【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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【改稿】
初出時、キシリアが評議会に参加していました。しかしGQuuuuuuX本編で「キシリア閣下とギレン総帥は戦争開始以来対面していない」とのセリフがあったのを思い出し遠隔参加に改訂しました。

またマ・クベは一年戦争中は大佐説に伴い、その点を改訂しました。


GQuuuuuuX Another side 第06話 ゴースト・ザク中隊

ージャブロー

 

マチルダの操艦で、〈ペイルホース〉はジャブロー管制空域に入った。スラスターの推進を切り、警告灯も消す。マチルダはミノフスキークラフトのみのすり足のような低速移動で、ジャブローの隠しハッチを目指していた。

 

日が沈む寸前の薄明かりの中、マチルダは空域管制に呼びかけた。

 

「エリアコントロール、こちらペガサス級〈ペイルホース〉着陸の許可を願う。」

 

『了解、〈ペイルホース〉。低速で偵察小隊を待て。タンゴ小隊が現在急行中。彼らの監視下で着艦せよ。以後の管制はタンゴに引き継ぐ。』

 

偵察小隊は、TINコッドとディッシュの混成小隊だ。彼らが来れば、潜んでいる敵は身動き出来ない。敵に見られる危険をかなり減らせる。ここまで用心してそれでもなお敵に着陸地点を把握されたとしたら、よほど間が悪いとしか言えない。

 

『…こちらタンゴ03、視認した。流石だな。空に溶けてるぜ、お嬢さん。…そのまま進め。』

 

このペガサス級は、空の色に溶け込む色に塗装されている。そしてミノフスキークラフトは推進音を発しない。ミノフスキー粒子の充満した鬱蒼としたジャングルの中、空のどこにいるかも分からないこの艦を見つける。それだけでも至難の技だ。ディッシュの監視下で発見されずに追跡するのはまず不可能だろう。

 

(敵に見つかれば、連邦軍最大の秘密が暴かれる。)

 

ゆったりと気配を気取らせぬ動きで、ハッチの位置を探る。レーザーの応答で確定させる。そのまま滑らかに降下し、ハッチに触れる寸前で浮遊して待つ。

 

大型ハッチの外縁警告灯は消えている筈だ。だがハッチ内の中の照明は多分違う。それが目立たぬ様に、ペガサスの艦体で蓋をするのだ。後は木立が隠してくれる。

 

(このハッチの横で、敵が待ち構えているかもしれない)

 

薄闇は嫌な想像を掻き立てる。広大なジャングルのどこかに必ず敵が潜んでいる。そう考えると余計追い込まれる。

 

(もしそうだったとしても、それは流石に私の責任ではないわ。)

 

ハッチの真横で敵が着艦を見ているなら、それは敵の運が良すぎるだけだ。

 

「艦長、ハッチの解放を確認しました。」

 

オペレーターのオスカーが声をかける。ハッチが解放されたのを目視して、マチルダは降下を再開する。そして無事に着座した。

 

『お疲れ様、別嬪さん。相変わらずいい腕だったよ。』

 

「タンゴ03、貴方達の見守りに感謝してキスを送るわ!」

 

偵察小隊からの通信に、マチルダは感謝の言葉を伝えた。この場合、礼儀よりオーバーリアクションが好まれるものだ。

 

強襲揚陸艦を載せた台座が脚部を固定する。そして更に奥へと横移動を開始した。

 

「実に見事な操艦です。」

 

艦長席から見学をしていたブライトが、賞賛の言葉を投げる。

 

「当然よ。私はこの技術を買われて、ジャブローに輸送部隊担当士官として選ばれたのよ。」

 

マチルダは興奮状態を隠せぬまま、少しだけ得意げに言った。ミデアでもずっと似た様なことをしてきていたのだ。ミデアにミノフスキークラフトはないので、ジェットエンジンを切る所まではしなかったが。どちらが楽かは難しいが、慣れればゆっくり動けるペガサスの方が楽であろう。

 

「この艦は目立つわ。段取りが悪ければ、ジオンにジャブローを発見されかねないでしょうね。目立たない時間帯を選ぶ、警戒小隊を呼ぶ、警告灯を消す。この三つは絶対よ。少尉も良く覚えておきなさい。」

 

ブライトは、驚いた顔を見せていた。初めて得た知識なのだろう。もしも適切な知識を欠いてジャブローへ着陸したら、きっとジオンに発見され内部へと敵を導いていたに違いない。そうなれば譴責されるだけでは済まない。ジャブロー全体が、ジオンの猛攻を受ける流れとなった筈だ。

 

「では、この場を任せます。私は急ぎ、レビル将軍に面談してきます。誰も外へは出さないで。」

 

ブライトは頷いた。今、ブライトは艦長席にいる。それはジャブローへの降下を、これまで必ずマチルダが担当していたからだ。加えて今回は別の事情もある。

 

早急にクラウレ・ハモンとイセリナ・エッシェンバッハの処遇を確定させる必要があるのだ。

 

幸い、マチルダはレビル将軍の下で秘匿作戦に従事している。“ザクを輸送する任務”はジャブロー基地内では知れ渡っている。だからレビル将軍への報告は、すぐに認められる筈である。

 

手早く用意させていたエレカに乗り込み、警備の兵士たちへ向けて走り出す。警備担当に対しては、マチルダの艦は秘密の貨物を扱うと周知されている。その動きを不審と見る向きはない。

 

「私は本艦の艦長です。レビル将軍へ最優先の報告があります。」

 

マチルダは身分証を取り出して警備の担当者にそう声をかけると、司令部へとエレカを走らせた。

 

だが残念ながら、レビル将軍は不在だった。欧州への視察に赴き、いつ戻るかさえも分からないという。

 

(まずいわ)

 

マチルダは少し焦った。今動かなければ憲兵か軍警察に捕まる。ハモンやイセリナの身柄を引き受けたのは、レビル将軍ならばという想いがあったからだ。

 

(良く知らぬ将官に掛け合って、簡単に通る話と思えない。)

 

何かの拍子に彼女達が発見されれば、大問題になる。動けるのは帰投した直後の、今この瞬間だけだ。

 

「そうか、彼女なら。」

 

マチルダは部下の一人の顔を思い出すと、〈ペイルホース〉へと車を走らせた。艦では、既に運ばれたザクの搬出作業が開始されていた。

 

「ミライ、いいかしら?」

 

ミライを呼び出し、艦長室に呼んで事情を説明する。何事かと驚いていたミライは、すんなり事情を飲み込んでくれた。元々、彼女は頭の回転が速い。

 

「ゴップ提督に許可を得るなら、二人もこのまま連れて行く方がいいでしょう。リュウとカイもつけましょう。」

 

大所帯になったが、ミライの言う通りにして司令部へと戻った。リュウとカイは『見張りをつけている』というアリバイの為である。それで警備兵には「司令部へ移送し、身分を確定させる士官見習生」と説明し乗り切る。

 

リュウには見張り役として通る体躯の良さが、カイには事情を的確に説明する要領の良さがある。この二人を護衛役につけておけば、まず安心である。

 

「リュウ、カイ、それでは二人を頼むわね。」

 

外のエレカで四人を待たせると、マチルダはミライを連れて司令室に戻った。そしてミライとの連名で、ゴップ提督を呼び出してもらう。

 

(越権行為もいいところ? いいえ、背に腹は変えられないわ。)

 

幸い、ミライの名前を副官が把握していた。『いずれ、彼女は訪ねてくる』とゴップ提督から指示を受けていたらしい。

 

「こちらへどうぞ」

 

待ち時間なしで通された。ゴップ提督が自室にいたのも幸運だった。

 

「よく来たね、ミライ。それに君か、アジャン中尉。」

 

ゴップ提督はマチルダを顔で覚えていたようである。

 

「お忙しい所、申し訳ありません。」

 

敬礼したマチルダは、早速本題に入った。

 

「レビル将軍が長期不在との事で、至急ご報告したい件があります。」

 

「ふむ、何事かね。」

 

事情をかいつまんで説明する。ガルマ・ザビが駆け落ちした事,現在は拘束されてジオン本国へと向かった事。そしてガルマの婚約者を彼らが保護した事である。

 

「彼女達は、付き添いと共に連邦軍へと志願を希望しています。ジオンの軍籍にはなかったとの事で、私の権限で士官見習生として受け入れました。」

 

マチルダはそこで言葉を区切った。ゴップの顔色を窺う。

 

「北米でジオン相手の作戦だ。ま、そういう事もあるだろうな。よかろう、レビル将軍には私から伝えておこう。」

 

ゴップ提督の返答はあっさりしたものであった。黙って聞き入っていたミライが思わず安堵の吐息を漏らす。

 

「全てお認め頂けるという理解で、よろしいのでしょうか?」

 

マチルダは思わず尋ねていた。無礼を承知でも、ここは言質を取らねば危ない所である。

 

「ああ、その理解で構わない。後で正式な身分証や制服を艦に届けさせる。それまで作戦行動はなしだ。まあ、こちらも許可は出さないがね。」

 

冗談のつもりか、ゴップ提督は面白そうに笑う。

 

「ガルマ・ザビ大佐は失脚したのだろう? 彼は軍にも残れないだろう。そのお嬢さんは、元々連邦の民間人だ。志願する権利もある。君の艦で保護するのはちょうどいいだろう。」

 

「はっ」

 

「ただし、条件がある。」

 

「条件、でありますか。」

 

「名前だ。そのままでは目立ちすぎる。特に姓だな。そちらを変えさせよう。でなければ、すぐに家族に見つかるぞ。」

 

連邦軍のデータベースは全軍で共有される以上、姓名の検索は半ば公開されているようなものだ。イセリナの名がそのまま登録されれば、ニューヤーク市長にまで話が伝わりかねない。

 

「そのお付きの女性と姉妹としてはどうか。イセリナ・ハモンとクラウレ・ハモン姉妹。その条件で良いなら、備考欄に私が記載を入れよう。二人を転属させるのを禁じる、とね。」

 

「ありがとうございます、そこまでして頂けるとは。」

 

「なに、気にせんでいい。君に貸を作れるとすれば安いものだ。どうかね、私の部下にならないか?」

 

マチルダは虚を突かれた。しかし彼女の本能は、『これはいい機会だ』と囁いていた。ハモンやイセリナを庇うのなら、このまま温厚なゴップ提督の下につくのは都合がいい。

 

「自分だけで判断できません。お時間を頂戴できませんか。皆と相談させて下さい。」

 

「ああ、そうしたまえ。」

 

ゴップ提督はミライを眺めながら、そう答えた。ミライの判断を優先すると、マチルダの意図をそう解釈したのだろう。

 

「彼女達は下に待機させてているのだな?簡単な事情聴取と身分証の発行を行う。それが終わったら、書類と共に艦に送り届けさせよう。」

 

ゴップ提督はさらさらと命令書を記し、サインする。それは身分証の発行の指示であり、イセリナとハモンの身分をゴップ提督が保証する証明だった。

 

 

 

 

—サイド3—

 

ガルマ・ザビを総帥の部屋に送り届けると、弟を迎え入れたギレン総帥はランバ・ラルにおざなりに言葉をかけた。

 

「ご苦労だったな、ラル大尉。君の評議会資格は回復させよう。では、下がりたまえ。」

 

ランバ・ラルは素直に頭を下げて感謝を示し、退室する。

 

「ありがとうございます。では、失礼します。」

 

恭しく総統室のドアを閉める。途端に、中から兄弟が怒鳴りあう振動が響いた。明瞭に聞き取れはしないが、兄七割に弟三割の罵倒といった雰囲気だ。

 

「ご活躍でしたわね、大尉。」

 

背後からかけられた声は、総帥秘書のセシリア・アイリーンである。未だ十代の若き才媛だが、ギレン総帥との関係を疑う声も多い。彼女を小娘と侮るジオン軍人の多い中で、ランバ・ラルは彼女には殊更丁重に頭を下げて見せた。

 

「はっ、ありがとうございます。」

 

ハモンから警告されていたのだ。セシリア・アイリーンは、既にギレン総帥と関係を結んでいるであろうと。いずれにせよ胸中に陰謀を秘めた今のランバ・ラルにとって、小娘に頭を下げる屈辱など何ほどの事もない。

 

セシリア・アイリーンもラルの態度を敏感に感じ取った。この辺りの呼吸は、男よりも女の方が通じ易い。明瞭に“ギレン総帥の妻”として扱われたと、そう受け取った。

 

(ラル大尉、意外とスマートだわ。)

 

ランバ・ラルは既にその実力を証明している。しかもドムの件で、キシリア少将と揉めた事を彼女も耳にしている。評議会へ復帰が決まり、総帥の恩を受けた所だ。更なる躍進を目指し、総帥の妻に取り入る姿勢を見せておかしくはない。

 

(彼が下手に出るなら、私が引き立ててあげてもいいわ。) 

 

セシリア・アイリーンの胸中にある思考はそれである。なんと言っても、ラル家は名家だ。サイド3建国の功労者として今も色褪せぬ栄光に包まれている。他の将校とは格が違う。潰すにせよ育てるにせよ、彼女が時間を割くだけの価値はある。

 

「ラル大尉も、お気の毒でしたわね。キシリア少将の部下から横槍が入ったとか。」

 

探りを入れる。ランバ・ラルも腹を見せた。

 

「ガルマ様をお連れする為には、他の事は余事とそう自分に言い聞かせました。総帥からお預かりしたドムを渡す結果となり、申し訳ありません。」

 

「ラル大尉の責任などと言う者は、誰もいないのですよ。私が、そうは言わせません。」

 

セシリア・アイリーンは笑顔と共に、総帥を操る女の自信を見せた。使える士官は、その殆どが前線に送り込まれている。その点、ランバ・ラルは評議会に席を復活させた。彼女やギレン総帥の使い勝手のいい駒となり得る。

 

「ありがとうございます。ギレン総帥にもよろしくお伝えください。私は総帥の命令なら、どの様な任務もお引き受け致しますと。」

 

「あら、必ずお伝えしておきますわね。」

 

ランバ・ラルは美貌の秘書官に見送られながら、その場を後にした。彼はセシリア・アイリーンの外見の美しさよりも、その野心的な内面を見ていた。そこに手応えはある。見た目通りの初心な小娘なら、あの様には振る舞えない。

 

(ダイクン派が復活を遂げるには、ギレンとキシリアには争って貰わねばならない。)

 

ダイクン派の取りうる唯一の策はそれである。敵に互いに競わせて退場させる。それしかない。

 

(対立を促すには、最前線で争いの種を蒔き続ける必要がある。)

 

そんな得にならない事、普通はしない。だから怪しまれない。それはアルテイシアというもう一人のプレイヤーの存在を、誰も知らないからだ。

 

(全てはそう、アルテイシア様の為に。)

 

ランバ・ラルは、セイラの為に泥水を啜る覚悟をとうに決めていた。

 

 

 

 

 

ージャブロー・戦術シミュレーション棟—

 

巨大な円形ホールの中央に、半球状のカプセルが十数基並んでいた。モビルスーツ戦闘用の戦術シミュレーターである。実機がまだ開発中のため、適正試験や訓練はまだシミュレーション頼みなのだ。

 

ゴップ提督からパイロット候補生と共に呼び出されたマチルダは腕を組み、集まった顔ぶれを眺めていた。見慣れない顔が多い。階級章も部隊章もばらばらだ。北米、欧州、宇宙、そして地球各地の基地から集められたパイロット達なのだろう。

 

その中に混じるようにして、〈ペイルホース〉のパイロット候補生達も立っている。カイ・シデンが口笛を吹いた。

 

「おいおい、随分と凄そうな顔ぶれだね。俺達、場違いじゃないかしら。」

 

彼の視線の先には、筋骨たくましい大男がいた。誰もが戦士の面構えをしている。誰もが実戦経験を詰んだ顔をしていた。その中にパイロット候補生らしき女性パイロットが二人だけいる。カイは彼女達に笑顔を向けるが、ツンと無視された。

 

いかにもエース、といった雰囲気の男性が三名立ち話をしている。彼らは明らかに指揮官級の人材だった。しかしエリートだけでなくガラの悪そうな連中もいる。中には自動販売機が動かなかったと見えて、筐体を蹴り始めた男がいた。

 

「おい。」

 

突然その男が声を発した。

 

「このヤザン様を、一体いつまで待たせておくつもりだ?」

 

その時、彼の背後の扉が開いた。

 

「待たせたな。」

 

部下を引き連れて入室したのはゴップ提督である。あまりのタイミングの良さに、場の空気が一瞬で張り詰めた。しかし提督は、不遜な態度のパイロットの事など一顧だにせず最前列に進み出た。そして振り返り、辺りを睥睨する。

 

「揃ったようだな。」

 

指揮官級のパイロット達が、ガラの悪い部下を睨みながら頷いている。悪目立ちしたヤザンとかいう不埒者は、きっとこの後で彼らに締め上げられるのであろう。

 

「では本題に入る。」

 

ゆっくり歩きながら、ゴップは全員を見渡した。

 

「諸君は、各戦線から選抜された。反攻作戦に向け、モビルスーツ中隊を編成する。今後の連邦のMS運用の中核となる精鋭部隊だ。」

 

ざわめきが起こる。モビルスーツ部隊。それは、今やこの戦争の主役だ。この場にいる誰もが、それを熱望してやまなかった。青いノーマルスーツ姿の男が小さく笑った。

 

「なるほどね。それで呼ばれたか。」

 

先ほどとは別の指揮官が小声で部下を叱責する。

 

「黙りたまえ、スレッガー・ロウ中尉」

 

ゴップはその言葉に肩をすくめた。

 

「これは連邦製MS配備開始までの、短期間の編成だ。」

 

そう言って言葉を付け加える。

 

「いずれ諸君達は各方面軍に戻る。そこでそれぞれMS部隊を指揮ないし教導してもらう。」

 

「自分はギャリー・ロジャース大尉であります。連邦のMSは遂に完成されたのでしょうか?」

 

指揮官級の一人が質問を発する。先程のスレッガー・ロウを嗜めた指揮官だ。

 

「いいや、まだだ。今度の反攻作戦には間に合わん。だが心配はしなくとも良い。」

 

そこでゴップ提督はニカっと笑った。悪い笑みである。

 

「君達の為に特別にザクを用意してある。ジオンとの差別化の為、カラーリングは白に近い灰色だ。これは霧や幽霊をイメージした。」

 

ゴップ提督の声に合わせて、ディスプレイにザクが大写しになる。副官か試験官が操作しているのだ。ゴップ提督は慕われているのだろう。

 

「部隊名は“ゴーストザク”中隊。本来は存在してはいけない部隊だが、背に腹は変えられん。このザクの中隊で、君達はジオンに敗北を教えてやりたまえ。その為に、実に十六機ものザクが用意されたのだからな。

 

 

 

 

—サイド3評議会—

 

ジオン公国は革命を成し遂げた有力家の連合体である。コロニーのインフラ、産業、時にはコロニーそのものの所有者である。それらを握る創業家こそ、ジオン公国の真の支配者だ。彼らは評議会を構成していた。それは法律を審議し内閣を承認する議会とは異なり、デギン公王ギレン総帥を補佐する諮問機関の一種である。

 

宇宙では水も空気も無料ではない。住民の為に水と空気と電気を止めないという行為は、官僚や軍人には不可能だった。権力に屈しない責任を持てたのは、労働者を守った創業家や労働者のリーダーに限られた。ジオン独立戦争において培われたその信頼関係は、宇宙世紀における新たな地縁的な関係となったのである。

 

地球連邦政府が派閥により成り立つなら、宇宙世紀の移民の集団結束は文字通り血で描かれた盟約の間柄である。有力家の差配する範囲は、ジオン公国の軍や官僚の人事を左右する程に大きかった。評議員としての地位を停止されていたランバ・ラルが大尉の地位に据え置かれたのもこれが原因であった。

 

「諸君、改めて紹介しよう。今回、評議会の席を回復したランバ・ラル少佐だ。」

 

ギレン総帥の紹介に合わせて、ランバ・ラル少佐は立って周囲に会釈した。永らく大尉だった彼が、総帥のこの一言で忽ち少佐に昇進した。

 

(これは。早速セシリア・アイリーンに媚びた成果が出たか。)

 

ギレン総帥としても、評議員は自分の影響下におきたい。少佐への昇進は表向きは作戦成功に対してだろうが、実際はラルを懐柔する餌というところか。或いは単に、会議に参加する最低資格として佐官を意識したのかもしれない。

 

「知っての通り、我が弟ガルマが私的な理由で軍を退いた。そのガルマを、ラル少佐に連れ戻して貰ったという訳だ。そうだな、少佐?」

 

「はい、その通りです。」

 

ガルマ・ザビについてはそれで終わった。あっさりとしたものである。実際はザビ家内部で処遇を決定するのだろう。キシリア少将もこの場に姿を見せている。

 

「さて、ガルマの後任人事に入りたい。意見はあるかね?」

 

手を挙げたのはただ一人。沈黙を貫いていたキシリア・ザビ少将である。彼女のみはグラナダからリモートで会議に参加していた。

 

『…北米は既にマ・クベ大佐に担当させています。ガルマの副官であったダロタ中尉も、よくマ・クベを補佐しています。このままマ・クベに担当させましょう。』

 

「ふむ。」

 

ギレンは煮え切らない返事をした。

 

「実は参謀本部からは、ガルシア・ロメロ少将を推薦する声が出ているのだがな。」

 

『…上に媚びるのだけが得意な、愚物でしょう。』

 

キシリアは切って捨てる。地球方面軍司令にガルマ・ザビが就任したのには理由がある。軍人としての能力以前に、派閥の論理がそれを要求したのだ。ギレンにせよキシリアにせよ、ガルマならジャブローを攻略しても許容し得た。

 

しかし、もはや候補者に中立的な人材などいない。評議員というレフェリーを加える形でこの兄妹は政争を繰り広げているが、今日この場で簡単に結論を出せる問題ではなかった。

 

「そうだ。ラル少佐は北米にいたな。何か意見はあるかね。」

 

それはラルに対するギレンの無茶振りであった。しかし『評議会に残りたければ、役に立って見せろ』というその意図は明白であった。

 

「それでは、発言を宜しいでしょうか。」

 

ランバ・ラルはギレンの頷きという許可を得て立席し、所見を述べる。

 

「ジャブローは巨大要塞です。これを攻めさせる事が、連邦側の思惑ではありますまいか。」

 

『……ほう?』

 

ギレンだけではない、キシリアの目が光った。

 

「考えるに、ジャブローは実に巨大な消費都市です。地球の他の地域と切り離されて、それでもなおジャブローはそのまま脅威であり続けるのでしょうか?」

 

「補給を絶って持久戦でもしようというのかね。」

 

ギレンが前向きな反応を示す。

 

「はい。我が軍は既に地球上の主要な資源採取地への攻撃を敢行しています。これを拡大継続し、支配領域を広げて慰撫するべきです。そしてジャブローへの補給を遮断しつつ、着実に占領を推し進めればいずれジャブローは無力な存在へと成り果てると考えます。」

 

「ふむ。攻略から占領、占領から支配の段階へ進ませよという事か。」

 

ギレンは思案する顔になった。ジャブロー攻略を優先するのは、ジオンなりの短期決戦志向である。連邦がMSを開発する前に、というのはこれまでの暗黙の了解であった。

 

「はい。ガルマ様の進められた北米の支配は順調でした。この前例に倣うならば、我らジオンによる地球の攻略は成り立つでしょう。」

 

ガルマは優しい性格で軋轢を嫌った。軍人としては果断さにかけるきらいがあったが、統治者としては緩い支配で反発は買わなかった。その軟弱さのもたらした成功こそを奇貨とすべきではないか。それにラルには別の思惑もある。

 

(ガルマを褒めれば、兄姉も悪い気はしない筈だ。ガルマの処分も軽くなるのではないか。)

 

ここでガルマの功績を称えておくのは、ギレンもキシリアも刺激しない。それにイセリナを匿った。ガルマを生かせば後々役に立つと、そう判断していた。

 

「どう思う、キシリア?」

 

『……一考の余地はあるかと。』

 

現在の問題は、ギレンもキシリアも相手にジャブロー占領という功績を独占させる意図がない点にある。短期決戦という当初の方針は、ジオンに内在していた“協力関係の不備”問題が既に露呈していた。

 

ジオン公国軍が総力を集結させねば、ジャブロー占領はおぼつかない。だが、既に足のひっぱり合いは起きている。ガルマが総大将であった時でさえ、ジャブロー攻略は後回しにならざるを得なかった。後任の指揮官が誰に決まるにせよ、占領までに必ず多大な停滞は生じる。攻略体制の立て直しと準備を考えると、短期決戦の為の時間的猶予は既に尽きた。その見立ては間違いではない。

 

軍事は停滞を何よりも嫌う。ラルの案は『ジャブロー占領という最適解を取り得ないのであれば、現状に即した次善の策を取るべき』という事である。今の部隊配置で出来ることに注力する、それは正解かもしれない。

 

参謀本部もその事実に気がついていようが、権限的にそこまでは踏み込めない。彼らに与えられた課題はジャブローの占領であり、今回の様な設問の変更は掟破りだからだ。ラルの様な野戦指揮官ならではの発案である。

 

「よかろう。では、マ・クベとガルシア・ロメロの二人に役割を分担させよう。二人の分担でジャブローを干上がらせる。その方針で良いな、キシリア。」

 

『…はい。ですが、そのままでは上下関係で揉める可能性があります。マ・クベも少将に昇進させるべきかと。』

 

「司令官としては同格、としておけばいいだろう。その上で、ジャブローの占領は棚上げという事を全軍に徹底させよう。それで、軍事の無駄を減らせるだろう。」

 

ジャブロー攻略を優先しなくて良いのなら、各軍はそれぞれ己の最善で動ける。これまではどの戦線でも、ジャブロー攻略を優先させるという暗黙の了解があった。だからまずは作戦を躊躇させていたその予備兵力の温存を無くす。ジャブロー攻略に戦力を抽出される恐れがなくなるだけでも、各地の戦況は好転するだろう。

 

「ラル少佐、なかなか良い発案だ。次も期待しているぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

ギレン総帥の賞賛に、ランバ・ラルは頭を下げた。マ・クベの昇進というおまけは意外だったが、ガルマ延命策を加味すれば結果としてキシリアの恨みも買わずに済みそうである。顔を売る段階にしては、この場に慣れぬラルに課された責任が大きすぎたようには思われたが。

 

(最初のテストは合格、と言ったところか。だが、これで終わりではない。)

 

ランバ・ラルの“連邦に勝つ”という意思に偽りはない。戦略家として本気で策を練った。そうでなければ、ギレンとキシリアを納得させられない。

 

ジャブローを攻めたくない理由に、アルテイシアやハモンがジャブローいる可能性が高いというものはあるにはある。だが連邦軍の配置など絶対ではない。それよりもっと大きな理由がある。

 

(ハモンをつけているのだ。アルテイシア様は守られていると信じられる。)

 

彼は連邦に勝利したジオン共和国を、アルテイシアに引き渡したいのだ。ジオンが単なる敗戦国では、この命を賭ける価値などないではないか。その点においては、ランバ・ラルはギレンともキシリアとも協調出来るのである。

 

 

 

 

 

ージャブロー・戦術シミュレーション棟—

 

その空間には二十四人のパイロットが集結していた。連邦の小隊編成は四人で一小隊である。新設される中隊にはこれが四つ必要だが、この場には六つも小隊がある。

 

「マチルダ・アジャン中尉の二個小隊は支援部隊だ。だが単なる支援部隊ではないぞ。ザクの大半は彼女の隊が輸送した。」

 

試験監督官の言葉に、パイロット達の視線がマチルダに突き刺さる。マチルダは黙って頭を下げた。実態として数合わせだろうが、マチルダは部下に経験を積ませる機会と割り切っていた。

 

「予選リーグは二つに別れる。そこで三チームずつの総当たりだ。上位二チームが勝ち抜く。』

 

シミュレータは完成して間もない事から、修練度に大差はない想定らしい。特にザクの扱いは、皆が素人の筈である。

 

「各チームメンバーはコールサインで認識される。無線のやり取りは自由だが、コールサインを使うように。」

 

連邦軍内のマッチングだ。実名を禁じるのは、先入観を排する意図があるらしい。確かに声の調子で男女や年齢などは分かりそうだが、先入観排除はそれなりに必要な措置かもしれない。

 

「準備が出来たら開始する。シミュレータに入れ。」

 

小隊名はそれぞれ仮称でアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー、フォックストロットの六チームとされた。AからFだ。〈ペイルホース〉は男性陣がエコー、女性陣がフォックストロットとなる。とは言え人数合わせを兼ねて、Fチームにはイセリナも参加している。流石に昨日の今日では、イセリナが歴戦のパイロット達に勝つのは難しいだろう。

 

指揮官機が01、その補佐のエース級が02を担当する。それぞれリュウとジョブ、ミライとセイラとなる。これは主に先任などの階級面や事前評価による。

 

「武装はライフルとヒートホーク、クラッカーだ。行動不能で即離脱とする。では状況を開始する。」

 

エコーは二敗し、リーグ戦に沈んだ。カイが通算二機、リュウが一機を撃破している。正規パイロットとほぼ互角に成長して、マチルダは感心した。特にカイは優秀だった。

 

フォックストロットは順調にデルタを下した。ブラボー相手にも善戦したが、僅差で敗北する。セイラをマークして潰しあったのはB04だった。セイラが動けないと見て救援に入ったミライやハモンが、敵のエース格に狩られたのである。それでも二位通過ながら準決勝に駒を進めた。

 

「マチルダさぁん、オレの活躍見てくれましたか!」

 

「カイさん、他の人もいるんです。声を押さえて。」

 

シミュレータを抜けて、スコアに興奮した様子のカイが駆けてくる。背後にハヤトを引き連れているのもいつも通りだ。

 

「ええ、カイもリュウも良かったわ。ハヤトとジョブもスコア獲得まで後少しだったじゃない。」

 

マチルダに褒められてカイとリュウがデレデレとしたのを尻目に、ハヤトはミライ達のリーグ戦突破に気がついた。

 

「あ、ミライさん達は突破したんですね。」

 

「ええ、ハモンさんが優秀なのよ。」

 

スコアはセイラが最も突出している。しかし他を抑えてセイラやミライに有利になる立ち回りをしているのはハモンだった。

 

(軍人ではないと言っていたけれど、ザクの搭乗経験がありそうね。)

 

ハモンの個人技は並でも、ザクの理解度と集団戦術の理解度は高い。機体をザクから変更したり、個人戦になると結果は変わるかもしれない。

 

「姉に比べて妹のイセリナさんは、ダメね。」

 

姉はハモンさんで妹はイセリナさんというのは、名前を覚えた順番の違いだろう。先にハモンさんを認識して、後から妹を差別化して名前で呼んでいる関係だ。

 

「イセリナさんは未経験みたいだから。みんなだって正規パイロット相手は厳しいでしょう?」

 

ジョブやハヤトが苦笑いを浮かべる。パイロット候補生に求められるのはザクを動かすところまでだ。勝敗は別とは言わないが、戦闘の形になっているだけマシである。イセリナに関してはまだその点も怪しかったが。

 

「実質三人、それじゃ次の試合は負けですかね。」

 

リュウの感想は妥当なものだ。

 

「慣れてくれば、また変わる筈よ。」

 

マチルダの見たところ、イセリナは急激に学習してくる。それはセイラやミライも同じだ。もしかしたら次の試合は、白熱したいい試合になるかもしれない。

 

 

 

 

リーグ戦を二位で通過したフォックストロットは

、一位通過のアルファと対峙していた。試験監督官は公平なチーム分けをしたかの様な口振だったが、そんなことはなかったらしい。小隊はその順番、つまりアルファ、ブラボーの順に優秀そうである。優勝はこのどちらかという前提で、どの程度やれるか見る試合なのだろう。

 

アルファは強かった。まず敵のエース格のA01とA02がF03ハモンとF04イセリナを強襲し、イセリナは忽ちリタイアとなる。駆けつけたF02セイラがF03ハモンと敵を迎撃している間に、連携したA03とA04がF01ミライを撃破した。セイラとハモンは倍の敵に圧倒された。それでも被弾していたA01をセイラがヒートホークで倒し、ハモンもA03とA04を処理したが共にA02にやられた。セイラはA01を始末した所をA02にクラッカーで吹き飛ばされたのである。

 

「今回はクラッカーが用意されていたのね。忘れていたわ。」

 

マチルダは結末に驚いた。ミライやセイラは少し猪突猛進の気配がある。ハモンと組むとそこをうまくカバーしてもらえそうだが、経験者相手にはいなされてしまうのだろう。とは言え相手のブラボーも一機残存でしかない。正に惜敗と辛勝というところだ。

 

「あれ、ハメ技かもしれません。」

 

黙って試合を眺めていたジョブジョンが呟いた言葉を、マチルダが聞き咎めた。

 

「ハメ技?」

 

「これはシミュレータなんです。現実とは違う。マシンには反応限界が設定されていて、演算負荷を一定程度内に抑えてるんです。クラッカーはその限界を利用したハメ技で…」

 

その説明はマチルダは理解が及ばなかった。思わずジョブの説明を遮る。

 

「それはつまり、具体的にはどういうことかしら?」

 

マチルダに分かる説明をジョブが探す。

 

「セイラさんが回避出来る反応を示していても、シミュレータ上のザクが限界で反応できないのかもしれません。」

 

「仮想のザクは、現実のザクより弱く設定されているって事?」

 

「はい。訓練としてはそれが正しいでしょうね。実戦の方が楽になりますから。それにプレイヤーは立ち回りや判断力が磨かれます。」

 

「ハモンさんの戦績がいいのは、それが原因かもしれないわね。」

 

反応速度であれば、若いセイラやミライが上回っている筈だ。それでもハモンの戦績は二人に肉薄している。それに理由があるとすれば、反応速度が反映しきれずに制限されている可能性しかない。

 

「後はあのクラッカーですね。本来そんな簡単に当たる様な兵器じゃない筈です。」

 

「あれも簡略化されたと?」

 

「ええ、A02はそれを知っていた。そしてここぞという場面でエースを殺すのに使用したのかもしれません。」

 

「それならそれでA02、判断力に長けた恐ろしいパイロットね。」

 

「ははっ、違いありませんね。」

 

 

 

 

決勝戦は想定通り、アルファとブラボーの対決となった。こうなると結果は見えているとマチルダには思える。エース級の実力差は僅かなものだろう。勝負は時の運と言いたいところだがそうではない。

 

(セイラを倒した、あの抜け目ないパイロットが勝つわ。)

 

自分達以外の試合内容はプレイヤーには分からない。そしてこれまで対戦してなかった以上、ハメ技を有したプレイヤーが勝つのが道理である。

 

(ハメ技って強いのね。現実でどこまで通用するかは分からないけれど。)

 

いや、むしろ現実の方がハメ技の類は多いのかもしれない。天才でない人々は、それを探すべきなのだろう。

 

「あ、始まりますよ。」

 

ハヤトの声で、マチルダは現実に引き戻された。決勝戦と同時に、三位決定戦が別に行なわれている。マチルダが見るべきなのは間違いなくこちらだ。

 

 

 

 

想定通り、最初に落とされたのはF04のイセリナだ。しかし彼女はクラッカーを使い、C04を道連れにして撃破した。イセリナの爆発に巻き込まれ、片足を喪失したC03をF03ハモンがトドメを刺す。三対二の数的有利の効果は絶対的だった。ミライとハモンが圧を加える中、危なげなくF02のセイラがC02、C01とヒートホークを振るって連続で撃破した。

 

「やったぜ! セイラさんの個人スコアが一位だ。」

 

カイが快哉を叫ぶ。マチルダがボードを振り仰ぐと、確かに通算7機を撃破したセイラが個人スコアでは首位である。

 

質の揃ったアルファやブラボーはスコアが分散しやすい。フォックストロットはイセリナが最初に沈むので、スコアが集中する。その上で試合数が決勝チーム並みに多かった。負けた試合も惜敗なので、個人戦績は突出するのだろう。

 

「立派な結果で驚いた。益々、君たちが欲しくなったよ。」

 

気がつけば、マチルダの横にゴップ提督が立っていた。マチルダ他、乗組員(クルー)一同で慌てて敬礼する。ゴップは鷹揚に手を振って、礼儀に拘らないという仕草さを示し言った。

 

「個人の戦績では、一位と三位と四位を独占されたな。」

 

一位はセイラ、三位はハモン、四位はミライである。二位はB04であった。

 

「ね、F02は?」

 

ふいに黒髪のおかっぱ頭の少女が現れた。

 

「アンタ、どなた?」

 

カイが気楽に尋ね返す。彼女の年齢と服装から自分と同じ様なパイロット候補生だと、そう考えたのだろう。

 

「黙りなさいよ。ここにいるって事は、とっくに敗退したエコーチームよね?私はB04、個人成績は二位だから。」

 

「アンタが二位かよ。」

 

カイがたじろぐ。

 

「私の名前はシイコ。例の金髪女に伝えて。シミュレータ越しでも、私には誰がパイロットかくらい分かるの。次は実機でやりましょうよ。シミュレーターじゃ、つまらないでしょ」

 

挑発というより、本気の誘いだった。周囲が一瞬だけ静まる。その沈黙をどう受け止めたのか、シイコはセイラへの挑発を繰り返した。

 

「隠れてないで出てこいよ、金髪。サシで勝負しろよ、オラッ!」

 

その時、シイコの背後にセイラが現れた。

 

「あなた、その思考がずっと耳障りなのよ。」

 

背後からの声に、シイコが振り向く。

 

「は?」

 

次の瞬間、ゴンと鈍い音がした。シイコの顎に直撃したのは、正に意識を刈り取るような一撃。シイコの身体がそのまま前に崩れ落ちた。床に転がる音がやけに軽い。ハモンが駆け寄ったのは、殴られた者のダメージの確認だろう。

 

「……これでやっと、静かになった。」

 

セイラは手を軽く払って、何事もなかったように言った。周囲が凍りつく。隣のミライが小さく息を吐く。

 

「……本当に容赦ないわね」

 

「だって、試合中はずっと耳障りだったんですもの。それでイラついて、まるで集中出来なかったわ。」

 

足元で伸びているシイコを一瞥し、セイラは踵を返した。

 

「……マジかよ……」

 

リュウが顎が外れそうな表情をしていた。

 

「…セイラさん、本当にマフィアの血が目覚めちゃったのね」

 

数秒遅れて、カイが吹き出した。緊張が一気にほどける。そして床の上で、ハモンに介抱されたシイコがうめいた。意識が戻ったらしい。

 

「マチルダ・アジャン中尉。」

 

狼狽していたマチルダの隣から、ゴップ提督の冷静な声が聞こえた。

 

「褒められた話ではないが、パイロットは勝負事で熱くなるものだ。独居房に3日間拘束だな。その程度の処分で話をつけておこう。」

 

「ありがとうございます。」

 

背筋を伸ばし、ビシツと敬礼をしてマチルダは返答をした。この事態は流石にマチルダの手に余る。

 

(これはもう、ゴップ提督に面倒を見てもらうしかないな。)

 

セイラが次にトラブルを起こせば、こんな軽い処分では済まないだろう。彼女を守るには、全力を尽くす必要がある、

 

(セイラ。綺麗で大人しい子だと思っていたのに、カイより手が掛かるなんて。)

 

こうして、マチルダはレビル将軍からゴップ提督の派閥への移籍を決意した。





第一小隊アルファ
* ギャリー・ロジャース
* スレッガー・ロウ
* マスター・P・レイヤー
* マクシミリアン・バーガー

第二小隊ブラボー
* フランシス・バックマイヤー(シイコ憧れ)
* ヤザン・ゲーブル
* ライラ・ミラ・ライラ
* シイコ・スガイ(GQuuuuuuX) 結婚前はアベを名乗る

第三小隊チャーリー
* リド・ウォルフ
* マット・ヒーリィ
* ジャック・ベアード
* アダム・スティングレイ

第四小隊デルタ
* サウス・バニング
* アルファ・A・ベイト
* チャップ・アデル
* ベルナルド・モンシア


支援部隊エコー
リュウ・ホセイ
ジョブ・ジョン
カイ・シデン
ハヤト・コバヤシ

支援部隊フォックストロット
ミライ・ヤシマ
セイラ・マス
クラウレ・ハモン
イセリナ・エッシェンバッハ


【あとがき】

冒頭のジャブローに戻るシーンは、ファーストの着艦に対するオマージュです。未経験で誰も教えてくれなかった為に、堂々とジャブローに乗り込んで安易にシャアに発見されていたと分かる構図を意図しました。

ジオンの政治劇、前回のアンケートで評判が良かったので拡張しております。入れて良かった反面、ボリュームが増えた主な理由です。ラルのダイクン派とジオン内の政治構造はセイラに還元されるので良かったと思います。

シミュレータのシーンは、MSのパイロットとしての立ち位置を示す為です。今回は0083のバニング隊が“不死身の第四小隊”だった事にヒントを得てMSVSのエースクラスを軸にしています。GQuuuuuuXではシイコがスーパーユニカムとなります。当初は期待されていない数合わせが、NT能力発現によってのし上がっていく筈です。イセリナやハモンの能力の違いも書けて良かったと思います。

ミライは過去に優秀さを示したので、今回は活躍シーンは割愛しました。過去の経緯からミライのみ少尉扱いとしており、小隊指揮官的な立ち位置です。スレッガーについては、クラッカーを投げてセイラを倒す役割です。

本当はオデッサ戦に向けた移動を開始したかったのですが、そこまで辿り着きませんでした。ランバ・ラルを出すあたりで、ファースト一年戦争とGQuuuuuuXの戦線の変化を整理する必要が出まして時間を取られました。

セイラがお嬢様キャラから次第に格闘系へとキャラ崩壊していくのは、キャスバルにハンマーをぶん投げるソロモンシーンに繋げる為には必要だと思っています。

マチルダ主人公は、ブライトの艦長と違ってカリスマ型。みんなが話しかけてくれるのは書いていて楽だなぁと思っています。美人は得ですね。

次回はいよいよ実戦配備、戦場に出ます。

GQuuuuuuX Another side 第06話 ゴースト・ザク中隊の感想や要望で近いものを選んでください。

  • セイラ怖すぎて草
  • ハモン有能すぎる
  • ゴップ頼もしすぎ
  • マチルダさんお茶目
  • 政治パート好き
  • 【要望】実戦投入を早く見たい
  • 【要望】鹵獲ザクの活躍詳細希望
  • 【要望】シイコとの再戦希望
  • 【要望】ラルの暗躍もっと
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