緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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5 息抜き

 夏のメイクデビューを見事に勝利で飾ったスカーレットは、その圧倒的なポテンシャルを見せつけるかのように、次戦の重賞レースをもあっさりと制覇してのけた。

 

 その破竹の快進撃へのご褒美として、今日はチームの三人で遊園地へと遊びに来ていた。

 中等部というお年頃の二人だ。普段は「もう大人なんだから」と背伸びしたがるスカーレットや、元々落ち着いた気質のジャーニーだが、実はこういうテーマパークでの楽しみ方はとても可愛らしい。

 絶叫系のジェットコースターでスリルを味わうよりも、コーヒーカップをくるくる回して笑い合ったり、メリーゴーランドの優雅な装飾を眺めながらのんびりと過ごすのが好きな二人なのだ。

 

 そんな年相応にアトラクションを満喫している二人のため、私は少し列から離れ、ベンチで食べるための軽食を調達しに来ていた。

 

「うええええええん……っ」

 

 売店からチュロスやドリンクを両手に抱えて戻ろうとしたその時。

 通路の隅で、顔をくしゃくしゃにして泣いている小さな影を発見した。真っ黒な髪をした、まだ幼いウマ娘の少女だ。

 周囲を見渡しても親らしき姿はない。完全に迷子である。

 

(またか……)

 

 私は心の中で天を仰いだ。前世から引き継いだ社畜の性なのか、私は昔からよく迷子に出くわす星回りのようだ。

 そもそも、ジャーニーという小悪魔に特大の運命フラグを握られ、チームに引き入れることになった原因も『遊園地での迷子』だった。関わればまた新たなトラブルを生むかもしれないという危機感はあったが、とはいえ、泣いている小さな子を放置して見捨てる方が、よっぽど人の道に反している。

 

「お嬢さん、大丈夫? お父さんとお母さんとはぐれちゃったのかな?」

 

 私は目線を合わせるようにしゃがみ込んで優しく声をかけた。

 我が強くて感情豊かな妹分をあやし続け、一癖も二癖もある担当ウマ娘たちを宥めすかしてきた私である。年下の女性への対応には、無駄に熟練の技が光っていた。

 少し優しく問いかけ、頭を撫でてやると、少女はすぐに安心したのかピタリと泣き止んでくれた。

 

「よしよし、偉いな。お兄ちゃんが迷子センターまで連れてってあげるからな」

 

 私は少女をひょいっと持ち上げ、安定するように肩車をしてやった。そのまま、待たせている二人の元へと戻ったのだが……

 

「ちょっとお兄ちゃん! 買い出しに行ったと思ったら、また別のウマ娘をたぶらかしてるじゃない!」

「ほんの数十分目を離した隙に、見事な手際ですね。油断も隙もあったものではありません」

 

 両手に軽食、肩に幼女を乗せて帰還した私を見るなり、スカーレットとジャーニーが揃ってジト目を向けてきた。

 

「人聞きの悪いことを言うな! ただの迷子だ、泣いてたから保護しただけ!」

 

 私が必死に弁明するも、肩車されている黒髪の少女が、私にしがみつきながら「お兄ちゃん、すっごく優しいの!」と無邪気に笑ったものだから、スカーレットの独占欲に火がついてしまった。

 

 スカーレットはツカツカと歩み寄り、その暴力的なまでに発育した胸をツンと反らせて、肩車の少女へ向けて堂々と宣言した。

 

「いいこと、お嬢ちゃん。このお兄ちゃんはすっごく優しくてカッコいいけど、私の専属なんだからね。私はこの人の『恋人』で『婚約者』なのよ!」

「あら……では、さしずめ私は『愛人』といったところでしょうかね」

 

 スカーレットの爆弾発言に、ジャーニーがすまし顔でさらにとんでもない燃料を投下する。

 

「お前ら!! 小さい子に変な概念を吹き込むな!!」

 

 私は絶叫した。中等部の女の子が「婚約者」を名乗り、もう一人が「愛人」を自称する。その中心にいるのは二十代の男。周囲の一般客から通報されかねない危険な事案である。

 

「こんやくしゃって、なぁに?」

「大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになるってことよ!」

「あいじんって?」

「お嫁さんの次に、大人の関係で可愛がってもらえるポジションのことですよ」

「ストォォォップ!!」

 

 私は半泣きになりながら、二人の口を物理的に塞ぎにかかった。

 その後、三人でキャーキャーと少女をかまい(主にスカーレットがお姉ちゃんぶって遊び相手になり)ながら迷子センターへと向かった。しばらく待っていると、血相を変えた親御さんが迎えに来て、涙ぐみながら何度も頭を下げられた。

 

「バイバイ、婚約者のお姉ちゃん! 愛人のお姉ちゃんも!」

 

 最後に少女が満面の笑みで放った一言に、親御さんがギョッとした顔で私を見たが、私は死んだ魚のような目で愛想笑いを返すことしかできなかった。

 

 色々と心臓と理性をすり減らすハプニングはあったものの、夕暮れの遊園地でチュロスをかじる三人の帰り道は、とても和やかなものだった。

 いよいよ年末のGⅠレースへ向けて忙しくなる前に、とても良い休日になったのだろう。

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