緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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13 甘い日々

 水曜日の夕食はお泊まりを兼ねたチームミーティングの場となっているため、当然のようにジャーニーも私の部屋へやって来る。しかし、休日の土曜日に設定された『甘やかしデー』は、完全にスカーレットのためだけに用意されたオフの日だ。そのため、この日にジャーニーが顔を出すことはない。

 

 だが、土曜日の休日に、彼女の影が完全に消えるわけではなかった。

 具体的に言えば、いつの間にか土曜日の『デートプラン』を、ジャーニーが丸ごとプロデュースするようになっていたのである。

 

「今週末のプランニング資料です。スカーレットさんには事前に話してありますのでトレーナーさんは指定の時間にエスコートをお願いしますね」

 

 金曜日の練習後、すました顔でジャーニーから手渡されたのは、デートのしおりだった。

 正直なところ、一回りも年下の中学生に自分の休日のエスコートプランを考えさせるなど、大人の男として(しかも前世は社畜のおじさんである)どうなのかという情けなさはある。

 だが、恐ろしいことにこの策士が提案してくる店やシチュエーションは、スイーツの味から雰囲気、移動の導線に至るまで、見事なまでにスカーレットの好みのど真ん中を撃ち抜くのだ。スカーレット本人が毎回目を輝かせて喜ぶ以上、私にこのプランを拒否する選択肢など存在しなかった。

 

 かくして迎えた、今週の土曜日。

 今回のテーマは『少し背伸びをした大人のデート』らしい。

 

「お待たせ、お兄ちゃん!」

 

 待ち合わせ場所である都内の高級ホテル内のラウンジに現れたスカーレットを見て、私の心の中のおじさんは開始一秒で膝から崩れ落ちた。

 普段の露出の多い活発な私服とは打って変わり、今日の彼女はシックな黒を基調とした、少しタイトなシルエットのワンピースに身を包んでいた。十二歳とは到底思えない、いや、むしろ大人でもそうはいないであろう暴力的なまでに豊満な胸元のラインが強調され、シックな色合いが彼女の鮮やかな緋色の髪と白い肌をひときわ美しく引き立てている。

 

「……すごく似合ってるよ。すっかり綺麗なレディだ」

「ほんと!? えへへ……ジャーニーさんがね、お兄ちゃんはこういう大人っぽい方がドキッとするはずだからって、一緒に選んでくれたの」

 

 あの策士め、どこまで私の性癖……いや、心理を読んでいるんだ、と内心で戦慄しつつ、私は彼女をラウンジの窓際の席へとエスコートした。

 

 本日のメインイベントは、ホテルの最上階で楽しむ高級アフタヌーンティーである。

 三段のティースタンドに美しく盛り付けられたマカロンやスコーン、季節のフルーツを使った繊細なケーキ。そして、上品な香りのするダージリンティー。眼下には都心の洗練された景色が広がっている。

 まさに「大人の女性」が楽しむにふさわしい空間だ。スカーレットもその雰囲気に当てられたのか、いつもより少しお淑やかに、背筋を伸ばして優雅に紅茶のカップに口をつけている。

 

「ん……美味しいわね、お兄ちゃん」

「ああ、そうだな。こういう静かな場所でスカーレットと過ごすのも悪くない」

 

 大人びた微笑みを作ろうとする彼女だったが、その完璧な淑女の仮面は、一口目のイチゴのタルトを食べた瞬間にあっさりと崩れ去った。

 

「んんっ〜!! なにこれ、すっごく美味しいっ!」

 

 目を真ん丸にして、パァッと花が咲いたような無邪気な笑顔を見せる。慌てて「あ、こほん。なかなか良いお味ね」と取り繕おうとしているが、頬が完全に緩みきっている。

 その年相応の可愛らしい反応に、私はたまらなく愛おしさを感じて吹き出してしまった。

 

「笑わないでよぉ! だって、本当に美味しいんだもん!」

「ごめんごめん。ほら、口の端にクリームがついてるぞ」

「えっ、うそ!?」

 

 慌てる彼女の口元を、私は手元のナプキンで優しく拭ってやる。その瞬間、スカーレットの顔がボンッと音を立てるように真っ赤に染まった。

 

「も、もう……お兄ちゃんってば、急にそういうことするんだから……っ」

 

 顔を伏せてモジモジとする彼女の頭を、私は愛おしく撫でた。

 

 夕暮れ時、オレンジ色に染まる都会の景色を窓越しに眺めながら、スカーレットがぽつりと呟く。

 

「私、もっと強くなって、もっと大人になって……絶対、お兄ちゃんにふさわしいお嫁さんになるからね」

「ああ。ずっと隣で一番に甘やかしながら、その日を楽しみに待ってるよ」

 

 背伸びをした大人のデートは、結局いつも通りの「ダメお兄ちゃんと可愛い妹分」の甘々な時間に着地した。

 完全にドリームジャーニーの手のひらの上で踊らされている気はするが、愛すべき幼馴染のこんなにも幸せそうな顔が見られるのなら、喜んで踊らされ続けてやろう。

 私は高級な紅茶を喉に流し込みながら、そんな決意を静かに固めるのであった。

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