TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第26話

 

 元ユニットメンバーとカフェで遭遇し、月村手毬とラーメンを食べに行った日から、数日が経過して。

 

 私は、とあるライブの会場へと、プロデューサーと共にやって来ていた。

 

 ……ちなみに、これはある種の余談だけれど。

 

 月村手毬が、美味しそうに背脂豚骨ラーメンを食べていた時のこと。

 

 私も、前世ではラーメンが大好きだったし、その時は毎度大盛りで頼むようなタイプだったものだから。

 そのノリを思い出して、チャーシュー麺の大盛りを頼んでみたのだけれど。

 

 ……それが、失敗だったみたいで。

 かなり、苦しい思いをする羽目になってしまった。

 

 その原因が胃袋の大きさの違いなのか、単に、今世の私が脂物を食べ慣れていないからなのか。

 

 ……多分、理由は後者だと思うけれど。

 

 どちらにせよ、私は未だ無意識的なところで、前世の時と同じ感覚でいるようなところがあったのだということに、気が付いた。

 

 

 ……しかし、私が私として、この先いろいろな経験を積んでいくことによって。

 そういうものは、きっと一つずつ無くなっていく事だろう。

 

 そう考えると……正直なところを言うと、寂しく思うような気持ちがしないでもないというものである。

 

 まあ、余談というのは、それだけのものである。

 余談と言うに相応しい、特に意味のない、個人的な感傷みたいなものだ。

 

 

 ……それよりも、どうやらそろそろステージが始まるらしい。

 

 今日は、私が何かをするわけではない。

 私は、ただの1人の観客として、今日この場に座っている。

 

 ステージに立つのは、十王星南と、それから何人かの、世間一般的にトップアイドルと呼ばれているような、面々である。

 

 場所は私も定期公演をした講堂であり、それからパッと見渡した感じでも観に来ている観客の多くが初星学園の関係者であることから、場の状況としては十王星南に有利なように見えるけれど……実態はそうとは限らない。

 

 初星学園という、全国でもトップクラスのアイドル養成学校に通う生徒であるからこそ、色眼鏡が期待できるほどその目は甘くないことだろう。

 

 それに、トップアイドルと呼ばれるようなアイドルたちのファンの数は、学園の講堂という場所に来ただけで容易にアウェーになるような程度の数ではないはずだ。

 

 尊敬する先輩である十王星南を相手に偉そうなことを言うようで申し訳ないような気持ちだけれど、もしも仮に、彼女らに並び立つに相応しくないようなパフォーマンスをすれば。容赦なく、そのような評価が下されることになるだろう。

 

 別に点数がつけられるようなイベントではないし、あくまでもエキシビションマッチのようなものではあるけれど……しかし、アイドルが同じ場所でパフォーマンスをしたのなら、比較されるのは必然である。

 

 ……とは言え。

 

 もっとも、そのくらいのことは最初から承知の上だろう。

 

 逆に言えば、ここでそのトップアイドルたちに劣らないパフォーマンスをすることができれば、それは正当に評価されるだろうし、そうなれば、今の『一番星(プリマステラ)』はトップアイドルに並ぶのだと証明できる。

 

 つまりは、それを私たちの目で判断してほしい、というのが、十王星南の意図ということなのだと思う。

 

 ──この結果がどうなるのかは、まあ前世の記憶でおおよそ予想がつくというものだけれど……黙って、この目で。生で、見届けるべきだろう。

 

 

 ……。

 

 ごくり、と、唾を飲み込む。

 

 隣に座るプロデューサーを盗み見てみれば……彼も、固唾を飲んでステージに注目しているのが、よくわかった。

 

 

 ……そうして。

 眩いほどのスポットライトが、舞台を照らした。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……そして、気が付いたら。

 

 あっという間に、全ての工程が、終わっていた。

 

 

 ──あの瞬間。たしかに間違いなく、みんな、トップアイドルと呼ばれるに相応しい実力を発揮していた。

 

 ……そう、みんな、である。

 

 そこには、もちろん、私たちの生徒会長、十王星南も含まれている。

 

 本当に、素晴らしいステージだった。

 

 無粋かも知れないけれど、敢えてどうにか言語化するのであれば……会場すべてと一体になって盛り上がった、というのが、最も正確な表現と言えるだろうか。

 

 ……こうして考えると、最初から十王星南というアイドルについて知っているファンが通常よりも多く存在していたこの場所は、確かに彼女にとって有利に働いたと言えるのかも知れない。

 

 それでも、ここまで盛り上げることができたのは、やっぱり、彼女の実力によるものだと思うけれど。

 

 ──なんて。

 

 全員の楽曲が終わり、私がそんなことをのんびりと考えていた、ちょうどその時。

 

 その十王星南が、マイクを握り。

 観客に向かって、何事かを語り始めるような様子を見せた。

 

 

 「……このライブが終わったら、伝えようと決めていた言葉があるわ」

 

 

 マイクを手に、堂々と。

 数多の観客を前に、十王星南はまっすぐに前を向きながら、言葉を続ける。

 

 

 「初星学園に通う……全校生徒へ」

 

 

 ──学園の生徒へのメッセージ。

 それから、この場所……学園の講堂。

 

 ……今更になって、ようやく私は。

 わざわざここを選んだのは、彼女にとってここが有利な場所だから、というようなものだけではないのだということを察した。

 

 

 「この私を──『一番星』を目指しなさい!!!」

 

 

 ──彼女が、ここを選んだ理由。

 

 それはきっと、最初から、初星学園に通う生徒に、メッセージを伝える為だったのだ。

 

 ……前世の私が見ていない部分だったのか、あるいは、特に『学園アイドルマスター』という物語の中で直接的な描写が無かったのか。

 

 それは今の私には確かめる術のないことではあるけれど……少なくとも、私が知る限り、そのような意図が直接的に描かれていたシーンは無かったと思う。

 

 しかし、少し考えてみれば……こんなことは簡単にわかることでもあったように、思えてくる。

 

 つまりは、今更この理由に思い至ったのは。

 きっと単に、私の察しが悪かった、というところに帰結する話なのかも知れない。

 

 

 「アイドルの頂点は──あなたたちの夢は、ここにある!」

 

 

 大きな会場でもできただろうに、どうしてここで……という、ちょっとした疑問が晴れ、パズルのピースがハマったような感覚と同時。

 

 ──十王星南は、トップアイドルたちを相手に。

 

 事実的な勝利宣言を、果たした。

 

 

 ……そうして。

 

 実際に、彼女の言葉に対し、その宣言に異を唱えるものは、どこにもおらず。

 

 

 ──観客たちは、大いに湧き立った。

 

 

 ……ある意味では、この宣言によって、初めて。

 この場における『勝者』というものが定められたようなものだった。

 

 そういう視点で見れば、十王星南のあの言葉は、観客へと審判を求める一声でもあったと言えるだろう。

 

 ……実際、私も。

 正直なところ、強く心を揺さぶられるような感覚だったけれど。

 

 それ以上に、感動的というか、感情のキャパシティを超えていたため、一周回って平静だった。

 

 ……あるいは。愕然としていた、とでも言ってみてもいいかも知れない。

 

 

 ──なるほど。

 

 これが、トップアイドル。

 

 ……そしてこれが、『一番星(プリマステラ)』。

 

 私が目指そうとしているそれが、いかに眩く輝いているものか、これ以上なく理解できた。

 

 

 正直に言って、このシーン……この発言は、前世の記憶で知っていた。

 

 十王星南がトップアイドルを相手に素晴らしいパフォーマンスを発揮して、『一番星(プリマステラ)』という称号が、トップアイドルを指すものになるということを……つまり、十王星南が、目標を達成することを、私は知っていたのだ。

 

 ……知っていて、なお。

 

 今回のライブは、私の心を、大きく揺さぶった。

 

 

 「……まさに、トップアイドル誕生の瞬間!っていう感じでしたね」

 

 

 ──帰り道。

 朱色に染まった夕日が眩しい中、私は一緒に歩くプロデューサーに向けて、そんなことを言ってみた。

 

 

 「本当に、すごかったですよね!さすがは十王星南!って感じです」

 

 

 ……別に、特段深い意味があってのことではない。

 単純に、ただただ感想を語りたい気分だったのだ。

 

 

 「──直接伝えなくて、いいのですか?」

 

 

 しかし、そんな私に対して、プロデューサーはそんなことを言ってきた。

 

 

 「……まあ、確かに、直接お世話になった相手ですし……せっかくなら感想を直接伝えたい気分ですけど……。今行って来たら、間違えて宣戦布告とかして来ちゃいそうですし」

 

 

 ──トップアイドル。

 その称号が、どれだけ煌びやかで眩しくて輝いているのかを理解した時。

 

 ……私は、無性に「欲しい」と、思ってしまった。

 

 まあ、別にそれ自体は、悪いことではないのだろう。

 

 実際、観客席にいて、それと同じような熱を、肌で感じた。

 

 少なくとも、次の『H.I.F』は。

 きっと夏の比ではないようなレベルになることだろう。

 

 ……と、まあ、それはともかく。

 

 ──しかし十王星南は、私にとって、非常にお世話になった相手でもある。

 

 だからこそ、私は。

 夢を叶えた先輩に対して、最初にかける言葉は、私のことではなくて。

 

 きちんと、賞賛の言葉を伝えたい。

 

 ……というのが、大きな理由ではあるけれど。

 

 一応、理由としてはもうひとつ。

 もう一つの理由は、あまりこうエモい感じではないけれど……。

 

 それは、単に、今言葉を伝えようとしたら、上手くまとまらない自信がある、というところである。

 

 賞賛にせよ、感謝にせよ。……あるいは、宣戦布告をするにせよ。

 

 どうせ伝えるのなら、自分なりに、ある程度形にしたもの……とまではいかなくとも、こんな熱に浮かされたような思考の中ではなく、ちゃんとまとまった思考の中でやりたいものだ。

 

 

 「……本当に、みんなすごかったです。……確かに、今日の主役は間違いなく星南会長でしたけど、それぞれが、違った輝きを放っていたように見えました」

 

 

 前世の記憶の中でだけれど、十王星南は、『H.I.F』をトップアイドルと呼ばれるに相応しいようなハイレベルなアイドル同士が鎬を削るようなものにしたいと言っていたのを、私は知っている。

 

 ……今なら、きっと十王星南が『H.I.F』でやりたいのは、ああいうことなんだろうな、というのが、よくわかる。

 

 そう考えると、十王星南にとって、伝えられて嬉しいのは、賞賛なんかよりも宣戦布告の方なのかも知れない。

 

 ──今度の機会に、両方きちんと直接伝えることにしよう。

 

 ……だけれど、その前に。

 

 

 「明確に、目標が示されましたけど。……プロデューサーは、まだ私の手を取ってくださいますか?」

 

 

 私は先に、プロデューサーに問う。

 

 ……結局のところ、私は1人では走れないことを知っているから。

 

 

 「──はい、もちろんです。一緒に、あのステージを超えましょう」

 

 

 プロデューサーは、変わらずにそう言い切って、私を見た。

 

 ……だから、私も。

 

 

 「……よかった。じゃあ、改めて。──今日のトップアイドルを、超えるために。これからもよろしくお願いしますね、プロデューサー!」

 

 

 安堵、決意。それからその他諸々を、まとめて込めて。

 

 私は改めて、そんな宣言をしたのだった。

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