秋のシニア三冠、第二戦。国際色豊かな大舞台である『ジャパンカップ』がやってきた。
このレースには、最大のライバルであるウオッカはもちろんのこと、海外からも圧倒的な実力を持つ強力なウマ娘たちが多数参戦してくる。
いくら絶好調のスカーレットでも、この過酷なメンバーを相手に勝ち切るのは厳しいだろう。……いや、厳しいはずだったのだ。
「……スカーレットが、強すぎる」
私は観客席で、両手で頭を抱えていた。
ターフの上では、世界の強豪や猛追するウオッカを力でねじ伏せ、堂々と先頭でゴール板を駆け抜ける緋色の女王の姿があった。
過酷な夏合宿で徹底的に鍛え上げたフィジカルの成果がきっちりと出ており、トレーナーとしては手放しで喜ばしい成長なのだが。彼女のその圧倒的な強さのモチベーションが、ほぼ百パーセント『私への性欲』で構成されているという事実が、私の胃をキリキリと締め付けていた。
これで秋のシニア三冠の残るは、年末の『有馬記念』ただ一つとなってしまった。
このままでは、私の純潔が緋色のウマ娘に物理的に蹂躙されてしまう。
追い詰められた私は、秋はあえて第一線を避け、裏の重賞路線を回って力を溜めていたもう一人のエース、ドリームジャーニーの元へと駆け込んだ。
「ジャーニー、頼む! 助けてくれ!!」
「あら、トレーナーさん。そんなに切羽詰まった顔をして、どうしたんですか?」
学園のカフェテリアで優雅に紅茶を飲んでいたジャーニーは、私の悲痛な叫びを聞いて、ふふっと余裕の笑みを浮かべた。
「年末のグランプリだ。お前も出走するだろう? なあ、お願いだ。どうにかしてスカーレットの連勝を止めてくれないか! あいつが三冠を獲ったら、私が物理的に食べられてしまうんだ!」
情けない懇願である。だが、背に腹は代えられない。今のスカーレットの爆走を実力で止められる可能性があるのは、世界中を探してもウオッカか、この小悪魔的な教え子しかいないのだ。
私の言葉を聞いたジャーニーは、ティーカップを静かにソーサーに置き、ねっとりとした視線を私に向けた。
「……ふふっ。いいですよ。ですが、私が年末のグランプリで勝ってスカーレットさんを止めたら、私にも特別な『ご褒美』をくれますか?」
「ああ、もちろんだ! ケーキでも旅行でも、何でもいいぞ! なんでも聞いてやる!」
私は藁にもすがる思いで、食い気味に即答してしまった。
その瞬間。ジャーニーの口角が、にぃっと、まるで獲物を完全に罠に嵌めた肉食獣のように吊り上がった。
「ん? 今、『何でも』って言いましたよね」
「えっ」
「言質は取りましたよ。じゃあ、私が勝ったら……私と『うまぴょい』ですね」
ジャーニーはぺろりと唇を舐め、私の顔を覗き込んできた。
「ちょっ、ちょっと待て!! 違う、そういう意味じゃなくて!!」
「いいえ、約束ですからね。大人の男性が、一度口にした約束を違えるなんてことはありませんよね?」
反論の余地を一切与えない、完璧なロジックと圧力。
私は完全に言葉を失い、絶望の淵に立たされていた。
年末のグランプリ。
スカーレットが勝てば、秋のシニア三冠達成の約束として、スカーレットと『うまぴょい』。
ジャーニーが勝てば、スカーレットの連勝を止めたご褒美として、ジャーニーと『うまぴょい』。
詰みである。盤面は完全に制圧された。
どちらの教え子が勝っても、私の貞操が散ることが確定するという、とんでもないデッドヒートが幕を開けようとしていた。
私の中のおじさんは、逃げ場のない二つの巨大な性欲の壁に挟まれながら、完全に追い込まれ切った状況で、年末の大一番を迎えるのであった。