緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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4 桜花賞

 春の嵐のような前哨戦での敗北から数週間。

 ティアラ路線の第一冠、『桜花賞』のゲートが開く時がやってきた。

 

 圧倒的な力を見せつけたウオッカにリベンジを果たすため、私たちに残された時間は決して多くはなかった。しかし、今のスカーレットは一人ではない。我がチームの総力を結集し、短い期間でいくつかの決定的な工夫を凝らしてきたのだ。

 

 一つ目は、新入生のカレンチャンからのアドバイスだった。

 生粋の短距離(スプリント)のスペシャリストである彼女から見ると、スカーレットの1600メートルの走りは「なんか、もっさりしてるの」とのことだった。

 スカーレットの真の適性は2000から2400メートルの中長距離にあると私も見込んでいる。だから、道中でスタミナを温存する長めのストライドの走り方になっているのは否定できない。

 

「マイル戦なんだから、もっと『せかせか』って感じで脚を回したほうがいいよ!」

 

 極めて感覚的すぎる後輩からのダメ出しだったが、走りのリズムをピッチ寄りにシフトするというその指摘に、スカーレットは何か深く思うところがあったようだ。

 

 そしてもう一つは、ジャーニーとの猛特訓である。

 一瞬の『末脚』の発揮という面において、ジャーニーの技術と爆発力は圧倒的に優れている。スカーレットはプライドを捨て、年下のライバルとともに最高速度を引き上げるためのスプリント練習を何度も何度も繰り返したのだ。

 

 そうして迎えた、桜花賞の本番。

 満開の桜が舞い散るターフで、運命のスタートが切られた。

 

 ゲートが開くと同時に、圧倒的なスピードを持つアストンマーチャンやアマノチェリーランといった生粋の逃げ勢がハナを主張して飛び出していく。

 しかしスカーレットは、昨年末のG1と同じように熱くならず、彼女たちの後ろ……絶好の3番手にピタリとつける、極めて慎重で冷静な立ち回りを見せた。

 道中の走りは、カレンチャンの助言を取り入れたことで、以前よりも細かく、無駄のない鋭いリズムを刻んでいる。完全に1600メートルに最適化されたフォームだ。

 

 そして、勝負の最終コーナーを回り、最後の直線。

 先行していた二人が苦しくなり始めたところへ、スカーレットが並びかける。その後方からは案の定、漆黒のバケモノ――ウオッカが、他を薙ぎ払うような恐ろしい末脚で強襲してきていた。

 

 だが、今日の結末は違った。

 先頭に躍り出たスカーレットは、そこでジャーニーと磨き上げた『最高速度』のスイッチを入れたのだ。

 前方3番手という絶好の位置にいながら、後方から追い込んでくるウオッカにも全く引けを取らない、爆発的な末脚を発揮したのである。

 

「いけええええええっ!!」

 

 私の絶叫がスタンドの歓声に溶ける。

 

 前を走っているウマ娘が、後ろから追い込んでくる追込勢と同じ、あるいはそれ以上の末脚を使ったらどうなるか。

 答えは簡単だ。後ろの連中は、どう足掻いても絶対に追いつけない。

 カレンチャンのリズムと、ジャーニーのトップスピード。チームメイトの力を借りて新たな刃を手に入れた緋色の女王は、猛追するウオッカを寄せ付けることなく、一番でゴール板を駆け抜けた。

 桜の女王の座を、見事に勝ち取ったのだ。

 

「やった……っ! やりやがった!」

 

 歓喜に沸くウイナーズサークル。

 フラッシュの嵐の中、息を弾ませながら待っていたスカーレットは、駆け寄った私を見るなり、これ以上ないほどの『どや顔』を浮かべた。

 

「見たでしょ、お兄ちゃん! 私が一番なんだから!」

「ああ、完璧なレースだった! よくやった、スカーレ――んむっ!?」

 

 褒め言葉を言い終わるよりも早く、私の首に両手が回され、ぐっと引き寄せられる。

 そして、大観衆とカメラの砲列の目の前で、当然のように私の唇は奪われた。

 

「んっ……えへへ、桜花賞の勝利のキス、いただきっ♪」

 

 顔を真っ赤にしながらも、勝利の喜びに満ちた最高の笑顔を見せるスカーレット。

 

 周囲からは「おおおおおっ!!」「まただ!!」と、もはやお約束の光景に対する大歓声とすさまじいフラッシュが浴びせられる。

 すっかり定番となってしまったこの公開儀式。私は顔から火が出そうになりながらも、可愛い妹分が手にした栄冠の眩しさに、ただただ目を細めて諦めの溜息を吐くしかないのであった。

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