緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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3 前哨戦

 カレンチャンの加入という春の嵐が少し落ち着いた頃。いよいよ、ウマ娘たちにとって一生に一度の晴れ舞台である『クラシック路線』と『ティアラ路線』が開幕の足音を鳴らし始めていた。

 

 その本番となる春のG1レースへ向けた、重要な前哨戦、トライアルレースの時期である。

 我がチームのスカーレットもジャーニーも、昨年末のG1を見事に制しているため、本番への出走権などのシビアな条件はすでにクリアしている。無理に出走して消耗する必要はないのだが、だからといって昨年末から春の本番まで実戦の間隔が空きすぎるのも、レース勘が鈍ってしまうため良くない。

 そこで話し合いの結果、それぞれが目標とする本番と同じコース条件である『弥生賞』と『チューリップ賞』に出走することになった。

 

 まずは、ジャーニーが出走した弥生賞である。

 結果から言えば、彼女の順位は『3着』に終わった。

 理由は明白だ。圧倒的な強さでジュニア王者に輝いた彼女は、他の出走者たちから異常なほどの厳しいマークを受けていたのだ。スタートから徹底的に周りのウマ娘たちに囲み込まれ、抜け出すための進路を塞がれてしまった。結果、密集したバ群から抜け出すのが致命的に遅れ、持ち前の末脚を爆発させる距離が足りなかったのである。

 

「……ジャーニー。どうだった?」

 

 私が控え室で尋ねると、息を整えたジャーニーは小さくうなづいた。

 

「本番で徹底マークされた時のシミュレーションとしては、非常に有意義なデータが取れましたね」

 

 ジャーニーの目は、一切の光を失っていなかった。むしろ、底冷えするような闘志を燃やしながら「次の本番では、絶対に負けませんから」と不敵な笑みを浮かべている。

 実は、この結果はある程度こちらの想定の範囲内でもあった。皐月賞本番に向けて、いくつか用意しているレースプランのうち、どれを選択すべきかを実戦で確かめるためのテストでもあったのだ。ジャーニー自身が敗北を糧にできている以上、全く悲観するような内容ではない。

 

 問題は、想定の範囲外だったもう一人の方だ。

 

 

 スカーレットが出走した、ティアラ路線の前哨戦である『チューリップ賞』。

 そこには、彼女の最大のライバルであるウオッカも出走してきていた。

 

 スカーレットの仕上がりは決して悪くなかった。むしろ、休み明けとしては絶好調と言えるほどのコンディションだった。

 そもそも彼女の性格上、前哨戦だからといって「力を温存して様子見をする」といった器用な真似はできない。『先頭民族』としての誇りにかけて、常に全力で一番前を駆け抜けようとするのが彼女の持ち味であり、強さの源泉なのだ。

 レース本番、スカーレットは完璧な立ち回りで抜け出し、誰もが彼女の勝利を確信した。

 

 しかし。

 後方から凄まじいエンジン音を響かせるような錯覚とともに、漆黒の影が強襲してきた。

 ウオッカだ。

 

 その破壊的なまでの末脚は、完璧なレース運びをしていたはずのスカーレットを、いとも容易く、思い切り外から『ぶち抜いて』いったのである。

 抵抗する間も与えられないほどの、圧倒的な出力差。結果、スカーレットはウオッカの背中を見つめながら、2着でゴール板を通過することになった。

 

「…………っ」

 

 レース後、検量室前に戻ってきたスカーレットは、今にも泣き出しそうな、それでいて激しい悔しさに唇を噛み締めた表情で俯いていた。

 私も、かける言葉が見つからなかった。作戦のミスでも、コンディションの差でもない。互いに本気を出し合った上での、純粋な『地力』の差を見せつけられたのだ。

 

 ウオッカの実力は、年を越してさらに進化している。

 もしこのまま何の対策もなしにティアラ路線の第一冠、『桜花賞』に向かえば、再び同じ結末を迎えることになるのは火を見るより明らかだった。

 

 どうする。あの規格外のバケモノを打ち負かすには、今のスカーレットに何が必要なんだ……?

 前世の社畜時代、絶望的なプロジェクトを前にした時と同じくらい、私の脳髄が限界までフル回転を始めていた。

 色々と新しい手を打つ必要に迫られる、重く苦しい課題の残る前哨戦であった。

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