緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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5 甘やかしデー

 今日はスカーレットが最も楽しみにしていたはずの『土曜日の甘やかしデー』である。

 

 当初の想定では、一週間厳しい基礎練習と学園生活を頑張った彼女へのご褒美として、私が完全に財布兼荷物持ちとなり、彼女のワガママを何でも聞いてあげる日になるはずだった。

 一緒に話題のスイーツを食べに行ったり、ショッピングモールで可愛い服を選んだり、あるいは映画を見に行ったり。幼馴染の妹分をデロデロに甘やかすための、私にとっても至福の休日になる予定だったのだ。

 

 それなのに、休日の昼下がり。私の部屋のソファで繰り広げられていたのは、想定とはまるで逆の光景だった。

 

「なんでこっちが甘やかされてるんですかねぇ……」

「だってお兄ちゃん、毎日私のためにデータ見たり、遅くまでお仕事して働きすぎだし。たまには私が甘やかしてあげるの!」

 

 私のぼやきに対し、上から降ってきた声はひどく得意げだった。

 現在、私はソファに横たわり、スカーレットの膝の上に頭を乗せている。そう、あろうことか『膝枕』をされているのだ。しかも、頭皮やこめかみを、ウマ娘の力加減をギリギリまで抑えた絶妙な優しさでマッサージされながら。

 

 スカーレットに甘やかされている。

 甘やかす側だったはずの私が、完全にダメ人間にされかかっている。

 

 後頭部に伝わってくる、健康的でムチムチ、そしてパツパツに張ったアスリート特有の太腿の感触。前世のおじさんならずとも、健康な男子であれば理性が吹き飛びかねない極上のクッションである。

 だが、その至福の感触を味わいながらふと目を開けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

 

(……スカーレットの顔が見えねえ)

 

 下から見上げる視界の先には、圧倒的な質量を誇る「雄大な双丘」がそびえ立っていたのである。

 デカすぎる。顔どころか、天井の照明すら遮るほどの存在感だ。

 というか、入学式の時よりさらにデカくなってないか? 十二歳でこれなら、高等部になる頃には一体どうなってしまうんだ。成長期という言葉の概念をぶっ壊す暴力的なまでの発育の良さに、私の心の中のおじさんは再び泡を吹いて倒れそうになった。

 そんな私の内心の葛藤など知る由もなく、見えない山の向こうから「お兄ちゃん、気持ちいい?」と無邪気な声が降ってくる。

 

「……ああ、最高だよ。お兄ちゃん、このまま溶けてなくなりそう」

「ふふっ、お兄ちゃんがいなくなったら私が困るからダメー」

 

 そんな甘ったるいやり取りをしながら、幼馴染の妹分に徹底的にケアされる休日。

 これが悪いはずがない。むしろ最高すぎる。

 とはいえ、完全に私が主導権を握られているわけではない。時計の針が昼時を指し、二人のお腹がぐぅと鳴った時のことだ。

 

「あっ、お昼ごはん! 私、今日はお兄ちゃんのためにオムライス作ってあげる!」

「待て待て待て! 頼むから座っててくれ、料理は私がするから!!」

 

 意気揚々と立ち上がろうとする彼女を、私は血相を変えて引き留めた。

 そう、天は二物を与えないというべきか、スカーレットはウマ娘としては百年に一人の天才だが、こと「家事」においては結構なポンコツなのだ。

 料理だけでなく、掃除や片付けも基本的には苦手だ。

 

 だから結局、エプロンを着けて台所に立つのは私の役目になる。

「えへへ、お兄ちゃんのオムライス大好き!」と、ソファで足をバタバタさせて料理を待つスカーレット。

 手際よくケチャップライスを炒め、卵で包みながら、私はふと、ある重大な事実に気がついてしまった。

 

 毎晩のように彼女の高価な下着を手洗いし。

 彼女の好きなご飯をきっちり作り。

 休日は彼女に膝枕をされ、よしよしと頭を撫でられて物理的に癒やされている。

 

(……あれ? これって……)

 

 私は思い出す。

 転生した幼い頃、「ウマ娘の圧倒的な体力と稼ぎに依存し、専業主夫として養われるヒトの男」というこの世界特有の生き方に反発し、自立するためにトレーナーという過酷な職業を選んだはずだった。

 

 だが、現状はどうだ。

 エプロン姿でフライパンを握る私の姿は、どう贔屓目に見ても『有能なウマ娘の妻を家事で支え、休日は妻に甘やかされる、完璧な専業主夫』そのものではないか。

 

「お兄ちゃーん! まだー?」

「あ、ああ、今持っていくよ!」

 

 職業、中央トレセン学園トレーナー。

 実態、ダイワスカーレットの完全なるヒモ。

 

 自立を目指して過労死スレスレの努力をした結果、結局この世界の「ヒトの男のテンプレ」のような立ち位置に見事なまでに収まってしまった事実に、私は完成したオムライスを見つめながら、ひっそりと涙を流すのだった。




 なお、公式のダスカは両親が留守がちだったのもあり、家事が得意なことに入るぐらい家事が得意ですが、この世界ではお兄ちゃんが全部やっていたので苦手です。
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