TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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True end

 

 ──舞台裏。カーテンの奥。

 

 そこに、全体的にノイズがかった2人の女の子が、私の前に立っていた。

 

 そうして、2人は口を開き。

 

 

 「──まだ足掻いてるの?もういい加減諦めたら?」

 

 

 「私たちを置いて、酷いよね。心の底では、足手纏いだーって思ってたの?」

 

 

 開かれた二つの口から。

 

 私を責め立てる言葉が、飛び出してきた。

 

 

 ……けれど。

 

 

 「……あの子たちは、そんなこと言わないよ」

 

 

 私には、わかっていた。

 あの子たちが、そんな風に。後ろから私の袖を引っ張るような事を、しないことを。

 

 

 「それに、2人にはもう、2人の新しい道があるんだよ」

 

 

 そして、あの2人はあの2人で、既に別な道を見つけている。

 

 それを知っているから、堂々と、胸を張って言い返すと。

 目の前の2人にかかっていたノイズが消えて。

 

 ……ようやく、顔を見ることができた。

 

 服装こそかつての2人のものだけれど。

 

 

 ……その顔は。

 どちらも……私の顔だった。

 

 

 「──観月さん」

 

 

 そうして、その直後。

 私の後ろから、聞き馴染みのある男の人の声が聞こえてきた。

 

 振り返ると、そこには。

 プロデューサーが、立っていた。

 

 

 「そろそろ、出番ですよ」

 

 

 その言葉に、背中を押されて。

 

 ……それからもう一度、前を向くと。

 そこにはもう、さっきの2人の私はいなくなっていて。

 

 私は、ついさっきまで2人がいた場所を、何事もなく通り過ぎた。

 

 

 ……そうして、ステージに立つと。

 

 そこには、たくさんの観客がいて。

 そして、その中には。

 

 ノイズがなくて、私の顔をしていない、2人もいた。

 

 

 ……そうして。

 

 段々と、景色はぼんやりと薄れていって。

 最後に、熱に浮かされるような、どこか不思議な幸福感のようなものを、残しながら。

 

 ……ゆっくりと、少しずつ。

 意識が、だんだんとはっきりしていって。

 

 

 ──私は、目を覚ました。

 

 ……。

 

 教室の窓から差し込む日差しが、暖かい。

 

 

 ……あまり、よくは覚えていないけれど。

 

 何となく、久しぶりにいい夢を見ることができたような、そんな気がする。

 

 

 ──さて。

 

 今、私は。いつもの教室で。

 のんびりとした時間を、過ごしていた。

 

 ……そしてのんびりし過ぎて、どうやらうたた寝をしてしまったようだ。

 

 

 「おはようございます。いい夢を見ていたようですね」

 

 

 「……どうして、わかったんですか?」

 

 

 「なんとなく、表情が明るい気がしますので」

 

 

 ……そんなに、わかりやすく顔に出ていただろうか。

 

 自覚はなかったけれど……高い目標を超えることができて。

 それで、肩の力を抜き過ぎていた、と、いうことだろうか。

 

 こうしている間。

 プロデューサーは、何やらやらなくてはいけない仕事があるみたいだけれど。

 

 それに対して私はといえば、ライブの直後の日にあまり体を動かすのは体を壊す原因になりかねないということで、特にこれといって、やることがない。

 

 ……つまるところ、いわゆる休養日、というやつである。

 

 私が、その休養日にここにいるのは……とくに、これといって深い理由はない。

 強いて言うなら、ただ何となく。

 

 ……そう考えると、いつの間にやら。

 気が付いたら、ここは私にとって居心地の良い場所になっていたということらしい。

 

 

 「……そうですね。私、ライブをした夢を見てたんです。みんながいて、すごく楽しんでもらうことができて。昔の友達とも、また話せるようになったんです」

 

 

 「それは……現実に起こったことですよ」

 

 

 「あれ、そうでしたかね?……うーん、なんだか夢みたいな出来事だったので、つい、混ざっちゃいました」

 

 

 ……いい夢を、見た気がするけれど。

 

 もしかしたら、今この瞬間の現実の方こそが、私にとって、まるでいい夢みたいな状況になっているのかも知れない。

 

 まあ……いまいち、どんな夢を見ていたのか、よく覚えてはいないのだけれど。

 

 ……机の上に置かれた宿題の紙を、一瞥し。

 けれど何となく、黙々と宿題に取り組むような気分にはなれなかったので。

 

 

 「……そういえば、なんですけど」

 

 

 私は、会話を続行することにした。

 

 

 「私に声をかけた理由について、ちゃんと聞けてなかったなって思いまして。……どうして、私にしたんですか」

 

 

 これは、以前尋ねたことのある質問だ。

 

 けれど……あの時は。

 

 答えになっていたのかそうでないのかよくわからないような答えで返されてしまって。

 

 それからは、ちゃんと聞いた事が無かったんだっけ。

 

 ノートパソコンのキーボードを叩く音と、それから外から聞こえる他の子の声だけが鳴り響くような、そんな静かな、一拍を置いて。

 

 

 「そうですね。観月さんは……」

 

 

 そのまま、キーボードを叩きながら。

 

 プロデューサーは、口を開いた。

 

 

 「ポテンシャルがあって、あまり問題を起こさなさそうで、そして、既にある程度基礎ができていました」

 

 

 「……つまり、それって手がかからなくて都合が良さそうだったから……っていうことですか?」

 

 

 ……我ながら、少々悪い方向に捉えすぎだと、思わなくはないけれど。

 

 しかし、まあ。彼の発言は、そう捉えることのできるものであったことは……多分、間違いではないだろう。

 

 

 「はい、そうですね。観月さんはかなり都合のいいアイドルです」

 

 

 「そこ肯定するんですか!?」

 

 

 まあ、流石にそういう意味合いで言ったわけではないだろうと思いつつ、敢えて真意を知るために反応を見ていたら。

 

 返ってきたのがまさかの肯定だったので、流石に驚いて、少々大きな声を出してしまった。

 

 

 「そんな事もし他のアイドルをプロデュースする時に言ったら、怒られますよ……?」

 

 

 多分、きっと。

 

 ……いや、どうだろう。

 

 正直な態度にむしろ好感を持つ子もいそうだし、褒め言葉と受け取る子もいそうだから……一概に、そうとは言えないことかも知れない。

 

 まあ、いずれにせよ。

 一般論で言えば、彼が私の言葉に対して大いに間違えた反応をしたのは事実な訳なので。

 

 余計なお世話だろうけれど、敢えて少々厳しめの言葉を送ろう。

 

 ……実際、私が今の反応に対して呆れてしまっているのは、事実なのだし。

 

 

 「……あとは、中等部時代のあなたのステージを見たことがありまして。もったいないと思ったんです」

 

 

 ──それを、言う時。

 プロデューサーは、タイピングする手を止めて。

 

 私に対して、真っ直ぐに視線を向けてきた。

 

 

 「中等部時代の私……ですか」

 

 

 ……そういえば。

 

 ふと、彼が、中等部の頃のステージの映像を持っていたことを、思い出した。

 

 ……あれは、そういうことだったのか。

 

 何というか。

 

 そういう、ちょっとエモい感じの理由があるのなら、最初のやつは要らなかったのではないかと、思わないでもない。

 

 いや、まあ。それが彼の誠実さといえばそうなのかも知れないから……あまり、強く断言する事は……できないのだけれど。

 

 

 「ちなみに、なんですけど。どこが、もったいないと思ったんですか?」

 

 

 ……映像なら、私も少し前に見たけれど。

 

 ダメダメだなって思うところはいくつかあったけど、もったいない、という感覚は、特に無かった。

 

 きっと、自分自身のことだからそう思った、ということなのかも知れないけれど……ならば一層、プロデューサーの目にあれがどう見えていたのか、気になるところだ。

 

 

 「パフォーマンスの維持が苦手なところだったり、技術面に少し惜しい部分があったところです」

 

 

 ……なるほど。

 

 それに対して、それがダメなところ……ではなく、もったいないと思った、ということは。

 

 それは、おそらく。

 その時の彼の目には、改善可能な要素であるように見えたから……なのだろう。

 

 

 「観客からの視線を集めることが、かなりうまくできていた分、そこを伸ばすことができればもっといいパフォーマンスになるのに、と、思いました」

 

 

 ……それで、実際にできるようにしてしまったのだから。

 恐ろしいというか、何というか。

 

 まあ、「頼りになる」……というところに、しておこうか。

 

 私にはもったいないくらいだけれど。心強いのは、確かだし。

 

 それに私だって、成長できるということそのものは、今では素直に、極めてありがたいことだと思っている。

 

 ……そして。そういえば。

 

 プロデューサーは、以前尋ねた時、「トップアイドルをプロデュースするため」なんて、そんな言葉を口にしていた。

 

 とすれば、彼の今言った、もっといいパフォーマンスができるのに……という、考えの、その先には。

 

 そこには、私がトップアイドルになる姿が、見えているとでもいうのだろうか。

 

 ──仮に、そうだとしたら。

 

 それはなんとも、途方もない話に思えることだ。

 

 確かに、今回はかなりいい感じの結果を出すことができたわけだし、私としても、大きな一歩を踏み出すことができたとは、思ってはいるけれど。

 

 ……それはそれとして、トップアイドルなんて呼ばれる存在は、まだまだ全然、雲の上の存在だ。

 

 物理的に身近な中で言えば……トップアイドルと呼ばれる存在に最も近いとされる、学園のトップである十王星南の姿も。

 

 私には、遥か遠くにいるようにしか、思えないもので。

 

 ……そうだ。

 

 私は、まだ、一歩を進んだだけにすぎない。

 

 

 ……けれど、もしかしたら。

 

 同じように、一歩を積み重ねていった先は。

 今の私には想像もつかないような、途轍もなく遠い場所にさえ、繋がっているのかも知れない。

 

 ……なんて。少し前の私だったら考えないような。

 少しばかり、照れくさいようなことを、考えてしまった。

 

 

 ……だから、というわけでもないけれど。

 

 私は、なんとなく。

 目線を机の上へと落とし、手元にあった、自分のシャーペンを手に取った。

 

 そして、宿題へとそのペン先を走らせて。

 あたかも、真面目に宿題に取り組んでいるかのような風を、作り出して。

 

 そうして私は、そっと口を開いた。

 

 

 「……プロデューサー。まだ、きっと、先は長いと思いますけど」

 

 

 これから言う言葉を考えて……照れくさくて、そうしたのだけれど。

 しかし、そのまま言葉を続けるのも、それはなんか違うな、と思ったので。

 

 結局私は、宿題から目線を外し。

 

 ……それから、ゆっくりと、顔を上げた。

 

 そこには、ちょうどプロデューサーの顔があって……。

 少しばかりの、躊躇いのようなものはあったけれど、しかし私は、思い切って。

 

 

 「信頼、してますから。これからも、一緒に頑張ってくれると……嬉しいです!」

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