緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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10 新チームの日常

 ドリームジャーニーという一癖も二癖もある曲者が加わり、二人に増えた我がチーム。

 新たな体制でのトレーニングが始まったのだが、私はまず、ジャーニーの基礎的な肉体改造から着手することにした。

 

「えー……」

 

 私の組んだメニューと食事のノルマ表を見て、ジャーニーがあからさまに不満そうな声を漏らす。

 

 彼女が渋るのも無理はない。

 特に食事ノルマが彼女の日ごろの倍ぐらいになっている。

 だがジャーニーは、ウマ娘の中でも極端に線が細いのだ。

 前世の記憶にある実馬の方も、最軽量でのGⅠ勝利記録を持つほど小柄だったことは知っている。身長もこれ以上大きくは伸びないだろうし、骨格が細いから筋肉や肉を過剰に付けられないというウマ娘としての特性も理解はしている。

 だが、それを差し引いても今の彼女は細すぎるのだ。スカーレットのような暴力的なまでの豊満さを目指せとは言わないが、過酷なクラシック路線を戦い抜くためには、体幹を支えるための筋肉ともう少しの脂肪が絶対に必要だ。

 

 そのためにはどうするか。

 限界まで動かして、腹を空かせ、大量に食べさせる。アスリートの基本にして究極の真理、ただそれだけである。

 

「さあ、ジャーニー。まだノルマの白米とプロテインが残っているぞ」

「む、無理です……これ以上は胃袋が……っ」

「スカーレット、押さえてろ」

「はぁい♡」

 

 小食で逃げ出そうとするジャーニーの背後から、スカーレットが満面の笑みで彼女をがっちりとホールドする。圧倒的なフィジカルと質量の差により、小柄なジャーニーはピクリとも動けない。

 

「謀りましたね、トレーナーさん……っ! スカーレットさんも!」

「謀ってねえよ!! お前が今後大舞台で勝つために必要な身体作りだ!」

 

 泣きそうになりながら私を睨みつけるジャーニーに、私は心を鬼にしてスプーンを口に運んだ。

 彼女がスカーレットとどんな裏取引をしてチームに加入したのかは知らないが、その取引の中に「お兄ちゃんのスパルタ食トレの際に助ける」という項目はなかったのだろう。スカーレットの方は、ジャーニーにマウントを取りつつ私の役に立てるのが嬉しいのか、ノリノリである。

 そうして泣く泣く食べさせまくった結果、数週間後にはジャーニーの華奢だった身体も多少はむっちりとして、アスリートらしい健康的なハリが出てきたので良しとする。肉体的なトレーニングより、食事トレーニングの方がよほど大変だった。

 

 そして、肉体改造と並行して行うもう一つの地獄のメニュー。それが「スタート練習」である。

 

 ジャーニーの弱点。それは、致命的なまでに『スタートへたくそ族』であることだ。

 出遅れて後方から追い込む自分のスタイルに絶対の自信を持っているようだが、追込しか「できない」のと、あえて「しない」のでは天と地ほどの差がある。展開に左右されやすい脚質一本で三冠路線を戦い抜くのはリスクが高すぎる。

 泣いても喚いても許さん。せめて人並みの、普通のスタートが切れるようになるまで、ゲート練習の無限ループである。

 

 そして当然、同時にスカーレットも隣のゲートに入れられ、一緒にスタート練習に付き合わせていた。

 

「ちょっとお兄ちゃん、私スタート下手じゃないんですけど!」

 

 文句を言うスカーレットに、私は手元のタブレット端末を突きつけた。

 

「目標はこれだ」

 

 画面に映し出されたのは、現在シニア級で活躍する先輩ウマ娘、ローエングリンのレース映像である。

 ゲートが開いた瞬間、他のGⅠ級の一流ウマ娘たちを置き去りにし、スタート時点ですでに一歩も二歩も前に出ている、芸術的なまでのロケットスタート。

 

「前目のポジションでレースを支配するお前なら、このレベルのスタートは最強の武器になるはずだ。ジャーニーに付き合うついでに、お前もこの境地を目指せ」

「うっ……お兄ちゃんがそこまで言うなら、やるけど……!」

 

 負けん気に火がついたスカーレットと、ただただ絶望の表情を浮かべるジャーニー。

 二人が泣いたり笑ったりできなくなるか、完璧なスタートが改善するまで、この無慈悲な特訓は永遠に続けられるのであった。

 

 

――そして

 

 

「おじゃましまーす……」

「……お邪魔します、トレーナーさん……」

 

 水曜日。恒例となっている週一回の私の寮での『夕食デー』に、なぜかスカーレットだけでなく、ジャーニーまでが当然のようにやってくるようになっていた。

 まあミーティングも兼ねているし、食事の用意ぐらいなら構わない。

 地獄の特訓でくたびれ切った二人が、玄関先でゾンビのように力なく崩れ落ちる。

 確かに、これだけ厳しく追い込んでいるのだから、メンタルケアとして美味しい手料理で機嫌を取る必要があるのはわかる。わかるのだが。

 

「お兄ちゃん、ご飯の前にマッサージしてぇ……」

「私も、脚がパンパンです……優しく、お願いしますね……?」

 

 むっちむちのわがままボディに育った妹分と、食トレの成果でほどよく肉づきが良くなり小悪魔的な色気を増した曲者。

 二人のウマ娘に挟まれ、順番に全身を丹念に揉みほぐす羽目になった私の前世のおじさんは、激しい胃痛と理性の崩壊に苛まれながら、血の涙を流すのだった。

 解せぬ。チームが強くなるのは喜ばしいが、これでは私の寿命が縮む一方ではないか。

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