緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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6 有馬記念

 冬の足音が近づく中、まずはカレンチャンの無謀な挑戦が残酷な結末を迎えていた。

 

 マイルのG1『阪神ジュベナイルフィリーズ』。

 生粋のスプリント適性を持つ彼女にとって、この距離の壁はあまりにも高すぎたのだ。最後の直線で完全にスタミナが尽き、結果は惨敗。

 レース後、控室で「お兄ちゃんのバカァ……チューしたかったのにぃ……」と本気で涙ぐんで拗ねる彼女を宥めるのは骨が折れたが、こればかりは適性の問題なのでしょうがない。来年の短距離路線で輝くための、良い薬になったはずだ。

 

 そして。私の貞操を懸けた運命の大一番、年末の『有馬記念』のゲートが開いた。

 

 スカーレットが勝てば、秋のシニア三冠達成の約束で『うまぴょい』。

 ジャーニーが勝てば、スカーレットを止めたご褒美として『うまぴょい』。

 完全に詰んでいる盤面の中で、私が取れる唯一の生存ルート。それは、「第三者の誰かが勝ってくれること」だった。

 

(頼む! 誰でもいい! 私の貞操を守るために、どうかあいつらを差し切ってくれ!!)

 

 私は観客席で手を組み合わせ、藁にもすがる思いでターフの神様に祈り続けた。

 

 しかし、そんな私のささやかな願いは、自らが手塩にかけて育て上げた『二人の最高傑作』によって無情にも打ち砕かれることになる。

 

 最後の直線。

 先頭で粘り込みを図る緋色の女王・スカーレット。

 その後方から、他を置き去りにする異次元の末脚で強襲する小さな小悪魔・ジャーニー。

 完全に他を突き放した、我がチームのエース二人による、次元の違うデッドヒートだった。

 

「いけええええっ! いや、いかないでえええっ!!」

 

 歓声と私の悲鳴が入り混じる中、二人が完全に並んでゴール板に飛び込む。

 

 写真判定の結果、ギリギリで勝利をもぎ取ったのは――ダイワスカーレットだった。

 不純すぎる執念による、秋のシニア三冠の完全達成である。

 

 ……その日の夜。

 私は、静まり返った新居のリビングで、呆然と立ち尽くしていた。

 いつもなら出迎えてくれるはずのジャーニーとカレンチャンの姿がない。ダイニングテーブルには、ジャーニーからの短いメモが残されていた。

 

『カレンさんの慰め会と、妹の相手をするため、今日は二人で外泊します。存分に愛し合ってくださいね』

 

 外堀は完全に埋められていた。あいつら、絶対わざとだ。

 カチャリ、と背後でドアの開く音がした。

 振り返ると、お風呂上がりの少し火照った顔をしたスカーレットが、薄着のルームウェア姿で立っていた。その瞳は、昼間のレース以上の熱を帯び、完全に獲物である私を捉えている。

 

「お兄ちゃん……」

 

 彼女は甘いシャンプーの香りを漂わせながら、ゆっくりと私に近づいてきた。

 

「約束、ちゃんと守ってくれるよね? 私、秋の三冠、全部勝ったんだから……」

 

 逃げ場はない。例の無駄に巨大なベッドが、すぐそこにある。

 圧倒的なフィジカルと、それ以上に重く熱い愛情を前にして、ひ弱なヒトの男に抗う術など最初から存在しなかったのだ。

 私の擦り切れたおじさんの理性は、ここで完全に白旗を上げた。

 

 あとはまあ、推して知るべし、である。

 私は観念して目を閉じ、長かったこの三年間で一番甘く、そして逃れられない夜へと落ちていくのであった。

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