TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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お久しぶりです!
STEP4が実装され、37話までの書き溜めがようやくできましたので更新を再開したいと思います。
前回投稿からかなり間が空いてしまいましたが、本作をまだ忘れていない方がいらっしゃるようであれば、是非、またよろしくお願いいたします!



STEP4
第28話


 

 悔しい結果に終わった夏のH.I.Fから、時は経過し。

 

 日常生活では暖房が大活躍し、薄手の衣装に袖を通すと肌寒さに体が小さく震えるような季節……冬を迎えた。

 

 そして、冬を迎えたということは、そう。

 

 

 「いよいよ、冬の『H.I.F』が近づいてきました。夏の雪辱を果たし、今度こそ『一番星(プリマステラ)』の座を奪い取るチャンスです」

 

 

 プロデューサーが言うように、冬の『H.I.F』が迫って来ているということである。

 

 

 「観月さんには、あれから今日まで、ひたすらに基礎的な能力を伸ばすためのレッスンを積み重ねてもらいました。今回こそは届くはずです」

 

 

 今は、その『H.I.F』に向けたミーティング。

 半年前のことを思い出しているのか、声に悔しさを滲ませながら、プロデューサーは力説している。

 

 まあ、事実。

 私はこの冬の『H.I.F』に向けて、あの夏以来かなりの密度のレッスンを積み重ねた。あの時よりも更にいいパフォーマンスができる自信は、たしかにある。

 

 ……だけど。そんな私は今、いくつかの悩みを抱えていた。

 

 まず、一つ。

 

 実のところ私の持つ、学園アイドルマスターというゲームをプレイしていた記憶は、夏の『H.I.F』の辺りの、いわゆる『STEP3』と呼ばれるところまでしかない。

 というかさらに言うと……それどころか、私は全員の『STEP3』までのシナリオを知っているというわけですらない。

 

 これは単に、前世の私が全員の『STEP3』が実装されるよりも前に命を落としてしまったということが理由である。

 

 もう私には先がわからないということで、すなわち、今回は完全に未知の道を歩まなければならないということである。

 

 まあ、あのゲームにはそもそも私という存在はいなかったのだから、これまでも別に完全に既知の道筋を歩いてきていたというわけでもないけれど。

 

 しかし、今の私には、これから先どうなるのか、今までしてきたような大まかな予測さえも立てられない。

 

 

 ……と、いうのが一つめで。

 そう、困ったことに悩みの種はひとつではない。

 

 続く悩みは、夏の頃と比べての私のアイドルとしての力の伸び具合についてのこと。

 

 夏から、私は主に地道な体力作りや細々とした技術の習得に努めていた。

 

 だから……というのもアレだけど、プロデューサーと出会ったばかりで一気に伸びたことを実感できた春や、自分では思いもつかなかったような技を手に入れた夏と比べると、伸び幅がとても地味に思えてしまうのだ。

 

 まあ、ただ自分の伸びが小さく感じるだけだったら、こんなものかと納得して終わりだったんだろうけど、問題は、周囲がまるで一斉に殻を破ったように大きく飛躍しているところにもある。

 

 例えば……言葉は非常に悪いけれど、学年の中でも春の頃はなんとなく『落ちこぼれ』という評判のあった倉本千奈は、いまやメディアで引っ張りだこの有名人だ。

 それから、体が非常に弱く、春には倉本千奈と仲良くその横に並んでいた篠澤広も、今ではコアなファンを多数抱えている立派なアイドルとして肩を並べている。

 

 もちろん、前世で液晶画面の向こう側から倉本千奈や篠澤広をプロデュースしたことのある私には、彼女たちにそれだけの可能性があったことを知っていたわけではあるんだけど……いや、ハッキリ言おう。

 今の彼女たちは、それに基づく私の想像を上回っている。

 

 そして更に言うと、こんなのはほんの一例だ。

 

 あの2人に限った話ではない。

 これは、学園全体……全アイドル科の生徒に言えてしまうような、そんな話だ。

 

 あの夏、十王星南が『トップアイドル』と呼ばれるようになって以降。みんな、まるで火がついたかのように目に見えてモチベーションが向上し、そして実力を大きく伸ばした。

 

 ……と、まあそんな中で。自分の伸び幅が地味に感じているものだから、どうしても不安になるというものだ。

 

 

 「なにか、気になることはありますか?」

 

 

 私が考え込んでいる間に、どうやらプロデューサーが話すターンは終わっていたらしく。プロデューサーは、先ほどからこれといって言葉を発していない私の方を不思議そうにじっと見ていた。

 

 

 「……うーん、そうですね。プロデューサー、冬の『H.I.F』に向けて、何か秘策はあったりしますか?」

 

 

 私がそう言うと、プロデューサーは静かに頭を横に振った。

 

 

 「強いて言うなら、今日までに伸ばした基礎能力と表現技術の習得が秘策という形になります。新しく覚えてもらった曲は、前回の時のものと比べてパフォーマンス全体の完成度が大きく向上していますし、間違いなくスコアは伸びるでしょう」

 

 

 ……まあ、そうか。

 実際、その点については疑っていない。

 

 前回と比べれば、ちゃんと伸びている形にはなっているのだろう。

 

 だけど、少しずつ積み重ねたことによる変化は、自分ではちょっと実感しづらいもので。こう……もっと派手に、大きく目に見えて伸びないものか、なんていうことを思ってしまう。

 

 けれど……プロデューサーがそう言うのであれば、これはどうにも考えても仕方のないことのようなので、この何となく漠然とした「このままでいいのだろうか」という悩みについては、一旦置いておくことにしよう。

 

 ……と、無理矢理気持ちを切り替えようとしたけれど。

 

 

 「不安ですか?」

 

 

 プロデューサーが、真剣な表情で尋ねてきた。

 

 

 「……まあ、そうですね。みんなすごくレベルが上がってますし、それに比べると私はちょっと、相対的に伸び幅が小さいかな……みたいに思っちゃいまして」

 

 

 不安をそのまま放置するのもそれはそれで良くないか、と思い直し、私は正直に、懸念していることを伝えることにした。

 

 だけど……そもそも私自身、本当のところは何に対して一番不安なのか、実のところよくわかっていなかったりする。

 

 伸びがどうとか色々考えてみたけど、本当は単に、これまでみたいに前世の知識に頼るということができないから不安に感じているだけなのかも知れない。

 

 もしもそれが自分の中での最大の不安の種だったとしたら、流石にどうすることもできないだろう。

 そもそもの話、本来人生とは、先が分からないのが当たり前なのではないのかという話でもある。

 

 

 「……学園全体で、一種のブレイクスルーのような現象が起こっているのは事実です。実際、今回の『H.I.F』はこれまでとはレベルの違う大会になるでしょう」

 

 

 プロデューサーは私の言葉を受けて、そのまま、真剣な顔で現状を語る。

 

 

 「しかし、その上で断言しますが、観月さんはその中で見ても決して劣っているなんていうことはありません」

 

 

 現状についてを語った上で、プロデューサーは力強く言い切った。

 

 

 「……ありがとうございます。すみません、『H.I.F』が近づいてきて、少しナイーブになってたみたいです」

 

 

 戦う前から、弱気になっていても仕方がない。

 

 私は、成長したみんなに勝って、『一番星(プリマステラ)』になる!

 ……みたいな。うん、それでいいはずだ。

 

 

 「これまでに積み上げてきたものを、ひとつずつ思い返していきましょう。そうして、もしもその上で足りないと感じるのであれば、あえて一度立ち止まって考えてみてもいいかも知れません」

 

 

 ……思い返す。

 

 最初は、春。プロデューサーと出会った時。

 あの時は……まともに試験すらできないくらいだったっけ。

 

 すぐに自分自身のパフォーマンスから意識が逸れてしまうことや、妄想上の『原作キャラ』と比較して勝手に劣等感に苛まれたりしていたことが原因で、ちゃんと最後までパフォーマンスをやり切ることができなかった。

 

 だけど、観客の方に意識を向けるようにしたり、そうしている間にも無意識的なレベルで歌やダンスができるように練習したり。

 そんなことをして、私は、ステージで最後までライブをやり切ることができるようになったのだ。

 

 

 それから、夏。『N.I.A』に出場した時のこと。

 現『一番星(プリマステラ)』である十王星南の力も借りて、私は、イン……なんとかという武器を手に入れた。

 

 それは、私自身が生まれた時から持っていた、自分自身の存在感を薄めることができる力を、プロデューサーの発案により、『目に見えない緩急』として表現に組み込むという形で応用したもの。

 

 細かい調整が必要で、習得するのには時間がかかったけど、それのおかげで、最終的には、不完全な状態だったとはいえ……トップアイドルの1人にも数えられる白草月花にも勝利し、『N.I.A』優勝にまで届くことになった。

 

 

 ……そして、それからの『H.I.F』では、惜しくも十王星南には届かなくて。

 

 あとは……まあ、それまでと比べたらあまり派手ではない、地道な積み重ねをしてきてここに至る。

 

 こうして改めて考えてみると、最初の時から考えればありえないくらいの変化が、一年もしない間に起こっていたということがよくわかる。

 

 だって……そうだ。

 私は最初、自分ではこの世界において、勝負の土俵にすら立てないものだと思っていたはずだ。

 

 それなのに今の私は、『負けるかも知れないから不安』だなんて思っているということで。考えてみれば、それはなんと贅沢な悩みだろう。

 

 

 プロデューサーに言われた通り思い返してみて、なんとなくわかった。

 

 私は……まだ、足りない。

 

 きっとどこかに、まだ上乗せできる何かがある。

 

 いや……これは違うか。

 正しくは、何かがあるという確信じゃなくて、探せばもしかしたらあるかも知れない。あってほしい。

 

 だって、改めて考えると私は、ほぼ手当たり次第に積み上げられそうなものをひたすらに積み上げて、今ここにいるというわけなのだから。

 

 まあ、それを見つけ出して示してきたのは、いつもプロデューサーだったけれど……たまには、私が自分なりに見つけ出そうと足掻いてみてもいいだろう。

 

 せっかく、ここまで来たのだから。

 大丈夫だろう、みたいな見通しで失敗してしまうよりも、見つからないかも知れない探し物をしてでも、履ける下駄を全部履く。

 

 少しでも、勝てる可能性を高めるために。

 

 プロデューサーはそういう意味で言ったわけではないかも知れないけど……だけど、彼のおかげで、いつの間にか忘れていたらしい初心を思い出すことができた。

 

 

 ……この、冬の『H.I.F』で。

 私なりの全力を尽くして、今度こそ、優勝を勝ち取ろう。





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