緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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第3章 中等部2年目
1 新学年の抱負


 季節は巡り、桜が舞い散る春。スカーレットとジャーニーは、無事にトレセン学園の中等部2年へと進級を果たしていた。

 今年の夏は、いよいよ彼女たちがトゥインクル・シリーズへと羽ばたく『メイクデビュー』が控えている。そのデビュー戦と、今後のローテーションについての会議を開くことになったのだが……。

 

 現在、私のトレーナー室は少しばかり異様な空間と化していた。

 備え付けのソファには高級そうなレースのカバーが掛けられ、テーブルの上には上品なアンティーク調のティーカップ。そこから立ち昇る香り高いダージリンティーの湯気を、二人のウマ娘が優雅に嗜んでいる。

 

 この貴族のサロンみたいな空間は、ジャーニーがチームに加入してから、徐々に浸透していった独自の文化である。

 常に胡散臭い笑みを浮かべている小悪魔的な策士のジャーニーだが、私生活においては非常に趣味が良く、おしゃれで、根は真面目な良い子だということはこの半年でよく分かってきた。

 ただ、一つだけ難点がある。他チームのウマ娘など、彼女が明確に「敵対的」と見なした相手に対する態度の苛烈さだ。笑顔のまま、相手の心を完膚なきまでにへし折るような正論と煽りを叩き込むのは、本当にやめてほしい。バチバチに火花を散らす彼女を必死に宥め、裏で胃薬を飲むこちらの身にもなってほしいものだ。

 

「さて、本題に入ろう。二人のメイクデビューは、気候も涼しく新人が走りやすい、夏の函館開催を狙おうと思う。だが、その前に『ジュニア級』の最終目標を決めておきたい」

 

 私は気を取り直し、手元のタブレットにいくつかのレース名を表示させた。

 

「目標、ですか?」

「単純に言えば、年末のGⅠレース……『朝日杯フューチュリティステークス』『阪神ジュベナイルフィリーズ』『ホープフルステークス』の、3つのうちのどれを目指すか、だ」

 

 これらはジュニア級における頂上決戦である。

 マイル(1600m)でスピードを磨き、徐々に距離を伸ばして翌年のクラシック三冠へと繋げるなら『朝日杯』。クラシック三冠の王道となる中距離(2000m)の前哨戦とするなら『ホープフル』。そして、ティアラ三冠を目指すなら『阪神』といったところだ。

 

「じゃあ、私はティアラ路線を目指すんだし、阪神ジュベナイルフィリーズ一択じゃないの?」

 

 首を傾げるスカーレットに、私は首を横に振った。

 

「適性から考えると、お前がホープフルに行く選択肢も十分にある」

 

 スカーレットの筋肉の付き方やこれまでの走りを見る限り、彼女の真の適性は2000mから2400mの中長距離にあると私は見込んでいる。

 同年代には、ルームメイトであるウオッカやアストンマーチャンといった、生粋のバケモノマイラーたちが控えている。彼女たちとマイル戦で真っ向からガチ勝負をして消耗するくらいなら、距離適性の合うホープフルで確実にタイトルを獲りに行くのは立派な戦略だ。

 逃げではない。勝てるレースを確実に勝ち、実績を積むのも重要なことなのだ。

 

「とはいえ、ジャーニーもクラシック三冠を目指すんだから、彼女をホープフルに向かわせる選択肢もあるが……」

 

 私が視線を向けると、ティーカップを静かにソーサーに置いたジャーニーが、すまし顔で口を開いた。

 

「いえ、私は朝日杯から行こうかと思っています」

 

 なるほど、妥当な判断だ。地獄の食トレで肉はついたとはいえ、現状のジャーニーはまだスタミナ面が完成しきっていない。タフな2000mを走らせるより、まずはマイル戦で持ち前の末脚の切れ味を磨く方が理にかなっている。

 

「……ふふん、そういうこと」

 

 それを聞いたスカーレットは、腕を組み、不敵で誇り高い笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、私も迷わず阪神から行くわ。お兄ちゃんの言いたいことは分かるし、理にかなってるのも理解してる。でも、結局ここでウオッカたちから逃げたら、来年の本番……桜花賞がより厳しくなるだけだと思うもの」

 

 真っ向勝負を受けて立つ、負けん気の塊。いかにも『先頭民族』である彼女らしい、力強い決断だった。そして、この強気な姿勢こそが、ダイワスカーレットというウマ娘の最大の強さなのだ。

 

「分かった。なら、スカーレットは阪神、ジャーニーは朝日杯を今年の目標に設定する。まずは夏の函館で、最高のスタートダッシュを決めてやろう」

 

 こうして、我がチームの初年度の目標と方針は、優雅な紅茶の香りとともに、熱く静かに決定するのであった。

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