緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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7 夏合宿

 華やかで胃痛の絶えなかったジューンブライドのイベントを終え、季節は本格的な夏へ。私たちチーム一同は、秋のクラシック最終戦へ向けた『夏合宿』へと突入していた。

 

 最近、私は三人の苛烈なアプローチについて、ある種の諦めの境地に達していた。

 所詮は、年頃の中学生が抱く憧れや熱情だ。高校生になり、大学生になり、同世代のカッコいい男の子や素敵な恋人を見つけたりすれば、きっとすぐにそっちへ流れていくだろう。少しだけ……いや、かなり寂しい気もするが、大人になるってそういうことだ。

 だから、彼女たちがいつか本当の恋を見つけるその日までは、この過激な「恋愛ごっこ」に付き合ってあげることにしよう。私はそう自分に言い聞かせ、大人の余裕(という名の現実逃避)を保つことに決めたのだ。

 

 さて、今回の夏合宿は、新入生のカレンチャンも加わった初めての長期合宿である。

 テーマは『徹底的な体作りのやり直し』だ。戦術や駆け引きも重要だが、結局のところ、過酷なレースの勝敗を最後に決めるのは基礎的な身体能力である。上の二人もまだ中学生。限界だと思っているその先へ、まだまだ伸びる余地があるはずなのだ。

 

 トレーニング自体は非常に順調だった。

 基本が生真面目で先頭を譲らないスカーレット。レースに対しては一切の妥協を許さないジャーニー。そして、普段は愛嬌を振りまいているが、走ることに関しては誰よりも本気なカレンチャン。

 三人とも、根は信じられないくらい真面目なのだ。特にカレンチャンは、ジャーニーもかつて通った地獄の『食事トレーニング』のノルマに涙目で苦しんでいたが、それでも決して投げ出すことなく、必死に食べて過酷なメニューを消化し、確かな体を作っていた。

 

 だが、そのフィジカル強化の成果が目に見えて表れ始めた頃、おかしな誤解がチーム内に蔓延し始めた。

 

「ねえ、お兄ちゃんって……やっぱり『ムチムチ』が好きなのね」

 

 練習後の休憩中、タオルで汗を拭きながら、スカーレットが自分の暴力的なまでに成長したプロポーションを見下ろして呆れたように言った。

 

「ええ。私もすっかり、トレーナーさんの好みの体型に染められ切ってしまいましたから……」

 

 ジャーニーがねっとりとした視線を絡ませながら、むっちりとした太腿を艶かしく組み替える。

 

「わかった! カレンも、お兄ちゃんのためにもっともっとムチムチになるからねっ!」

「ちげーよ!!」

 

 私は全力でツッコミを入れた。

 いや、確かに前世のおじさんとしての性癖からすれば、そういう健康的な体型が好きなのは否定しないが! トレーナーとしては、単に激しいレースを怪我なく走り抜くための『最適なアスリート体型』を純粋に追求しているだけなのだ。断じて私の趣味で太らせているわけではない。

 

 まあ、日中のトレーニングでのそんなやり取りは、まだ可愛いものだ。

 真の問題は、トレーニング以外の『夜の部』にあった。

 

 今回も合宿の手配は裏の顔役であるジャーニーが担当してくれたのだが、案内されたのはトレーニング施設が併設された、貸し切りの豪華なロッジだった。

 環境としては最高なのだが、ただ二つだけ、致命的な欠陥があった。

 なぜか、寝室には『とてつもなく巨大なベッドが一つ』しかなく、浴室も『無駄に広いお風呂が一つ』しかなかったのだ。

 

「お兄ちゃん、背中流してあげるー!」

「トレーナーさん、今日はこちらで一緒に寝ましょうね」

「カレンもー! お兄ちゃんにひっつくー!」

 

 夜になれば当然のように、三人のウマ娘が徒党を組んで私に迫ってくる。

 もちろん、私は教育者として絶対に手など出さない。出さないが……右も左も背中も、極限まで鍛え上げられ、それでいて女性特有の極上の柔らかさを持つ『ムチムチ』のウマ娘たちにひっつかれると、私の中のおじさんの理性が物理的に死にかけるのだ。いや、連日の猛攻により、すでにおじさんの魂は干からびてミイラになっているだろう。

 

(あと三年……彼女たちが卒業するまで、あと三年ぐらいの我慢だ……っ!)

 

 私は巨大なベッドの真ん中で、三人分の甘いシャンプーの香りと暴力的な質量に押し潰されながら、薄れゆく意識の中で必死に般若心経を唱え続けるのであった。

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