緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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4 トレーナーへの道

 中央トレセン学園のトレーナーとなるためには、国家資格であるトレーナー試験に合格しなければならない。そして、その非常に難易度の高い試験の受験資格を得るルートは、大きく分けて二つ存在している。

 

 一つは、専門のトレーナー養成学校に通って座学からみっちり学ぶルート。そしてもう一つは、現役トレーナーのチームに「助手見習い」として弟子入りし、最低二年間の実務経験を積むルートだ。

 前者の学校通いも決して悪い選択ではないだろう。しかし、前世の社畜時代に「現場を知らない新卒」が実務でどれほど苦労し、周囲に迷惑をかけるかを嫌というほど見てきた私としては、圧倒的に後者の実地経験ルートを希望していた。ウマ娘の繊細なコンディション管理や、天候・バ場状態によって秒単位で変わるレース展開の機微など、現場のノウハウは生きた経験からしか学べない部分が多いからだ。

 

 とはいえ、後者の弟子入りルートには決定的なハードルがある。「コネ」が必要なのだ。

 多忙な中央のトレーナーが、どこの馬の骨とも知れない素人の面倒をタダで見てくれるわけがない。最低限、その志願者に熱意と基礎知識があり、身元がしっかりしていることを保証してくれる「信頼できる誰か」の推薦が不可欠だった。

 本来なら一般家庭出身の私には縁遠い話だが、幸いなことに、私には最強のカードが二枚もあった。幼馴染の母親であり重賞ウマ娘であるスカーレットブーケさんと、ジュニアクラブで私を鍛え上げてくれた元中央トレーナーの師匠という、二つの強力な後ろ盾だ。

 

 そんなわけで、私は中学卒業を間近に控えたある日、今後の進路について推薦状のサインをもらうべく、隣のブーケさんの元へお願いに上がった。

 快く承諾してくれたブーケさんに頭を下げていると、その話を横で聞いていたスカーレットちゃんが、ぱぁっと顔を輝かせて私の前に飛び出してきた。

 

「ほんと!? じゃあ、私がトレセン学園に入ったら、担当はおにーちゃんで決まりだね!」

 

 えっへん、と誇らしげに胸を張り、嬉しそうに私の袖を引っ張るスカーレットちゃん。

 その言葉を聞いて、私の脳内では瞬時に大人の冷静な計算機が弾かれた。

 

 私とスカーレットちゃんの年齢差は六つ。

 私が中学卒業後、すぐに実地の見習いに出て二年間必死に働き、そのまま最短で試験に合格したとしよう。そうすれば、私が新人トレーナーとして学園に赴任するタイミングと、スカーレットちゃんが中等部に入学するタイミングが、パズルのピースのように完璧に同時になる。

 

 しかし、だ。

 それを実現するためには、日本最高峰の難易度の一つと言われ「通常は七、八回受験してようやく受かるのが普通」とさえ言われるトレーナー試験に、一発でストレート合格しなければならない。

 しかも、ただでさえ激務な助手見習いとしての現場仕事をこなしながら、猛勉強を続ける必要がある。それはどう考えても、前世で私が命を落とした「ブラックな労働環境」への自主的な逆戻りを意味していた。

 

 常識的に考えれば無謀すぎる。少し待たせてしまうかもしれないが、と現実的な説得をするのが大人の役目だろう。

 だが、見上げてくる緋色の瞳はキラキラと期待に満ち溢れ、私への絶対的な信頼で揺るぎない。

 

「……ああ。お兄ちゃんが絶対に一発で合格して、お前を迎えに行くよ」

 

 気がつけば、私はそんな言葉を口にしていた。

 彼女のあの顔を見せられて、「無理だ」なんて言えるはずがない。過労死上等。可愛い妹分の未来を一番近くで甘やかしながら支えられるのなら、睡眠時間の二つや三つ、喜んで投げ打ってやろうじゃないか。

 

 かくして、私は自らの意志で、修羅の道(ブラック労働)へと足を踏み入れることになった。

 すべては数年後、緋色の女王となる少女と、最高の形で再会するために。

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