TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第15話

 

 ──いつもの、レッスン室。

 

 そこで私は、昼間の暖かな日差しが窓の外から差し込む中。

 

 プロデューサーと十王星南の見つめる前で、パフォーマンスを、最初から通しで披露していた。

 

 ……そして、それが終わると。

 

 

 「──合格点ね。最初から最後まで、理想の数値で推移していたわ」

 

 

 「……そうですね。俺には数値として見えるわけではありませんが──最初の時と比べると、極めて高い完成度のパフォーマンスになったと思います」

 

 

 私は、2人のその言葉を聞いて。

 

 ……すっかり気が抜けて、その場に座り込んでしまった。

 

 

 ──思えば。ここまで、結構……長かった。

 

 しかし、その上で。

 

 確かに、こうしてちゃんと一つの技術として、身に付けることができたのは。

 それは間違いなく、十王星南がこうして協力してくれたおかげだろう。

 

 

 「星南会長のおかげです!私だけでは、これをどのくらいの加減で使えばいいとか、そういうのは全然分かりませんでしたし……それに、正確にうまくできていたかどうかの判断も、会長にしかわからないことでしたから」

 

 

 「こちらからも、お礼を言わせてください。──本当に、ありがとうございます」

 

 

 ……それから、私が感謝を伝えたいのは、十王星南だけではない。

 

 

 

 「プロデューサーにも、本当に、とっても、感謝してます」

 

 

 ……本当に、2人にはいくら感謝をしても、し切れない。

 

 どちらか片方を軽んじたりなんて、できるはずがないし、もしもそのつもりがなかったとしても、そう捉えられるようなことはあってはならないと、そう思う。

 

 定期公演の時から、こうして、きちんと歌って踊れるようにしてくれたのは、プロデューサーで。

 

 それから、今さっき習得できたと胸を張って言えるようになった、イン……なんとかも。……元々は、プロデューサーが考え出したものである。

 

 

 「……俺は、プロデューサーとして当然のことをしてきただけですよ」

 

 

 「……そうね。私も、みんなの模範となるべき『一番星(プリマステラ)』として、当然のことをしたまでよ。──それにね。あなたの数値をじっと見ていたら……私も少し、殻を破れそうな気がしてきたもの」

 

 

 ……感謝の気持ちを、いつも通り、さらりと流してしまうプロデューサーは、まあともかくとして。

 

 そこに続いた十王星南の言葉は……一種の覚醒フラグみたいなもの、なのだろうか。

 

 怖いから、あまり、不穏なことを言わないでほしい。

 私がこの『N.I.A』を終えたら……次に挑むのは、夏の『H.I.F』だ。

 

 『H.I.F』には、もちろん今の『一番星(プリマステラ)』である十王星南は、当然出場することだろう。

 

 ……そして、これは前世の知識の話になるのだけれど。

 

 私の知る限りでは……どのキャラクターのルートでも、夏の『H.I.F』で、十王星南に勝てたアイドルはいない。

 

 どのルートであっても、夏の『H.I.F』を迎えるまでに、彼女はいつも、アイドルとして覚醒するのだ。

 

 

 ……まあ、不安ではあるけれど。

 しかし、それはまだもう少し先の話だ。

 

 その頃のことは……一旦、その時考えることとしよう。

 

 

 ──それで、話を戻すけれど……。

 

 話を戻す前に、にひとつだけ。

 

 プロデューサーは……プロデュースについて教えるときに、十王星南に、カッコつけるときのコツでも教えたのだろうか。

 

 お礼への返答が、揃ってほとんど同じような感じだった。

 

 

 ……。

 

 ……いや、違うか。

 

 2人はそれぞれ、本気でそう思って、言っている。

 

 彼は本当に、プロデューサーならこのくらいのことは当然と思っているし、それから彼女は、『一番星(プリマステラ)』たる者、学園の生徒を導くことは義務である、と、本気でそう思っているのだろう。

 

 ……これは、知識によるものというよりも……そういう理屈的なものではなくて、表情や声色から。何となく、伝わってくるような気がする。

 

 まあ……私にとっては、もちろん。

 

 今まで2人が私にしてきたことは、当然なんていう言葉で済ませていいわけがないこと……ではあるけれど。

 

 ……考え方には、立場による違いというものがある。

 

 例えば、彼は、優秀な能力を持つプロデューサーであり、そしてプロデューサーであるということは……私をアイドルとして育てることは、そのものが、彼にとっても利益となる。

 

 例えば、彼女は、自分の将来をプロデューサーと定めていて、そしてプロデューサーを目指すということは……私の面倒を見ることは、ひとつの経験にはなるだろう。

 

 ……そうやって、考えれば。

 

 2人が自分の行いを当然のことと言い張る意図や認識は、たしかに理解できるものでは、あるかも知れない。

 

 

 ……だけれど、やはり。

 

 私の立場、というものから言わせれば、それに対して、その通りですなんて言えるはずがない。

 

 ……そして、もっと言えば。

 

 その中でも、プロデューサーは。私という、1人のアイドルとしての立場で言うのなら、もはや命の恩人、とまで言ってしまっても、過言でないような存在なのだ。

 

 ──まあ、とは言っても。

 

 2人もまた、相手の立場でどう思っているのかくらいのことは考えられるだろうから、私の感謝はきちんと伝わっているはずだと思う。

 

 ──で、あるのなら。

 

 ここで、彼の言葉を否定してまで追加で感謝の気持ちを伝えるのは……それは、きっと無意味な感謝の押し付けにしかならないだろう。

 

 

 「……さて。──それでは、休憩を挟んだら、作戦会議をしましょうか」

 

 

 ──プロデューサーの言葉により、話は変わる。

 

 思えば、私がイン……なんとかを習得するということが、元々私たちの『N.I.A』でのプランにおいて、重要なポイントとして設定してあったことを、思い出した。

 

 ……おそらく、私が実際に、それを成し遂げたことを、示すことができたから。

 

 今から、それを踏まえて方針を整え共有していく……といった所だろうか。

 

 

 「まずは、こちらを見てください」

 

 

 言いながら、プロデューサーが差し出してきたのは、彼のスマートフォンだった。

 

 見てください、と言われたので……なんだろう、と思いながら。

 

 恐る恐る、その画面を見てみると。

 

 

 ──そこには、私のファン投票の現状の順位が映っていた。

 

 

 ……それは。

 

 やはりというか、あまり順位がいいとは、お世辞にも言えたものではないけれど。

 

 

 「……!プロデューサー、投票者の数……結構増えてます!どうやったんですか!?」

 

 

 前に見た時よりも、大分、投票数が増えていた。

 

 ……そして、順位も。

 

 

 僅かながらではあるが……しかし。

 たしかに、ランキングが上昇していることがわかる。

 

 

 「……まあ、たしかに、そうですね」

 

 

 ……しかし。喜ぶ私と、対照的に。

 

 スマホの画面を見せるプロデューサーは、少々不満気な様子だった。

 

 

 「これは、公開オーディションで実力が知られたことによるものね。……それまでは、ファンの前で実力を披露したことがなかったから。実力を見て、票を入れてもいいと思った人がいたのでしょう」

 

 

 ファンが増えた理由……というよりは、票数が増えた理由。

 

 ……たしかに、言われてみれば。

 

 実力のよくわからないアイドルに、自分の票を投じるなんて、普通は、あまりそんなことはしないだろう。

 

 つまりは、私のことを見て、評価に値すると判断してくれた人がいた、ということで。

 

 ……そう考えると。

 より一層、プロデューサーがどうして浮かない顔をするのか、いまいちよく、わからない。

 

 そんな風に、考えが及ばず。疑問を抱く私に対して。

 

 

 「……ただ、あの時点であなたは、本来ならもう少し伸びてもいいくらいのパフォーマンスはできていたわ。そうならなかったのは……言ってしまえば、注目度が低かったことが原因ね。……そしてそれは、おそらく、次も同じ。ファンもある程度固定化されてきているし、巻き返すには高いハードルを超える必要があるっていうことになるわ」

 

 

 

 そういう反応をするのは予想通りと言わんばかりに、十王星南は言葉を続けた。

 

 

 ……。

 

 ……たしかに、そうだ。

 私は一応、この大会で1位という結果を目指して参加しているのだから。

 

 ファンが評価してくれたことそのものに対する喜びは、あっても良いことであるかも知れないけれど。

 

 ……同時に、きちんと、上を見据える必要もある。

 

 

 ──私が、なるほど、と。

 

 流石はプロデューサー、広い視野で見ているんだなぁ、と。

 

 そう、理解したと同時に。

 

 

 ……ふと。

 

 アイドルでありながら、プロデューサーとしての視点を持つ十王星南だからこそ……今、私たちの気持ちの両方を、同時に汲み取ることができたのだろう、という事に思い至った。

 

 

 「──その通りです。……観月さん、我々の前には、高いハードルが立ちはだかっています」

 

 

 ……どうしますか?とでも言わんばかりに。

 

 彼は、私たちの懸念点であろうところを、敢えて、改めて私に突き付けてきた。

 

 

 そして、私が、ノーアイデアで降参しようと思う程度の、間を置いて。

 

 

 「──ジャイアントキリングを成し遂げて、ハードルを正面から越えましょう。……観月さん、次の公開オーディションは、『QUARTETTO』で行こうと思っています」

 

 

 プロデューサーは、宣言した。

 

 

 ──『QUARTETTO』。

 

 それは、『N.I.A』参加者の中でも、かなりランキングの高い人たちが参加するような、レベルの高いオーディションである。

 

 

 「ギリギリではありますが、挑戦可能な票数には到達しています。それに……アウェーな状況での勝負にはなるかと思いますが、今の観月さんであれば、覆せると思っています」

 

 

 本当に、今の私なら覆せるのか。

 

 ……それは、ハッキリ言って、私には全然わからない。

 

 けれど……ここで怖気付いて、挑戦することができないようでは。

 

 それこそ、トップアイドルを目指すだなんて。

 そんなもの、夢のまた夢という事になるだろうということだけは、私にもわかる。

 

 ……それに。

 

 プロデューサーが、できると思っているのなら。

 私は、それを信じて乗っかるつもりだ。

 

 

 ……。

 

 

 ……と。

 

 ──そうして、日々は過ぎて。

 

 相変わらずステージに立つパフォーマンスなどはしない形ではあったものの……少しでも知名度を向上させるため、以前よりも多めに、仕事をして。

 

 それに伴って、少しばかりの票をまた、獲得して。

 

 

 ……そうして。

 

 

 ──気が付けば。

 

 『QUARTETTO』当日に、なっていた。

 

 

 ──気になって、見てみれば。

 

 今日、参加する人の中には、白草四音の名前もあった。

 

 

 ……だけれど。

 

 その割に。

 

 彼女が敵視している初星学園の生徒であり、その上同じく『QUARTETTO』に参加する私に……彼女が、あの日以降接触してくることも無ければ、妨害工作と思われるようなことも、起こらなかったのは。

 

 それはおそらく、彼女にとって。

 

 私というアイドルが、警戒に値しないと、見做したから。

 

 ……おそらくは、そういったところだろう。

 

 

 ……その証拠、ではないけれど。

 

 私がのんびりと、そんなことを考えていた、ちょうどその時。

 

 

 ──控え室の外。

 扉の向こうの……少し、遠くで。

 

 他の初星学園の生徒と、それから、その子と言い争いをしているらしい、白草四音の声が聞こえてきた。

 

 

 ……私は、そこに巻き込まれなくてよかった、と。

 しみじみと、そう思った。

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