緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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5 見習いの生活

 さて、ブーケさんと師匠の紹介で私が弟子入りした中央トレセン学園の現役トレーナーさんは、控えめに言って「その筋のドン」のような強面だった。

 初めて挨拶に伺った際、サングラスの奥から鋭い眼光で睨まれた時は、前世のブラック企業で社長に呼び出された時以上の冷や汗をかいたものだ。だが、外見こそヤクザの組長そのものだが、その実態はウマ娘への深い愛情と指導への情熱に溢れた、紛れもない超一流の教育者であった。

 

 そんな彼のチームで雑用をこなしつつ、現場の空気を吸い、実践的なノウハウを叩き込まれる日々。自分がトレーナーとして確実に成長している実感があった。

 とはいえ、日中の激務をこなした上で、深夜に日本最高峰の難関資格であるトレーナー試験の猛勉強をするのは、控えめに言って大変である。

 しかし、ここで前世の擦り切れたおっさんボディとは違う、十代の若さと体力がある。

 一晩徹夜したくらいでは倒れない。「若いって素晴らしいな!」と歓喜しながら、私は若さに任せて限界まで自分を追い込み続けた。

 

 だが、そんな私の息をするような社畜ムーブは、情に厚いヤクザ顔のトレーナーさんにあっさりと見抜かれてしまった。

「お前、少し働きすぎだ。息抜きがてら、元のクラブに顔を出してこい」

 そう言って、名目上は「新人ウマ娘のスカウト」という任務を与えられ、私は半ば強制的に師匠のいる地元のジュニアクラブへ出向させられることになったのだ。

 

 久しぶりに訪れたクラブで、私は「スカウト」という視点から他のウマ娘たちを観察してみた。これがまた、非常に勉強になったのである。

 これまで私の目はスカーレットちゃんの一挙手一投足ばかりを追っていた。しかし、一歩引いて全体を見渡せば、ウマ娘にはそれぞれ骨格の違い、筋肉の付き方、走法における重心のブレなど、多様な個性がある。それを比較分析することで、トレーナーとしての視野が劇的に広がっていくのを感じた。

 面白くなってノートにびっしりとデータを書き込み、気づけば休憩も忘れてグラウンドの隅で分析に没頭していた。

 

 そしてそれを見つけた師匠に大目玉を食らうことになった。

 

「お前は休めと言われてここに来たんだろうが!」

 

 こってりと絞られた後、師匠から言い渡された罰。それはなんと、練習終わりのスカーレットちゃんによる『膝枕の刑』であった。

 

 ……意味が分からない。これのどこが罰なのだろうか。

 私の頭の下には今、愛すべき妹分の、健康的でむっちむちの太腿がある。ちなみに、この世界において「太腿が太く、しっかりしている」というのは、力強い踏み込みができる優秀なウマ娘の証であり、最大限の褒め言葉である。面と向かって「立派な太腿だね」と口に出して褒めてもセクハラにはならず、むしろ誇らしげにドヤ顔をされるくらいだ。

 なお、スカーレットちゃんはおそらく同期で一番立派に育っていると私は確信している。

 そんな素晴らしい太腿を枕にして眠れるとか、前世で私は世界でも救ったのだろうか。ここは天国か?

 

「もうっ、おにーちゃんったら! 休む時はちゃんと休まないとダメでしょ!」

 

 上を見上げれば、スカーレットちゃんが半分心配そうに、半分怒ったように頬を膨らませて私を見下ろしている。

 怒った顔もとんでもなく可愛い。あんなに小さかった赤ん坊が、今やこうして私を膝枕して説教してくれるほど大きくなったのだと思うと、お兄ちゃんはただただ感無量である。

 

 スカーレットちゃんを最高の舞台に立たせるためにも、トレーナー試験は絶対に一発で受かってみせる……!

 

 膝の上の温もりと彼女の匂いに包まれながら、私はさらに決意を固めた。

 

 そして数日後、やる気に満ち溢れすぎて再び猛勉強で己を追い込み、ヤクザ顔のトレーナーさんに怒られてジュニアクラブへ放り込まれ、再びスカーレットちゃんに膝枕の刑(ご褒美)を執行されるという、謎の無限ループが完成するのであった。

 

 過労は良くないが、この日々が過ぎていくのも悪くない。私はそんな幸福な下積み時代を駆け抜けていった。

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