隊が用いるザンジバル級〈マダガスカル〉。そしてキシリア少将のザンジバル〈ラグナレク〉である。この戦略的価値のないエリアに、3隻ものザンジバル級が投入されるのは異常な光景だった。

 

キシリアとマ・クベを乗せたザンジバル級〈ラグナレク〉はメキシコ湾を飛翔していた。背後には、ガルマ親衛隊を搭載したザンジバル級〈マダガスカル〉を引き連れている。

 

「ダロタ中尉、聞こえるか。」

 

〈ラグナレク〉の艦橋から、マ・クベは後方のザンジバル級〈マダガスカル〉のダロタへと呼びかけた。

 

『はい、感度良好です。』

 

「間も無く目的地だが、どうやら連邦の邪魔が入りそうだ。恐らく、先行したランバ・ラルの動きが察知されたのだろう。」

 

連邦との前線索敵哨戒中のルッグンが連邦のペガサス級の影を捉えていた。遮るもののない海上であれば、敵影は捉えやすい。散布されるミノフスキー粒子による索敵不能という形であっても、だ。

 

『敵、でありますか?』

 

「そうだ。こちらで迎撃する。状況が状況だ、貴艦はこのまま進まれたし。」

 

『感謝します。』

 

本来なら大佐が中尉風情の露払いなどあり得ない。あり得ないのだが、事はガルマ・ザビ大佐の安否に関わる。マ・クベがガルマ大佐に配慮しても不思議はない。

 

〈ラグナレク〉は敵に向けて回頭する。〈マダガスカル〉は加速して水平線の先に消えた。

 

「これでランバ・ラルとダロタの隊は、鉢合わせするな。楽しみな事だ。しかし、アッザムで問題なく勝てるのか?」

 

消えゆくザンジバルを眺めながら、キシリアがマ・クベに勝算を問う。

 

「はい、問題ありません。」

 

マ・クベは胸を逸らした。

 

「あれは最近北米に出没する補給用のペガサス級でしょう。ペガサスの実力は割れております。搭載しているのも小型戦闘機で、ここは海の上。アッザムとザンジバルの敵にはなり得ません。」

 

「大した自信だ。アッザムの性能評価として期待していいのだな?」

 

マ・クベは自信を漲らせた。

 

「はっ、お任せください。」

 

 

 

 

—メキシコ湾上空 〈ペイルホース〉—

 

〈ペイルホース〉は、ランバ・ラルとは別に座標の地点を目指していた。ランバ・ラルからは『待っていればいい』と言われていた。だからこれは作戦行動というより、アンキーを心配していたが故である。ラルとの通信周波帯はハモンが把握しているそうで、今の彼女は通信席にいる。ブライトは部外者を嫌がったが、同型艦を敵に拿捕されたペガサス級は、艦の性能漏洩を警戒しすぎてももはやあまり意味はない。

 

「艦長、敵影を発見しました。」

 

〈ラグナレク〉から出撃したアッザムが〈ペイルホース〉を発見した頃、〈ペイルホース〉もまたアッザムを捉えた。その背後には母艦らしきザンジバル級がいる。

 

「コアファイター、全機発進させて」

 

マチルダの指示が飛ぶ。格納庫に待機させていたパイロットが二名、スクランブル発進する。ハヤトとカイだ。

 

『ヒュー、デカいのが浮いてるぜ。』

 

『カイさん、油断しないでください。』

 

『わあってるって。仕掛けるぞハヤト!』

 

マチルダはブライトに尋ねた。

 

「あの敵、コアファイターで勝てるかしら?」

 

「速度は遅い、いざとなれば逃げられるでしょう。ただ…」

 

「ただ?」

 

「コアファイターの火力では、厳しいかもしれません。小当たりして無理そうなら、引き上げさせましょう。」

 

「そうね、速度は維持して離脱の用意を。」

 

戦力としてザンジバルとペガサスは同等である。メガ粒子砲の撃ち合いで負ける気はしないが、勝つのも容易ではない。コアファイター二機しかない〈ペイルホース〉では、有効打がなく勝ち筋はほぼない。

 

「それでも、未知の敵の交戦データは取っておきたい。」

 

ペガサス級は拿捕された。性能は丸裸にされたとみていい。しかし敵は見たことの無い新型だ。性能は掴めるだけ掴んでおきたい。

 

カイが先行し、ハヤトが追尾する。空軍に仕込まれた二機一体の動きで、浮遊するアッザムにミサイルが放たれた。

 

「ふん、小賢しい」

 

マ・クベはアッザムのメガ粒子砲を全門斉射して迎撃する。対空機銃の銃座も担当を配置してある。コアファイターのミサイルは、メガ粒子砲と対空機銃により迎撃を受けて破壊されていく。

 

『うわっ』

 

メガ粒子砲の斉射に、カイが悲鳴を上げる。

 

『火力が違いすぎるぜ。避けるので精一杯だ。』

 

「もう一度だけトライなさい。敵の後方は死角になりやすい。そこを狙って!」

 

マチルダの叱咤が飛ぶ。ジオンも連邦も軍艦の底部は武装がない。装甲を厚くしているがそれだけである。この敵MAも砲門は下に用意されていないとみた。

 

『了解、やってみる!』

 

その物言いは軍人としてはフランク過ぎる嫌いはある。だがカイもマチルダにいいところを見せようと張り切っているのだ。婚約者がいると分かった所で、好きな異性にカッコつけたいのは変わらないのだ。カイだって、チヤホヤされたいのである。

 

『いくぜ、続けよハヤト!』

 

『はい、カイさん』

 

二機は一体となり、海面すれすれを飛翔しながらバルカンでアッザムの腹を狙った。

 

「させんよ。」

 

マ・クベがアッザムリーダーを発動させる。アッザムの底部がプラズマ結界を発生させる。本来はピックを射出する必要があるが、それはMSを閉じ込める場合だ。懐に飛び込もうとする脆弱な小型機程度なら、融解させる出力はある。

 

『うわ、なんだこれ』

 

閃光を放つアッザムの下部をカイとハヤトは高速で潜り抜けた。

 

『あ、危なかった。』

 

カイの頬を冷や汗が伝う。ほんの数秒差で助かった感覚がある。しかし今のでタイミングを掴まれていれば、次は当てられる。これ以上は命を失いかねない。

 

『〈ペイルホース〉これ以上は厳しい。打つ手なしだ。』

 

「ええ,引き上げなさい。このまま離脱するわ。」

 

〈ペイルホース〉は速度を維持して回頭し、連邦の勢力圏へと引き上げる。後にコアファイターが続いた。幸い敵は早くない。というかカメのような遅さである。逃げるのは容易だ。ザンジバルで追ってくるにしても、MAで収容している間に逃げきれそうである。

 

「なんでしょうか、今の攻撃は。」

 

ブライトがポツリと呟いた。

 

「分からないわ。映像を解析させれば、答えは出るでしょうけれど。戦闘機では、対処の難しい相手ね。」

 

コアファイターのバルカンもミサイルもほとんどが迎撃されていた。少しは命中しているが、装甲もザク並みかそれ以上はありそうである。

 

「ただ恐らく、飛行方法はこちらと同じミノフスキークラフト。」

 

ペガサス級を使用しているからこそ、低速で安定可能なミノフスキークラフトの優位性は熟知している。垂直に移動可能な為、ジャブローの秘匿された大型艦ハッチの利用も思いのままなのだ。

 

「厄介な敵だけれど、弱点もあるようね。」

 

後方ではザンジバルがアッザムを収容しようとしていた。しかし相対速度差が大きく、すんなりとはいかないようだ。ザンジバルを失速ギリギリまで減速し、磁気フックを備えたワイヤーで釣り上げて相対速度差を吸収する。開けたハッチにアッザムを飛び込ませるのでは、双方へのダメージが大き過ぎるのだろう。

 

「あの運用では、艦載機としては限界があるわね。」

 

「ええ。こちらは問題なく逃げられそうです。」

 

「迂回しながら、出発地点まで戻りましょうか。」

 

可能ならアンキーを支援したかった。しかしここから先は、ジオン軍同士が決着をつける場となりそうだ。マチルダ達は立ち会えそうになかった。

 

 

 

 

 

—メキシコ湾上空 ザンジバル級〈ラグナレク〉—

 

「評価試験の結果が出たな。」

 

キシリアはため息混じりに、帰投したマ・クベに告げた。

 

「これでは速度が遅過ぎる。」

 

「はっ。こんな筈では。」

 

マ・クベが汗をかく。しかし自信も見せた。

 

「確かにザンジバルでの運用には課題がありました。しかし拠点防衛用の浮遊砲台としてなら、特に制空権を確保するのには使えましょう。」

 

「ほう。確かにそれなら、一考に値するか。」

 

アッザムのメガ粒子砲は魅力である。ペガサスを寄せ付けず、小型機には脅威だ。接近した所で放つアッザムリーダーも、タイミングさえ合えば近接防衛用に有効打になり得る。

 

「私の権限で少数の生産を認める。それでいいな?」

 

「はっ、ありがとうございます。」

 

キシリアはアッザムに一定の評価を与えた。空軍戦力の補填は必要であり、アッザムの浮遊砲台としての価値を認めたのだ。

 

「では先を急げ。ダロタとラルの対決を見逃したくはないからな。」

 

 

 

 

 

—キャプディバ島—

 

島の空港にザンジバルを強引に着陸させると、ラルは部下達にガルマの潜む別荘を強襲させた。そして難なくガルマとイセリナを外へ引き摺り出す。わざわざザンジバルからドムを持ち出す必要もなかった程だ。

 

「ギレン総帥のご命令です。彼女の命が惜しくば、ご同行してください。」

 

「貴様、一介の大尉風情で。」

 

「ガルマ様」

 

イセリナの声にガルマが振り返ると、クランプがパジャマ姿のイセリナに銃を突きつけている。ガルマは歯噛みして沈黙した。

 

「クランプ、そちらの女性の荷物をまとめるのを手伝って差し上げろ。特に着替えだ。ガルマ様はこちらへ。」

 

ガルマを誘導し、装甲の施されたエレカへ押し込む。周囲はコズンとアコースのドムに警戒させていた。高級別荘地とはいえ、いるのは警官や警備員止まりである。ドムが三機もいれば敵はない。

 

「逃げるにしても、もう少し遠くへ行かれた方が良かったですな。」

 

ガルマを案内しながら、ラルはそう伝える。

 

「逃げたわけではない。ただイセリナとゆっくり休暇を楽しみたかっただけだ。」

 

「それなら、予めギレン総帥に話を通しておいてください。」

 

用意された装甲エレカにガルマを押し込める。豪華に作ってあるが、後席のドアは外からしか開かない仕様だ。これもドムと共にザンジバルでサイド3からわざわざ運んだ代物だ。

 

「やれやれ、これは時間がかかるな。」

 

強面ではあるが、クランプは紳士だ。イセリナを着替えさせて、荷物をまとめるのも手伝っているだろう。ランバ・ラルは敵の気配にジリジリしながらも、タバコを咥えて火をつけた。邪魔は入るのだろうなと半ば諦めながら。

 

 

 

 

空港へ戻ると、ザンジバルが二隻に増えていた。そしてその周囲を六機のザクが取り囲んでいた。カラーリングから、ザクはガルマ親衛隊と分かる。

 

(こちらのザンジバルに損傷はないな)

 

「流石に、ザンジバルを壊しては言い訳にならんからな。」

 

MS同士のどつきあいなら、訓練や事故で処理もできるだろう。しかし味方艦の一方的な破壊は反乱行為と見做されかねない。流石にそこは忌避したわけだ。

 

ドムが三機もいれば、ラルの到着もバレバレだったのだろう。通信が入る。指揮官らしき声ががなり立てている。

 

『ラル大尉、こちらはガルマ様親衛隊のダロタ中尉だ。ガルマ様をこちらへ渡してもらおう。』

 

「貴官は、アホだな」

 

ラルはドムの中で直裁な感想を口にした。

 

「こちらはギレン総帥の命令を受けているのだぞ」

 

『関係ない。我らの主人はガルマ様だ』

 

「ならば力尽くで奪いに来い。お互い火器の使用は禁止だ。ガルマ様に、万一があってはまずいからな。」

 

ラルの声に装甲エレカが退避を始める。いや、これは元々退避していたのだ。クランプは動きが早い。ラルの動きを先読みしているからだ。

 

『貴様、こちらは倍の数だぞ。』

 

「雑魚は群れるから雑魚なんだ。」

 

『ええい、やれ! ガルマ様をお救いするのだ!』

 

「コズン、アコース。奴らに教えてやれ!自分たちの不甲斐なさをな。」

 

戦闘が始まった。先頭にいた二機のザクが、ラルのドム目がけて突進してくる。ドムは滑るように加速した。ザクとは次元の違う機動だ。ラルはドムを加速させて流れるようにザクの攻撃を回避する。たたらを踏んだザクがつんのめる。その背後をラルのドムが襲う。抜き放ったヒートサーベルで斬りつけた。

 

足を切断され、ザクが横転する。もう一機はヒートホークを振りかぶるが、遅い。素早く後退するドムのホバージェット推進にザクの踏み込みでは追いつけないのだ。

 

『なんなんだよ、これ』

 

そう罵る敵パイロットの声が聞こえる。いや、その声の主は目の前の敵ではないのかもしれない。コズンもアコースも、同じくドムでガルマ親衛隊のザクを圧倒しているのだから。

 

ザクの二撃目、三撃目も回避すると、ヒートホークを持つザクの腕を切り飛ばし両足を切断する。それでこのザクは無力化できた。後は簡単だ。“青い巨星”ことランバ・ラルがノーマークとなるのだ。残るザクも忽ち全て無効化した。スコアは、ラルが四機、コズンとアコースで一機ずつである。二機のザクいずれも背後から仕留めた。

 

「ガルマ様はこちらで預かる。異論ないな。」

 

ラルのドムの胸部メガ粒子砲は、ザンジバルのコクピットに向けられている。ザク相手に使う気はなかったが、この距離ならば確実にザンジバルのコクピットは潰せる。その意図は、ダロタ中尉にも伝わった。

 

『くっ、ならばイセリナ様だけでもこちらへ』

 

ダロタ中尉の哀願するような口調である。イセリナは処刑されかねないと、彼も分かっているのだ。

 

「ダメだ、交渉の余地もない。」

 

『欲しいのは金か?女か?なんでも用意しよう。』

 

「諦めろ。」

 

交渉に入ろうとするダロタを、冷たく突き放す。ギレン総帥の直命に逆らう価値は提示できていない。ダロタは現実を直視できず、足掻いているだけだ。

 

「では、行かせてもらうぞ。邪魔するようならば、容赦なく撃つ。」

 

『…今見逃すのは、ガルマ様に危害が及ばないようにした結果だ。』

 

ギリリと歯噛みしたような声である。ラルは告げた。

 

「恨むなよ。これも任務と互いに承知の話だ。事故が起きない事を第一にしよう。」

 

『それは分かっている。』

 

『ラル大尉、お早く。』

 

無線で呼びかけるクランプの声がする。ザンジバルが加速する。収納ハッチへとドムを走らせ、ラルはザンジバルに難なく追いついた。そして三本脚でジャンプし、無事に艦内へ収容される。

 

そして上空にはその光景を眺めている者達がいた。

 

「見ろ、マ・クベ。やはり、ああではなくてはな。」

 

ラルとダロタの戦いをアッザムで見物していたキシリアが講評する。

 

「荒れそうなら介入を考えたが、両者とも自制したな。」

 

「ええ、ドムもまた優秀な機体です。是非、こちらで確保したいものです。」

 

キシリアに同意しながら、したり顔でマ・クベがそう頷いた。

 

 

 

 

 

―ザンジバル〈ケルゲレン〉―

 

ランバ・ラルのザンジバル〈ケルゲレン〉は海上を高速で飛翔している。その格納庫では、アンキーが腕を組んで固定作業中のドムを熱心に眺めていた。

 

「凄いじゃないか、このMS。」

 

軽く口笛を吹く。

 

「ガルマ親衛隊のザクが、まるで子供みたいだった。ザクを必死にかき集めていたのが馬鹿らしくなるね。」

 

ドムは凄い、凄いと子供のようにはしゃぐアンキー。その隣に、ドムを降りたランバ・ラルが並んだ。

 

「戦いは数と質のバランスだ。どちらが欠けていてもまずい。そして最も大切なのは技術と経験だ。」

 

「随分、自慢するじゃないか。流石だね、“青い巨星”」

 

「ほう。俺を知っているのか。」

 

「ま、アタシもジオンの連中と付き合いを持っている。それなりに知識を仕入れたのさ。」

 

アンキーが艶のある目つきをする。

 

「ドムを譲ってくれるなら、アタシも色々サービスするけれど。」

 

「しかし、いいのか?」

 

仕掛けたアンキーは誘いを断られたと感じ、鼻白んでラルを見る。

 

「なんのことだい?」

 

「我々はこのままジオンの基地へ戻る。」

 

「そりゃ、そうするだろ?」

 

「だが一つ問題がある。」

 

アンキーは眉を上げた。

 

「ガルマ親衛隊だ。」

 

「親衛隊は、アンタが蹴散らしたじゃないか。」

 

ラルは頷く。

 

「そうだ。ガルマ様を奪われ、ザクも全滅。奴らの面子は丸潰れだな。」

 

「そりゃあ恨むだろうね。」

 

「だが奴らもジオン軍だ。そしてその恨みがどこへ向くか、だ。」

 

アンキーはすぐ理解した。

 

「なるほど、アタシは生け贄か。」

 

「そうだ。」

 

ラルは静かに言った。

 

「今回の作戦、情報源はお前だからな。」

 

「そうだね。」

 

「ダロタが尋ねれば、マ・クベは即座にお前の情報を伝えるだろう。」

 

アンキーは肩をすくめた。

 

「アタシは簡単に切り捨てられるって事か。」

 

「そうだ。ダロタはギレン閣下の総帥府も、キシリア閣下も恨めないからな。」

 

少し沈黙が流れる。そしてアンキーは平然と笑った。

 

「それで別に構わないよ。」

 

ラルは視線だけ向ける。

 

「正気か?途中で降ろしてやってもいいが。」

 

「それじゃアタシは報酬を手に入れらないだろ?』

 

チッチッチっと、アンキーは軽く指を振った。

 

「アンタは自分に一番都合のいい方法を取ればいい。アタシはアタシで勝手にするさ。」

 

ラルは少し目を細めた。

 

「強がりではあるまいな?」

 

アンキーは吹っ切れたように笑った。

 

「強がる理由があるかい?」

 

そして少しだけ声を低くした。

 

「アタシは命を張って情報を売った。取りはぐれは御免さ。」

 

ラルは小さく笑った。

 

「なるほど。情報屋としての覚悟か。」

 

アンキーはニヤリとした。

 

「そういう事。それにアタシなりの保険もある。」

 

ラルはため息をついた。

 

「報酬を払ってやれ、とは伝えておく。後はお前次第だな。」

 

アンキーは満足そうに笑った。

 

「話が早くて助かるよ、大尉。」

 

ザンジバルは寄り道もせず、そのまま真っ直ぐに北を目指した。

 

 

 

 

—マ・クベの司令部—

 

ガルマとアンキーを引き連れたラルは、マ・クベが帰還したと知らされてマ・クベの元へ赴いた。マ・クベはむくれた顔のダロタを伴っていた。

 

「だいぶ暴れてくれたようだな、ラル大尉。かなり、苦情が出ているぞ。」

 

「ガルマ様は回収し、女は殺しました。」

 

ランバ・ラルは端末を取り出した。そして映像を表示させる。ザンジバルの艦内で銃声と共に倒れるイセリナ。続いて遺体袋が、無造作に海に投下された。

 

「死体が出ては厄介です。重しをつけて沖に沈めました。」

 

「イセリナ!貴様よくも」

 

激昂するガルマ、背後からクランプ達に両脇を拘束されている。

 

「ガルマ様、これが遺髪です。」

 

無造作に切り取られたイセリナの髪、その髪を束ねるブローチにガルマは見覚えがある。

 

「イセリナ、ああイセリナ。」

 

離してやれ、と目で合図するラル。遺髪に縋りつき涙するガルマ。マ・クベの視線を受けて、言葉を付け加える。

 

「全て命令通りした事です。任務だと、そうご理解頂きたい。あなたならもっと上手くお出来になったでしょう。」

 

「これは、兄上が命じたのか!」

 

何も答えないラル。沈黙は肯定を示唆する。

 

「何も殺すことはないものを、お気の毒です。ガルマ様、御出立まではこちらでお休みください。」

 

すかさずガルマへと取り入るマ・クベ、ダロタもガルマへと駆け寄る。

 

「ガルマ様、こちらへ」

 

隣室の応接室へ消える二人。彼らを意味あり気にマ・クベは見送ると、ラルへと向き直った。

 

「ご苦労だったな、大尉。とはいえ情報提供者を同行させたのだ、至極簡単な任務だった筈だ。」

 

「アタシの情報に価値があった筈だ。約束通り、報酬を支払って欲しいね。」

 

アンキーの存在を忘れていたかのようにマ・クベは彼女を見た。

 

「ウラガン」

 

マ・クベが副官を呼びつける。

 

「こちらのお嬢さんの相談にのってやれ。約束は守るのだぞ。」

 

「はっ」

 

と敬礼したウラガン、こっちだ、とアンキーを引っ張る。意外と素直に退室するアンキー。

 

廊下に出て、ウラガンは人気のない隅にアンキーを連れ込む。アンキーはウラガンに抱きついた。

 

「ね、上手くいったろ?」

 

人目を憚らず、アンキーとウラガンは夢中で互いの唇を吸い合っていた。

 

 

 

 

 

室内では、ラルとマ・クベが対峙している。

 

「一杯どうかな、勝利の美酒だ。」

 

「頂きます。」

 

マ・クベが、ワインクーラーで冷やした開栓済みの白ワインのボトルを取り上げると、2つのグラスに注いで片方をラルに手渡す。

 

「ジオンの勝利に!」

 

「…ジオンの勝利に!」

 

マ・クベに一拍遅れて唱和するラル。

 

「ふむ、少し浅いが悪くない。」

 

満足そうにグラスを飲み干し、机に置くマクベ。

 

「大尉、お代わりは?」

 

「お願いします。」

 

注いでやりながら、猫撫で声で話しかけるマクベ。

 

「君の新型MS、実に見事だった。」

 

「恐縮です。」

 

今度は自分のグラスにワインを注ぎながら、続ける。

 

「それであのドムだが、この基地に置いて行ってはくれないか。」

 

「あのドムは総帥府からのお預かり物ですが。」

 

「なに、キシリア様からギレン閣下に話は通していただく。地球用のMSなのだ。地球で使うのが当然だろう?」

 

「一介の大尉に、判断を挟む余地など…」

 

「ラル大尉は、私に情報の見返りを約束してくれた筈だ。」

 

「それは『女を殺せ』という命令だったのでは?」

 

「いいや、違う。会話を良く思い返してみたまえ。私は、ギレン総帥の指示を大尉に確認しただけだよ。」

 

沈黙するランバラル。記憶では、確かにマクベはそう言っている。

 

「君は任務をやり遂げた。ガルマ様も無事だ。使い終わったMSの処遇が問題視されるはずもない。後はキシリア閣下の名前を出せばそれで終わる。どうだろう、損のない借りの返済方法だとそう思うが。」

 

「…承知、しました。」

 

「結構。」

 

マクベ、グラスを飲み干す。ラルも続いてヤケのようにワインを飲み干す。

 

「失礼します。」

 

そこに戻ったウラガン、ワインを見て一瞬羨ましそうな表情を浮かべる。

 

「ウラガン、戻ったか。ラル大尉がドムの引き渡しに同意してくれた。手続きをお手伝いしろ。」

 

「はっ。」

 

「ドムを引き渡し次第、ガルマ様を連れて出発します。」

 

「ご苦労だった、大尉。ガルマ様にくれぐれも粗相のないようにな。」

 

「勿論です。」

 

目を光らせたランバ・ラルは隣室へと向かった。ウラガンが続こうとして、『やめておけ』とマ・クベに制止される。

 

「廊下だ、そこで待て」

 

隣室から物音が響き、ラルと部下達がガルマを引き連れていく。先導するのは廊下にいたウラガンだ。

 

「行ったか。」

 

ワインを啜りながら、マ・クベは満足そうに独白した。状況はほぼ全てキシリアとマ・クベの思い通りに進んでいる。後、たった一手で決まる局面だった。

 

 

 

 

 

 

 

ドムの引き渡し作業。それを眺めるラル。報告に現れるクランプ。

 

「ガルマ様はどうだ?」

 

「鎮静剤が効きました。今は眠っておられます。しかし、婚約者が死んだと思わせておいてよろしいのですか?」

 

「ギレン総帥もキシリア閣下も甘くない。ガルマ様が本心から信じ込まなければ騙せんよ。』

 

納得したクランプ、話の矛先を変える。

 

「しかし、ドムを奪われました。これでは総帥府に睨まれますね。」

 

「ガルマ様が最優先だった、で押し通すさ。あちらが先にキシリア様の名前を出したんだ。キシリア様に服従して見せても怒られはすまい。」

 

「そうでしょうか?」

 

「ドムの件は、ガルマ様の生存報告と共にギレン総帥の所へ上がる。書き漏らされる筈がない。作戦が成功したからこそ、必ず伝えられる。悪いニュースは良いニュースと織り交ぜて伝えるものだ。」

 

「それは、そうでしょうが。総帥とキシリア閣下の仲が悪くなりやしませんかね。板挟みはごめんですぜ。」

 

「だからだよ、クランプ。」

 

ランバラルはクランプを向き直った。その瞳はこれまでクランプでさえ見たことのない色をしていた。

 

「ギレン総帥もキシリア様も、アルテイシア様の障害になる。ダイクン派が復活する為には、あの二人には共倒れになっていただこうじゃないか。」

 

 

 

 

 

マクベ、戻ってきたウラガンと会話する。

 

「万事、順調か?」

 

「はい、ガルマ様は乗船されました。ニューヤークは避けて、キャリフォルニアから打ち上げるそうです。ドムも引き渡されております。」

 

「情報提供者は?」

 

「言いくるめて、待たせてあります。報酬は後日渡すつもりです。」

 

「あんな素人丸出しの相手をよく使うな。」

 

「顔が好みでして。セミプロ相手の方が、信頼できますし色々と美味しい思いもできます。」

 

「あまり羽目を外しすぎるなよ。」

 

軽く注意を与えると、マクベは本題を切り出す。

 

「ダロタを取り込む。その為に奴のザクを補填してやりたい。」

 

「どこから調達すればよろしいでしょうか?」

 

「情報屋に渡す予定だったザクがあったな。」

 

ウラガンは一瞬黙った。

 

「……はい。」

 

「丁度いい、それを使え。」

 

「しかし、あれは彼女への報酬として。」

 

マ・クベは磨いていたクリスタルのワイングラスを掲げ、光に透かした。

 

「愛人にすると甘くなる。ここは報酬を絞るところだろう。親衛隊の壊れたザクを代わりにくれてやれ。それで釣り合う。」

 

ウラガンは苦笑した。

 

「それでは関係を切られかねません。」

 

マ・クベは肩をすくめた。

 

「その程度で終わる女なら諦めろ。」

 

「そんな。彼女は憩いなんです。」

 

「男ならば仕事にこそ生き甲斐を求めろ。では、ダロタ中尉に会いに行くぞ。」

 

「はっ」

 

 

 

ガウで故障したザクの搬出を確認していたダロタ中尉、ウラガンを引き連れたマクベの訪問に驚く。

 

「これはこれは、私に何の御用でしょうか。」

 

警戒する口ぶりのダロタ中尉に、マクベは同情しているそぶりを見せる。

 

「そちらのザク、良ければこちらで引き取ろう。代わりのザクを提供する。そこまで壊れると、辻褄合わせは面倒だろうからな。」

 

「そこまでご迷惑をおかけするわけには。」

 

「いいんだ。おい、ウラガン。ザクの交換を進めろ。」

 

「はっ」

 

ウラガンが作業に入り、新品のザクの搬入を開始する。呆然としかし少し嬉しそうにそれを眺めるダロタ。スッと横に立ったマ・クベは、ダロタに話しかけた。

 

「キシリア様も今回の件では君に深く同情されている。弟君思いの方だからな。」

 

「キシリア様のご配慮には、感謝するほかありません。ガルマ様が無事に戻られたのも、キシリア様のご配慮あってかと。」

 

うんうん、と頷いたマクベ。本題を切り出す。ダロタの耳元に囁きかける。

 

「実は、この基地にいらしている。」

 

「え?」

 

「君と会いたいと仰せだ。ガルマ様が去られた後、仮の体制を構築する必要があるだろう?」

 

「そ、それは確かに。」

 

「我々は同じ気持ちだよ、ダロタ中尉。ガルマ様の不在が残念でならない。しかし残された者は、この局面をどうにか乗り切らなくてはならないのではないかな。」

 

 

 

 

―北米中西部―

 

荒野に着陸したザンジバルに、エレカが駆け寄っていく。ハモンが運転するエレカの助手席では、マチルダが腕を組んでいる。後部座席にいるのはセイラだ。停止したザンジバルに追いつき、待つ。ハッチが開き、一人の女性を連れたランバ・ラルが姿を見せた。

 

「あれ、アンキーではないわ。」

 

マチルダがものといたげな視線を向けるが、セイラとハモンも相手が誰か分からない顔をしていた。

 

「彼女の保護を頼みたい。」

 

ラルは率直に言った。マチルダは一瞬だけ黙り、尋ねる。

 

「彼女、何者なの?」

 

「ガルマ様の婚約者イセリナ様だ。私が殺した事になっている。ギレン総帥の射殺命令が出ていてな。」

 

「射殺命令? 穏やかじゃないわね。」

 

「ああ。君達と出会わなければ本当に殺すしかなかっただろう。だが、この状況はダイクン派にとっては利用できる。』

 

マチルダは理解したように頷いた。

 

「なるほど。つまり連邦で匿って切り札にするのね。」

 

「そういう事だ。理解が早くて助かる。」

 

マチルダは少し笑った。

 

「いいわ。預かりましょう。ただし条件がある。」

 

「なんだ。」

 

「彼女自身の意思よ。助かりたいだけなのか、本心からあなた達ダイクン派に協力するつもりなのか。それ次第でこちらの対応も変わるわ。」

 

「あります。」

 

その時、人形のように静止していたイセリナが声を発した。そして機体の影から陽の下へと一歩踏み出す。

 

「私達は今のジオンに居場所がありません。それはガルマ様も分かっていました。」

 

イセリナは真っ直ぐにセイラを見た。イセリナの髪は肩口で切り揃えられている。

 

「ザビ家の支配が続く限り、私はガルマ様から引き離され、次こそ必ず殺されます。」

 

マチルダもセイラもハモンも、彼女の浮かべる悲壮な表情に呑まれる。

 

「私はダイクン派に協力します。私とガルマ様が一緒になれるのは、それしか道がありません。」

 

「…そういう事だ。ハモン!」

 

場を締めたラルが大音声でハモンを呼び、手招きする。ハモンが駆け寄ると、二人は抱きしめあった。ラルはハモンの髪に顔を埋めた。何事かを、囁きあう。秘密の相談などではない。誰が見ても恋人同士の囁きだった。

 

 

「このハモンも同行させる。イセリナ様の護衛とすれば怪しまれまい。彼女ならどこかで俺と連絡をつけられよう。共通の知人が多いからな、顔でわかる。」

 

「彼女は、ジオン軍人ではないのよね?」

 

「ああ。軍に籍を置いた事はない。その点が問題になる事は無いはずだ。」

 

「それなら、私も連邦軍に志願します。あなた達は、元々兵が不足しているのでしょう?」

 

イセリナの決意にマチルダは驚いた。

 

「本気?」

 

「はい、戦争が終わるまでなら。もうガルマ様は戦場には戻れないでしょうし。」

 

ラルは黙って彼女を見ていた。

 

「覚悟はあるのね。」

 

マチルダが言う。

 

イセリナは頷いた。

 

「あります。」

 

マチルダは笑った。

 

「いいわ。」

 

「私の艦に歓迎する。」

 

その時ラルが咳払いして付け加えた。

 

「情報屋の女の件だが、君たちの仲間なんだろう。ジオンの司令部にいる。まだ捕まってはいないが、支払いで揉めているかもしれない。」

 

マチルダは肩をすくめた。

 

「彼女も覚悟の上よ。捕えられていないなら、私なんかよりずっと上手くやる。きっと無事で帰ってくるわ。」

 

 

 

 

―ザンジバル〈ラグナレク〉貴賓室―

 

そこは艦内で最も豪奢な区画。床には厚い絨毯が敷かれ、豪奢な家具が固定されている。それでも広い室内。その中央に、キシリア・ザビは立っていた。ノックと共に、部屋の外からマ・クベの声がする。

 

「マ・クベです。ダロタ中尉を連れて参りました。」

 

「入れ。」

 

扉が開く。ダロタは緊張した面持ちでマ・クベに続いた。そして入室してすぐに敬礼する。

 

「ダロタ中尉、参上いたしました。」

 

キシリアは静かに彼を見た。マスクから覗いているのは相手を値踏みする鋭い視線だった。

 

「今回の件、中尉には災難だったな。」

 

ダロタは顔を伏せる。

 

「はっ……」

 

「ラルにガルマを奪われ、ザクも失った。だが、最後まで諦めなかったのは立派であった。』

 

少し間を置く。

 

「私は中尉を評価している。」

 

ダロタは驚いて顔を上げた。

 

「もったいないお言葉です。」

 

キシリアはゆっくりとダロタに歩み寄る。

 

「知っての通り、ガルマはサイド3へと帰る。北米の指揮系統は再編されねばならない。」

 

マ・クベが横から言う。

 

「ハワイはキシリア様の管轄。キャリフォルニアやニューヤークも一元化すれば、効率化できましょう。」

 

キシリアは腹心の言葉に頷いた。

 

「ガルマの部下全員に今の地位を保証する。どちらが上か下かの下らぬ駆け引きもなしだ。ただ等しく国家に尽くせばいい。分かるな?」

 

ダロタは理解した。これは政治の話だ。北米ジオンの実権が、ここで今キシリアの手に握られようとしている。それも他ならぬ自分を利用して。

 

「さて、ダロタ中尉。」

 

キシリアが呼ぶ。

 

「はっ!」

 

「貴官はガルマの右腕として北米が長い。今後も私の下で働いてもらおう。」

 

ダロタは少し躊躇してから言った。

 

「恐れながら……」

 

「なんだ。」

 

「ガルマ様に対して、閣下のお口添えを頂けないでしょうか。」

 

キシリアは一瞬だけ笑った。

 

「ガルマは私の可愛い弟だ。ギレン総帥にとってもな。だから出来る限りの事はする。」

 

ダロタは深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。」

 

そして頭を上げたダロタは、キシリアの目をまっすぐに見る。迷わず答えた。ガルマの為に、部下と自分の居場所確保の為に。

 

「この身、閣下のために。」

 

キシリアは満足そうに頷いた。

 

「よろしい。」

 

マ・クベはその様子を静かに眺めていた。

 

 

 

 

—北米中西部—

 

アンキーは翌日には解放された。送り届けて貰い、いつもの酒場に来ていた。待機していたリュウがアンキーを迎えに行き、コアファイターに乗せて〈ペイルホース〉へと合流を果たした。

 

「今回は大変だったね。でも見返りは大きいはずさ。」

 

ザク払い下げの確約を得たアンキーは、興奮で鼻息を荒くしていた。連邦にMSがない以上、法則は定まっていない。しかし一般的にザク三機が小隊であり、十二機というのは中隊規模である。これまで運んだザクはパーツに回せば、充分に中隊運用が可能な筈だ。

 

「そんなに搭載できるかしら?」

 

「往復するしかありませんね。」

 

「ちゃんとそこも話を通してある。初回は半分の六機さ。」

 

輸送の段取りを話し込むマチルダとブライトに対して、アンキーは自信を見せた。危険な敵の本拠に乗り込んで、話を纏めた興奮が今も彼女を支配している。

 

「座標はここ。完璧に整っている筈さ。」

 

自信を漲らせて胸元から紙片を取り出したアンキーに、マチルダは『心配して損したな』という表情を浮かべた。

 

 

 

 

回収に出向くのは深夜だ。灯火を消した〈ペイルホース〉は、ミノフスキークラフトを駆使して静かに降下する。

 

指定された場所に、大きな防水シートのザクらしき影が並んでいる。アンキーが喜び勇んで防水シートを剥がした。そこには大破したザクが鎮座していた。次々とシートを剥がしても、出てくるのは破損したザクばかりである。

 

「あ、これ。あの新型にやられたザクじゃないか。」

 

見覚えのあるエンブレムに、アンキーは気がついた。彼女の脳裏にウラガンの顔が浮かぶ。

 

「ふざけんな、あの男。騙された!」

 

アンキーは地面を蹴った。そして荒野で叫んだ。

 

「絶対に、この貸しは取り立ててやるからな!」

 




【あとがき】

GQuuuuuuX世界線及びファーストでの一年戦争の伏線を、今回の上下で色々と回収しました。

①アンキーの暗躍とジオン内のパイプ
②ダロタのキシリア派への参加
③ラルとセイラの接点・ダイクン派の蠢動
④庵野プロットのガルマ駆け落ちとイセリナ銃殺の真相
⑤ファーストのアッザム登場とキシリア視察回
⑥ファーストのマ・クベによるドム補給妨害
⑦ギレンとキシリアの派閥争いの深化

オデッサ関連、ソロモン関連などまだ残っていますが一つ大きな山を越えた気分です。

今回ボリュームがあり細部の精査は不十分かもしれませんが、このまま更新します。毎日の更新は厳しくなっておりますが、ソロモンまでは更新する予定ですのでよろしくお付き合いください。

また好意的な感想など頂けると捗ります。非ログイン感想可能ですので、よろしくお願いします。

よろしければアンケートにもご協力いただけると嬉しいです。

GQuuuuuuX Another side 第05話 謀略の北米(下)の感想や要望に近いものを選んでください。

  • ジオン政治劇が良かった
  • ラル隊のドム戦が良かった
  • マチルダの奮闘が良かった
  • アンキーの活躍が良かった
  • ダロタの執念が良かった
  • キシリアの策略が良かった
  • マ・クベの圧力が良かった
  • ダイクン派の伏線が良かった
  • 【要望】ダイクン派の動向
  • 【要望】ジオン内部抗争
  • 【要望】ラル隊の活躍
  • 【要望】マチルダ隊の戦い
  • 【要望】ガルマとイセリナ
  • 【要望】キシリアの政治戦
  • 【要望】連邦側の反撃
  • 【要望】アンキーの物語
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