TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第4話

 

 合流してから、少しだけ歩いて。

 そうして、目的地の教室にたどり着いた。

 

 扉を開けて……最初に目に入ってきたのは、移動式の黒板だった。

 

 そして、奥には『信頼』や『輝き』や『てっぺん』と筆で書かれた紙が貼り付けられていて。

 それからさらに、その側にはノートパソコンが置いてあって……。

 

 目に入ったもの全てをあげていけば流石にキリがないので、ここまでにはするけれど。

 

 ……まあ、つまり。

 それは、完全に見覚えのあるレイアウトであった。

 

 前世で、かつ、画面の向こう側で、とはいえ。

 何度も何度も見てきたものには違いないので、何というか……こう、実家のような安心感すら感じられるような、気がしないでもない。

 

 

 「──ここが私たちの事務所、っていうことになるんですね!何だか、不思議な気分です!」

 

 

 ……とは、言ってみたものの。

 さて、どうしたものか。

 

 とりあえず、私はいつものように態度を取り繕って、それっぽいことを言ってみたけれど、内心では、色々な考えが頭の中に浮かんでは消えてを繰り返している。

 

 

 「……しかし、事務所というからには。2人だけ、というのも寂しいんじゃないですか?」

 

 

 ……色々と考えた結果。

 やや遠回しな、変化球になってしまった。

 

 けれどしかし、既に直球ストレートに身を引く作戦は上手くいかないことがわかっているから。

 

 だからこその、この回りくどい作戦。……具体的には、自分以外に、プロデュースしてもらうアイドルの人数を増やして。それから、それとなく少しずつフェードアウトするという、長期的な作戦である。

 

 目的達成までにかかる期間が伸びること自体は不本意だけれど、そのくらいしか思いつかないので、そちらの方向にシフトしよう。

 

 ……少なくとも、これなら。

 無理に私が契約を切ってもらう必要も、特になくなる。

 

 と、言うか。

 

 そもそも、よく考えて見れば。

 あくまで、重い期待を背負うのが嫌というだけであって。

 

 ……つまり、別にプロデュースされることそのものが受け付けられないという訳でもないのだから。

 

 案外、妥協案としては、かなりいい線行っているのではなかろうか。

 

 

 「もしかして、ユニットが組みたいのですか?」

 

 

 ──そんな風に、私が自分の中で考えをまとめていたら。

 

 プロデューサーが、何かを言ってきた……と。

 私が、そう思うよりも、ずっと早く。

 

 

 「いえ、それはちょっと……」

 

 

 ──条件反射、とでもいうのだろうか。

 

 気が付けば、そんな言葉を返していた。

 

 ……そうして、言い終えてから、理解が追いついて。

 それで一瞬、私はしまった……と、思ったけれど。

 

 まあ、よくよく考えたら。

 

 実際、あの輝かしい原作キャラクターたちとユニットを組めとか言われても釣り合わなさすぎて無理なので、別に焦るほど間違えたことは言ってないか……と、思い直した。

 

 

 「そうですか。中等部ではユニットを組んでいたようでしたので、てっきり」

 

 

 ……それで。

 ユニット繋がりで、今度は中等部時代の話へと、話題が向いた。

 

 ──なぜそれを知っているのか、とは、もう思わない。

 

 初対面であるはずなのに、調べてわかる範囲の情報が既に知り尽くされている……というのは。前世で、『学園アイドルマスター』でシナリオを進めている時によく見た光景だ。

 

 もし、彼が本当に、私の考える『学園アイドルマスターのプロデューサー』であるというのなら。

 

 よほどのことがない限り……時にはストーカーまがいの行為に手を染めて、それこそ、徹底的としか言えないくらいに、事前の調査を怠らない人間であるはずだ。

 

 ……まあ、もっとも。

 

 だからこそ、余計に、私に声をかけたということに疑問が生じる訳なのだけれど。

 

 少しでも調べれば、私が決して優良物件とは言えない人間であることは簡単にわかるはずなのだ。

 

 

 「あなたは、中等部時代……特に1年ほど前までは、かなり積極的に活動していたみたいですが、最近はあまり、そうではありません」

 

 

 ……しかし、とは言え。

 

 現実にこうして、そんな細かい……出来事とすらいえないような小さな変化の時期まで調査済みというのは。一体、どんな調べ方をしたらそうなるというのだろうか。

 

 改めて、その情報収集能力の底知れなさを、実感した気分である。

 

 

 「もしよろしければ、当時のことを聞いてもいいですか?」

 

 

 ……それで。

 

 敢えてここで、もしよろしければ、なんていう前置きをするからには。

 これは、拒否することも想定した問いなのだろう。

 

 たしかに、それだけ、踏み込んだ質問ではある。

 実際、これに答えることには、躊躇いがある。

 

 気が進まないという思いは大きい。

 

 ……けれど。

 

 いっそ、思い切って話してしまおうか、という気持ちもある。

 

 どうするべきか。

 

 私は……。

 

 

 「……私は、中等部でここに入って。その時は、自分ならきっと何にでもなれるって……それこそ、キラキラと輝くようなアイドルにだってなれるって。そんな風に、思い上がっていたんです」

 

 

 ……結局。プロデューサーに背を向けながら。

 

 私は、窓から見える眩しい夕陽を見上げつつ。

 思い出すように、語っていく。

 

 

 「中等部でここに入る時、一緒に入学して、それで一緒にアイドルを目指した子もいまして。幼馴染……って言うんですかね?とにかく、そんな感じで。最初の1年は、2人で競い合うようにしていたりしました」

 

 

 懐かしい話だ。

 家が近かったこともあって、小学生の時から、よく一緒にいた。

 

 あの子は……今は元気にしているだろうか。

 

 

 「……それで、2年生になりまして。ここでの生活にも慣れてきた私は、もう少し、周りを見るようになりました」

 

 

 まるでそれまでは一切周りが見えていなかったとでも言うような言い方だが、実際、それは間違いではない。

 

 ……言い訳をするようだが、アイドルの養成学校での授業なんて前世の知識だけでは賄うことができない部分だし、それから寮での生活も、単純に、慣れるまでが結構大変だったのだ。

 

 

 「その時は、たしかちょうど『SyngUp!』っていうユニットが活躍してた頃で、私はよく、彼女たちが歌っているところを見に行ったりしました」

 

 

 ……それから。

 事実を話してはいるが、それはそれとして、やや誤魔化している部分も、無くはない。

 

 例えば、誤魔化している部分としては。

 

 『SyngUp!』のことを知っていたのが前世からであることなど、そういった重要でない上に、言いづらいような部分のことである。

 

 

 「──それから、1年生の時に仲良くなった子も含めて。私たちも、真似をするように、ユニットを組みました」

 

 

 ……ちなみに。

 

 一緒に入学した子や、1年生の時に知り合ったその子は。

 『ゲーム』のシナリオの中には……名前すら出てきていなかった。

 

 

 「……それで、ユニット活動を始めたはいいものの。鳴かず飛ばず、といいますか。結局は、ただただ『SyngUp!』の凄さというものを、突きつけられるだけでして」

 

 

 いうなれば、きっとそれはネームドキャラとモブキャラの違い、みたいなやつで。

 

 そして、単純に。

 私たちはモブキャラ側だった、というただそれだけのことである。

 

 

 「上手くいかない状況で、どうにか、騙し騙しやってはいましたけど……段々と、私たちの中での雰囲気も悪くなっていきまして。それで、3年に入る頃、2人は……高等部には進まず、進学校に入学したいから勉強に集中したいって、言い出しまして」

 

 

 ……はっきり言って、あの時には、私も含めて3人とも心が折れていたんだと思う。

 

 「目の前で超えられない壁を見せつけられて、進もうなんて思えない」と言っていたのは、幼馴染のあの子だったか。

 

 ……その言葉に。心の中で、激しく同意したことを覚えている。

 

 それなのに、私が、2人と同じ道を選ばずに。未だに、ここにいるのは。

 

 それは、高等部に進学すれば『学園アイドルマスター』を生で見られる、という気持ちがあったのと。

 それから、転生してまで、進学して大学に行って……そうして、また会社勤めの社会人になるのが、嫌だと思ってしまったという、それだけで。

 

 2人と比べて、私に大した志があったというわけではない。

 

 

 「──それで、1年前にユニットは解散しました。……ですので、その時期から、ちょっとあまり活動らしい活動はしてないですね」

 

 

 ……これで、ようやく理解してもらえただろうか。

 

 プロデューサー。あなたの目の前にいるのは……アイドルの卵などではなく。そこに混ざり込んでしまった、ただの石ころなのである。

 

 結局のところ、私には才能も根性もない。

 気持ちの強さとか、不屈の意思とか……そういう大層なものは、持ち合わせていないのだ。

 

 ……そんな私に関われば、それだけ、貴重な時間を無駄にするだけであることは、もはや言うまでもないだろう。

 

 

 「……自分で言うのも、なんですけど。私、才能はない方だと思います。どうして、こんな私に声をかけたんですか?」

 

 

 中等部時代の情報に基づいての判断であると言うのなら、それこそ、元『SyngUp!』の月村手毬や秦谷美鈴にでも声をかければよかっただろう。

 

 私には、未だに、声をかけてきた理由が理解できていない。

 

 

 「──トップアイドルを、プロデュースするためです」

 

 

 ……。

 

 ……それは。原作で何度も出てきたセリフ……ではあるけれど。

 

 私が聞きたかったのは、もちろんそういうことではない。

 というか、その答えだと、まるで私にトップアイドルになれと言っているかのような……。

 

 ──いや、意図としては、そう言っているのだろう。

 

 そこに至った理屈は、まるで理解できないけれど。

 だからと言って、結論が読み取れないほどに、私は読解力がないつもりはない。

 

 

 「……観月さん。あなたは、自分が思っているほど、無才ではありません。殻を破れば、羽ばたくこともできるはずです」

 

 

 ……そして、今更ながら。

 私はこれまで、どうにか期待を持たせないように、と思っていたけれど。

 

 彼が、どうやら既に、私に謎の期待を抱いているらしいことを、理解した。

 

 ……。

 

 ……で、あるならば。

 

 もう、思い知らせるしか、ないだろう。

 

 多少、痛みを伴うだろうけれど。

 

 ……私が、彼の考える『最善の道』を歩いて見せて。

 それで、私がどこにも届かなければ。

 

 私という人間への失望と共に、理解するはずだ。

 

 

 「……わかりました、プロデューサー。ご期待に添えるよう、頑張ろうと思います!」

 

 

 ──私が、期待するに値しない、ダメな人間であることを。

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