TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第12話

 

 

 「まずは、インビジブル桃花エクスプロージョンを実戦で使えるようにする為に、乗り越えなければいけない課題を挙げていきましょう」

 

 

 「はい、ぜひお願いします」

 

 

 ……当然のことながら、今のままでは。

 この、イン……なんとかは、武器としてなんて到底使い物にならない。

 

 プロデューサーと比べてあまり分析能力があるとは思えない私でさえ、そう思えるくらいには……いろいろと、問題点があるのは間違いない。

 

 

 「まずは、先ほども言いましたが……アピールを行うタイミングを、事前に細かく見極めて、決めておく必要があると思います」

 

 

 たとえどれほど強力なものであっても、ワンパターンに何度も繰り返せば、大抵のものは効果が薄れるものである。

 

 それは当然、このイン……なんとかに対しても、同じことが言えるだろう。

 だから、ここぞというタイミングを、多角的な視点で考え、最適化する必要があるのは、私もその通りだと思う。

 

 

 ……そして、同時に。

 

 事前に決めておいて、それを前提に、練習しておく事で。

 

 きっと、ダンスや歌と同じように、これもまた、最終的には意識を直接的に割くことなく扱うことができるようになるだろうということも、予想できる。

 

 

 「それから、緩急の付け方についても考える必要がありそうです。……オンとオフ、というような極端な変化だけでなく、もっと自由に扱うことができれば、表現の幅も広がるでしょう」

 

 

 考え込むような仕草を見せながら。

 プロデューサーは、言葉を紡ぐ。

 

 ……しかし、なんていうか。

 こんな特異現象みたいなものをステージ上のパフォーマンスに利用しようなんて、おそらくこれまで考えたこともないだろうに。

 

 色々と探り探りではあるものの、こうしてきちんと形にしていっているのは、とてもすごいことだと思う。

 

 

 「そういった、強弱をつけるようなことは……できそうですか?」

 

 

 「……うーん、そうですね、理論上はできると思うんですけど……今のところは、あまり細かい調整は得意じゃないかもです」

 

 

 ……この力は、極めて感覚的なものである。

 だからこそ、少なくとも今の段階では、微調整というのは難しい。

 

 

 ──例えば、定規のような、わかりやすいメモリでもあれば、一定の長さの線を引くのはそう難しいことではないだろう。

 しかし、それがフリーハンド……あるいは、ただ真っ直ぐなものにペンを沿わせているだけだったら、きっと何ミリメートルの線を引く、なんていうような長さの調整は、難しい。

 

 ……つまるところ、私の力も、おおよそはそういったイメージで。

 

 細かい調整が必要なら、何かしら方法を考える必要があるだろう。

 

 

 「そうですか。……現状だと、少々強弱のメリハリが強過ぎるため、観客への負担が大きいです。細かい調整が難しそうなら、まずは全体的に変化を抑え目にするところから始めましょう」

 

 

 まあ、妥協案を考えるなら……そうなる、か。

 

 もちろん、その場合、多少効果を削ることにはなるだろうけれど。

 観客が、私に対して「見ていて疲れるアイドルだ」という印象を抱いてしまうよりは……まだマシ、という判断だろう。

 

 効果の最大化が困難なのは、勿体無い気もするけれど。

 まあ、仕方のないことである。

 

 

 「ひとまずは、課題となるのはこのくらいです。……それから、続いて具体的な『N.I.A』での方針について話し合いたいのですが、いいですか?」

 

 

 「はい、大丈夫です!……今の私の『武器』の欠点については、大体把握できたと思います」

 

 

 プロデューサーほど、分析力が無いとはいえ。

 ……私は、一応は前世では社会人を経験していた身なのである。

 

 取り組むべき業務の要点を把握して記憶するのは、あまり、苦手な方ではない。

 

 それに、その上できちんとメモもとってある。

 

 ──もっとも、現状は、知らない人が見たらゲームの攻略法か何かだと勘違いすること間違いなしの、ものすごくトンチキな字面になってしまっているけれど……自分で見てきちんと理解できるのだから、別に問題はないだろう。

 

 

 ……たとえ、自信があれど、過信はしない。

 

 それが、社会を経験した記憶を持つ私の、心構えのひとつというものである。

 

 

 「では、前提として……観月さんには、極力、時間は『インビジブル桃花エクスプロージョン』を実用化する為のレッスンに充てて欲しいと考えています」

 

 

 ……まあ、これまでの話の流れも、考慮すると。

 確かに、そういうことになるだろう。

 

 しかし、私たちが出場するのがファン数が大きな意味を持つ『N.I.A』である以上。レッスン室に篭って、ひたすらレッスンをしてばかり……というわけにも、いかないのではないだろうか。

 

 

 「──ですので観月さんには、拘束時間が比較的少なく、その上で、知名度の獲得に繋がりやすい仕事をしていただこうと思っています」

 

 

 ……『N.I.A』に出るということは、学生と言えど。

 ほぼほぼ、一人前のアイドルと言っても差し支えない。

 

 テレビ出演をしてファン数の獲得を目指すアイドルもいるし、ライブを沢山開催するアイドルもいる。

 そして、それは勿論……仕事として受けるものだ。

 

 ──仕事をして、ファンを集める。

 それが、『N.I.A』という大会の、基本的な立ち回りである。

 

 ……そうやって考えると、なんだか。

 自分が学生であることをつい忘れてしまったりしそうに思えて、なんだか不思議な気分でもある。

 

 

 「なるほど……って、言いたいところですけど。そんな仕事、都合よくあるものなんですか?」

 

 

 ……改めて。

 

 私というアイドルにとっては、『N.I.A』という場は、本来はかなり不利な戦場なのではないだろうか。

 

 少なくとも、他のアイドルだったなら……いくらなんでも、事前段階でここまで、考えることは多くなかったはずだと思う。

 

 

 「単発的な、細々とした仕事が多くなるとは思いますが、どうにか仕事を獲って来ます。……本来、プロデューサーというのは、こういうことが仕事ですから」

 

 

 ……それは。

 なんとも、心強いことである。

 

 プロデューサーもまた、プロデューサー科の生徒であり、言ってしまえば、プロフェッショナルの人、というわけではないのだけれど。

 

 ……しかし、おそらく。

 彼よりも仕事のできる大人の方が、少ないのではないだろうか。

 

 

 「ただ、営業活動に力を入れることになると、観月さんのレッスンにはあまり顔を出すことはできなくなると思います」

 

 

 ……まあ、流石にそれは、仕方がない。

 いくら有能なプロデューサーでも、分身できるわけではないのだから。

 

 それに、『N.I.A』では基本的にプロデューサーが営業活動をして、アイドルがその間に自主レッスンをする、という流れであることは、前世の記憶からの知識によって、既に知っていることでもあった。

 

 

 「わかりました!営業活動、頑張ってください!」

 

 

 「ありがとうございます。……ただ、一つ懸念点がありまして」

 

 

 ……私の『N.I.A』での課題や懸念点は、一体いくつあるというのだろうか。

 少し前は、都合のいいアイドル、なんて言われた記憶があるのに。

 

 これでは、要介護アイドルの間違いではなかろうか……?

 なんて、流石に、そんなことを思わずにはいられない。

 

 

 「……懸念、ですか?」

 

 

 「はい。……観月さんは、1人で『インビジブル桃花エクスプロージョン』を完成させることができますか?」

 

 

 ……。

 

 ……それは、たしかに。

 

 

 少し前の、『意識を割かずにパフォーマンスを発揮できるようにする』という時点で、私は大いにプロデューサーの手を借りた。

 

 新しく技術を習得するとなれば、同じくらい……いや、はっきり言って、それ以上に困難な道のりになるだろう。

 

 ……そして、その上。

 

 自分でやることになるのなら。うまくできているかどうかの確認をする為に、毎回毎回、映像を撮って確認するという工程も必要になる。

 

 というか、仮にそうするとして。

 自分自身で、その判断が正確にできるかという疑問もある。

 

 はっきり言って、あまり自主レッスンで取り組むような内容では、ないだろう。

 

 ……かと言って。

 新技術の習得なしに『N.I.A』に挑むのは、それはそれで、心細いものがある。

 

 

 「……じゃあ、どうするんです?」

 

 

 私には、ちょっと、解決方法が思い浮かびそうにない。

 

 

 「どうにか……こちらも時間を作ります」

 

 

 なるほど、それなら安心……とは、流石にならない。

 

 いくらなんでも、それは無理をし過ぎというものではないだろうか。

 

 

 「……えっと、要するに、うまくできてるかどうか、誰かに見てもらえればいいんですよね?」

 

 

 私は、プロデューサーの顔を見据えた。

 プロデューサーは、私が突然何を言い出すのか、純粋に気になっている……といった様子の顔をしていた。

 

 

 「私、ちょっと他の人にお願いして来てみます!……プロデューサーは、一旦、良さそうな仕事を探していてください!」

 

 

 ──無謀な話だと言うのは、よくわかっている。

 

 けれど、プロデューサー1人に無理をさせるのは、それはそれで申し訳ないから。

 

 私なりに。何でもいいから、できることをしたいと、そう思ったのだ。

 

 ……と。

 

 まあ、そう言った感じの、勢いで。

 返事も聞かず、教室の外に、飛び出して来てしまったけれど。

 

 当然、アテなんてあるわけがない。

 

 プロデューサーも、私が都合よく、大したメリットもなく手伝ってくれる、奇特な人を見つけてくることができるなんて、きっと思っていないことだろう。

 

 ……思えば、今のところ。

 私は、プロデューサーに頼ってばっかりだ。

 

 その上、その末の結論が、他の人に頼ろうというのも……果たしてどうなのか。

 

 やっぱり、何の考えもなく飛び出して来てしまったのは、良くなかった。

 

 自分なりに、きちんと1人でやれることをやってから、それから、考えれば良かったのだ。

 

 

 ……いや、まあ。

 それが失敗したのが、私の中等部時代という考え方もできるかもなんだけど……。

 

 

 いい加減、『新しい武器』という熱も、少しずつ冷めて。

 代わりに、冷静さが戻って来た。

 

 さっきまでの私は、ちょっと浮かれすぎて、焦りすぎていた。

 

 

 ならば……よし。

 

 流石に、あんな大口を叩いてすぐに戻ってくるのも、それはそれで情けない話なので。

 

 ……適当に、目についた何人かにダメ元でお願いしてみて。

 

 それから、教室に戻ることにしよう。

 

 

 ──まずは、最初に目に入った人に声をかける。

 

 誰でもいいから、最初に目に入った人。

 それが誰であれ、ダメ元なんだから、構わない。

 

 ……よし。

 さあ、顔を上げよう。

 

 そこに見えた人が、私が、声をかける相手なんだ。

 

 ……そう、勇気を振り絞って。

 

 思い切って、上げた視線の先。

 

 ついさっきまで、廊下の床を映していた私の目に、映ったのは。

 

 ……それは。

 この初星学園の、『一番星(プリマステラ)』にして、生徒会長。

 

 ──十王星南の、姿だった。

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