TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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STEP3
第21話


 

 『FINALE』の優勝ライブを終えて、控え室で、プロデューサーと共に、次に向けて気持ちを新たにした……ちょうどその時。

 

 部屋の扉が、勢いよく開き。そこから、十王星南が現れた。

 

 

 「──お疲れさま、桃花。あなたのライブ、見届けたわ!」

 

 

 そういえば……というのは、あまりにも失礼な話だし、そもそも別に忘れていたわけではないのだけれど。

 

 十王星南もまた、私にとって、プロデューサー……というか、先生みたいな相手である。

 

 まあ、さすがに彼女にまで、これから先も、なんて言うつもりはないけれど……。

 

 せめて、感謝はちゃんと伝えたかったから。

 こうして来てくれたのは、とてもありがたいタイミングだった。

 

 

 「……ありがとうございます!星南会長が、一緒に私の表現を模索してくださったおかげです!」

 

 

 本当に、ありがたいことである。

 

 ……もしも、私1人だったなら、とてもこんなところに立つことなんて、遠い遠い、夢のようなお話だったことだろう。

 

 

 ──改めて、実感した。

 

 私は本当に、たくさんの奇跡を束ねて。

 この、スタートラインに立てているのだ。

 

 

 「どういたしまして。……だけど、謙遜しなくていいわ。確かに、私がサポートした分もあったけれど。ここまで来たのは、あなたの努力が実った結果でも、あるのだから」

 

 

 努力、といえば聞こえはいいけれど。

 言ってしまえば、私はほとんど、誰かの指示に従っていただけである。

 

 ……が、まあ、しかし。

 

 こうやって、言われた通りに素直に積み上げていくこともまた……努力と表現することはできるのか。

 

 ──だとすれば。

 自分で、今いる場所をスタートラインと定義するのなら。

 

 これから先、きちんと前に進むため、正しく必要なものを積み上げていくためには。これまでに自分が積み上げたものを過小に評するのも、あまりよくないことかも知れない。

 

 

 「……それで、話は少し変わるのだけど。──これから開催される、夏の『Hatsuboshi IDOL FESTIVAL』。……あなたも、出場する予定かしら」

 

 

 ──通称、『H.I.F』。

 初星学園内のイベントとは言え……そのレベルとしては、『N.I.A』と比べてもなお、極めて、高レベルの大会である。

 

 ……が、しかし。

 

 出場可能な見込みがあるのなら。

 

 トップアイドルを目指す初星学園の生徒として。もちろん、出場を避ける理由なんて、どこにもない。

 

 

 「──はい!プロデューサーとも、以前既にその話をしてまして。……ですから、次の『H.I.F』では、星南会長に、挑むことになると思います」

 

 

 「……挑むことになる、ね。──世間的には、もしかしたら、そうではない形になるかも知れないことは、認識しているかしら?」

 

 

 ……そうではない、形。

 

 少し考えてみたけれど、いまいちよくわからない。

 

 現在の『一番星(プリマステラ)』は、十王星南の持つ称号であって。

 ……それを奪おうとすることは、挑むとは違うのだろうか。

 

 

 「世間的には、今回をきっかけに、あなたのことをトップアイドルの一人として数える人もいる。……そして今は、『一番星(プリマステラ)』は、トップアイドルの称号には、劣っているわ」

 

 

 ──それは、お互いの持つ……と言っていいのかはわからないけれど、お互いに関わりの深い称号を、比較した時の話。

 

 言われるまで、思いつきもしなかったことだけれど。

 そう言われてしまうと、確かに、そういう見方をする人はいるかも知れない。

 

 

 「そうね。先に一つだけ聞いておきたいのだけど、あなたにとって私は……十王星南は、どういう立ち位置の人間ということになるのかしら」

 

 

 ──この質問は、おそらく。前世の知識とか、そういうものを抜きにして。

 今を生きる、私の考えるところだけで答えるのが、一番誠実と言えるだろう。

 

 

 「……そう、ですね。星南会長は、私にとって。──尊敬する先輩であり、そして、アイドルとしての先生、みたいな感じだと思ってます」

 

 

 まず、私は自分をトップアイドルの一人とは考えていない……というのは、大前提として。

 それを抜きにしても、現時点までの中で、私の方が十王星南よりも上に立っただなんて、微塵も考えたことのないところである。

 

 

 「なるほどね。プロデューサー、ほどではないけれど。……先生、というのも、言葉の響きとして悪くないわ」

 

 

 私の言葉を聞いて、彼女は。

 どこか満足げに、それを反芻するかのように数度小さく頷いた。

 

 

 「そして、私はあなたの先輩でもある。……よく、わかったわ。──なら、あなたの進む先を示す者として、私も、覚悟を決めて、全力で相手をすると宣言するわ」

 

 

 先程までの、まるで保護者のようにすら感じられるほどに、優しく穏やかな眼差しから……一変して。

 

 十王星南は、激しく燃え盛る炎のような空気を纏った。

 

 

 「私の目標は、『一番星(プリマステラ)』を、トップアイドルを指す称号の一つにすること。本当は、そのための後継者を探していたのだけど──トップアイドルが『一番星(プリマステラ)』の座『も』手に入れた、では、意味がないもの」

 

 

 静かに、淡々とした口調で。

 

 まるで自分に言い聞かせるかのように、言葉を発しているけれど。

 

 その姿からは、特別な人間だけが持つことを許されるような……なにか、強いオーラのようなものが、感じられた。

 

 ……そして、その上。

 

 まるで、貫くように鋭い、その視線は。

 敵として見るものにのみ、向けるようなものだろう。

 

 ……不要だとは思うが、敢えて補足すると、もちろん、悪意や憎悪のようなものが向けられているわけではない。

 

 敵、と言ってしまうと紛らわしいので。あえて、普遍的な表現を用いるのであれば。

 

 ……それは、死力を尽くして争い、競うべき相手。──すなわち、ライバルという言葉による言い換えが、最も相応しいものとなるだろうか。

 

 学園中のアイドルの尊敬の的である彼女から、そのような目を向けられるとは。

 

 どれほど、光栄なことだろうか。

 

 

 「──世間がどう思ってるかは、知らないですけど。……私は、自分のことをトップアイドルとは、まだ思ってませんから。『H.I.F』で、恩返しをしてみせますよ!」

 

 

 ……世間一般的には、恩返しとは、受けた恩に報いることを指す言葉である。

 

 しかし、例えば。将棋などの世界では、その言葉は、『弟子が師匠を相手に勝利を収めること』として、用いられることもあると聞く。

 

 それは、師匠を超えることこそが、弟子にできる最大の、恩に対する報い方だから……とかなんとか。

 

 

 ──十王星南の掲げていた目標を、彼女が当初狙っていた通りに、叶えてみせる。そのために、十王星南を相手に、『H.I.F』で勝利を奪う。

 

 私にできる恩返しは、きっと、それが最上のものと言えるだろう。

 

 

 「……時々、あなたを見出したのが、私だったら、なんて思う時もあるけれど」

 

 

 ふと、視線が細められ。

 十王星南が纏っていた、雰囲気が和らいだ。

 

 ……が、しかし。

 

 

 「そういう可能性も……もしかしたら、あったかも知れないですけど。──だけど、私のプロデューサーは、プロデューサーだけです」

 

 

 いくら、お世話になったとは言え。

 

 私をここまで掬い上げてくれた人は、申し訳ないけれど……プロデューサーのことだけを、指すものだから。

 

 私は、失礼とは思いつつも、言葉を挟んだ。

 

 

 「そうね。──だからこそ、『H.I.F』では、先輩としての意地を見せるわ」

 

 

 ……そう、言い残すと。

 十王星南は、控え室を後にした。

 

 

 「──見事な宣戦布告でしたね」

 

 

 彼女が、立ち去った後。

 成り行きを静観していたプロデューサーが、声を発した。

 

 

 「……一応聞きますけど、もしかしてまずかった……ですかね?」

 

 

 気になるのは、今回のやり取りが、彼の思い描くプロデュース計画に、支障があったかどうか。

 

 さっきからずっと、私はなんだかんだと偉そうなことを言っているけれど、それは大部分がプロデューサーによるプロデュースをアテにしてのものである。

 

 締まらないというか、情けないようにも思えるけれど。

 

 ……弱さを受け入れ、現状を正しく受け入れることこそが、成長の第一歩だ、ということにでもしておくことはできるだろうか。

 

 

 「次のわれわれの目標は、『H.I.F』ですから。……ここで萎縮されていたら、むしろ困っていたところです」

 

 

 ……まあ、それもそうか。

 

 先程、十王星南に対して自分で口にしたことではあるけれど……この『N.I.A』は、『H.I.F』出場のための足がかりとして、挑んだものだ。

 

 となれば、やはり。十王星南とぶつかることになることそのものは、むしろ、最初に描いた軌道へと、戻ってきたということになるだろう。

 

 

 「……理論上では、今の観月さんであれば、『H.I.F』での優勝は、現実的な話と言えるでしょう」

 

 

 全面的な肯定の言葉……に、聞こえるけれど。

 

 しかしその実、プロデューサーは少しばかり、考え込むような仕草をした。

 

 ……わかっている。

 

 いまいち煮え切らないようなその表情が意味するところは、十王星南が、一種の未知数となったからだろう。

 

 

 ──十王星南は、夏の『H.I.F』で覚醒して、必ず優勝する。

 

 それは、前世の知識のものであって。

 そしていささか根拠も乏しいので、正直、あまり参考にしようと思っていなかった部分だけれど。

 

 ……しかし実際、十王星南が今回の『H.I.F』で、今まで以上の力を見せてきそうな感じの雰囲気は、漂っている。

 

 そう考えると、もしかしたら。

 

 今回の勝負は、本当に勝ちの目の薄い勝負に、なるかも知れない。

 

 

 ……けれど。

 

 だから、なんだと言うのだろうか。

 

 挑むと決めたのだから、私がこれからするべきことは、ただ、その時までに、自分にできることをするだけである。

 

 

 ──『H.I.F』は、『N.I.A』と違って。

 ファン投票のようなものはない。

 

 ただただ、それまでに大きく突出した成績を挙げたアイドルや、それから、『選抜試験(セレクション)』を勝ち抜いたアイドルが、それぞれステージで順番にライブをして。

 

 ……そして、そのライブの優劣をもって勝敗をつけるという、とても競技性の高い大会である。

 

 そして、『H.I.F』というものは、学園内のイベントではあるものの。メディアにも大々的に取り上げられるようなものであり。

 

 十王星南をはじめとする、実力が高すぎて『N.I.A』へと参加しなかった生徒なども参加するため……全国規模の大会である『N.I.A』さえも、上回るレベルとして位置付けられている。

 

 そう考えると、改めて。初星学園という学園のレベルの高さというものを、実感する。

 

 

 ……が、まあ、対外的には。

 

 今回の『N.I.A』は、途中で現役のトップアイドルが乱入してきたことから、『H.I.F』よりも高レベルのものだった、と認識されていそうではあるけれど。

 

 諸々の条件を加味すれば、実際には、それは正確とは言えないと思うから。

 

 私は……未だ挑戦者であることを、胸に刻んで。 

 

 改めて、『H.I.F』へと。

 最大限に力を入れて、挑むことを心に決めた。

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