緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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第4章 中等部3年目
1 初詣


 年が明け、いよいよ彼女たちが本格的な三冠路線へと挑むクラシック級の年がやってきた。

 新年最初のイベントといえば、もちろん初詣である。

 

「お兄ちゃん、あけましておめでとう! ほらほら、早く行こ!」

「あけましておめでとうございます、トレーナーさん。今年もよろしくお願いしますね」

 

 待ち合わせ場所に現れた二人の姿を見て、私の中のおじさんは新年早々、拝む前に天に召されそうになった。

 スカーレットは目にも鮮やかな緋色と金糸の振袖。そしてジャーニーは、シックでありながらも上品な黒と紫の振袖姿だ。元々圧倒的な美貌を持つ二人だが、和装になることでその破壊力は天元突破している。特に、帯の上に鎮座する暴力的なまでの質量は、振袖の美しい柄を物理的に歪ませるほどであった。

 

 そんな絶世の美少女二人に両脇をがっちりとホールドされ、私は神社の参道を歩いていた。

 文字通りの『両手に花』状態である。すれ違う一般の男性客からの「なんだあいつ……」「羨ましい……いや、許せん……」という嫉妬と殺意の混じった視線が、私の背中にグサグサと突き刺さって痛い。

 

 いや、違うんだ! この子たちは私の大切な教え子で、片方はただの妹分なんだよ!

 

 心の中で必死に言い訳を叫びながら、私は胃を痛めつつ新年のお参りを済ませて帰路についた。

 

 そのまま、午後は教え子たちの家への『ご挨拶回り』だ。

 まずはジャーニーの家を訪問した。秋のファン大感謝祭で一度顔を合わせている彼女の母親と、妹のオルフェーヴルに改めて新年の挨拶をするためだ。

 

「あらあら、先生。うちの娘をG1ウマ娘に育ててくださって本当にありがとうございます。……どうか娘を、末永くよろしくお願いしますね」

 

 母親からは、ただのトレーナーへの挨拶にしてはやけに含みのある、まるでお見合いの後のような重い言葉をかけられたが、まあ指導者として頑張ろうと深く頷いておいた。

 

 問題は、妹のオルフェーヴルの方である。

 

「……ふんっ。姉上が貴様にふさわしいと思えないな。貴様みたいな軟弱な男に、姉上の何が分かるというんだ」

 

 大好きな姉を奪われた(と思っている)のか、彼女は私に向かってやたらと敵対的な態度で突っかかってきた。

 宥めようとした私だったが、隣に座るジャーニーが笑顔で耳打ちをしてきた。

 

「トレーナーさん。オルのこと、上手くなだめてください」

 

 担当ウマ娘の命令(?)とあらば仕方ない。

 私は前世の社畜時代に培った交渉術と、圧倒的なレース知識、そしてオルフェーヴル自身の走りの癖や弱点を的確に突きつけ、ロジカルかつ大人の話術で徹底的に論破した。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 完全にぐうの音も出なくなった妹君は、顔を真っ赤にしながらも、渋々といった様子で私を「姉の隣に立つにふさわしい男」として認めてくれたようだった。

 

 

 そんなドタバタのご挨拶回りを終え、私は自分の実家(スカーレットの家の隣だ)へと帰還した。

 正月くらいはゆっくり休もうと、実家の居間で炬燵に入り、みかんを剥きながらゴロゴロしていると。

 

「お兄ちゃーん! 私もそっち入るー!」

 

 当然のように上がり込んできたスカーレットが、炬燵布団をめくり、あろうことか寝転がっている私の上へダイブしてきたのだ。

 

「ぐふっ!?」

 

 私の胸の上に、見事なウマ娘が一人乗っかっている。

 重い。日々のトレーニングで鍛え抜かれたアスリートの筋肉の質量は、伊達ではない。

 だが、それ以上に……やわい。

 私の胸や腕に押し付けられている、彼女の女性特有の暴力的なまでの柔らかさが、私の理性を全力で破壊しにきている。

 

「お兄ちゃん、あったかーい……えへへ」

「……あのな、スカーレット」

 

 私の上で無防備にすり寄ってくる彼女に、私は必死に理性を保ちながら口を開いた。

 

「お前ももうすぐ中等部の三年生だろ。すっかり年頃の立派なレディなんだから、大人の男の上に乗りかかったり、こういう密着するような態度は、色々とよくないんじゃないか?」

 

 教育者として、そして兄代わりとして、極めて真っ当な忠告のつもりだった。

 しかし、私のその言葉を聞いた瞬間、スカーレットはむすっと頬を膨らませたかと思うと、両手で私の両頬をむにーっと全力で引っ張ったのである。

 

「ふぁっ!? ひゃめ、ふかーれっ……(やめ、スカーレット)」

「お兄ちゃんのバカ! 分からず屋!! これがお兄ちゃんへの新年の挨拶なんだから、黙って受け止めなさいよねっ!」

 

 理不尽極まりないお叱りを受けながら、私は引っ張られる頬の痛みと、胸に押し付けられる極上の柔らかさの間で激しく混乱していた。

 兄としての正論を言ったはずなのに、なぜ私が物理的なお仕置きを受けているのだろうか。

 

 解せぬ。

 私の中のおじさんは、炬燵の温もりの中で、新年早々ひどく理不尽な思いを噛み締めるのであった。

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