TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第14話

 

 「トップアイドルをプロデュースする、最も効率のいい方法を思い付きました」

 

 

 私の前に立っている人……プロデューサーは、唐突にそんなことを言い出した。

 

 

 「──俺は、星南さんをプロデュースします」

 

 

 悪い冗談としか思えないようなそんな言葉を、彼は、あくまでも大真面目な声色で。私にそう言い残すと……くるりと、背中を向けて。

 

 そして、沢山のスポットライトの光で眩しく輝く道を、歩いて行った。

 

 

 「先輩。これから、よろしくお願いするわ」

 

 

 ……そうして、その光に溢れた道の先で待っていた、十王星南と、横に並んで。

 

 彼らは私に目もくれず、遠くへ遠くへと歩いていく。

 

 

 「ちょ……ちょっと、待ってくださいよ。プロデューサー。今更そんな冗談なんて……プロデューサー?……プロデューサー!」

 

 

 ……対極的に、置いて行かれた、私は1人。

 

 真夜中のように暗くて寒々しい、空間で。

 まるで親に置いて行かれてしまいそうな子供のように、がむしゃらに前へと足を踏み出してた。

 

 ……が、しかし。

 その足が私の身体を前へと進めることはなく、ただ足を踏み外して、転倒した。

 

 そして、その間にも遠ざかっていく、2人を見て。

 

 私は、ずっと遠くで賑やかな音を奏でる、星明りのように眩しいそのステージへと、手を伸ばして……。

 

 

 ──そうして。

 

 

 ……空を掻いたはずの、その手のひらに。

 

 金属質の何かが、収まった。

 

 

 ……。

 

 ……そして。それと同時に。

 

 いつからか、うるさく鳴り響いていた音が……ぴたりと止まった。

 

 

 ──それは、目覚まし時計のアラーム音だった。

 

 ……そうして、改めて顔を動かして、見てみれば。

 私の手は、目覚まし時計のスイッチの上に置かれていた。

 

 それから、カーテンの隙間から差し込んでいるのは、スポットライトなどではなく、ただの朝の日の光で。

 

 静かになった自室では、先程まで耳に響いていたアラーム音の代わりに、小鳥の囀りが聞こえてくる。

 

 

 ──なんてことはない。

 

 今は、ただの、平日の朝だ。

 

 ……しかし、つい先日、合格という良い結果を出したばかりにも関わらず、こうして、なんだか嫌な感じの夢を見るとは。

 

 『N.I.A』という大規模なイベントへの参加によって、どうやら、思っていた以上に、私も焦りや不安を感じているということなのかも知れない。

 

 

 ……寝起きの頭で、ぼんやりと、そんなことを思いながら。

 

 掛け布団を僅かにずらして、上体を起こす。それから、ぐっと伸びをして、さらにあくびもひとつ、挟んだら。

 

 

 ──ようやく、私の寝ぼけていた目が覚めた。

 

 

 どんな夢を見ていたかは、いまいちよく覚えていないのだけれど、なんとなく、嫌な夢を見た時特有の寝覚めの悪い感覚が残っている。

 

 

 ……しかし、なんというか。

 

 こうして、嫌な感じの気分で、朝を迎えるのは。

 

 定期公演『初』で好成績を残して以来なので、なんだか、少しばかり久しぶりなような気がしないでもない。

 

 まあ、逆に言えば、定期公演で結果を出す前は……割とよくあったことだから。

 

 それなりには、慣れたつもりだったけれど。

 

 ……まあ、そうは思っていても、こういうのは慣れるようなものでもない、ということなのだろうか。

 

 支度を終え、朝食を食べ終えた私は。

 

 学校へと向かうべく、寮を出る。

 

 今日は、私とプロデューサーと、それから十王星南を含めた3人で、昨日の総括を踏まえて、改めて今後の話をするそうで。

 

 とりあえずは、いつもの教室に集合ということになっている。

 

 

 ……しかし、こうして外を歩いていると。

 

 夏というほどではないけれど、なんとなく、日差しが強まってきたのを感じる時期になってきたことを感じるようだ。

 

 ──季節というものは、あっという間に巡っていく。

 

 今はまだ、一年生の春過ぎといった頃なのだけれど……しかし多分、卒業までは、あっという間のことなのだろう。

 

 ……なんて。

 日差しを受けながら、朝からそんなことを考えていたら。

 

 

 「……あら。ごきげんよう」

 

 

 私は、前から歩いてきていた見覚えのある少女たちの存在に、声をかけられるまで、気付くことができなかった。

 

 

 「あっ、こんにちは!……白草四音さんと、籃井撫子さん、ですよね?」

 

 

 2人のうち、白草四音は、以前黒井さんと一緒に校門前で物騒な話をしていたのを一方的に盗み聞きしていたから、前世の記憶だけでなく、一応、今の私としても既知の人物で。

 

 ……そして、それから、もう1人。

 

 籃井撫子というアイドルの方は……申し訳ないけれど、前世の記憶の中でしか、存じ上げない人である。

 

 ──籃井撫子。

 

 白草四音の妹分的な立ち位置であり、社長令嬢としての地位も持つ。

 そして、その恵まれた出自ゆえの、経済力を利用した工作──例えば、グッズを買い占めたりとか……そういったことをして、初星学園のアイドルたちに立ち塞がる描写があった。

 

 ただし、実は、意外と根がいい子というか素直な子でもあるみたいで。

 

 その経済力があればもっと悪辣なこともできるだろうに、それを考えもしなかったという、そんな描写があったことも、記憶にある。

 

 ……と、まあ。

 

 前世の知識で言えば、こんなところか。

 

 どちらも、競争相手として警戒するべき相手というのは間違いないけれど……2人の中でも、より手段を選ばないのは、白草四音の方である。

 

 そして、それに加えて、純粋にアイドルとしての実力的にも、結論は同様だ。

 

 

 ──つまり、この2人の中でより注意を払うべきは、白草四音で間違いない。

 

 籃井撫子は……今は一旦、白草四音のおまけのようなものとでも思えばいいだろう。

 

 ……こうして見てみると、結構見た目は可愛らしいし、ポテンシャルもありそうな描写もあった記憶があるから、取り巻きみたいなことをしているのを少しばかり勿体なく思うような、そんな気持ちもあるけれど。

 

 そんなことを言ったとして、純粋にアドバイスとして受け取ってもらえるわけもないし、それから、2人がこうして一緒にいる背景を、あまりよく知っているわけでもないのだから……余計なことは言うべからず、と言うものだろう。

 

 

 しかし、それはそれとして。

 2人は初星学園の生徒ではなく、極月学園……つまり他校の生徒である。

 

 普通なら、こんなところで遭遇するわけがない。

 

 ……これは、あくまで前世の知識を基にした、ただの予測でしかないものだけれど。

 

 おおかた、有力そうな初星学園のアイドルに接触して、なんらかの形でちょっかいをかけて。そして今は極月学園へと戻るところ……とか、そういったところだろうか。

 

 

 「そう言うあなたは──たしか、観月桃花……でしたね?」

 

 

 私の言葉に反応して、口を開いた白草四音は。

 

 意外にも、私のことを知っていたらしい。

 

 彼女が、初星学園について相当に詳しいということ自体は、前世の知識で、知っていたことではあったけれど。

 

 それでも、これまで他と比べてそれほど良い結果を出してきたわけでも、沢山ライブをしてきたわけでもないのに、ぴたりと名前を言い当てられたのは……流石に、少しばかり驚いた。

 

 

 「私のこと、知ってるんですね」

 

 

 「ええ。──プロデューサーがありながら『一番星(プリマステラ)』まで味方につけて……それなのにいまいちパッとしない順位で、ある意味有名ですから」

 

 

 ……それは、なんとも手厳しい。

 

 まさしくもってその通りなので、言い返せない限りである。

 

 

 「あなたのプロデューサーも『一番星(プリマステラ)』も、よほど目が腐っているのでしょうね」

 

 

 ……しかし、だからと言って。

 目の前で、こうも好き勝手言いたい放題されて、ただハイハイと聞いているだけというのは、決して、気持ちのいいものではない。

 

 しかし、気分を害されたからと、わかりやすく声を荒げたり怒りを露わにするのは、あまり得策ではないだろう。

 

 彼女は今、どう考えても、ただただ私を挑発するためにこんなことを言ってきているのだから。

 

 

 「……2人には、無理言って手伝ってもらってるみたいなものなんです。私は、みんなと違って特別な存在とかじゃないですし、使えるものは使わないと……って、本当にそれだけなんですよ」

 

 

 静かに首を横に振り、そう言いながら、私は。

 

 アイドルとしての素養が数値として見えるような特別な目でも持っていなければ、気付くことができない程度に、自然に、少しだけ存在感を抑えていく。

 

 そして、ある程度まで、下げたところで。

 

 

 「──私のことは、気にしなくていいと思いますよ。……周りの人にここまでしてもらって、それでもなお、パッとしない順位止まりの、無名アイドルなんですから」

 

 

 言い争いで挑む必要なんて、どこにもない。

 

 アイドルとして勝負をするのなら……その舞台は、ステージだけで十分だ。

 

 

 「……そうですか。言い返す度胸も無いとは、失望しました。もう会うこともないでしょう。──さようなら、初星学園の、無名アイドルさん」

 

 

 その言葉を残して、2人は興味を失ったように、視線を逸らし。

 

 こちらを通り過ぎるようにして、去って行った。

 

 

 ……対して、私はと言えば。

 

 その2人の後ろ姿を見送ることは、特にせず。

 

 今の会話で、ほんの少しばかり時間が遅くなってしまったので、気持ち程度に、ちょっとだけ急ぎ気味に、目的地へと向かうことにした。

 

 

 ……そうして、白草四音との遭遇から、少し歩いて。

 

 校舎へと到着した私は、それから、いつもの教室へと向かった。

 

 

 ……そして、教室に着くと。

 既に、プロデューサーと、それから、十王星南も中にいて。

 

 私はどうやら、2人を待たせてしまったらしいということを、理解した。

 

 ──だけれど、しかし。

 

 

 私の手は……扉を開ける直前で、止まっていた。

 

 その理由は、私の、視線の先。

 

 教室の中で2人は……何やら、身を寄せ合っているように見える。

 

 その様子が、何かに重なるような気がして……。

 自分でもよくわからない、不思議な動揺と躊躇いを覚えて。一瞬、手が止まってしまったのだ。

 

 

 「──おはようございます!……その、遅れてしまって、すみませんでした!」

 

 

 ……躊躇いを、ひとまずは強引に振り払って。

 

 私は、ほんの少しだけ、いつもより大きめな声で挨拶をした。

 

 

 「おはようございます。観月さん」

 

 

 「おはよう、桃花」

 

 

 「──早速ですが……少し、観月さんに質問がありまして」

 

 

 ……そして、挨拶の後。

 

 すぐに、プロデューサーが何やら話を切り出してきた。

 

 

 「これから、観月さんのグッズを売り出していこうと考えているのですが……どちらが、いいと思いますか?」

 

 

 ……そうして、こちらに差し出されたのは。

 

 ついさっきまで、プロデューサーと十王星南が2人で見ていたらしい、一枚の紙だった。

 

 外から、2人が身を寄せ合っていたように見えたのは……これを見ていたからだったのか、なんて、そんなことを思いながら。

 

 私も、それを、見てみると。

 

 ……そこには、二つのハンカチのデザインが、並んでいた。

 

 

 「……うーん、こっち、ですかね」

 

 

 ……見比べた私は、特に、悩むようなこともなく。

 

 シンプル目な方のデザインを、指差した。

 

 

 判断の基準は、こちらの方が『観月桃花のグッズ』というのが前面に出ていないので身に付けやすいだろう、という……いたって単純なものだった。

 

 本当に、難しい意味とか、意図とかはない。

 

 私は、割とこういうものに対して、実用性を気にしてしまうタイプなのだ。

 

 

 「……やっぱり、俺の方が観月さんのことを理解していたようですね」

 

 

 「──そうね……認めるわ。プロデューサーさん、あなたの、勝ちよ」

 

 

 ──果たして、何の勝負をしていたのか。

 

 それは、いまいち、よくわからないけれど。

 

 ……どうやら、私のプロデューサーは、何かの勝負で、『一番星(プリマステラ)』に勝ったらしい。

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