緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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4 週に一度のお泊り

 さて、新生活のルールとして定めた『水曜日の夕食』である。

 

 当初の予定では、学園の広くてメニュー豊富なカフェテリアを利用するか、たまには気分転換に学園外のお店に食べに行くという想定だった。しかし、いつの間にか毎週水曜日は、スカーレットが私の割り当てられたトレーナー用の単身寮へ当然のようにやってくる日になっていた。

 理由は至ってシンプルだ。

 

「だって、お兄ちゃんの手料理が食べたいんだもん」

 

 上目遣いでそう言われてしまえば、断れるはずがない。可愛い妹分のためなら、手料理くらい何度でも、いくらでも作ってやるさ。

 そもそも水曜日の夕食は、単なるお食事会ではない。一週間の食事バランスと基礎練習のメニューを確認し、来週のスケジュールを調整するための重要なミーティングも兼ねているのだ。

 

 ウマ娘の食事管理と聞くと、グラム単位でマクロ栄養素を量るような厳密なものを想像するかもしれないが、実際はそこまで神経質になる必要はない。彼女たちは極限まで絞り込むボディビルダーではないし、圧倒的な基礎代謝と運動量があるため、暴飲暴食さえしなければ多少好きなものを食べても問題はないのだ。むしろ、栄養バランスが偏っている時に、この週に一度の食事で微調整をするという意味合いの方が強い。

 まあ、うちのスカーレットはすさまじく真面目でストイックなので、普段の食事バランスが崩れることなんて滅多にないんですけどね!

 たまに「少し甘いものを結構食べてるな」という週もあるが、それも育ち盛りの女の子としての許容範囲内である。

 

 つまり、この水曜日の夕食において、私は思う存分、スカーレットの好きなものを作って食べさせることができるというわけだ。

 ちなみに今日のメニューは、ホットプレートをドンと出した『焼肉』である。がっつり系だ。

 スカーレットは誰もが見惚れるような美少女のガワをしているが、中身はゴリゴリのトップアスリートである。食べたいものを聞くと、基本的には肉や炭水化物といった重めのものを要求されがちだ。前世の体育会系男子中高生が喜ぶようなメニューを、彼女は山盛りの白米とともにもりもりと平らげていく。

 口の周りに少しタレをつけながら、幸せそうに肉を頬張る姿は、控えめに言って宇宙一可愛い。

 

食後の確認ミーティングが終われば、あとは他愛もない雑談の時間だ。

 

「それでね、同室のウオッカがまた馬鹿なこと言っててさ!」

「同級生のマーチャンがまた変なマスコットを持ってて……あ、ジャーニーは相変わらず胡散臭いわ」

 

 お茶を飲みながら、スカーレットは楽しそうに学園での出来事を語ってくれる。

 ウオッカ、アストンマーチャン、ドリームジャーニー。前世の競馬知識を持つ私からすれば錚々たる名前だが、彼女にとっては等身大のルームメイトであり、同級生たちだ。

 スカーレットは元々社交性も高く、負けん気は強いが面倒見もいいのであまり心配はしていない。

 だが、何か小さなトラブルや悩みの種があった時にすぐ対応できるよう、こうして日頃から何気ない話を聞いておくのはトレーナーとして非常に重要なのだ。決して、ただ妹分の楽しそうな学校生活のお話を聞いてニコニコしているだけのダメお兄ちゃんというわけではない、断じて。

 

 一通り話し終え、夜も更けてくると、あとは風呂に入って寝るだけとなる。

 だが、ここからが前世のおじさんにとっての真の試練である。

 

「お風呂、先もらっちゃった。あーさっぱりした!」

 

 風呂上がり、スカーレットは当然のように薄着、というかほぼ下着に近いような無防備な格好で私の部屋を歩き回る。その暴力的なまでの健康美と豊満なプロポーションを前に、心の中のおじさんが致死量の吐血をする。

 別に何か意味があるわけではないだろう。この世界のウマ娘は結構みんながさつだし、前世で言う男子中高生みたいな連中ばっかりだ。もちろん一部は淑女じみた子もいるが例外中の例外であり、スカーレットも結構雑だ。

 トレーニング上がりだと下着で歩いてたり外で着替えだす奴もいるし、男性トレーナーたちも結構平然としている。そういう世界なのだ。

 私は全然なれないけどな!!

 

 

 

 さらに夜。トレーナー寮のベッドは一つしかないのだが。

 

「お兄ちゃん、一緒に寝よ!」

 

 ポンポン、と自分の隣(私のベッドである)を叩いて添い寝を求めてくるのだ。これには心の中のおじさんが完全に息絶えた。

 断るという選択肢はない。彼女が不満げに拗ねる顔を見たくないし、何より彼女の中では「大好きなお兄ちゃんに甘えているだけ」で、そこに男女の不純な感情は微塵もない。

 しかし、いくら中身が幼くても、密着してくる身体は紛れもなくむっちむちのわがままボディである。彼女のシャンプーの甘い香りと、柔らかな感触に包まれながら、私は毎晩のように己の理性を総動員して壁のシミを数え続ける羽目になるのだ。こちらは本当につらいんですけどね!

 

 そんな感じで甘やかなお泊まり(拷問)をこなし、翌朝。

 スカーレットは私の部屋から、そのまま学生寮へと『朝帰り』をしていく。

 最初は、朝帰りの現場を同室のウオッカに見つかって「お、お前! トレーナーの部屋から朝帰りって、何やってんだ!?」と激しく揶揄され、大騒ぎになったらしい。

 しかし、それが毎週の恒例行事になり、しかもただ幼馴染のトレーナーに甘やかされて健全に寝ているだけだと周知された今では、「あ、またダイワの朝帰りか。お疲れ」と完全に呆れ半分で慣れられてしまったようである。




 まあみんなスカーレットを参考にしようとしてるんですが主人公は気付いていません。
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