『QUARTETTO』で、トップ合格という結果を収めることができた私は。
その後、合格記念のライブを行った。
これまで、私は最初の公開オーディションの後のライブも、中々に人の集まったものだと思っていたけれど……。
はっきり言ってしまうと、今回行ったステージと比べてしまえば、それでも全然人の数が違っていたとしか、言えないだろう。
……理由を考えるのであれば、今回は『QUARTETTO』という、知名度がかなり高いオーディションで結果を出したから、というところだろうか。
私は、そんなたくさんのファンの前で。
多分、うまくパフォーマンスを披露することは、ちゃんとできていた……と、思う。
オーディションで他人と競うための武器として、私はこれまで、色々と習得したと思うけれど。
当たり前の話として、それは同時に、観客を沸かせるためのものでもある。
……なぜなら、アイドルの武器というのは、元々がそういうものなのだから。
だから、それは当然のことで。
決して、何もおかしなことではない。
……けれど、私は。
恥ずかしながら、オーディションを終えてからステージに立つまで、そのことをすっかり失念していたみたいだった。
……だから、ライブを終えて。
そこで練習通りに、パフォーマンスをした後で。
今まで以上に大きな熱を帯びた視線を浴びて、まるでそこにいるだけで酔い潰れてしまいそうなくらいの熱気に包まれ。
……ようやく、私はアイドルとして──つまり、ファンを楽しませる者として。
成長しているのだということを、自覚できた。
今は、もう既にステージを降りて、控え室にいるけれど。
しかしその熱は、胸の高鳴りとして。未だにしっかりと、ここに残っているのを感じる。
「──お疲れ様です。素晴らしいステージでしたよ!」
「ありがとうございます!ファンのみんなにも、すっごく楽しんでもらえたみたいで……本当に、ここまで頑張ってよかったです!」
だから、こそ。手放しで褒めてくれるようなプロデューサーの言葉を、私は心から、素直に喜ぶことができた。
……まあ、なんというか。
割と最近、私も随分と素直になったような気がする。
例えば……そう。大分前の私は、期待されることへの恐怖で、こんな風にいい結果を出すということそのものにすら、ある種の恐れがあったと思う。
……しかし、今はどうだろうか。
今では、それはほとんどなくなった。
きっかけは……やはり、定期公演での成功だろう。
冷静に分析してしまうと、なんだか照れくさいような気持ちもあるけれど。
……きっと、悪い変化ではないと思う。
「どうすれば前に進めるのか、全く分かってなかった私がここまで来ることができたのは、間違いなくプロデューサーのおかげです。ですから、何度でも言わせてください。……本当に、ありがとうございます」
「ここまでの実力を身に付けられたのは、観月さんの努力の成果です。──ですから、観月さん。素晴らしいライブを、ありがとうございました」
……それは、きっと。
プロデューサーとして、ではなくて。
ファンの1人としての言葉……でもあるのだろう。
……それは。その。
なんというか、やっぱり。
……ダメだ。
どれだけ素直になれたと思っても、結局こうして、正面からそんな言葉をかけられると気恥ずかしいのは……まだ変わらないらしい。
だから、その気まずさに。思わずふいと、視線をずらして。
……そして扉の方を向いたら。
ちょうど偶然、そこから、人が入ってくるところだった。
「桃花!」
私の名前を呼びながら、勢いよく中へと入ってきたのは。
もう1人、私がお世話になっている人。
……そう、十王星南であった。
今日は忙しいという話で、実際、オーディションの時はいなかったのに。
どうにかして、ライブの方には、間に合わせて来てくれたらしい。
オーディションの結果次第では、無駄足になってしまっていただろうに、こうして駆けつけてくれたのは……いつの間にか、私は彼女の期待も背負っていたということなのだろう。
「桃花、おめでとう。本当に、いいライブだったわ」
「──ありがとうございます!……その、星南会長が、色々と教えてくださったおかげです!」
学園のトップである十王星南に、いいライブだった、なんて。
名指しでそう言われていると思うと、なんだか恐れ多いような気持ちもするけれど。
純粋によかったと思ってもらえている様子なので、ここで変な謙遜をするのも、おかしなことであるだろうから。
私はその言葉もまた、素直に受け取ることにした。
……。
……そうして。
まるで夢の中にいたかのような、1日が終わり。
──『QUARTETTO』終了の、その翌日。
疲れていた分、早めに眠ったせいか、いつもよりもちょっとだけ、早く目が覚めたので。
なんとなく、スマホを手に取って。
私は、インターネットを眺めてみた。
……そう言えば。
インターネットといえば、なのだけれど。
私は、広告関連とかその辺りは、プロデューサーに一任している。
それは、単純に私がちゃんとインターネットを……というか、いわゆる『公式アカウント』というものを、ちゃんと使いこなせる自信がないからだ。
やはり何事も、適材適所。
……なんて、そう言っているけれど。
実際は、あまり色々任せっきりというのも、申し訳ないとは思っている。
しかし、まあ。
SNSの炎上は、怖いものだし。
使い方を間違えると、ああいうのはすぐ荒れるイメージがあるし。
やっぱり、手を出そうとは思えない。
……と。
そんなことを考えつつ、インターネットを覗いたら。
「……え?」
──なんだか、すごくすごいことに、なっていた。
何がどうなっているかは……よくわからないけれど。
しかし、とても大きな衝撃を受けて、咄嗟に画面をオフにしてしまった。
……そうして、スマホを置いて。
ぼんやりしていたすっかり意識は冴えて。
それから心臓は、うるさく鳴り響く。
……。
それから、少しの間を置いてみたものの……やっぱり、どうにも、いても立ってもいられなかったので。
すぐに支度をして、そのまま学園へと、走って向かうことにした。
……。
……そうして。
「──プロデューサー!なんか……その、私のランキングが……」
もしかしたらいないかも、と思ったけれど。
しかし、教室に着いたら、既にそこにはプロデューサーがいた。
プロデューサーがいることを、扉越しに確認した上で。
私は、勢いよく教室に突っ込みながら。
スマホの画面を開いて、彼に見せた。
「どうかしましたか?」
……しかし。大慌ての私とは、対照的に。
プロデューサーは、落ち着き払った様子で、不思議そうに、その画面を一瞥するだけだったので。
もしかしたら、私の見間違いかと思って……恐る恐る、画面を視界に入れてみる。
──やっぱり、それは、見間違いでは、なかったようだ。
「プロデューサー、私のランキング、急に上がりすぎじゃないですか?……なんか、不正……とか、してませんよね……?」
これまでは、大分スクロールしないと出てこなかった、私の名前が。
全然スクロールしなくても、表示されるのだ。
──ちなみに。それを具体的に、言うのなら。
ランキングが、2桁になっていた。
……そして、それに。
「……あと、なんかSNSで私の名前をやたらと見かけるんですけど……もしかして、私、なんかやっちゃいました?」
SNSでは、なぜか私の名前がトレンド欄に入っていた。
これについては……まさか、炎上……とか?
もしかしたら……昨日の結果に納得できなかったファンの人たちが、暴動を起こしているのかも知れない。
──例えば……ほら。
誰だあんなやつ!白草四音の方がすごいのに!
……とか、そんな感じで。
怖くてあまり詳しくみていないけれど、もしそうなっていたら、どうしよう。
考えれば考えるほどに、走って来たこととは関係のない嫌な感じの汗が、頬を伝っていくのを感じる。
「不正などは、していませんよ。これは単純に昨日のライブが良かったので、順位が上がっただけです」
「……えっと、ランキング……というか票数って、こんな急に上がるもの、なんですか……?」
ただ単純に、ランキングが上がっただけ。
SNSで名前がやたらと出てくるのも、単に、その話題。
……なんて。
そんなの、とても信じられないような思いだった。
──いや、まあ私たちの、この『N.I.A』における目標は、優勝なのだから。
もちろん、順位が上がることそのものは嬉しいし、逆にもし、上がらずにずっと停滞していたら、それはそれで、困るというものではあるのだけれど。
しかし、だからと言って……と、いうくらいの伸びが、そこにはあった。
「突然現れた想定外のダークホースが、白草四音という優勝候補を下し、そして見事なライブを披露した……という、衝撃的というか、ある種物語的な出来事に、インパクトを受けた人が多かったようですね」
……そういう、ものなのだろうか。
言葉だけでは、少々半信半疑な気持ちはあったけれど。
それを察してか、プロデューサーが、彼のノートパソコンで、いくつかネット上の投稿を見せながら、そんな説明をしてくれた。
「それに、想定外というほどの伸びでもありません。こういった話題を獲得して、一気に注目を集めるのはもともと計画していたことですし、観月さんの今の実力を考えれば、むしろここから、まだまだ伸びていくと思います」
言われてみれば……たしかに。
私は『N.I.A』が始まってから、あまりステージに立ってこなかったし、それに、プロデューサーの考えたイン……なんとかを披露したのは、昨日が初めてのことだった。
私の今の実力に対して、どのくらいが正当な評価かなんて、わからない。
……まあ、しかし、だとしても。
私としては、ちょっと前の公開オーディションで少し順位が上がっただけでもかなり嬉しく思ったものだから。
いきなりのこれは、私にとってかなりのキャパオーバーな出来事なのは、間違いない。
「特に、昨日の『QUARTETTO』は、かなり不利な状態での出場でした。──ファン数が大きな価値を持つこの大会の形式で、参加可能なほぼ最低ラインで出場し……それであれだけの結果を残したのですから、多少印象が強くなるのも、仕方のないことだと思います」
不利を覆して、結果を残した……なんて。
私はあまり、そうは思っていない。
むしろ……ほとんど誰にも警戒されずにあの場に立てたのは、大きなアドバンテージとして働いていたと思う。
しかし、それは。有力な候補を相手に、妨害行動を行っている人がいるということを知っていればの、話でもある。
世間一般では、プロデューサーの今言った認識が、正しいのだろう。
……。
色々と飲み込むことができて、ようやく、少しずつ落ち着いてきた。
考えてみれば、なんと言うことはない。
要するに、私が背負う期待が、増えたというだけのこと。
……いや、そう考えると、余計に気負ってしまいそうになる。
言い直そう。
つまり、私が、今言いたかったのは。
やるべきことは変わらない、ということである。
──つまり、それは。
このまま『N.I.A』優勝に向けて、私なりにできることをきちんと全部やり切ろう、と。
そして今回のこれは、きちんと結果がついて来ている証拠であり……だから、私はこのまま、走ればいいのだ、と。
……そう、思い直して。
私は、改めて。
気持ちを、引き締め直すことにした。