緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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第2章 中等部1年目
1 新生活の始まり


 春。桜が舞い散る季節と共に、私の手元には一枚の通知書が届いていた。

 中央トレセン学園のトレーナー資格試験、見事合格である。

 

 通常なら七、八回は落ちると言われる超難関を、しかも十代でストレート合格を果たしたことは、界隈で少しばかりニュースになったらしい。いくつかのスポーツ雑誌などから「天才若手トレーナー誕生か」とインタビューの申し込みもあったのだが、世話になっていたヤクザ顔のトレーナーさんが「こいつはまだ現場を知らんヒヨッコだ」と凄みを効かせて全て追い払ってくれた。

 本当に頭が上がらない。それに、師匠の言う通りだ。トレーナーという仕事は、担当したウマ娘をどれだけ勝たせ、その夢を叶えられるかで評価されるもの。ペーパーテストの点数や合格の早さなど、現場に出れば何の意味も持たないのだから。

 

 そして何より、周りの喧騒など私にとっては些末な問題だった。

 今日この日は、私にとってインタビューなんかよりも何百倍も重要なイベントが控えていたからだ。

 

 中央トレセン学園、中等部の入学式。

 愛すべき私の幼馴染にして妹分、ダイワスカーレットのハレの日である。

 

「おめでとう、スカーレット」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 学園の正門前、舞い散る桜の下で待ち合わせていた彼女に声をかけると、スカーレットは弾けるような笑顔で駆け寄ってきた。

 真新しい、トレセン学園の制服。ほんの少し見ない間に、彼女はすっかり「お姉さん」の雰囲気を纏っていた。

 背丈もぐんと伸びて、私とあまり変わらないぐらいの身長。そして何より――口に出すのは非常に憚られるが、その体格が、なんというか、非常に豊満になっていた。

 

(いや、ちょっと待て。いくらなんでも発育が良すぎないか!?)

 

 私の脳内のおっさんが激しく動揺する。ついこの間までランドセルを背負っていた十二歳の、それもなりたての中学一年生が持つべきシルエットではない。ただでさえスタイルの良いウマ娘の中でも群を抜いている。胸元のリボン周りが恐ろしく窮屈そうだ。

 これでは健全な男性の視線を根こそぎ奪ってしまうのではないか。変な虫がつかないだろうか。不埒な男に声をかけられたりしないだろうか。

 

 シスコン気味の兄としての心配が唐突に爆発しかけたが、数秒後、私はすっと冷静になった。

 よく考えれば、この世界はウマ娘の圧倒的な身体能力を起因とした、前世から見たら男女逆転社会である。その辺のヒトの男が、鍛え抜かれたウマ娘に手を出そうものなら、物理的にへし折られて終わるだけだ。狼に襲われる子羊どころか、彼女たちこそがフィジカルの頂点なのである。むしろ襲われるのは男性で襲うのが女性というのが社会常識なのだ。

 そんな不埒な妄想や無駄な心配を抱いているのは、前世の古い価値観を引きずっている自分くらいのものだ。そう気づいて、私は内心でひどく恥ずかしくなった。

 

「お兄ちゃん? どうしたの、私の顔ジロジロ見て。制服、変じゃない?」

「いや、すごく似合ってるよ。すっかり綺麗なお姉さんになったなと思って」

「もうっ! からかわないでよ!」

 

 真っ赤になって怒るスカーレットだが、その顔は隠しきれないほど嬉しそうだ。

 入学式の後は、スカーレットの希望もあって、二人きりで学園近くの少しお洒落なレストランへ食事に行くことになった。

 中等部に入学して、少し背伸びをしたかったのだろう。ナイフとフォークを使いながら、どこか淑女らしく振る舞おうとする彼女の姿がたまらなく愛おしかった。

 

「お兄ちゃん、ちゃんと試験受かってくれて嬉しい。これからは一緒だね」

「ああ。約束通り、お前を迎えに来たぞ」

 

 向かい合って食べる少し豪華なランチ。それは、これまでの過酷な下積みと猛勉強の疲れを全て吹き飛ばしてくれるほど、甘やかで、とても楽しい時間だった。

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