……なぜか恋愛話みたいになってしまった、私の、プロデューサーについての話の後。
話題を変えて、ちょっとした世間話をして。
それから、今度また機会が合いそうだったらまた会おうと約束をして。
「じゃあ、またね」
私が、別れ際に手を振ると。
「うん、また今度」
「頑張ってね、桃花ちゃん!」
──2人も、同じように手を振りかえしてくれて。
そうして、この場は解散した。
なんというか、考えることの多いひと時だった。
……プロデューサーに対する私の感情……は、一旦いいとして。
特に気になったのは、『ユニットの解散』という決断への捉え方だ。
引きずって後悔していてほしかった、なんていうつもりはないけれど。
しかし、ああも軽いノリで話題に出されるようなものだとは。
私は、そうは思えていなかった。
……というか、今も、あまり軽々に触れたいとは思わない。
あれは私にとっては、どうしようもない失敗と挫折の記憶であり。掘り起こすのには少々苦痛が伴うような……そういう、位置付けの出来事なのだ。
それに、ユニットの解散は。
彼女たちにとって、もっと自分都合で言い出した話だと思っていた。
確かに、その時足を引っ張りたくないということを言っていたこと自体は覚えているけれど……ハッキリ言って、そんなものは一種の建前みたいなものだと思っていた。
本音は、もっとこう……これ以上付き合わせないでほしい、とか、疲れた、とか、そういうものが言葉の裏にあるものとばかり思っていた。
……いや、まあ、今回面と向かって言わなかっただけで。
もしかしたら、そういう思い自体はあったのかも知れないけれど。
しかしやはり、それがあまり大きな重さを持っているような感じはしない。
……結局は、本当に私の足を引っ張らないように、というのが一番最初にあったというのだろう。
──菜花は、私の反応に気が付いたからかも知れないけれど……あの話題にあまり触れようとしていなかったようにも見えた。
だから、それが果たして2人の共通の考えなのかはわからないけれど……しかし少なくとも、奈津は本当にそんな感じだった。
……であれば、最初に、一緒にアイドルを目指そうという話をしていたのはなんだったのか。
もはや考えても仕方のないことが、頭の中でぐるぐると回っている。
──どうにか、切り替えよう。
少なくとも、2人は引きずってはいなかったのだから。
私だけが引きずるのも、それはそれで、なんだかバカみたいだ。
そんな風に、自分に言い聞かせていた時だった。
「──ねぇ、桃花。ちょっといい?」
突然背後から、声をかけられた。
……急なことに、少し驚きつつ。
恐る恐る、後ろを振り返ってみると。
そこにいたのは、月村手毬だった。
「……ユニット組んでたメンバーがアイドル辞めるのって、どんな気持ち?」
……字面だけで見れば、もしかしたら挑発的な発言に感じられたかも知れないけれど。しかし、別に煽っているわけではないのだろう。
ただ、どのような感じなのか。
純粋にそれを聞きたいだけ……なのだと思う。
元『SyngUp!』の1人、月村手毬は、言葉足らずというか口下手なところがあって、誤解されがちな人物である。
まあ、その口数の少なさは、生来の性格というよりも……クールだと思ってやっているキャラ作りによるものらしいような感じもあるけれど。
ちなみに、さらに詳しく前世の記憶を持ち出して言えば、そのキャラ作りの元は、同じく元『SyngUp!』の賀陽燐羽であり、さらにその賀陽燐羽も姉である賀陽継で……という構造になっていたような記憶がある。
……とにかく、そういった感じで。
月村手毬は、言葉が悪いというか、突き放すような言い方をしがちではあるけれど。彼女の行動原理に悪意があるわけではないことは、知っている。
が、しかし。
これは当人にしてみればなんのことかわからないような話ではあるだろうけれど……中等部時代、散々実力差を突き付けてきたユニット『SyngUp!』の1人だから、若干の苦手意識はあるのだけれど。
「……そうだね。やっぱり寂しくはある、かな」
とは言え、それを態度として表に出してしまったら、それはただの八つ当たりでしかない。
私は、一応は、さすがにそんなことはしないくらいには、良識というものは持ち合わせているつもりでいるから。
彼女の言葉に、素直に答えることにした。
「そっか……」
しかし、微妙に会話が続かない。
会話を広げたいわけでもないのなら、どうしてそんなことを聞いてきたのか。
……そう、思わないわけではないけれど。
しかし。繰り返しにはなるが、彼女は別に悪意があるわけではないはずなのだ。
おそらく、本当にただただ気になって、聞いただけなのだろう。
……なら、どうして気になったのか。
会話を続ける糸口を探すのであれば、多分その辺りが話題になるはずだ。
後ろから声をかけて来たことから察するに、きっと、私がさっきまで元ユニットメンバーと会話をしていたところを聞いていたのだろう。
……しかし、それだけでは。わざわざ話しかけてその話題を持ち出そうなんてことには、ならないはずだ。
「私たちのことが、気になったの?」
しかし、彼女はどちらかというと他人にはあまり興味のないタイプだと思っていたから、正直なところあの月村手毬とこういう話をすることになるとは、かなり意外だ。
「別に、気になったわけじゃないけど。……ただ、私たちも近いうちに解散ライブをするから」
『SyngUp!』は、すでに解散済みのユニットである。
……しかし、それはあまり明確なものではなく、ファンの前で、ちゃんと解散すると宣言できているかと言えば、そうではない。
ある種の、空中分解みたいな感じになっていたはずだ。
だから、それをきちんと整理する為の、解散ライブ……なのだろう。
……なんとなく、わかってきた。
『SyngUp!』の解散ライブについては、たしか前世の知識にもあった気がする。
記憶が正しければ、ユニット解散の最大の理由は、おそらく賀陽燐羽。
……彼女は、ユニットどころか、高等部でアイドルを続ける意志がない。
だから、アイドルとしての終活みたいなことをしていた……みたいな話が原作であった気がする。
そして、元『SyngUp!』の内、月村手毬と秦谷美鈴は、すでに今はソロアイドルとして活動している。
ユニットを、ユニットのまま残す必要性がないというのが、現状なのだろう。
……と。そういえば、今思い出したのだけれど。
今回の『H.I.F』、すでに書類上の所属が極月学園になっているであろう賀陽燐羽はともかくとして、月村手毬と秦谷美鈴は、参加していなかった。
実力的には、十分に
……その理由については、なんとなく予想はつくけれど。
一応、直接聞いてみることにしよう。
「……そういえば、手毬ちゃんって『H.I.F』出てなかったね。解散ライブのための準備、みたいな感じ?」
「うん。そう。解散ライブで2人よりもすごいライブをして、見返してやるんだ」
……おそらく、それだけが理由ではない。
月村手毬は、賀陽燐羽こそが今の憧れのアイドルであり。
彼女がアイドルを辞めることそのものを、心から嫌がっている。
そして、『SyngUp!』の3人は、それぞれがかなりの負けず嫌いであることも、知っている。
……つまり。だからこそ、その解散ライブは。
ただ解散を明確化する為のライブではなく、そこで賀陽燐羽、と、ついでに秦谷美鈴以上のパフォーマンスを見せて、自分を上回るまでアイドルを辞めさせない……みたいな流れに持っていくのが、最大の目的なのだろうと考えられる。
……まあ、とは言え。
本人が言っていないところを予想するだけならともかくとして、それを、わざわざ確認したりひけらかしたりするのは、あまりよろしくはないだろう。
「冬の『H.I.F』は、どうするの?」
「出ないよ。解散ライブの練習に、集中することにしたから」
仲間の中で、競い合う。
……そういえば、私たちの方のユニットの中には、無かったものだ。
「……そっか。それは、いい目標だね」
月村手毬は、うまくやれるだろうか。
親しい相手が、同じ道を進むことをやめるのは、寂しいものである。
彼女は、ちゃんと阻止できるだろうか。
……まあ、きっと、うまくやれるだろう。
不安そうな雰囲気はあるけれど、その目はちゃんと前を見ている。
明確に、目的を見据えて進むことができると、確証できるような決意を感じる。
「……そうだ。結構いい時間だし、よかったら一緒に夜ご飯でも食べない?」
話の流れから考えるに、彼女の決意がより強まったように見えるのは……きっと、私たちの関係性を見て、反面教師みたいな、いわゆる「ああなりたくない」という気持ちだろうから、私としては、どう考えるべきか悩ましいところではあるけれど。
──まあ、そんな姿を見ていたら。
私も、過去に囚われるべきではないような気がしてきた。
私は、冬の『H.I.F』に出る。
そしてそこで、十王星南に、勝利する。
私だって、前を見据えて走らなければならないのだ。
「……夕飯?なんで私があんたと食べるわけ?」
突然の私の提案に、月村手毬は怪訝な目で私を見る。
……まあ、それも当然だろう。
私と彼女は、クラスメイトではあるけれど、別に友達と呼べるような親しい間柄でもない。
「お互い、目標に向けて頑張るために景気付け……みたいな?誘ったの私だし、もし行くなら奢るけど……嫌なら1人でラーメンでも食べに行こうかな」
月村手毬の好物は、豚カツとか豚骨ラーメンとかその辺りの脂っこいものである。
一方で私は……今世になって、そういったものはあまり食べていないけれど、前世では、特にラーメンは大の好物だった。
あまりそういうものばかりを食べてスタイルが崩れたりしたら良くないけれど、こういう時くらい、たまにはいいだろうとも思う。
「……。……ふーん、まあ、桃花がどうしてもって言うなら、私も食べに行ってあげてもいいけど」
……しかし、それにしても。
ラーメンと聞いて目の色を変えた彼女の態度は。
わかりやすくて面白いなぁと、そう、感じずにはいられなかった。