緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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第1章 緋色の女王との出会い
1 ウマ娘世界のヒト息子


 前世で過労死という、絵に描いたような社畜の末路を辿った私は、何の因果か生まれ変わった。

 現状を正確に把握するまでに時間はそうかからなかった。結論から言えば、私は別の世界に転生していた。それも、ただの異世界ではない。「ウマ娘」と呼ばれる、常人離れした身体能力と特別な輝きを持つ少女たちが駆ける世界だ。

 もっとも、私自身がそのウマ娘に転生したわけではない。ごく普通の、ヒトの男児として生を受けた。両親も普通のヒトだ。

 

 前世の記憶と大人の知識を持ったまま赤ん坊からやり直すのだから、当然ながら周囲からは「天才だ」「神童だ」とチヤホヤされることになった。しかし、私自身に増長する気は微塵もなかった。「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」という言葉があるが、私の場合はまさにそれだ。

 ただ大人の感性と知識を先取りしているだけであり、特別な才能が宿ったわけではない。いずれ年齢が追いつけば、ただの凡人に落ち着くことは自分が一番よく分かっていた。

 

 それに、この世界での「ヒトの男性」の立ち位置は、前世の常識とは少し異なっていた。

 ウマ娘という圧倒的なフィジカルとスタミナを持つ存在がいるためか、社会構造にどこか男女逆転的な側面があるのだ。肉体労働はもちろん、デスクワーク一つをとっても、ウマ娘の底なしの体力でバリバリと働かれては、ヒトの男性はなかなか太刀打ちできない。

 結果として、この世界では「いい感じのウマ娘に見初められて結婚し、専業主夫として家庭を支える」という生き方が、ヒトの男性における一種のステータス、あるいは現実的な生存戦略として定着しつつあった。うちのようなヒトの夫婦でも母が外でバリバリ働いて、父は専業主夫だ。

 周囲の人間がそういった将来設計を思い描くのも理解できるし、それを否定するつもりは毛頭ない。ただ、前世で擦り切れるまで働いた記憶がそうさせるのか、あるいは単に私の性が合わないのか、誰かに庇護されて生きるだけの人生というのは、どうしても腹落ちしなかった。

 

 自分の足で立ち、自分の価値を証明できる仕事はないだろうか。

 そう考えた私が辿り着いた目標が、「ウマ娘のトレーナー」だった。

 前世の言葉で例えるなら、アスリートのコーチであり、監督であり、そして教師でもある。ウマ娘と二人三脚で夢を追いかける、言わば人生の伴走者だ。

 もちろん、過労死した前世の記憶を持つ身からすれば、トレーナーという仕事が尋常ではない激務であることは想像に難くない。しかし、ただ理不尽に消耗するだけの前世の仕事とは違い、この仕事には明確な実入りがあり、何より「人を教え、導く」という行為自体に、私は強い魅力を感じていた。

 難関と言われる資格試験も、幼い頃から計画的に学習を進め、前世の経験で培った論理的思考やタスク管理能力を総動員すれば、あとは己の努力次第でどうにでもなるはずだ。

 

 平凡な自分が、輝かしい才能を持つ彼女たちを支える裏方になる。

 それが、この二度目の人生で私が見つけた、身の丈に合った、しかし最高にやりがいのある目標だった。

 

 そんな未来の青写真を描きながら、穏やかな日々を過ごしていた私に、最初の転機が訪れたのは小学校に入学する少し前のことだった。

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