緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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9 新居

 新居ができた。

 唐突すぎて意味が分からないと思うが、安心してほしい。当事者である私自身も、まったく意味が分かっていない。

 

 どうやら、三冠を達成したスカーレットとジャーニーが莫大な賞金を出し合い、トレセン学園からほど近い閑静な住宅街に、立派な一軒家を建てたらしい。

 当然のように「お兄ちゃんもここに住むのよ」と決定事項として伝えられた。解せぬ。

 とはいえ、私に入ったお金だけでも軽く立派な家が建つレベルだったのだ。その何倍もの途方もない額を稼ぎ出した二人から見れば、土地付きの一軒家など、大した出費にすらならないのだろう。中学生の金銭感覚が完全にバグっている。

 

 さらに頭が痛いのは、その新居の間取りだ。

 無駄に広いお風呂と、寝室には『巨大なベッドが一つだけ』しか用意されていなかったのである。勘弁してほしすぎる。しかし、私に拒否権はなかった。悲しいかな、ヒトは、ウマ娘の腕力には勝てないのだ。

 

 そもそも、トレセン学園は完全な全寮制というわけではなく、手続きを踏めば外に住むこともできる。だが、それにはいくつか越えなければならない問題がある。

 一番の大きなハードルは、『親御さんたちの説得』である。年頃の娘が、若い男性トレーナーと同居するなど、普通の親なら絶対に許さないはずなのだが。

 

「うちは全然問題ないわよ」

 

 スカーレットのところは、母親であるブーケさんからすでにOKの連絡が来ていた。というか、「あのワガママ娘の面倒を見られるのはあなただけだから、どうか一緒に住んでやってほしい」と涙ながらに懇願されているため、私の方から断る選択肢すら最初から用意されていなかった。

 

「私も大丈夫ですよ」

 

 ジャーニーのところも、妹のオルフェーヴルが「ズルイ!」とブーブー文句を言っていた程度で、ご両親からはあっさりとOKが出たらしい。

 最も、来年の春にその妹さんが学園に入学してきたら、ジャーニーは一時的に寮に戻り、妹と同室になって身の回りの世話をする予定だという。あの小悪魔も、本当に妹思いのいいお姉ちゃんである。

 

 問題は、カレンチャンのところだ。

 以前にご挨拶はしているものの、さすがに中等部一年の娘が異性のトレーナーと同居するなど、ご両親が許すはずがない。

 

「ご家族からダメと言われたら、絶対にダメだからね。諦めて寮に残りなさい」

 

 私はカレンチャンにそう強く釘を刺し、覚悟を決めて彼女の実家へと家庭訪問に向かったのだが……。

 

「と、トレーナーさん。ウマ娘と同居だなんて……本当に、本当にトレーナーさんのお体は大丈夫なんですか!?」

 

 応接間に通されるなり、カレンチャンのご両親は私の手を握りしめ、顔面蒼白でそう問いかけてきた。

 

「えっ……? いや、私がカレンチャンさんに手を出すようなことは絶対に――」

「違います! カレンがトレーナーさんに無理難題を押し付けたり、わがままを言ってこまらせたりしないかと、そちらが心配なんです! カレン、あなた絶対にトレーナーさんを困らせちゃダメよ!」

「もー、パパもママも大げさなんだからー」

 

 まさかの反応だった。

 私と娘が間違いを起こす心配ではなく、ウマ娘の体力とワガママに振り回される『私の方の命の危機』ばかりを心配され、むしろカレンチャンの方がこってりと説教を受けているのだ。

 最終的に、「スカーレットさんとジャーニーさんという、しっかりしたお姉さん二人が監視役として一緒にいるなら……」ということで、ご両親はしぶしぶといった様子で同居に同意してくれた。

 

(カレンチャン……お前、家で家族に一体何をしてきたんだ……?)

 

 可愛らしい笑顔でピースサインを作る後輩インフルエンサーを見つめながら、私は底知れぬ恐怖を抱いた。

 

 かくして、数々のツッコミどころと特大の胃痛の種を抱えながら。

 三人のウマ娘と、哀れな社畜の魂を持つトレーナーの、巨大なベッドを巡る恐ろしい同居生活が幕を開けた。

 新居の広いお風呂で背中を流されながら、私はすっかりミイラになりかけた理性を抱きしめ、波乱に満ちた新しい年を越すのであった。

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