TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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中間試験

 

 ……プロデューサーと契約をしてから、ある程度の日数が経過して。

 

 その間、彼の宣言通りに、細かい技術などに関するレッスンを主軸としたレッスンを続けていたら。

 

 

 ──気が付けば、中間試験が目前に迫っていた。

 

 ……いや、目前という言い方は、もしかしたら語弊を招くかも知れない。

 

 誤解がないように言えば、今日この日こそ。まさしく、中間試験の日当日である。

 

 

 そして。ここは、その控え室。

 

 私は、ここに1人で、自分の出番を待っていた。

 

 ……なんとなく、そわそわした、落ち着かない雰囲気が漂っているような気がするように感じるのだが、それは誰かの緊張した気持ちが、私にも伝わってきているのか、それとも単に私が少しばかり緊張しているのか。

 

 まあ、多分両方だろう。

 

 ……とはいえ。単純に緊張が理由で失敗してしまったら、それでは何の意味もない。

 

 だから……少しばかり冷静さを取り戻すために。いっそのこと、敢えて軽く思考を脇道に逸らしてみようと思う。

 

 

 ──まず。

 

 ここで試されるのは、これまでに積み上げてきた過程であり。

 それから、積み上げたそれを、きちんと身につけることができたかどうかというところでもある。

 

 もちろん、本番でそれらをどれだけ発揮できるかという部分もあるという考え方もあるかも知れないけれど……しかし、私に言わせれば、それこそまさしく、積み上げと土台を総合して現れる結果に過ぎないものだと思う。

 

 そして、私は私自身のポテンシャルの低さを証明する目的があったこともあり、レッスンについては、極めてしっかりと、言われた事に全力で取り組んできた。

 

 ……そういう意味では、私は。

 一応、やれることは、全部やり切っていると言えるのだ。

 

 と、考えると。

 やっぱり、今さらどうこう考えても仕方がない。

 

 ……と、いうか。そもそもの話。

 

 わざと手を抜くなんていうことをしても何の意味もないから、そんなことをするつもりは毛頭ないけれど……しかし、それはそれとして基本的には、私にとっては、負けることこそが、勝利条件であると言えなくもない。

 

 ──そうだ。

 

 ……冷静に考えれば考えるほど、緊張する理由なんて無いではないか。

 

 

 「……ふう」

 

 

 そうして。

 冷静さを少しずつ取り戻して、無意識的にため息が漏れた。

 

 ……その時に、何となく。

 

 口の中が乾燥していることに気が付いたので。

 私は、事前にプロデューサーから渡されていた、ルイボスティーを一口飲んだ。

 

 ……ルイボスティー。

 

 考えてみれば、これはゲームの中でも登場した飲み物である。

 

 それは、作中の物語の中で……というよりは、ゲームのクリアを楽にするためのアイテムとして、出てきたもので。

 

 効果は……確か『好印象』というスタックを+3するというものであり、特に序盤にお世話になった記憶がある。

 

 けれど……今私が飲んでいるこれには、さすがにそんな効果はないだろう。

 

 逆に、もしも現実に、ルイボスティーを飲むだけで印象が良くなると言うのなら。今頃、世界中のアイドルが、お腹いっぱいになるまでルイボスティーをガブ飲みしているはずだ。

 

 ……では、どうして私がこれを飲んでいるのかと言えば。

 それは単に、私にとってこれが好みの飲み物だから、というだけに過ぎない。

 

 

 ──景色も、人も。それから、物も、出来事も。

 この世界の沢山のものに、既視感があるけれど。

 

 しかし、きっと全てがゲームと同じという訳ではないのだと思う。

 

 例えば……この控室には。原作には登場していなかった人もいる。

 

 ……それは、私のような。この世界におけるイレギュラー的な存在とか、そういう訳ではない。

 

 それはおそらく、原作では、『描かれていなかった』部分。

 ゲームでは、モブという名の立ち絵も声もないキャラクターに相当するのだろうけれど、確かに、この世界に生きている。

 

 ……そして、そういった存在は。

 決して、少なくはないのである。

 

 だから、そういうところで、ふとした時に。

 私は、この世界を知っているけれど、同時に、まるで知らないのだということを、突き付けられているかのような気分になる。

 

 ゲームとは違っているところで言えば、他にも、例えば。

 

 ……この中間試験も、まさしくそうだと言えるだろう。

 

 当然のことではあるけれど、これからやるのは、ゲームのように、カードを選択してスコアを出していくような、そんな単純なものではない。

 

 歌って、踊って、自分を魅せる。

 それらを全て、きちんと同時にやってのける必要がある、ということである。

 

 改めて……なんて難しいことだろうか。

 

 そんなもの、上手くできなくても、仕方がない。

 

 ──そう考えると、むしろ一周回って、気分が落ち着いてくるような気がする。

 

 

 ……ルイボスティーも相まって、気分は完全にティータイムだ。

 どこかに、お菓子とかは無かっただろうか。

 

 そう思って、なんとなくポケットを漁っていると。

 

 

 「余裕がありそうですね」

 

 

 いつからか控え室に入ってきていた、プロデューサーに話しかけられた。

 

 ……おそらく、そろそろ出番ということだろう。

 

 

 「……そうでもないですよ。ただ、まあ、やれることは、とりあえずはやったかなって、思いますから」

 

 

 やはりというべきか、ポケットからはお菓子なんて出てこなかったので、シャッキリと気持ちを切り替える。

 

 まあ、結局のところ。

 なるようになれ、の精神である。

 

 はっきり言って、仮に一度、試験でダメな結果だったところで、彼は私ではなく自分を責めるような気がしないでもないけれど……。

 

 既に、長期戦は覚悟している。

 繰り返せば、私のポテンシャルの無さというものを知ることだろう。

 

 ……ちなみに。

 

 もちろん、あまりに結果が悪ければ。私の方から、それを理由に使って、プロデューサーに責任を押し付けて契約打ち切りを迫ることだって、出来るだろう。

 

 ……だけれど、そうしたら。おおよそ間違いなく、この男の名誉に傷が付く。

 

 それは、私としては、全く本意と言える流れではない。

 

 だから、結局。現状1番の理想は、私が彼に見限られて、そして、彼の方から契約打ち切りの話を持ち出してくること、なのである。

 

 

 「……いい精神状態だと思います」

 

 

 ……言葉とは裏腹に。

 なんとなく、やや含みのある言い方だった気はしたけれど。

 

 まあ、自分でもそう思う。

 

 それなりに緊張して、それなりに無責任。

 実力以上、とかそういうパフォーマンスが出来そうな感じはしないけれど、平常通りのパフォーマンスは出来るのではなかろうか。

 

 

 「ありがとうございます!……できる限り、頑張ってきます!」

 

 

 ……そうして。

 

 私は、特にこれといって気負うような気持ちもなく。

 そのまま、試験場へと、向かっていった。

 

 

 ……。

 

 ……そして。

 

 1人、ステージの上。

 審査員の人たちの、前に立つ。

 

 

 ──そして。

 

 私が挨拶をし、頭を下げると。

 試験が始まり、課題曲である『初』という曲の、イントロが流れ始める。

 

 

 ……それに合わせて、練習した通りに、丁寧に。

 

 身に付けた細かい技術を交えながら。

 私は、歌い、踊り、パフォーマンスをする。

 

 一つ一つの所作。それから、指の先まで。意識が行き渡り。

 そうして最初は、練習通りにこなせているのが、自分でもよくわかる。

 

 ……けれど。

 そうしていると。こうして、ステージの舞台に立っていると。

 

 いつも決まって、頭に浮かんでくるものがある。

 

 それは、他の生徒の。特に、モブではない……『原作キャラ』と勝手に私が呼んでいる人たちの、試験中の姿である。

 

 

 ……試験中のパフォーマンスの凄さ、というものは、ゲーム画面的には、画面の向こうでスキルカードを選択していただけだから、何も分からなかったけれど。

 

 この世界が、私にとっての、現実になって。

 

 ……それで時折、私は試験中の彼女たちの姿を、生で見ることがある。

 

 ──そこでは……みんな、輝いていた。

 

 もちろん、拙い部分も、当然ある。

 才能が開花していなくて、上手くいっていない人も、少なくはない。

 

 けれど、それでも。それぞれが、確かに違った輝きを、放っていたのだ。

 

 ……そういえば、以前。

 

 プロデューサーは、私に、試験中に集中力が持続しないことを指摘したことがあった。

 

 その原因は、これだろう。

 

 どうしても、『特別な存在』である彼女たちと、自分を比較して。そして、少しずつ。私は自分を見失ってしまう。

 

 

 ──そして、今。

 

 

 ……ステップが、コンマ1秒ズレた。

 

 さらに、引っ張られるように、指先の角度が、2度くらいズレた。

 

 それから、音程は……これで合ってるんだっけ?

 

 

 ……一度ズレた歯車は、連鎖して。

 さらに、大きな不協和音を奏でようとしていく。

 

 

 結局、私は『特別な存在』にはなれない。

 あの子たちのようには、私は……。

 

 

 ……そうして、また。音を立てて何もかもが崩れる、その寸前。

 

 

 「──観月さん」

 

 

 唐突に、ここ最近ですっかり耳に馴染んだ声が、聞こえてきた。

 

 ……試験の邪魔にならない程度には、抑えられてはいたものの。

 だけれど、はっきりと。それは、この耳に届いたのだ。

 

 だからだろうか。

 

 ──反射的に。

 

 いつの間にか下を向いていた顔が、上がって。

 

 ……そうしたら、そこには、頭の中にちらついていた幻影じゃなくて、現実の光景が、たしかに見えた。

 

 ──そうだ。

 

 目の前にいるのは、審査員。

 観客として見ている人もいる。それからその中に、プロデューサーもいる。

 

 ステージに立っているのは、『眩しい輝きを持つ誰か』じゃなくて、私なんだ。

 

 

 「──っ」

 

 

 ……今は、集中、しないと。

 

 

 そうだ。

 

 ──ステップのタイミングは……ここ。

 

 それで、指先の角度は、こう。

 

 音程も、まだズレてない。

 

 

 ……少しずつ、1つずつ。

 落ち着いて、ズレた歯車を直していく。

 

 

 ……。

 

 

 ……そうして。

 

 気が付けば、中間試験が、終わっていた。

 

 

 ……そして。控え室にて。

 

 

 「──お疲れ様でした。観月さんは……」

 

 

 どうやら、結果が出たようで。

 

 目の前のプロデューサーが、それを読み上げていく。

 

 

 「合格です。ギリギリの結果でしたね」

 

 

 ──ギリギリ。

 

 しかし……合格。

 

 

 「……!そう、ですか。……合格。正直、信じられません」

 

 

 ……その結果に対して。

 

 彼は、ギリギリ、なんていう言葉を使ったけれど。

 

 

 「プロデューサーのおかげです。私をここまで来させるなんて、すごいですよ!」

 

 

 私は、そうは思わない。

 

 ……たとえあと一点で不合格だったとしても、合格は、合格であり。

 

 そもそもが、私にとって。

 

 今この瞬間。この場所にいることそのものが、ある意味、ギリギリ……と、そう思っているのだから。

 

 ……流石はプロデューサー、と、言うべきか。

 

 これでも私は、彼の能力を、甘く見すぎていたのかも知れない。

 

 

 「自己評価が低すぎます」

 

 

 ……とは言え。

 そのプロデューサーの方は、この結果に、不満な様子で。

 

 

 「観月さんなら、もっと上を狙えたはずですよ」

 

 

 そんな事を、言う。

 ……私としては、『観月さんなら』じゃなくて、『プロデューサーなら』と言いたいところなのだけれど。

 

 どうやら未だに、私に才能があるという幻覚を見てしまっているようだ。

 

 

 「そう、ですか?……それなら、次に向けて反省会をしないとですね!」

 

 

 まあ、元より一度で理解してもらえるとは思っていない。

 

 ……せいぜい、今回の試験の結果を洗い出して。

 

 この結果が、あくまで再現性のない、上振れに過ぎないものであることを。

 どうにか、理解してもらう事を目指すとしよう。

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