【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第07話 乾いたスポンジ

—サイド3参謀本部—

 

ランバ・ラル少佐は、ジオン公国軍参謀本部への呼び出しを受けていた。

 

(これは。先日の評議会での発言が祟ったな)

 

あの場では間違ったことは言っていない。そうである以上は後悔はないが、目をつけられた感覚がある。

 

(恨まれたか?)

 

ラルに言わせれば、ザビ家の確執を放置したままで戦争を継続するためには他に方法がない。そして権力を握ったザビ家の確執など、今更どうなるものでもない。

 

(むしろ潮目が変わったのだ。ならば、この流れは掴む)

 

これはダイクン派としての都合の為に言っているのではない。参謀本部が既にその方向での事態の収拾を諦めているなら、『頭を切り替えろ』と言っているのである。

 

(ザビ家の内輪揉めに、ジオンの未来を沈めさせるわけにはいかん)

 

「ランバ・ラル少佐、入ります。」

 

「よく来てくれた、ラル少佐。」

 

参謀本部では本部付きの参謀が勢揃いしていた。声をかけてくれた参謀長はユーリー・ハスラー少将、次席はコンスコン少将。主だった大佐級はこの場に三名おり、ラコック、アサクラ、デラーズである。後は中佐級が数名いるが、少佐で呼ばれたのはラルだけのようだ。その下の尉官クラスになると、基本は将官の副官という雑用係として前線で下積みに回されているはずだ。

 

「さて、君のジャブロー放置案な。あれは良かったよ。」

 

急に本題が来た。いきなり処刑される事はなさそうだが、以後の活動がやりにくくなる恐れがある。とはいえ、判断するのは彼らではない。あの場で決まった話である。

 

「……はっ、光栄であります。」

 

「ガルマ大佐後任人事の場でしか、あの様な事柄は決定されない話だ。とは言え、我らが提案するべき話だった。その点で、参謀本部は君に感謝している。」

 

そうだな、という視線を他の参謀に視線を向ける。他の大佐は作り笑いすら見せず、仏頂面だった。彼らに関しては、ラルを怒鳴りつけないだけマシか。まあデラーズの様な禿げ頭に髭面の凶相に笑われても気持ち悪いだけなのだが。

 

「ラル少佐は、かつて参謀課程を修了していたな。」

 

「はっ」

 

「評議会と参謀本部との連絡担当として、ギレン総帥に参謀本部付きとして指名された。これが辞令だ。…聞いていたかな?」

 

「いえ、初耳ですが。」

 

「総帥は万事それだ。サプライズで喜ばせようとしてくださる。」

 

戯けて見せたハスラー少将を、デラーズ大佐がギロリと睨む。デラーズはギレン親衛隊を委ねられた、ギレンの忠犬だ。ギレンを揶揄するような言動を取り締まるのも彼の仕事の内だ。自由闊達なハスラー少将とは、あまり折り合いが良くないのだろう。つまり参謀本部にも意見対立があるのであり、ジオンの縮図がここにもあるらしい。

 

「新たな君の役目は、評議会における参謀本部の意見の代弁者という所だな。そして評議会の内容を詳細に報告してもらう事になる。ギレン総帥では、評議会の細部までは伝えてくださらん。」

 

「総帥のお手を煩わせる事柄ではないからだ。以前はギニアス・サハリン少将がその任にあった。だが、少将は現在はアジアの基地司令を担っている。」

 

ハスラー少将に続き、デラーズ大佐が言葉を引き取る。安易な総帥批判に繋がらせない配慮もあるのだろうが、デラーズは性格的に短気でもあるのだろう。

 

「ジオンは万事、人手不足なんですよ。」

 

ラコック大佐が締めくくる。副官として経歴を積み上げた彼は、温厚な人柄であるらしい。

 

実際、ジオンはどこも人手不足だ。特に前線を支える高級軍人がまるで足りない。戦死者の交代要員は常に不足しているのに、組織の規模は拡大し続けている。三軍体制(ギレンの親衛隊を含むサイド3防衛隊、ドズルの宇宙攻撃軍・キシリアの突撃機動軍)は役職面でも無駄が多い。

 

「ラル少佐の席はそこだ。早く座りたまえ。では、今日の検討に入る。」

 

議題は地球方面の再編問題である。解説役はラコック大佐だ。

 

「第一次から第四次までの地球降下作戦で、我が軍はオデッサ、北米、オセアニア、北アフリカを確保しました。」

 

地図が赤く染まる。そしてそのエリアは拡大する。

 

「現在の情勢です。オセアニアを確保した我が軍は東南アジアを北上。インド、東アジアからの連邦軍に阻まれています。オデッサ方面とアフリカ方面の我が軍は中東を介して接続しています。北米は南米の連邦軍と対峙しています。」

 

「こうして見ると、やはり盤石なのはオセアニアだ。東南アジアは我が軍の得意な臨海部も多い。簡単に抜けそうな物だが。」

 

コンスコンの問いかけに、ラコックが応える。

 

「東アジアが難関です。人口も多く技術も高い。資源もある。恐らくここが最後となるでしょう。」

 

「ギニアス・サハリン少将は、まさにそこに派遣されていたはずだが?」

 

「兵器開発に勤しんでおられるご様子ですな。そして飛行能力と破壊力の両立で難航していると聞きます。」

 

アサクラ大佐が答えた。

 

「新兵器か。そんな無駄な夢物語を。」

 

コンスコン少将が切って捨てようとするのを、アサクラ大佐は押し留めた。

 

「MAの基幹技術完成に大きく寄与されたのです。宇宙用として基礎設計の完成したBig-Zは総帥のご裁可があれば最終兵器となるでしょう。」

 

「そんなにかね。キシリア少将のルナタンクとやらはそこまでの兵器には見えなかったが。」

 

「アッザムですな。Big-Zに比べれば、子供騙しです。」

 

その兵器は仮称でBig-Zと呼ばれているらしい。流石に参謀本部は、秘密兵器までよく把握しているとラルは感心する。

 

「少し脱線したな。話を戻すぞ。」

 

ハスラー少将は場を引き締める。

 

「ラル少佐、君に聞こうか。君が連邦ならジャブローに対する圧が弱まった今、どこに反攻作戦を仕掛ける?」

 

「オデッサですな。」

 

ラルは即答した。

 

「正気かね。西ヨーロッパの機甲師団は我が軍の手で壊滅させたのだぞ。」

 

連邦の機甲師団はダンケルクに失敗して壊滅した。これは事実である。

 

「北米とオセアニアは掌握しました。巨大な生産地のないアフリカもまず万全です。しかしユーラシア大陸は広大すぎる。その中枢を貫くオデッサは重要ですが、敵に逆包囲されやすい。」

 

「欧州方面軍のユーリー・ケラーネ少将がそれを許すと?」

 

ラルは横からのデラーズの問いに答えた。

 

「連邦にMSがない以上は、包囲可能な孤立した拠点を狙う必要がある。だからオデッサとなるでしょう。」

 

「北米ではないのかね?我らは北米こそが主戦場になると読んだが。」

 

ラルはハスラー少将の言葉に暫し考える。

 

「パナマの地峡地帯で防ぐ現在の防衛策は、連邦とて簡単に突破できますまい。火力の集中はこちらに不利となりますが。」

 

そしてハスラー少将の質問の意図に気がついた。

 

「まさか北米に、こちらから敵を引き入れると?」

 

「そうだ。」

 

ハスラー少将の短い肯定の声である。

 

「ジャブローを干上がらせるのはいい。だが集積されている物資は甚大すぎる。囲むだけでは落とせん。」

 

参謀本部が取得した情報が画面に表示され、ラルは瞠目した。連邦の将官級でさえ知り得ないような情報の山である。

 

「既に、ここまでの情報が。」

 

「我々とて、スパイは活用している。」

 

短くそう告げるとハスラー少将は話を戻す。

 

「北米とオデッサに連邦の軍と物資を吐き出させ、蕩尽させる。北米の市民はガルマ様の統治を懐かしみ、黒海周辺の平野は機甲師団の墓場となるだろうな。」

 

「北米の過半を奪い返されても、それで良いとお考えで?」

 

それで戦争に勝てるか?、ラルは本気の視線を向けた。それは兵を慰撫する将校としての視線である。ハスラー少将はたじろがずに笑って見せた。

 

「連邦が企図する作戦の本質は単純だ。」

 

ハスラー少将は地図を指でなぞった。

 

「パナマ地峡を突破し、南北アメリカの連絡線を打通する。これにより連邦軍の補給線は一体化し、北米への大規模反攻が可能となる。」

 

「……なるほど。」

 

ラルは頷いた。

 

「つまりその補給路は、こちらが海からいつでも遮断可能であると。」

 

「その通りだ。だからこそ我々は、あえて北米に戦力を引き込む。」

 

「北米を強固な拠点として再構築されかねません。そう上手くいくでしょうか?」

 

「その為に、収奪された後の乾いたスポンジの様な北米を連邦に与えてやるのだ。北米の回復には、時間も費用も物資も蕩尽するだろうな。しかもこちらの襲撃を回避しながらだ。連邦にとっては、悪夢の始まりだな。」

 

 

 

 

 

—中東サハラ砂漠—

 

照準を覗き込むカイの目の前で、ジャック・ベアードとアダム・スティングレイの2機のザクの移動が重なる。

 

「へへ、油断したな。」

 

カイのザクの保持するビームライフルが、2機のザクを貫通した。即座に撃破判定が出る。

 

「やったぜ。」

 

途端に脱力するカイのザク。ビームライフルの保持もままならなくなり、視界が回る。

 

「くそっ、電圧か?」

 

ビーム兵器による大電力の消費、恐らくはそれで電圧が落ち機体が不安定化したのだ

 

「おい、こんな所まで実機に寄せなくたって良いだろう!」

 

動けないカイのザクを、優先的に潰すべくマット・ヒーリィのザクが迫る。放たれた弾丸がカイのザクを襲う。ガガガッという衝撃と共に、カイのザクが大破判定となる。撃破判定でないのは、カイの前に立ち塞がるハヤトのザクのお陰だ。

 

「助かったぜ、ハヤト!」

 

盾を構えたハヤトのザク。ガンダム用に用意されていた盾はザクの重要箇所も覆う。ザクの120ミリマシンガンは両手用だ。盾を構えては使用出来ないので、ハヤトのザクの手には新開発のショットガンが握られている。

 

対するマット・ヒーリィ機はこちらも新開発の90ミリマシンガンを装備している。マット機とハヤト機は壮絶な撃ち合いになった。しかし、カイにトドメを刺すために接近したマット機が銃の間合いで不利になる。

 

「させるかよ。」

 

そして盾持ちと盾のない機体。その差は絶対的である。ハヤト機の放つ散弾で、マット機が削られていく。頭部の半分が消し飛び、右腕がライフルごとやられた。ヒートホークを引き抜いた左腕も吹き飛ぶ。そして最後の一撃が、胴体にめり込んだ。

 

「ヒュー。やるじゃねえか、ハヤト。」

 

カイが歓声をあげた。

 

「ハヤト、左だ!」

 

その時、リュウ・ホセイから警告が入った。最後の一機、リド・ウォルフのザクが来たのだ。これまでリュウとジョブで押さえていたMSがハヤトを巻き込んで事態の打破を狙う。しかし、ハヤトはその攻撃を予期して盾で防いだ。

 

リド・ウォルフのザクが振るうヒートホークは、ハヤト機の盾に突き刺さる。そして容易には引き抜けない。

 

「いいぞ、そのままぶちかませ。」

 

「はい、リュウさん」

 

ハヤトの搭乗したザクが、盾を構えた姿勢で突撃を敢行する。唯一の武装ヒートホークを抜けないリド・ウォルフはなす術がない。装備を失って吹き飛ばされた。

 

「そこだ!」

 

盾を捨てたリュウがヒートホークを振るう。流石に武器なしでは、勝てない。リド・ウォルフ機は撃破された。それは冷静に120ミリザクマシンガンでリド機を狙ったジョブ・ジョンの射撃によってである。リュウの一撃は回避されたのだ。そしてシミュレーションが終了した。

 

「よおし、反省会だ。」

 

〈ペイルホース〉の男性パイロット達は、車座になって集まった。

 

「カイさんの二機撃墜は凄かったですよ。」

 

「お前のショットガンも良かったぜ、ハヤト。助けてくれてあんがとな。」

 

カイとハヤトが笑顔で互いの健闘を讃えあう。

 

「リュウさんの前衛、良かったですよ。」

 

「いや、敵の隊長機を仕留めたジョブの射撃が良かった。また腕を上げたな。」

 

リュウの褒め言葉には、ジョブの成長に対しての実感がある。

 

「自分じゃ分からないけど、成長してるものなんですね。」

 

ジョブは些か拍子抜けしたようにそう言って笑った。

 

「で、みんなどうだった。新装備は。」

 

小隊長役のリュウが尋ねた。

 

「盾はすごく良かったですよ。ザクでも本当にあんな風に使えるなら使いたいですね。」

 

ハヤトの言であるが、これはリュウも同感だった。盾はいい。片手で使える装備があればお勧めなのは間違いない。

 

「ショットガンはどうだ?」

 

「期待してたんですけど、ダメですね。」

 

「どうしてだ、一機落としてたじゃないか。」

 

「あれはたまたまです。ちょうど都合のいい場所に敵がいてこそです。もっと離れていたら、敵の方が圧倒的に有利ですよ。」

 

ハヤトの答えに、リュウは首を傾げた。

 

「そうかなぁ。盾があるんだ。接近すれば倒せるだろう?」

 

「そりゃそうですけど、八発しかないのに命中弾は四発。散弾でもそんなものです。それで使い切っちゃって、後は盾をぶち当てるしかなくて。」

 

「弾数といえば、カイのビームライフルはどうだ?」

 

「凄いけど、撃ったらまるで動けないからなー。あれじゃ逃げらんないよ、リュウさん。」

 

「ま、ザクでビームライフルを撃つのは無理そうですね。担当者も、あれは理論上で実戦じゃ難しいって話だったし。」

 

ジョブは相変わらず、技術者と仲良くして情報を仕入れている。

 

「で、ジョブは何か気がついたか?」

 

「僕はそうですね。武装に差がつくとエース相手でも勝てるなって。」

 

「それだよなぁ。」

 

リュウは頷いた。今回のシミュレーション、勝負になるように実力に応じた補正がされている。ハヤトやリュウの盾やカイのビームライフルがいい例だ。相手も新兵器の90ミリライフルを渡されてはいるが、エース格はヒートホークしか持たされていない。

 

「やはり武器、大事だなー。」

 

 

 

 

 

 

 

ー北米ニューヤーク・ジオン軍基地ー

 

「なんだこれは」

 

マ・クベは参謀本部からの通知を見て呻いた。片方は北米防衛の司令官職、もう片方はオデッサ防衛の司令官職である。この二つをロメオ少将と分け合えという意図らしい。ガルマの部下については、『二人で相談の上で分割せよ』とある。

 

「キシリア様は、既にこの案を承認されている。」

 

素早く確かめる。グラナダは回覧済みで承認を与えている。

 

「評議会の案では、アメリカ大陸を東西を分け合う案だったはずだが。」

 

評議会での決定により、ジャブロー攻撃はジャブロー包囲へと転換した。それは一時的な変更かもしれないが、北米を橋頭堡にせねばジャブローを落とす戦略が成り立たない。しかし今の内容は北米からオデッサに戦力を振り向ける案だ。

 

「考えろ。キシリア様は読み解けとおっしゃられているのだ。」

 

マ・クベは情勢に思考を巡らせる。ジャブロー攻略が時期尚早であり、他の攻略を優先するという評議会案は同意できる。しかしこの案では再配置と撤退までも容認されている。これではむしろ、北米やオデッサからの夜逃げ案だ。

 

「そうか、これは……本当にそれか。夜逃げし、宇宙を含めての配置転換せよとの意図か。」

 

マ・クベは参謀本部の意図をそのように判断した。ジオン軍は重大な弱点を抱えている。それは“ザクが地上に最適化されていない”という事である。コロニーと変わらない環境。遮蔽物の多い都市や基地ではかなりの強さを発揮する。実際に地球降下作戦で、ジオンは連邦軍の主要な拠点を次々と陥落せしめた。

 

「だが、地球の地形への最適化は遅れた。いや、空を飛べない以上はそもそも限界があったとすべきか。」

 

二本足で歩くのは有利な面もあるが、不利な面もある。遮るもののない平野部では、戦車と火砲で構成された機甲師団は厄介だ。火力が同等なら、被弾面積が小さく自在に動ける方が強い。その上で航空爆撃されればザクとて破壊される。

 

ザクが機動戦士として活躍するのは宇宙のみである。地上では、戦車や航空機にコストで劣る兵器と成り下がる。消耗戦には著しく弱い。基地内での優位性を考慮しても、限界がある。

 

「ザクは宇宙で使うべきなのだ。参謀本部もようやく気がついたと見えるな。しかし、地上はどうする?」

 

飛行型グフそしてドムは開発済みである。アレならザク以上の勝負が出来る。当面はそれとしても、数が足りない。さて、その先は?

 

「参謀本部は何か秘密兵器を開発しているのだな。その目算がたったという事だ。そして恐らくそれは金も資源も消費する。アッザムの進化系、もしくは次期主力MSの両方か。だからこの様な宇宙への資源輸送が必須となる。」

 

マ・クベは、秘密兵器Big-Zについて知らされてはいない。だがジオン本国の動きから、半ばその内容を推察した。実際は秘密兵器は一つにとどまらないのだが、彼はそこまでは推測する材料を持たない。

 

「ジャブロー攻略の最終兵器があるという事であれば、軌道上から降下させれば済むと。いや、これは海からの攻撃の両立てか?」

 

マ・クベの頭脳は、今後のジオンの戦略の凡そを分析し終えた。秘密兵器があれば攻める。それが使い物にならなければ、外交により再度の決着を図る腹と。通常兵器で無理をするのは、もはや諦めたのだろう。

 

「参謀本部、私が考えていた以上に有能であったか。」

 

態勢を整えたジオンは連邦が有利となる平野部に敵をあえて引き入れるのだ。それで連邦に戦力を消費させ、戦線を拡大させる。そしてジャブローへと一撃を送る。そこで倒せればよし、しかし恐らくは倒せない。むしろ、連邦の宇宙向けに用意された戦力を削る意図だ。

 

「基地内に入れれば、固定された艦船などMSの良い的でしかないと。いずれにせよ決着は宇宙という話か。」

 

それで宇宙にまで再度敵を引き入れる。ザクを回収する戦略である以上、主戦場が宇宙とマ・クベは読んだ。これは次期主力MSへの配置転換も絡めて進めるのだろう。戦地で配置転換するより、一度本国に戻す方が合理的である。参謀本部の目算は、恐らくはそれだ。

 

「これであれば、キシリア様の戦略とも合致するな。」

 

参謀本部は、ザクの配置転換を目指している。その対象は次期主力MSだ。そしてキシリアは元々、その次期主力MSの置き換え案を進めていた。彼女なら間違いなくこの流れに乗る。リバースエンジニアリングして開発を進めたのあの量産型ガンダムを、次期主力MSとして採用させる腹積りだ。

 

「となると、為すべき事は一つか。」

 

マ・クベは同じ司令部内に押し掛けてきたガルシア・ロメロ少将を呼び出した。奴とは今、互いの役職を巡り揉めている。これまでは大西洋側、つまりジャブローに面した側の配置を取り合っていた。しかし参謀本部からの正式な辞令がこの内容なのだ。となれば、話が変わる。

 

「私だ。」

 

『おう、マ・クベ。』

 

通信越しに顔を出したロメロ少将は尊大な態度だった。単なる大佐の頃であれば我慢したが、今は役職では同格の司令官とされている。やはりこれは同格の同僚に対する態度ではない。

 

「態度は改めて頂こう。ギレン総帥からは、互いに同格の将として役目を分担せよとの命令が出ているはずだが。」

 

『そう怒るな。用件は分かっている。俺はジャブローは譲らんぞ。』

 

「ふむ」

 

マ・クベは思った。やはりこの男は馬鹿だなと。参謀本部の意図も理解せず、ジャブローに突っ込んで死にかねない。むしろそれこそ、参謀本部の起用意図だろうか?だとしたら彼に付き合わされる兵が気の毒すぎる。好んでこの馬鹿の下に配置された者だけではないだろうに。

 

「将校たるもの、上の戦略の意図を読み取るべきだ。まして将官たるものなら、それを部下に指導すべき。違いますかな?」

 

『で、ジャブローを譲るのか。譲らんのか?』

 

(やはり馬鹿か。頑なに押せば、相手が引くしかないとそう考えてる。)

 

「一つ、条件があります。」

 

『言ってみろ』

 

「ガルマ様の部隊については、同程度の戦力になる様に私が分割する。それと今後は同格の司令官として尊重し合う。ロメロ少将、貴方と私との間には先任順の差もなしだ。どちらかが昇格するまでは、それでいきましょう。」

 

『俺とお前の仲という訳だな。ジャブローについて折れてくれるというのなら、それでいいだろう。だが北米のガルマ様の部隊は俺が分ける。マ・クベ、お前が選べ。』

 

「…それで、いいでしょう。」

 

『決まりだな。編成案は大至急やらせる。もう、条件変更は受け付けんぞー。ではな。』

 

喜色満面のロメロ少将が一方的に通信を打ち切る。あの男は既にジャブローに征服者として打ち入ることだけを考えている。いや、アレは既に凱旋将軍のつもりでいる。

 

「あの男、単なる馬鹿か。」

 

馬鹿なら馬鹿で、見捨てても心が傷まないというものである。ロメロは敢えて馬鹿を演じる事で、マ・クベから譲歩を引き出すことに成功している。しかし戦略眼のなさが、マ・クベにはそれ以上に耐えられない。

 

「兵が可哀想だが。まぁ、キシリア様の配下になれなかった時点である意味では詰みか。やはり、キシリア様にジオン全軍を率いていただかねばなるまい。」

 

マ・クベは英邁な主君に仕えられる我が身の幸運を、その様な言葉で喜んだ。最も優れているキシリアがジオン全軍を掌握する。それでこそ、ジオンの全将兵が救われるのだ。少なくとも、マ・クベの主観ではそうなっていた。

 

「ダロタ中尉!」

 

『はっ』

 

マ・クベは通信で基地内のダロタを呼び出す。ダロタはマ・クベの執務室へとすぐに現れた。

 

「君には済まないが、一緒に働くのは少し先になる。」

 

マ・クベはあらましを説明した。

 

「そうですか、ロメロ少将が。」

 

ダロタの顔は失望を通り越し、沈痛だった。

 

「私の推測が正しければ、ロメロ少将からは北米戦力の査定を頼まれるはずだ。」

 

「実は、既に」

 

マ・クベは苦笑した。ロメロは彼なりにマ・クベの先を読んだらしい。

 

「そうか、それならば話は速い。どうだろう。私としては、君の部下として優秀な連中を敢えて残していきたい。」

 

「ロメロ少将を支援なさると?」

 

「逆だ。いざとなれば、独力で脱出したまえ。例のガウ空母と旧親衛隊ザク。ドップの編隊。それにドダイ搭乗ザクの組み合わせで考えている。」

 

「ロメロ少将は、その戦力がそのまま残れば喜ばれましょう。それでよろしいのですか?」

 

「ああ。精鋭とは、独力で北米から離脱可能な戦力とさせてもらうがな。離脱のタイミングは君に任せる。奴が優秀ならば良し、そうでなければ自然に去る時期は掴めるだろう。」

 

ダロタはただ黙って頷いた。命綱のあるなしは極めて重要である。彼とて、部下や仲間を切り捨てる気はない。ロメロ少将はマ・クベが断じるほど無能ではないが、安堵できるほど優秀ではない。

 

「ハワイは間違いなく君達を受け入れる。私が確約する。その点は安心したまえ。」

 

「は、ありがとうございます。」

 

二人の男は意思を秘めて、気持ちを通じ合わせあった。

 

 

 

 

 

—北米中西部—

 

「やれば、出来るじゃないか。」

 

用意されたザクを見上げて、アンキーは満足した。前回の取引、アンキーはザクの残骸を押し付けられた。今回、ウラガンは全て完品のザクを用意してくれた。しかもフル装備でである。

 

「本当に、この場所に連邦の連中を呼んでいいのかい?」

 

罠じゃないか、と言う微かな口ぶりを言葉に滲ませる。信用はしているが信頼はしていない。相手とはそんな間柄だ。だが罠としては、餌は豪華すぎた。ジオンにも欠かせない戦力のはずなのだ。

 

「問題ない。マ・クベ大佐の部隊は引き上げるからな。」

 

「へえ、どういう事だい?」

 

ウラガンはわざとらしく時計を見る。

 

「奥で話すか?」

 

目立たぬ場所で、慌ただしくも情熱的なキスを交わす。これは信頼関係の確認の儀式のようなものだ。

 

「俺達は、オデッサに異動だ。」

 

ウラガンの囁いた話に、アンキーは驚いた。ガルマの更迭以後ゴタついた北米で、遂に後任司令官が決まった。その結果、マ・クベの部隊の離脱が決まったというのだ。

 

「本当かい?」

 

「本当さ。だからこうしてザクを用意できた。」

 

確かに大掛かりな再編時期なら、輸送先がどこか追跡できる人間は限られる。ウラガンならザクの在庫調整も上手くやれるだろう。

 

「それに、後任のロメロ少将は愚物だと有名だ。もう北米ジオンは終わりさ。」

 

「なんだって、そんな奴をさ?」

 

「目障りな連中は前線で始末させる。よくある話だろう、そういうのはさ。」

 

「始末って、そりゃ穏やかじゃないね。」

 

「あっという間にジャブローなんか落とせる。アイツの下は、そんな馬鹿な連中ばかりだ。」

 

アンキーはニヤリと笑った。

 

「なら、馬鹿の相手は任せておきな。」

 

「おう、期待してるぜ。俺も最後に借りを返せて良かったよ。」

 

「寂しくなるね。」

 

「どうせまた会うさ。」

 

「ん、続けたいのかい?」

 

「互いに離れられないさ。じゃ俺は行くぜ。」

 

全てを見透かした調子で、ウラガンは告げる。

 

「多分、アタシも会いに行くよ。」

 

アンキーは去って行く男の背中に声をかけ、別れを惜しんだ。

 

 

 

 

 

—ジャブロー基地 戦術シミュレータ室—

 

「お姉様!」

 

シミュレータでの仮想戦闘を終え、反省会に向かおうとしたセイラの背中にガツンと重いものが当たる。そしてそのまま重力を利用し、床に押し倒された。セイラが見上げると、シイコの顔がそこにある。前回、自分が殴り倒した相手とは思えない距離感だった。やはり風変わりな復讐だろうか?

 

「重いわ。」

 

シイコから顔を背けて、セイラは事実を告げた。

 

「えー、お姉様って酷い。女の子に重い、だなんて。この前あんなに情熱的にアプローチをしてくれたのに。」

 

シイコが相手を押さえ込むのに、最適な位置に微調整しながら言う。確信犯である。

 

「近くで見るとお姉様の顔、本当に綺麗」

 

ウットリとそう言うシイコの様子に、何事が起きたのかと様子を眺めていたカイとハヤトが奇声を上げた。

 

「あ、あ、セイラさんが。」

 

状況を形容する言葉を持たないハヤト。カイの頭脳は素早く回転し、事態を知っている概念で言い表す。

 

「あ、お姉様と子猫ちゃんだー。」

 

シイコがカイの声に満更でもなさそうな顔をしているのは、彼女もそう企図してるものがあるからだろう。

 

「殴った相手に、よく懐くものね。そういう人なの?」

 

冷たいセイラの口調に、シイコは顔を赤らめる。

 

「ええっと、戦うとポワンって感じで気持ちが通じて『快感っ』って感じになれるんです。」

 

「……正気なの?」

 

「だって、お姉様には一度は心の奥底まで覗かれちゃうっていうか。まるで裸まで見られた感じでー。」

 

異性に裸を見られたら、相手に結婚を迫る風習もあるとは聞く。が、シイコとセイラは同性である。いや、同性だからこの程度で済んでいるのだろうか。

 

「苦しいわ。」

 

早くどけ、と身振りで示すセイラを組み伏せてシイコは笑う。

 

「えー、いいじゃないですか。だって女の子同士だし、減るものじゃ」

 

「減るわ」

 

現に今、セイラの精神力と耐久力がゴリゴリと削られている。再び独房に入れられるのはイヤだが、そろそろ実力行使しても許される領域に突入しているとセイラは判断していた。その時、颯爽と助けが現れた。

 

「こらっ、離れなさい!」

 

待望のミライが駆けつけ、シイコを退かそうとする。セイラの危険を感知したのだ。退くまいと踏ん張るシイコと、ミライは押し合いになった。一人では分が悪い。

 

「わ、わ」

 

「え、あんな所にまで手をかけて」

 

観客席気分のカイとハヤトが盛り上がる中、騒ぎにハモンとイセリナも駆けつけた。それでどうにかシイコを引き剥がす事に成功する。

 

「もう、後少しだったのに。」

 

シイコはむくれているが、セイラとしては知った事ではなかった。

 

「本当に金輪際、待ち伏せはやめてほしいのだけれど」

 

「分かりました。じゃあ、お茶しましょうよ、お茶。」

 

「…いいわ。」

 

一瞬の沈黙の後、セイラは決断した。ミライを連れてシイコとお茶する方が、待ち伏せされるよりは百倍はマシであろうとそう判断したのだ。

 

「じゃ、そちらの指揮官も連れてきてくださいね。ちょっとお話が、あるんですから。」

 

 

 

 

急遽マチルダを呼び出し、セイラとミライでシイコを監視するように座った。

 

「次の戦場へ参加が決まりましたよ。」

 

タピオカ味の得体の知れない飲み物を啜りながら、シイコはそう宣言した。

 

「志願?」

 

「いえ、指名です。でもお姉様達もそうなんでしょ?」

 

「まあ、こちらは関係者みたいなものだしね。」

 

代表してマチルダが答えた。

 

〈ペイルホース〉が武装と共に六機のザクを搬入したのが一昨日の事である。そして到着したアンキーにより、情報がもたらされた。北米の後任司令官はガルシア・ロメロ少将。ジャブロー討ち入りを狙う過激派であると。

 

そしてゴップ提督は昨日になって遂に決断した。

 

「ええ。現状の戦力でパナマ地峡を突破し、北米との連絡線を打通する――その為の作戦よ。」

 

「出撃が輸送したザクの範囲内でって話、本当ですか?」

 

シイコがマチルダに尋ねる。その場でゴップ提督の決断に居合わせたマチルダは頷いた。

 

「本当よ。最後の輸送でザクに余剰が生じたの。部品と見積もられていたのに、動作品がきた。これなら作戦で使える、ってね。」

 

その背景には、ウラガンとアンキーの関係がある。マチルダはシイコにはそこまでは話す気はなかった。

 

「やはりそうですが。これって罠だったりしないんですか?」

 

「そうかもしれないわ。でも、北米ジオンがゴタ付いているからこそ、ザクの密輸も出来たのではないかしら。」

 

「それもそっか。」

 

シイコはあっさりと納得した。本気の疑心ではなかったのだ。

 

「いずれにせよ、ザクを全喪失する懸念はあるわ。だからこれまで、作戦は実施されなかった。図面上は完璧な作戦が用意されていたのにね。」

 

完璧というところに力を込める。この作戦には、ゴップ派としてマチルダも参加している。謂わば今後の彼女の評価にも繋がりかねない話なのだ。

 

「今回のザクがあれば、たとえ全滅しても作戦は出来ると。」

 

「そういう事ね。まあ全滅というのは機体だけに限られるのだろうけどね。」

 

「私やって見せますよ。すごく体の調子がいいんです。だからお願いがあります。お姉様たちを、私に貸してください。」

 

それはマチルダにとってはかなり唐突な、シイコの直談判であった。困惑したマチルダはシイコの真意を理解するのに、だいぶ時間を要した。

 

 

 

 

 

ー中米パナマー

 

戦艦が悠々とパナマを目指して進んでいた。それは旧世紀の海上戦艦である。航空機に敗れ戦場を後にした旧兵器は、ミノフスキー粒子の登場によって限定的にではあるが再び活躍の場を与えられていた。それは主砲を用いた砲撃任務である。対地攻撃としてはどんな航空機の爆撃に勝る主砲の一撃は、命中しさえすれば敵MSも容易に撃破し得る。

 

MSは動ける。本来なら早々簡単に直撃などしない。だがここパナマ地峡では、戦域は意図して狭められている。その中でザクは塹壕の中に身を潜めて、トーチカとしての役割を負わされていた。しかし用意された遮蔽物は戦車砲を防げても、戦艦の主砲の直撃を想定などしていない。そもそもスペースノイドは、現在も稼働する洋上戦艦があるなど想像もしなかったのだ。わざわざそんな骨董品を、MSを倒す為だけに引っ張り出すのは嫌がらせに近い。だが嫌がらせは時にして最上の戦術たり得る。

 

「撃て!」

 

号令と共に放たれる戦艦の主砲が轟音を発する。飛翔した弾頭は放物線を描き、見事にザクの装甲をバンカーごと貫いた。

 

『直撃しやがったぞ』

 

ジオン軍兵士の狼狽の声が満ちる。

 

『アイツのせいだ。アイツが位置を通信している!』

 

見上げるジオン兵達の視線の先には、ペガサス級の強襲揚陸艦が浮遊していた。

 

 

 

 

 

「修正座標送ります。弾着修正ヒトサンマルマル、戦艦ベネチアからの座標受領を確認。」

 

オペレーターのマーカー・クランの声が艦内に響く。現在、ペガサス級〈ペイルホース〉はパナマ戦線における連邦の指揮艦として機能していた。ゴップ提督が、その座乗艦に指定したのだ。

 

「レーザー通信着信。ガンタンクが砲撃を開始します。」

 

今度はオペレーターのオスカー・ダブリンの声がする。連邦側の後方地点からは、ガンタンクがレールガンで砲撃を加える。ガンタンクもまた〈ペイルホース〉とレーザー通信で接続されている。こちらは専用規格のよりデータ転送の大きなもの、映像の共有までもが可能だ。つまり通信先のガンタンクは、上空遠く離れたペガサス級の視界を用いて射撃をしている。このパナマ戦線、連邦によるMSを標的とした一方的な砲撃戦だった。

 

 

 

 

 

「へへ。よく見えるぜ。」

 

カイは舌なめずりをすると、自動装填されたレールガンを引き絞った。ガンタンクは戦場から距離が離れている。ペガサスの姿を目視さえ可能であれば、レーザー通信は可能だった。

 

スコープ越しに見えているのは共有視界である。教育型コンピュータにより補正が施され、狙えばほぼ当たる状態にある。

 

「恨むなよ。戦争なんだからさ。」

 

そう言いながらカイはトリガーを引き絞った。レールガンに大電力が投入され、弾丸が射出される。そして自動で次弾が再装填された。

 

「便利だよなぁ、こういうの。でも、敵に見つかればこっちが餌食だしな。」

 

古い格言で、砲兵は戦場の神という。その言葉の重みを、カイは今噛み締めていた。MS同士の正面からの撃ち合いですらない。無抵抗な相手をただ銃殺するかの様な感覚がある。敵は、こちらの位置さえ知らないだろう。きっと何も知らず、仲間も戦艦の艦砲射撃にやられて死んだと思っているはずだ。

 

「ハヤト、反撃を避けるためだ。セオリー通りに少し移動するぞ。レーザー通信の視界が通っているか注意してくれ。」

 

「了解です、カイさん」

 

相棒に声をかけるとカイのガンタンクは後退を開始した。射撃位置を変えられる。それもまたガンタンクの長所である。こちらは敵の位置を把握しているが、敵はこれでこちらの位置を特定できない。

 

「自動装填出来る弾数には限度がある。慎重に慎重に、だ。」

 

カイは絶対に死にたくはない。せっかく有利な戦闘なのだ。時間を浪費するにしても、敵から離れた有利な状態のままでこの戦闘を終えたかった。

 

 

 

 

「順調だな。」

 

参謀席のゴップ提督がマチルダに話しかける。

 

「はい。やはり制空権を取れると楽ですね。」

 

マチルダは応えた。今回、連邦は圧倒的な数の航空機で制空権を握った。鍵は新型機にある。FF-4は急遽開発されたコアファイターの量産型である。

 

「対戦成績が悪ければ数を用意する。FF-4は徹底的にコスト削減の対策を施した。敵に倍する数を用意する為にな。」

 

「はい。」

 

マチルダは既に何度となくその話を聞かされている。FF-4は最新鋭機であるが、性能はコアファイターより大幅に削られている。何より武装がバルカンしかない。筐体もプリントして作成されるので、被弾したら総取り替えである。

 

「それでも、ジオンのドップとの空戦の対戦成績はFF-3セイバーフィッシュと同等なのですよね?」

 

「ドップが、FF-3を屠る為にデザインされたという事情もあるがね。だからFF-3は本来の対艦攻撃機として用いて、ドップを相手には防空戦闘機としてFF-4を用いるのだ。」

 

マチルダは憂い顔になった。性能の悪い機体で敵に挑むのは、自分達とは真逆の運用である。数で補うとはいえ、それはマチルダの趣味ではなかった。

 

「そんな顔をするな。生存率を上げる為に出来る手は打つ。投入数は予想される敵数の四倍を用意した。最低限二対一の比率は維持する。それで被害もかなり減らせる道理だ。」

 

そうなのだ、FF-4はゴップ提督の愛する数字により導かれた兵器だ。最低限の性能に落とした上で、費用効果を最大化する。その上で数で圧倒するのがゴップ提督流の戦い方である。

 

「無論それだけでは、計算が一つ狂うだけで勝てなくなる。だからこうして、君達にも参加してもらっている。」

 

「光栄です。」

 

短くマチルダは応じた。私情は挟まない。実際、ゴップ提督は結果を出しつつある。

 

「敵のマゼラアタック分離、マゼラトップによる襲撃が来ます。」

 

オペレーターの声に、ゴップが応じる。

 

「空中待機部隊突入、迎え撃て!」

 

制空権を維持するのはFF-4の役目だけではない。FF-6ことTINコッドも控えている。製作時期に関わらず型番が前後するのは、FF-4は型式番号でさえ廃番を再利用して付与されているからである。

 

マゼラトップは航空機ではない。短時間飛翔して、優位な射撃ポジションをとるだけの可能だ。分離すると飛行時間は5分。再結合は出来ないので戦闘時間はかなり短いが、ここぞという時に使うインパクトは大きい。

 

「防げよ、なんとしても。」

 

ジオンは戦艦を潰しに来たのだ。FF-4とFF-6の包囲下を戦艦に向け突撃を敢行する。海上に進む以上、片道切符を覚悟しているだろう。連邦の航空機がマゼラトップの集団に釘付けになったその時、本当の予備部隊が動き出した。空を飛ぶザクの集団だ。

 

ドダイと呼ばれる爆撃機の上に、アタッチメントを装着してザクの脚部を固定する仕組みである。このザクは3機だがいずれもバズーカを装備している。本気であの戦艦を沈めに来ているのだ。あの戦艦はガンタンクのレールキャノンによる砲撃を隠す為の、単なるダミーでしかないのに。

 

『飛ぶザクはこちらで対処します。』

 

「了解。」

 

小隊長として働くミライの声に、マチルダは素早く了承を与える。マチルダの声を待たず、3機のコアファイターが躍り出た。ミライ、ハモン、イセリナだ。マゼラトップにも警戒を緩めていなかったのだ。ザクの背後について、ミサイルを斉射した。シミュレータでやった教本通りの動きである。

 

ザクは背後を振り向けない。そして下は海だ。鈍重なドダイでは、コアファイターの追跡は外せない。ベストのタイミングで放たれたミサイルを避けられない。それでも墜落するよりはマシだと、ザクはドダイから外れる。そして空中でバズーカを構え直した。

 

「当たるはずがないでしょう。」

 

牽制でザクのモノアイにバルカンを撃ち込みながら、ミライのコアファイターが飛翔する。ザクを追い越して、ザクのバズーカは虚空に消えた。弾速が遅い。素早いコアファイター狙い打てるはずが無い。そして三機のザクはそれぞれ水没した。

 

MSには宇宙で使用できるだけの機密性がある。簡単には浸水しない。それでもバルカンが命中していれば、浸水の一つもあるかもしれない。

 

「ロスト地点を記録せよ。ザクは引き上げるぞ」

 

ゴップ提督の副官の指示が飛ぶ。見ればノーマルスーツ姿のパイロットが3名浮き上がっていた。ノーマルスーツなら死なない。だがザクはとても動けないと見て、機体を捨てたのだ。

 

「ノーマルスーツでは泳げないだろうに。ジオンのパイロットも回収しろ。」

 

「はっ」

 

ゴップ提督の声に副官が答え、専用の通信機を操作する。

 

「ま、こちらも似たようなことはしているのだがな。」

 

戦艦の乗員には全員ノーマルスーツを着せていた。仮に戦艦が沈んでも、生き残れるようにとの配慮である。

 

「さあ仕上げだ。煙幕を。」

 

「フライマンタ隊、煙幕を投じろ!」

 

フライマンタは戦争の初期に活躍した爆撃機である。デブロッグが開発された今も、多目的機として活躍している。

 

「煙幕?」

 

ジオンの将兵は戸惑った。ミノフスキー粒子に煙幕では、何も見えないではないか。

 

「目に頼る、それがジオンの大間違いだ。」

 

宇宙空間は広大で遮るものはない。視界はどこまでも開けている。しかし地球は違う。土地の高さが異なるので煙幕は滞留しやすい。視界も遮られる。しかし、座標を元に砲撃は可能だ。しかも、視覚に頼らない戦い方まで用意されている。

 

「そこだっ!」

 

白煙を貫くように、シイコのザクのヒートホークが唸りを上げる。所持しているのは、ジオンのそれと比べて軽量化を果たしたトメノスケ・ヒートホークだ。

 

ジオン軍は無重量環境に最適化して、ヒートホークが大振りである。地球の重力環境では、振りが大振りになる。トメノスケ・ヒートホークはその点改良が施された。よりスリムで振り回しやすい。それはヒートホーク同士の格闘で反応速度の上昇をもたらす。元々反応速度の速いパイロットに最適化された、それがトメノスケなのだ。シイコは片端からザクを無力化していく。

 

『シイコ曹長、突出しすぎだ。戻れ。敵の位置が分からないだろう。』

 

シイコのMAVで隊長機のフランシス・バックマイヤー中尉の叱責が飛ぶ。シイコは意に返さなかった。

 

「ええ。分かるわ、お姉様!」

 

『お姉様?』

 

上空にはセイラのコアファイターが飛翔している。セイラとて煙幕環境下では敵の位置を視界に収めている訳ではない。違うのだ。シイコとセイラはニュータイプとしての感能力で敵の位置を察知し、しかもそれを共有している。

 

一人のニュータイプが感応する敵との位置関係は、直線的なものだ。しかし、複数人のニュータイプが相互補完すれば、それは立体的になる。地上と空からの走査、更にミライも含めたNTの知覚網である。彼女達の脳裏には、対象の位置関係がありありと映し出されていた。それこそが、ニュータイプがMAVを組み相互補完する真価である。

 

「感じるの、お姉様の力で!」

 

シイコのザクが跳ねる。ヒートホークが空気を裂くシュンッという音が、煙幕の中で異様に鮮明に響いた。握った柄が熱を持ち、振動が腕から肩まで突き上げる。

 

その瞬間、セイラの視界がシイコと重なった。敵の位置が、立体的に浮かび上がる。シイコのザクがトメノスケを振るう。防御網に大穴が空いた。

 

『ええい、シイコに続け。』

 

シールドと90ミリマシンガンを手にした残りのザクが突入を開始する。勝敗は定まった。ジオン軍はマゼラベースを先頭に敗走を開始した。

 

「ええい。増援がハワイから寄せられていれば。せめて戦艦がいなければ。」

 

ジオンの将校は、ギャロップで後退しながら沖合に停泊している戦艦を睨んだ。複数のミサイルが直撃したものの、未だ健在である。連邦にMSなどない以上、ミサイルは対空に特化している。あれだけデカい目標なら命中は容易いが、数発当てたところで大勢に影響はなかった。装甲が厚い上に、浸水箇所を隔離して浮き続けるのだ。かつての戦場の主役は伊達ではない。

 

実際のところ、砲撃の主体は戦艦だけではない。少なくない威力のMSは、ガンタンクのレールキャノンの被害に遭っている。しかしジオン側は、まだその存在すら把握出来ていなかった。

 

 

 

 

ーハワイー

 

「首尾は?」

 

マ・クベは短く副官に問うた。

 

「パナマは陥落しました。連邦の進軍は停止していますが、潜伏していた連邦部隊が活性化しているとの報があります。」

 

ウラガンの回答に、マ・クベは満足した様子を見せる。

 

「順調だな。例の女を通じて、ザクも情報も流した甲斐があったというものだ。」

 

マ・クベとしては、彼の予言通りロメロ少将が失態を演じて満足であった。半分は、彼の策謀であったとしてもだ。それに与えた不利益は、それに倍する利益で釣り上げればいい。

 

「本当に、これでよろしかったのですか?」

 

ウラガンの問いかけは、ジオン軍内で問題にならないかという趣旨である。

 

「問題ない。ロメロ少将が足掻けば足掻くほど、北米は乱れる。それは全て不運な出来事として処理されるだろう。彼が自ら選んだ道だ。」

 

「はっ」

 

ウラガンは戦慄しながら己の上官を眺めた。

 

「例の女、大事にしろよ?」

 

「彼女の事でありますか?」

 

意外に感じて、ウラガンが問い直す。

 

「当然だ。彼女は大物を釣り上げる為の餌として、ザクという成果を持ち帰らせたのだ。このルートを隠れ蓑として、いずれば大物を釣り上げる。」

 

「大物とは?」

 

「そうだな。ジオンに寝返りたい連邦の将官、といったところだ。これ程、勝利に貢献したのだ。彼女がジオン軍人と交流してもとやかくいうものはいない。そこを利用するものは必ず出る。逃すなよ?」

 

「か、かしこまりました!」

 

やはり己の上官は出来が違う。ウラガンは切れ者と言われるマ・クベの底の見えぬ知謀に戦慄を禁じ得なかった。




鹵獲ザク戦、シイコとセイラの関係性の決着、そして北米戦線の一旦の帰結までを描きました。

参謀本部の面々は本来別作品の登場人物ですが、本作では兼任という形にしています。戦争末期、前線へ駆り出されていくという解釈です。

GQuuuuuuX本編では、オデッサ・北米の順に連邦が奪還します。この流れを成立させるため、本作ではマ・クベの暗躍という要素を組み込みました。
ロメロ少将についても、ガンダムジ・オリジンの『なぜこの人物が指揮官に?』という違和感への、自分なりの回答です。

政争は今後も動き続けますが、一定の方向性を持って結末へ収束していきます。

今回もお読みいただきありがとうございました。
よろしければ「よかった!」の一言でも構いませんので感想を頂けると励みになります。アンケートの方もぜひお願いします。

GQuuuuuuX Another side 第07話 乾いたスポンジ

  • タイトルが秀逸
  • 戦略描写が面白い
  • 北米の罠が巧妙
  • 参謀本部の構図が良い
  • マ・クベが切れ者すぎる
  • ラルの視点が渋い
  • パナマ戦が熱い
  • 砲撃戦の描写が良い
  • 煙幕戦術が印象的
  • NT連携が新鮮
  • シイコの戦闘が強烈
  • 装備差の描写が良い
  • 戦術と戦略が噛み合う
  • 情報戦の描写が良い
  • 【要望】戦闘をさらに増やして
  • 【要望】MS戦をさらに濃く
  • 【要望】NT描写を強化して
  • 【要望】マ・クベをもっと見たい
  • 【要望】敵視点を増やして
  • 【要望】ラルの出番を増やして
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