緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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7 夏の砂浜

 選抜レースの熱気も冷めやらぬまま、トレセン学園は長い夏休みに突入した。その期間はたっぷり二か月もあるが、この期間にどれだけ質の高いトレーニングを積めたかで、秋以降の成長に決定的な差が生まれる。

 

 中等部一年の新入生は、学園が主催する公式の夏合宿にはまだ参加できない。そして実績も資金もない新米トレーナーの私としては、大人しく学園の施設を使って地道にトレーニングを積むつもりだったのだが――そこはさすが、エリート一家である。

 スカーレットの母親であるブーケさんが、「夏の自主練に使いなさい」と、海沿いにある立派な別荘をポンと貸してくれたのだ。

 

 ありがたい話だが、中身が擦り切れたおっさんとはいえ、肉体年齢は成人したての若い男である私と、可愛い年頃の娘を、二か月間も二人きりで一つ屋根の下に住まわせて良いのだろうか。

 まあ、ウマ娘にヒトの男が手を出せるわけがないし、お兄ちゃんなら絶対安心だからねという圧倒的な信頼と、ウマ娘社会特有の男女のパワーバランスの証なのだろうが、少し複雑な気分になる。もちろん、万が一にも可愛い妹分に手を出すつもりはないが。

 

 別荘での生活は、私が家事全般を完璧にこなすため特に問題はなかった。

 目の前に広がる砂浜でのランニング、傾斜のキツい坂道ダッシュ、そして心肺機能を高めるための海での水泳。自然環境を活かしたトレーニングは非常に順調に進んでいた。

 

 スカーレットは天才的なセンスとポテンシャルを持っているが、実は脚部の丈夫さなどは人並み程度という繊細な面がある。前世の知識とトレーナーとしての分析から、無理をさせすぎると故障に繋がりかねないことは分かっていた。

 だからこそ、日々の疲労度を見極め、慎重にメニューを組む必要があるのだが、彼女は私の指示を素直に守ってくれるため、今のところ怪我の兆候はない。トレーナーとしては、完璧な合宿と言っていい。

 

 問題は、トレーニング「以外」の時間なのだ。

 

「お兄ちゃん、今日もお願いっ」

「はいはい。うつ伏せになってリラックスしろよ」

 

 まずは、スカーレットのボディケアである。

 先述の通り、彼女の身体は非常に繊細だ。そのため合宿中、疲労回復と筋肉のケア、そして日焼けした肌の手入れを兼ねて、週に一回「全身エステティック&マッサージ」の時間を設けることにしたのだが……。

 これが前世のおじさんにとっては、致死量の拷問だった。

 マッサージオイルとローションを手に馴染ませ、彼女の全身をくまなく揉みほぐしていく。当然、服を着たままではできないため、目の前にはほぼ全裸に近い状態で、無防備にベッドに寝転がる妹分がいるわけだ。

 スカーレットにとっては「大好きな優しいお兄ちゃんがケアしてくれている」という安心感しかないらしく、恥じらいなど微塵もない。しかし、オイル越しに指先から伝わってくる、中等部一年生とは到底思えない豊満で柔らかな感触に、私の中のおじさんは毎週確実に一度死ぬ。

 

 日常的な格好もヤバい。

 海沿いの行楽地という解放感と、夏の暑さのせいもあるのだろうが、普段の彼女の服装はとにかく露出が多い。極端に短いホットパンツに、へそ出しのタンクトップ。十二歳がしていい格好ではないし、何より彼女の暴力的なまでのスタイルが布地の面積と致命的に合っていない。

 目の毒すぎるその姿に、私は一日中、脳内で般若心経を唱え続ける羽目になる。

 

 さらに夜。

 

「暑ーい。お兄ちゃん、クーラー効かせてよ」

 

 別荘の部屋の中だと、暑いからと言ってなんと下着姿でうろつき始めるのだ。そして極めつけに、そのまま当然のように私のベッドに潜り込んでくる。

 

「いや、暑いなら自分のベッドで一人で寝た方が涼しいだろ……」

「えー、ヤダ。お兄ちゃんと一緒がいいの。お願いっ」

 

 むすっと頬を膨らませ、上目遣いでそう言われてしまうと、ダメお兄ちゃんである私に拒否権はない。密着してくるむっちむちの肌と、火照った体温、そして甘い匂いに理性を削られながら、私は毎晩壁のシミを数えて朝を待つ。

 

「昔は一緒にお風呂にも入ったのにー。お兄ちゃんのケチ」

 

 唇を尖らせて混浴まで要求してくる彼女から、どうにかお風呂だけは死守しているのが、私の最後の理性の防波堤であった。

 この合宿が終わる頃、私の精神が正常に保たれているのか、ひどく不安である。

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