緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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12 新しいトレーニング

 秋のファン大感謝祭から季節は巡り、吐く息が白く染まる年明けの頃。

 我がチームの二人にみっちりと課していた、地獄の基礎トレーニング期間がようやく完了の時を迎えていた。

 

 強制的な食事トレーニングの甲斐あって、細すぎたジャーニーの身体にはアスリートらしい肉と筋肉がつき、見違えるほどバランスの良い体格になった。

 そしてスカーレットの方はというと、日々の鍛錬によりさらに『むっちり』としたわがままボディに進化していた。前世のおじさんの理性をへし折りにきているとしか思えないプロポーションだが、これは決して不摂生による贅肉ではない。競走ウマ娘として必要な、力強い踏み込みを生み出すための純粋な筋肉の鎧だ。

 ただ、これ以上の質量増加は、いくら筋肉とはいえスピードの妨げになり、脚部への負担が勝ってしまうリスクがある。トレーナーとしての私の目から見て、このギリギリのむっちり具合が、彼女のベスト体重にして最高の仕上がりだと見込んでいた。

 

 何にせよ、二人の身体のベースは完璧に出来上がった。

 私が最も危惧していたジャーニーのスタート下手も、ローエングリン先輩の映像を擦り切れるほど見せ、スカーレットと並ばせて百本ノックのように反復させた結果、なんとか人並み以上のレベルには改善されている。

 基礎的な技術の仕込みは終わった。あとは、より実戦的な技術とレース勘を学ぶだけだ。

 

 ということで、私は他チームのトレーナーたちにも声をかけ、同級生たちも交えた『模擬レース』を頻繁に組むことにした。

 ただ走らせるだけではない。本格的なデビューを前に、私は二人に「自分の得意な脚質とは真逆の走り方」を一度体験させることにした。

 

「ええっ!? 私が後ろから行くの!?」

「……私が、スカーレットさんの前を走るんですか?」

 

不満そうな二人を宥め、私は指示を出す。

 

「なんとなく自分の本能だけで走っているだろうが、実際に別の戦法を試してみたら、そっちの方が向いているという可能性もある。それに、他の脚質の視点や苦労を知ることは、将来のレース展開を読む上で絶対に武器になるんだ」

 

もっともらしい理屈(実際、非常に重要なことだ)を並べて、いざ実戦テストをやってみたのだが、結果は、見事なまでに散々なものだった。

 

 まず、後方からの『追込』を指示されたスカーレットである。

 道中はいつものように走るジャーニーをマークし、最後の直線まで脚を溜める作戦だったのだが、彼女はスタートして数秒で顔を真っ赤にし始めた。

 誰かの背中を見ながら走る。ただそれだけのことが、彼女のプライドを激しく逆撫でしたらしい。結果、道中で前に出ようとする本能と「待て」という理性が喧嘩をして(いわゆる『掛かり』の状態だ)、無駄なスタミナを消費した彼女は、最後の直線で失速してしまった。

 

 一方、逆に『逃げ・先行』を指示されたジャーニー。

 いつも通り走るスカーレットの前を走り、ペースをコントロールさせようとしたのだが、これも上手くいかなかった。ジャーニーは頭が良いのでそつなくこなそうとはするのだが、いかんせん小柄な体格ゆえに、前でハイペースを維持し続けるのには向いていなかったのだ。背後から迫るスカーレットの圧倒的なプレッシャーを前に、彼女は第4コーナーを回る頃には完全にスタミナ切れを起こして沈んでいった。

 

 レース後、ゼエゼエと息を切らす二人にタオルを渡しながら、私は深く納得していた。

 

「お兄ちゃん……っ! もう絶対、後ろなんて走らないから! 私が一番前なんだから!」

「……ええ。私も、前を走るのは性に合いません。やはり全体を俯瞰できる後方が一番です……」

 

 スカーレットは結局、前に行くのが向いているというか、性格的に「控える」ということが根本的にできないのだ。常に自分が一番前、先頭に立っていなければ気が済まない『先頭民族』だからしょうがない。

 一方のジャーニーは、自分の小さな体格が生み出す「一瞬の鋭い切れ味」を最大の武器としている。道中は後方で息を潜め、前の連中の動きを観察しながら残酷な作戦を組み立てるのが、彼女の最も輝くスタイルなのだ。

 

 自分たちの適性を完璧に理解した二人。

 その後、本来の脚質に戻した彼女たちの走りは、見違えるほど洗練されていた。スカーレットが圧倒的なペースで前を支配し、ジャーニーが最後方から全てを切り裂くように飛んでくる。

 

 性格もプレースタイルも真逆の二人は、模擬レースで他チームのウマ娘たちを次々と撫で斬りにし、勝ちまくりながら、来たるべき中等部二年目の夏――『メイクデビュー』へ向けて、着実に経験値を積み上げていくのであった。

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