TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第5話

 

 「観月さんの欠点は、極めて視野が狭いことです」

 

 

 ──拠点の教室に戻り。

 プロデューサーの言葉は、私の欠点を挙げるところから始まった。

 

 

 「そして、観月さんが本番で実力を出し切ることができない原因は、その狭い視野で、試験以外の別の事に意識が向いてしまっていることにあります」

 

 

 その、視野が狭い、ということについて、自覚はなかったけれど。

 

 ……言われてみれば、私は一度何かを考えるとその事に強く集中してしまい、同時並行で別な事を考えることができない傾向が、あったかも知れない。

 

 言われなければ思いもしなかったところではあるけれど……言われてみると、非常に強い納得感がある。

 

 ……だが、今更それが分かったとして、どうしようというのか。

 

 ……。

 

 ……いや。

 そもそも、その認識が、違うのか。

 

 ……思い返してみれば、そう言えば。

 あの時は途中で言葉を切り上げていたけれど。

 

 契約初日の時点で、彼はこんな感じの話を、ちらりとしていたような気がする。

 ……ということは。まさか、最初から、ここまでは想定の内、だったとでも言うのだろうか。

 

 まあ、この男の考えが理解できないのは、今更か。

 ひとまずは、「そういうもの」と、しておこう。

 

 

 「あの時どんな事を考えていたのかについて、教えてもらうことはできますか?」

 

 

 ……そして。

 

 まあ、そうなるか。

 この話がここまで来てしまった以上、そこを聞くのは当然で。

 

 そうなれば……ここは、うやむやにすることは、できそうもない。

 

 もちろん、転生とか、その辺りの部分までは言う必要は無いだろうけれど。

 

 ……それ以外の部分。

 つまり、私がいわゆる『原作キャラ』たちに、強い憧れのようなものを抱いていることについては。

 

 拒否するか、話してしまうか。選択肢は、この二つしか残っていない。

 

 ……そして、話す事を拒否すれば。

 私たちは、互いにここから進むことが出来ないだろう。

 

 それはつまり、アイドルとして結果を出すことは出来ないだろうし。

 

 逆に、私のことを諦めてもらうにしても、アプローチできそうな点が残っていれば、プロデューサーとしても、手を引く判断はしづらいだろう……ということである。

 

 進む、というのは、前に対しても、後ろに対しても言える言葉である。

 

 ……であれば。どちらに転ぶにせよ、これを話すことは避けられない、ということなら。

 

 

 「……そうですね。私には、すごいなって、憧れているアイドルがいまして。ステージに立つと、どうしてもその姿と自分を、比べてしまうんです」

 

 

 ──どんな事に対しても言える事だが、どうしても避けられないことは、早くに済ましてしまうのが1番いい。

 

 

 「そのアイドルは、学内のアイドルの事ですか?」

 

 

 ……そして。彼はさらに踏み込んだ質問をしてきた。

 

 実際、私は些細な抵抗として、敢えて少しぼかした言い方をしたのだけれど。

 ……流石に、そんな小細工は通じなかったらしい。

 

 

 「……はい。そうです」

 

 

 ……さて、果たして彼はどう来るか。

 私がプロデューサーの目を見ながら、神妙に頷くと。

 

 

 「やっぱり、そうでしたか」

 

 

 まるで、初めからわかっていたとでもいうような表情で、頷いた。

 

 ……まさかとは思うけれど。

 

 ある程度、重要な分岐と思っていたのは私だけで。

 彼にとっては、ここまではただの前提の確認作業でしかなかったとでもというのだろうか。

 

 ……だとしたら。

 

 一応、これは初めてカミングアウトしたことではあったので。

 そこに、「やっぱり」なんて言われるのは、流石に想定外だった。

 

 

 「以前から、あなたの学内の他のアイドルに対しての評価が、異様に高い事が気になっていました」

 

 

 ……それは。まあ、気になるか。

 

 思い返せば、度々私は、突然「他のアイドルを育てた方がいい」とか、そう言ったことを話したりしていた気がするから。

 

 それを相手の立場で考えてみれば……「急に何を言い出しているのだろう」となるのは、頷ける。

 

 

 「それで、軽くあなたが他のアイドルと接触する際の態度の変化などを観察しまして」

 

 

 ……そして。

 

 ──そんなことを言いながら、彼は、カバンから1枚の紙を取り出した。

 

 

 それで、差し出されたその紙を、いったい何だろう、と思い。

 首を傾げながら、見てみると……。

 

 

 ──そこには、『学園アイドルマスター』にプレイアブルキャラクターとして登場しているアイドル名前が、羅列されていた。

 

 

 「……?……!?……??」

 

 

 ……一体、これは何なのか。

 何のリスト……いや、何のリストかは、言われなくてもわかるけれど。

 

 驚きと困惑のあまり、まるで情報が処理できない。

 

 ……まさか、彼も私と同じく転生を──

 

 

 「これが、あなたが特別視していると推測したアイドルのリストです。これといって法則性は見出せませんでしたので、総当たり的な調査を行いました」

 

 

 ……否。どうやら、純然たる観察の結果らしい。

 

 

 「……総当たりって……もしかして、普段の私の様子をずっと見てたって事ですか?」

 

 

 背筋が凍りつくような寒気を覚えながら。

 ……恐る恐る、尋ねてみると。

 

 

 「……それはそうと。リストアップした内容に間違いや不足はなさそうですか?」

 

 

 あまりにも露骨に、話題を逸らされた。

 なんか、追求すれば色々と余罪も出てきそうだけれど……。

 

 ……ま、まあ……いいか。

 

 思わずドン引きしてしまったけれど、よくよく考えてみれば、ストーカーじみた行為をしているのは私だって同じようなものだから。下手につつけば、こっちにも何かブーメランが刺さりそうだし。

 

 そもそも、『学園アイドルマスターのプロデューサー』がストーカー予備軍みたいなものであることは、原作知識で知っている。

 

 

 「……まあ、間違いや不足は、特にないです」

 

 

 けれど、それはそれとして。

 

 今度から、防犯ブザーは身に付けておくようにしよう、と。

 私は強く心に誓った。

 

 

 「なるほど。となると……本当に法則性が不明ですね」

 

 

 前世の知識で知っていた人……という意味で良ければ。

 法則性は、私の中ではハッキリしているけれど。

 

 ……だからと言って、そこまでは。

 流石に、教えるつもりにはなれない。

 

 

 「ですが、ここを深く考察しても解決にはつながらなさそうですし。一旦は、置いておきましょう」

 

 

 ──それを聞いて。

 

 ……私は、心底、安堵した。

 

 

 だって。

 

 この世界は元々ゲームの世界で〜〜とか、そんなことをこの世界に生きる人間に対して言うのは、何だかすごく嫌な感じだし。

 別な世界から転生して〜〜とか言ったら、頭がおかしくなったのかとでも思われそうだから。

 

 だから、ここで置いておく判断をしてくれたのは……とても助かった。

 

 ……仮に、もし追求してきたのなら。

 今度こそ私は、断固として黙秘権を行使するから、きっとそうして、お互いに何も得られない不毛な時間が始まってしまっていたことだろう。

 

 

 「……でしたら、ひとつ聞きたいんですけど」

 

 

 それとなく、次の話題へと持っていくために。

 今度は、逆に。私が、彼に質問をする。

 

 

 「問題点が最初からわかってたなら……どうしてその対応じゃなくて、普通に技術的なレッスンをしてきたんですか?」

 

 

 ……今思えば。

 

 中間試験の際。

 

 彼の視点で、過度な集中が途中で無関係な事に向いてしまうことが原因で、試験がうまくいかないと言うことが、わかっていたから。

 

 だから、その兆しが見えたタイミングで唐突に私の名前を呼ぶことで、その、「あさっての方向への集中」を一度断ち切ったのだということは、わかるけど。

 

 ……そもそも、それを最初からわかっていたなら。

 

 もっと、別な方法があったはずだ。

 

 特に、今回の方法は。

 

 振り返って考えると……場合によっては、試験の邪魔をしたと捉えられて、問題になっても、おかしくなかった。

 少なくとも、そのくらいにはハイリスクな手段だったと、言わざるを得ない。

 

 

 「そうですね。……まず、前提として観月さんは、マルチタスクが苦手です」

 

 

 ……マルチタスクが、苦手。

 おそらくだけれど、これは最初に言っていた、視野が狭いというのと、意味としてはほとんど同じことになるだろう。

 

 

 「ですので、優先するべきなのは意識をパフォーマンスに集中してもらう方法ではなく、意識がパフォーマンスから逸れても問題ないようにするための方法だと考えました」

 

 

 ……それはなんとも、遠回しなアプローチに思えなくもない。

 

 とは言え、まあ、じゃあ逆にどうやって私に自分のパフォーマンスに集中させるのか、という視点で考えてもそれはそれで難しそうなので。

 

 ある意味では、一番の近道……に、なるのかも知れない。

 

 

 「うーん、どうやったらそんなことができるんですか?」

 

 

 少なくとも、今は、できていない。

 もしかして、プランは上手くいかなかった……と、いうことなのだろうか?

 

 

 「簡単な方法ではありませんが、パフォーマンスをする際の動作の全てを、無意識のうちにミスなくこなせるようになれば、可能です。観月さんも、普段から、呼吸や瞬きに意識を割いていませんよね?」

 

 

 「……それは、そうですね」

 

 

 言葉にしてしまえば、簡単に言える。

 けれど、実際にそれをやるとしたら、それがどれだけ難しいか。

 

 ……漠然と、想像はできる。

 

 その場その場でのアドリブ等は、一切無く。曖昧な部分を、欠片も残さず。

 全部を体に覚え込ませる、なんて。気の遠くなる話に思えて仕方がない。

 

 

 「……どうして、そんな回りくどいアプローチを選んだんですか?」

 

 

 それなら、ちゃんと試験中は試験に集中する、という方がよっぽど近道なのではないだろうか。

 

 

 「それは、自分のパフォーマンスだけに集中しても、良くないと考えたからです。──観月さん、アイドルが舞台に立っている時は……観客に意識を向けるべきです」

 

 

 ……それは、確かに。

 言われてみれば、もっともな、話である。

 

 

 「案外、観客側からも……自分たちに意識を向けているのかどうかは、わかってしまうものですから」

 

 

 「……つまり、それを、パフォーマンスの維持と両立するためには、結局、無意識レベルのパフォーマンスを身につける必要はある、みたいな……そういう感じです?」

 

 

 「はい。中間試験には間に合わせることはできませんでしたが、少なくとも次までにはそれができるように、と。……そこから逆算した結果、まずはとにかく、実践的な技術の習得に専念していただくのが一番の近道だと考えた、というわけですね」

 

 

 そこまで、理屈的に、固められていたのであれば。

 さすがに、突き崩せそうには思えない。

 

 ……これには、素直に。一人前のアイドルへの道が、私には大分遠いものであることを再確認した、と。そう言わざるを得ないだろう。

 

 

 「安心してください。これからは……それを可能にするための、具体的なレッスンを、考えてありますので。そちらを、実践していただこうと考えています」

 

 

 ……一体どうするというのか、見当もつかないけれど。

 その遠い道のりを、私にどう歩かせようというのかだろうか。

 

 そしてそれは、私に歩き切れる道のりなのか。

 

 

 ──まあ、だけど。私は、結局。

 やってダメだったら、やっぱりダメだった、で済ませればいい。

 

 

 「わかりました!そのレッスンをこなして、弱点克服、ですね!」

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