緋色の女王の幼馴染   作:雅媛

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3 日々のトレーニング

 さて、スカーレットがトレセン学園で過ごすことになる六年間。その大まかなスケジュールを、担当トレーナーとして改めて確認しておこう。

 ウマ娘たちが覇を競う「トゥインクル・シリーズ」にメイクデビューを果たすのは、基本的に中等部二年目である。そのまま順調に勝ち進めば、中等部三年目でクラシッククラスとなり一生に一度の三冠路線などに挑むことになる。

 そして高等部に上がったあたりでシニアクラスとなり、自分より年上のウマ娘たちと覇を競う。大体、高等部で二、三年ほど走り、ズバ抜けた成績を残せば伝説の「ドリームトロフィー・シリーズ」への移籍が見えてくる。逆に成績が振るわなければ、普通の進学や就職のための勉強が始まる、というのが学園の一般的な流れだ。

 当然、スカーレットもこの王道のスケジュールに乗っかるつもりであり、入学したての中等部一年目は、来年のメイクデビューに向けた「準備期間」という位置づけになる。

 

 では、さっそく私と専属契約を結んだのだから、明日から二人三脚で専属の特別メニューをガンガンこなせばいいのかと言われると、そういうわけではない。

 学園のカリキュラム上、入学から大体半年程度は、新入生全員で共通の基礎練習を行うのが通例なのだ。

 その話を切り出した途端、トレーナー室のソファでくつろいでいたスカーレットが、あからさまに唇を尖らせて拗ねてしまった。

 

「えーっ……。せっかくお兄ちゃんが担当になったのに。ずっとお兄ちゃんと一緒の練習がよかったのに」

「気持ちは分かるが、こればかりは外せないんだ。もちろん私だって基礎練習の指導くらいできるが、この半年の集団練習は、ただ基礎体力をつけるだけのものじゃない」

 

 私はトレーナーらしく、真面目な顔で諭す。

 

「周りの同級生たちと一緒に走り、比較することで、自分の中の何が優れていて、何が劣っているかを客観的に理解する。自分の身体を知り、自分で鍛える術を学ぶということが、今後の長い競技生活で一番大事になってくるんだよ。だから、メニューの質よりも『みんなと一緒にやる』という経験そのものが重要なんだ」

 

 正論をぶつけると、スカーレットは不服そうにしつつも引き下がってくれた。しかし、どうしても納得しきれなかったのか、毎日の全体練習が終わった後のクールダウンとケアには、必ず私が付きっきりで対応するという約束をする羽目になった。

 

 

――そして、これが大変だった。

 

 

 

 いや、肉体的な労力としては全く大変ではない。私の前世の中年おじさんとしての「理性」が大変なのだ。

 

 全体練習を終え、汗ばんだスカーレットに特製のスポーツドリンクを渡し、彼女がそれを飲んでいる間にストレッチの補助に入る。

 まだ熱を持った彼女の身体に触れ、甘い汗の匂いに包まれながら、背中をゆっくりと押したり、脚や腕の筋を伸ばしたりする。前世の擦り切れたおっさんからすれば、これだけでも謎の背徳感と罪悪感で悲鳴を上げそうになる。

 だが、試練はそれだけにとどまらない。ストレッチの後は、入念なスポーツマッサージが要求されるのだ。

 

 もちろん、マッサージはトレーナーに必須の技術であり、下積み時代にみっちりと仕込まれた私の得意分野でもある。

 だが、問題はその「部位」だ。

 走るための強力な踏み込みを生み出す「大臀筋(お尻の筋肉)」や、上半身のブレを抑えて体幹を支える「大胸筋(胸の筋肉)」。アスリートのケアにおいて、これらをしっかりと揉みほぐすのは絶対に必要な処置である。

 しかし、いくらスポーツマッサージとはいえ、異常なほど豊満に育ってしまった十二歳の妹分のお尻や胸を、男である私がガッツリと揉みほぐすのである。

 

(いやいやいや! いくらなんでもこれはアウトだろ!?)

 

 私の内なるおっさんが毎日悲鳴を上げている。

 ちなみに、この世界において「男性トレーナーが担当ウマ娘の身体を隅々までケアする」というのは、「普通」のことだ。圧倒的なフィジカルを持つウマ娘に対し、ヒトの男が良からぬことをできるはずがないという大前提があるからである。なお、逆にウマ娘の側がヒトの男をガッツリ揉むと通報される可能性があるという、前世から見たら完全に男女逆転社会なのだ。

 

 そんなカルチャーショックに理性をゴリゴリ削りながらマッサージを終えると、スカーレットは「ふぅ、スッキリした。さすがお兄ちゃん」と無防備に笑い、あろうことかそのまま私の目の前で着替え始める。

 これもウマ娘特有の無頓着さゆえの行動なのだが、目のやり場に困るこちらとしてはたまったものではない。

 

「お兄ちゃん、これ洗っといてねー」

 

 そして極めつけに、ポンと無造作に渡されるのは、脱ぎたてのスポーツ用下着(レース仕様のお高くて繊細なやつ)である。

 特殊な素材のため洗濯機には入れられず、トレーナーである私が毎日丁寧に手洗いしなければならないのだ。

 

 石鹸の泡に包まれた、豊かな胸を支えていた布地を洗面器で優しく押し洗いしながら、私は遠い目をした。

 前世のおじさんの理性は、学園生活が始まってわずか数週間で、無事に天に召されたのであった。

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