TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第2話

 

 ……これは、冷静に考えればわかることだけれど。

 見る目があれば、私なんかをプロデュースしたいと思うわけがない。

 

 なぜなら私は、大した才能がない……と、思う。

 そしてそれから、事実として、あまり成績も良くないのだ。

 

 あとは、何より。

 この学園には、他に将来有望なアイドルの卵が沢山いる。

 

 プロデューサー科の人からすれば、きっと、よりどりみどりと言ったところだろう。

 

 ──では、突然に現れて私に声をかけた人は、一体何なのか。

 

 頭の中で情報が1つずつ整理されて。

 そうして冷静になった私には、すぐにわかった。

 

 ……この男は、よほど人を見る目がないのだろう。

 

 あるいは、誰でもいいから声をかけて、ほんの少しでも何らかの成績を出さないと学校にいられないとか、そういう切羽詰まった人間か。

 

 

 ──いずれにせよ、ろくな奴ではないだろうこと確かだと思う。

 

 冴えた頭脳で脳がフル回転して。素早く、そう理解した私は。

 ……二つ返事で、プロデュースを受けることを、了承した。

 

 最初は、いわゆる『学P』……つまるところ、『学園アイドルマスター』という作品における主人公にあたる人物なのではないかとも思ったけれど。

 

 私の深く鋭い計算によって……もっと言えば、そのような人物が仮にいたとしても、よりにもよって自分に声をかけるはずなどない……という素晴らしく決定的な根拠により。

 

 そうではないことがほぼほぼ確定的になった以上、そして、おそらくろくな才能を持ち合わせていないであろうことが推定できる以上。

 

 逆に、私が断って、それでこの男が他のアイドルの卵に声をかけることになったとしたら……そしたら、きっとその子は不幸な目に遭うのではないだろうか、という話になってくる。

 

 だからこそ、私は、そんな未来を現実のものとしない為に、あえて、その言葉に乗ったのだ。

 

 ……決して、中等部の頃からこれといった結果を出せていなくて両親に申し訳ないとか、プロデューサーと契約をすることで受けられる様々な制度上の恩恵に目が眩んだとか、そういうわけではないということを、ここに断言しておきたい。

 

 

 ……まあ、とにかく。

 

 そういった流れで、プロデュース契約を結んだ私は。

 

 この日は、契約のための諸々の手続きを済ませる必要があるとのことで。

 私は、大分前からカバンの中に入れっぱなしだった判子を、書類に押すだけ押して。

 

 それで、一旦は解散という形になった。

 

 ……。

 

 ……そうして、翌日。

 

 昨日に続き、再び。私と、それからプロデューサーは、ダンスレッスン室へとやって来ていた。

 

 ……たまたまタイミングとしてそうなったのか、それとも、この男がわざわざ何らかの予約を入れたのかは定かではないけれど。

 

 今は、レッスン室には、私たちの他には誰もいないみたいだ。

 

 

 ──それで。

 

 今日ここに来たのは、早速レッスンを始めるため……ではなくて。

 

 ……何でも、現段階での実力を把握しておきたいということで。

 

 試験の課題曲でもある『初』という曲を歌い踊る様子を、ここで一度見せてほしい……とのことだ。

 

 ──つまり、そう。

 

 原作で新しくアイドルをプロデュースするたびに見る、あれである。

 

 ゲームの向こう側で何度も見たものだからこそ、実際に自分がやることになり、なんだかすごく不思議な気分だ。

 

 ──まあ、とは言え。

 

 原作の流れ云々を抜きにしても、実力を見てもらうというのが必要不可欠な工程であることは、理解できる。

 

 変に気負ったりせず、ここはきちんと、やり通すべきだろう。

 

 

 そう考えた私は……静かに、すう、と、息を吸い。

 

 そうして、気持ちを切り替えたと同時に。

 ちょうど、音楽のイントロが流れ始めた。

 

 

 ……そして。

 

 ……。

 

 ──気が付けば、歌い終わっていた。

 

 手応えとしては……まあ、普通といったところだろうか。

 

 失敗した、というような感じはなかったけれど、それと同時に、特別うまくいった、という感覚もない。

 

 ……平常通り。

 

 つまり、今回の目的が実力を見るというものであることを鑑みれば、ある意味で、これ以上にない大成功と言ってみてもいいのかも知れない。

 

 

 「──おおよそ、課題が見えてきました」

 

 

 ……しかし、普段通りの実力が出せた、ということは。

 それなりには、自信はあったというわけでもあって。

 

 だというのに、たったこれだけで課題を見つけたなんて宣うこの男の言葉は……やはり、信頼し難いな、と、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 「そうですか。流石はプロデューサー科の方ですね!ぜひ、教えてください!」

 

 

 ……とは言え。

 まあ、流石に私にも、そういった不信感を表に出さないよう隠すくらいの常識と、それからそれが可能なくらいには外面を取り繕う技術は持ち合わせていたので。

 

 ひとまず、無難な言葉で返しておくことにした。

 

 ──大抵のことは、相手を持ち上げるように言葉を選ぶようにすれば、何とかなる。

 これを理解しているのは、私が前世を持つ事によって得ている、大きなアドバンテージの1つと言えよう。

 

 

 「……」

 

 

 ……私が、プロデューサーを持ち上げるような言葉を発した瞬間、何故だか一瞬、プロデューサーの眉間に皺がよった気がしたが……まあ、多分気のせいだろう。

 

 

 「……では、まず」

 

 

 ……どうやら、真剣そうな表情に切り替わった彼の口から。

 今度は、先ほどの私の歌に対する、詳しい批評の言葉が紡がれるようだ。

 

 信頼に値するだけの腕を持っているかはともかくとして。一応、言葉に耳を傾けるくらいのことはするべきだろう。

 

 ……そう思った私は、居住まいを正して。真面目に、続きの言葉を待った。

 

 

 「歌も踊りも、基礎的な部分についてはとりあえず問題ないようです」

 

 

 そうして待った末に聞こえて来た言葉は、ある種予想外のものだった。

 

 ──問題がないのなら、どうして私は成績が悪いのか。

 もしかして、適当なことを言っているのではないか。

 

 ……そんな考えが、頭をよぎる。

 

 

 「ただ、観月さん。あなたは──」

 

 

 しかし、言葉はまだ続くようなので、一旦は疑念を飲み込み。

 神妙に、さらなる言葉を待つことにする。

 

 

 「──試験本番で、今と同じような実力を出すことができていませんね?」

 

 

 ……それは。

 

 心当たりは、ある。

 

 しかし、だとすれば。驚嘆すべきことだが……この男は、声をかける前に、私のことを事前に調べていたとでもいうのだろうか。

 

 プロデューサーとして当然のこと……と、思えるかも知れないが、そうだとしたら、大きな矛盾が生じてしまう。

 

 簡単な話、試験での私を知っていたのなら……そして、私に実力がないことを知っていなかったわけでないのなら、どうして私に声をかけたのか、説明がつかなくなってしまう。

 

 ……しかし、プロデュースを受けると言ってしまった手前、今急にこちらから「やっぱりなしで」なんて言ったら、どう考えても角が立つし……説明不能だからという理由だけで遠ざけるのは、流石に自分でもどうかと思う。

 

 

 「そうですね。言われてみると、本番に弱いタイプ……なのかも知れません」

 

 

 ──いくら練習で優れた実力を発揮できたとしても、本番でそれを出せないのであれば、何の意味もない。

 

 「本番に弱い」などというのはただの実力不足を取り繕う言い訳に過ぎないし、逆に「本番に強い」というのは、優秀さを証明する資質である。

 

 ……と、私はそう考えている。

 

 だからこそ、先程の言葉は。自分で口にした言葉だが、私の中で、寒々しく反響したように感じた。

 

 

 「それについて、最初は単に集中力の問題だと考えていましたが……」

 

 

 私が密かに自己嫌悪に陥っていることなど、知る由もなく。

 ……あるいは、もしかしたら敢えて無視をしているだけかも知れないが。

 

 目の前の男は、あくまでも。ただ淡々と、そのまま、分析を続けていくつもりのようだ。

 

 

 「本番で集中力が持続しないのは、なにか理由があるみたいですね」

 

 

 ……試験の本番で、集中できない理由。

 言われてみれば。まあ、心当たりは、あるにはある。

 

 しかし、同時に。

 もしも、それが理由であるなら。

 

 それは、解決不可能な課題という事になるだろう。

 

 

 「……ありがとうございます。細かく分析してくださって色々とわかりました」

 

 

 ……ならば、それはもう、仕方がない。

 この男は、思っていたよりも、優秀な人間のようだ。

 

 よくよく考えてみれば、この初星学園にプロデューサー科で入学できる人間が優秀でないはずがない、ということに。もっと、早く気付くべきだった。

 

 私などに関わらず、もっと優れたアイドルの卵を育てるべきだ。

 ……少なくとも、そう考えてもいいと思えるだけの能力を、彼は示した。

 

 

 「──やっぱり、私はアイドルには向いていないと思います。もっと、磨けば輝く原石が、ここには沢山あるはずです」

 

 

 「……?」

 

 

 ……しかし。覚悟を決めて、私が思い切って口にした言葉は。

 彼には、まるで理解してもらえなかったようで。

 

 

 「なにか、気に入らない点がありましたか?」

 

 

 むしろ、少しばかり不安そうに。

 私の言葉の意図が理解できなかった様子で、聞いてきた。

 

 

 「……いえ。あまりに的確で、驚いてしまいまして。その、私なんかより、もっとすごい可能性を持った人を伸ばした方が良いんじゃないかって……思いまして」

 

 

 変に誤解されないよう、きちんと私の意図が伝わるように。

 言葉を選びながら、私は、吐いた自分の言葉の経緯を、説明した。

 

 

 「……なるほど。そういうことですか」

 

 

 そうしたら、流石にきちんと伝わったようで。

 

 

 「大丈夫です。あなたも、その原石のひとつですよ」

 

 

 ……なのに。

 とても根拠があるようには思えない、そんな言葉で。

 

 容易く、一蹴されてしまった。

 

 

 「それで……やっぱり、試験で結果を出せない理由に心当たりがあるんですね?」

 

 

 それどころか。あれだけ明確に拒絶の意を表明したにも関わらず。

 まだ、私に関わるつもりがあるような、そんな言葉で。

 

 私の引いた、見えない線を超えて。その心理的距離を、詰めて来た。

 

 

 「……まあ、このことについては、ひとまずはいいとしましょう」

 

 

 ……が、しかし。

 

 私はてっきり、このまま詰めてくるものと思って、身構えていたのだけれど。

 あっさりと、彼はこれ以上踏み込む前に言葉を引いた。

 

 

 「今はとりあえず、もっと近くて具体的な、これからのお話をしましょうか」

 

 

 そして、流れるように話は変わり。そのままどんどんと、進んでいく。

 

 

 「基礎については、ある程度できているようですので。ひとまず、応用となる技術の習得を目指しましょうか」

 

 

 ……と、いうわけで。

 

 その方針については、まあ……拒否する理由も気力もなかったので。

 私は、適当に、頷いたので。

 

 ……こうして。私のプロデュース計画の、ひとまずの方向性は。

 まるで他人事のように、あっさりと固まったのだった。

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