エピローグ
あの一線を超えた熱い夜から一年。
シニア級のレースを最後まで全力で駆け抜けたスカーレットは、惜しまれつつもターフを去り、正式に引退した。
そして私と彼女は、名実ともに底なしの『いちゃらぶ生活』へと突入することになった。
長年握りしめていた「指導者としての理性」を完全に手放し、吹っ切れてしまえば、スカーレットが自分のお嫁さんになってくれるという現実は、言葉にできないほど幸せなものだった。
圧倒的な美貌でとにかく可愛いし、アスリートとして鍛え抜かれた身体は信じられないくらいムチムチで極上の抱き心地だし、何より私のことを心の底から愛してくれて、たまらなく優しい。よく考えなくても、私は世界一の幸せ者だろう。毎日が甘すぎて、前世の社畜時代の苦労などすっかり忘れてしまった。
もっとも、こんなデレデレの状態で、第一線のトレーナーを続けるのはどう考えても不可能だった。
自宅には嫉妬深く独占欲の強いウマ娘がすでに三人もいるのだ。これ以上、新規の教え子を契約して連れ帰ろうものなら、私の命はおろか、学園の周辺が修羅場と化すのは目に見えている。
だから私は、ジャーニーとカレンチャンの二人が引退するまでを見届けたら、中央のトレーナーライセンスは返納しようと決めていた。引退後は、この町で適当に子供たちを集めて、のんびりと走り方を教える草トレーナーでもして過ごすつもりだ。
かつて、私の師匠が語っていた言葉の本当の意味を、私はここへ来てようやく心の底から理解できたのだった。
そして、時は流れ。
ウマ娘の圧倒的な体力と、私への常軌を逸した愛情は、とんでもない形で結実していくこととなる。
毎日毎日、飽きることなく私に愛を求めてきたスカーレットは、最終的に私との間に『11人』もの子供を産むことになった。
緋色の髪と才能を受け継いだ、賑やかすぎる子供たち。彼女の底なしの愛情と体力には、ただただ恐れ入るしかない。
さらに、その1年後。
見事にシニア路線を完全制覇し、惜しまれつつ引退したジャーニーも、本格的に新居での生活に合流した。あの策士な小悪魔は負けませんよとばかりに私を徹底的に搾取し、やっぱり『二桁』の子供を作ることになる。
カレンチャンの方はというと、短距離の絶対女王として君臨し、さらにその2年後に引退。彼女も当然のように私の『お嫁さん』として新居に居座ったのだが、先の二人の惨状(?)を見て少し手加減をしてくれたのか、彼女との子供は『6人』で許された。
いや、一般の家庭からすれば6人でも十分すぎる大所帯なのだが、上の二人が完全に規格外のバケモノなので、麻痺してひどく少なく感じてしまうから恐ろしい。
合計すると、30人近くの子供たちがひしめく超大家族である。
毎日のように新居(というかすでに増築を重ねて小さな寮のようになっている)のリビングは運動会状態で、私の擦り切れたおじさんの体力は、とうの昔に限界を突破してミイラ化していた。
それでも。
右を見れば、満面の笑顔で私に抱きついてくる緋色の正妻。左を見れば、すまし顔で私の膝に座る小さな小悪魔。そして背中には、可愛く甘えてくる芦毛のインフルエンサー。
家中に響き渡る、才能にあふれた子供たちの笑い声。
「ねえお兄ちゃん。私、今すっごく幸せよ!」
「ええ、私もです。あなたを独り占めできないのだけが不満ですが」
「カレンもー! お兄ちゃん、ずっとずっと大好きだからね!」
三人の極上のウマ娘たちに押し潰されながら、私は幸せな溜息を吐く。
なんだかんだで、最高に騒がしくて、愛に溢れた日々。
これが幸せな人生、なのだろうか。――いや、間違いない。私は今、最高に幸せだ。