TS転生者が初星学園でアイドルになる話   作:ピンノ

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第8話

 

 ……ここは。

 ライブのセッティングがされた講堂の舞台袖……だろうか。

 

 閉じられた暗幕の隙間から、少しだけ光が差し込んでいるのが見える。

 

 ……どうして、私はここにいるのか。

 それを、理解する前に。

 

 

 「──なんかさ、ここ最近、頑張ってるみたいだね?」

 

 「なんだっけ?確か……アイドルになりたい、だっけ?また言い出すの?そんなこと」

 

 

 一体いつからかはわからないけれど、目の前にいる、全身にノイズのようなものがかかった2人の少女が、厳しい言葉でこちらを問い詰めてきた。

 

 ……ノイズで、姿こそよくわからないけれど。その声には、覚えがある。

 

 この2人は、中等部時代に私とユニットを組んでいた2人だ。

 

 

 「……うんざりなんだよ。きみは、いつも自分勝手で。あの頃、一度でもちゃんと、私たちのことを見ていたかな?」

 

 

 「見たいものばかりを見て、追いたいものばかりを追って。……一緒にって言葉は嘘だったの?それでまた、今度は諦めるって言葉も嘘にするんだ。……そっか。桃花ちゃんは、嘘つきだもんね」

 

 

 言葉によって追い詰めながら、一歩、また一歩とにじり寄ってくる2人に。

 

 私は、どうすることもできず。

 ……無意識のうちに、少しだけ、後退りをした。

 

 

 「ご、ごめ……」

 

 

 「──ごめんって?あはは、もしかして謝れば何してもいいって思ってる?」

 

 

 「面白い冗談!咄嗟にそんな冗談が出てくるようなデリカシーの無さを考えると……『前世』でもきっと、いつもみんなに煙たがられていたんだろうねー」

 

 

 ……顔を俯け、攻撃から身を守るように咄嗟に出て来た言葉は。

 余計に、彼女たちを刺激するだけに終わったようで。

 

 また一歩、その距離を詰めてくる。

 

 

 「……そんな、こと」

 

 

 いつの間にか、蟻のように小さくなった私は。

 

 巨人のように大きな2人に、どうか踏み潰さないでほしいと震えながら……歯切れの悪い言葉で、抵抗する。

 

 

 「前世のきみは、無気力で、惰性で生きていたんだよね。だけど、そんな自分のことが嫌いだった……違うかな?」

 

 

 「実際、いつか変えたいって、思ってたんでしょ?だから、そのいつかが来て……前の自分を、忘れようとしてるよね?」

 

 

 ……言葉が、思うように出てこない。

 実際、前世の自分をあまり好ましく思っていないというのは……否定できない話だから。

 

 

 「……それで、その『嫌いな自分』を直したくて、努力家みたいなフリを始めた。──だけどさ、正直付き合わされる身にもなってほしいって、話だよね」

 

 

 「私たちは、騙されたんだ。あなたの『嫌いな自分とは真逆の自分』という仮面にさ。蓋を開けてみたら、何もなくて情けない、ただの人だった」

 

 

 ……騙していた。それは、そうだ。

 

 転生して……せっかくなら、自分で自分が好きになれるように……なんて思って。そう思えるような自分を、作ろうとしていた。

 

 ……アイドルを目指したのも、そこから考えれば。

 

 前世の自分とはかけ離れていたから、という面があって。

 そして、熱くなって夢中になれるものがあれば、私も変われるかもしれないという……そんな不純な動機でもあったのだろう。

 

 

 「何もかも嘘。作り物。それをわかってるはずなのに、また、ここ最近になって、性懲りも無くもう一度やり直そうとしているよね?」

 

 「覚えてるよね?『わたしのせいで桃花ちゃんの足を引っ張っちゃうのはもう嫌だ』って、わたしがそう言った時に言ってくれた、『⬛︎⬛︎のせいじゃないよ。元々、私にもそんなすごい才能なんてなかったから』って言葉。……あれも、あなたがもしも結果を出せたなら、嘘になるよね」

 

 

 ……私は、言葉を返すことができず、ただひたすらに、一方的に言葉を浴びせられて。

 鬱々とした気持ちだけが積み上がり、押し潰されそうな息苦しさを感じていた。

 

 

 「……まあ、そもそもの話。『目の前で超えられない壁を見せつけられて、進もうなんて思えない』って、言った時。わかったように頷いた癖に、1人だけ、アイドル辞めようとしてないんだもんね」

 

 

 「一度諦めた癖に、手が届きそうだって思ったら、踵を返してまた手を伸ばそうとする。……⬛︎⬛︎って、前からずっとそういう卑怯者だったよね」

 

 

 詰め寄られ、言い詰められ。

 

 気が付けば……もはや、何も、見えなくなった。

 

 ……。

 

 それはまるで、目が見えなくなってしまったような……。

 

 ……いや、違う。

 これは……。

 

 そこまで思った、その直後。

 

 ──突如。

 鳴り響いた目覚まし時計の電子音が、泥のような暗闇を引き裂いた。

 

 ……目線の先には、見慣れた天井。

 

 

 しばしの間を置いて、ようやく私は、布団に眠っていたのだということを思い出した。

 

 

 ──目線を動かせば、カーテンの隙間から覗く朝日が、目に沁みる。

 

 それは、目を細めても、なお眩しくて。そのせいでうっすらと、涙が溢れるような……そんな、錯覚すらも覚えるほどだった。

 

 

 ……あれは、間違いなく、ただの夢だ。

 

 あの2人が私のことをどう思っているかは知らないけれど……少なくとも、あんな風に直接的に詰るようなことをするタイプでは無かったし、それに、そもそもの話、話したことなんてないのだから……あの2人が私の転生について、知っているわけがない。

 

 夢、そう。ただの夢。

 

 そう意識して、それから。

 

 段々と、意識が覚醒していくにつれて。

 夢の中での出来事が、頭から抜け落ちていく。

 

 ……そうして、それから。

 

 

 布団から上半身を起こしたまま、しばらくした頃には。

 

 私は、どんな夢を見たか、よく思い出せなかった。

 

 ……ただ、なんとなく、悪い夢を見たなぁ、という感覚と。

 それから、胸の奥に何かが詰まっているような、足元がどこかおぼつかないような、そんな感覚だけが、残って。

 

 

 ……なんだか、やけに憂鬱な気分で。

 今日という1日を、迎えることになってしまった。

 

 まあ、別に。

 今日この日が、何か特別な日という訳ではないけれど。

 

 ……と。

 

 そういう訳で、気持ちを切り替えていつも通りに。

 私は、着替えを済ませ、食堂に向かう。

 

 食堂では、栄養バランスがしっかりと考えられたメニューが出てくるので、私はいつも、ここで食事を済ませている。

 

 ご飯を抜かずに、きちんと毎食食べるということによって、食費がほんの少しばかり高くつくのが難点ではあるけれど……。

 アイドルなんて、体が資本だろうし。少し無駄遣いを我慢すれば、お小遣いで十分にカバーできる範疇だから。

 

 一人暮らしの社会人だった前世からは考えられないくらい、健康的な食生活となっているけれど……まあ、別に健康に気を使いたいから、とかそういう訳ではなくて。

 

 実際のところは、ただ、食堂でご飯を済ませれば楽だし、中等部の時からそうだったから今更変える気にもならない、という……それだけのものでしかない。

 

 体が資本、なんて意識が高そうなことを考えてみたけれど。

 

 毎食ちゃんと食べるようにしよう、とまでは思いつつも、自分で自分自身に合ったものをつくろうとまではしない程度の、そういう中途半端な考えなのだ。

 

 

 「──ごちそうさまでした」

 

 

 完食した食器を返却し、スマホのカレンダー機能を使って、今日の予定を確認する。

 

 ……今日は、プロデューサーと最終試験に向けて何か作戦会議、みたいなことをするらしい。

 

 と、いうことは。つまり。

 

 定期公演『初』の……最終試験。

 それが、目前まで迫って来ている、ということである。

 

 

 ……と、まあ。それで。

 

 

 「おっはよー、桃花ちゃん」

 

 

 「ぐっもーにん!ことねちゃん!もしかして今日もバイト?」

 

 

 「そーそー。……っていうか、なんで英語?」

 

 

 「うーん、なんとなく?」

 

 

 一応、ある程度は。

 

 ……どうにか、変に思われない程度には、直接的にコミュニケーションが取れるようにはなった……と、思わなくもない。

 

 完璧、とは到底言えないだろうけれど、まあ、ある程度は。

 これで、プロデューサーからの追加課題達成、と、ギリギリ言えなくもないことだろう。

 

 

 ……まあ、原作キャラの1人とは言え。

 一応は、クラスメイトなのだから。

 

 本来ならば、もっとちゃんと会話できるべきなのであろうことを考えると。こんなものでは、まだまだ、ということにはなりそうなところでもあるのだけれど。

 

 ……まあ、私にしては、それなりに頑張った方、なのではないだろうか。

 

 そんなことを、考えつつ。

 私たちは、じゃーね、と、軽く手を振り合って。

 

 

 ……それから、私は。活動拠点の教室へと、足を運んだ。

 

 

 「おはようございます!……お待たせしたみたいですみません!」

 

 

 時間的には……むしろ少しばかり早めに到着した、と、いったところだけれど。

 

 しかし既にそこにはプロデューサーが待っていたようだったので、私はそのように声をかけた。

 

 

 「おはようございます。先に準備しておきたいものがあっただけですので、特に待ってはいませんよ」

 

 

 「なるほど、そうだったんですね」

 

 

 私も、何か準備しておくべきだっただろうか。

 ……いや、まあ、特に何か思いつく訳でもないけれど。

 

 ……なんて。

 そんな風に、考えていると。

 

 

 「では、まずは作戦会議の前に、こちらの映像を見てください」

 

 

 プロデューサーが、モニターに何やら映像を映しながら、そんなことを言ってきた。

 

 ……そして。

 

 言われるがままに、モニターの方を、見ると。

 そこには、私の姿が映し出されていた。

 

 ……それも、つい最近。

 これは、多分……中間試験の時の映像、だと思う。

 

 

 最初は、まあ、そこそこ……?と、いった感じの印象、だったけれど。

 

 段々と、パフォーマンスが、崩れていって。

 

 ……そして、唐突な、プロデューサーが私の名前を呼ぶ声を境に。

 画面の向こう側の私は、どうにか、パフォーマンスを持ち直していって。

 

 ……。

 

 

 ──そうして、映像は終わりを迎えた。

 

 

 我ながら、なんとも無味乾燥な感想だと思うけれど。

 

 ……しかし、現実に、そんな感じだったのだ。

 

 

 なんというか……印象に残らない。

 

 とにかく、全体的に見て、まあ、ミスは少なく済んでいるし、それほど悪くは……ない、のかな……?みたいな感じで。

 

 なんとなく、パッとしない。

 

 ……悪い比較の仕方にはなってしまいそうだけれど、これならむしろ、中等部の時の私のパフォーマンスの方が、よっぽど印象的だろう。

 

 もっとも。まあ、あれは悪い方向に印象的ということだから。評価としては、当然今の方がいいのだけれど……。

 

 ……なんて。そのように考えていると。

 

 

 「観月さんは、時折、不自然に印象が薄まる時があるように思います。……心当たりは、ありますか?」

 

 

 突如として、プロデューサーが、切り出してきた。

 

 

 ……その現象に、心当たりは……。

 

 

 ──ある。

 

 ……それは。

 私の、転生した時から持っている、不思議な力。

 

 他者からの自分自身への印象を薄め。そして、極限まで薄めれば、そこに私がいるということすら認識させないという……そんな力。

 

 それであれば、心当たりがあると言える。

 

 聞き方からして、既にほとんど確信しているのだろう。

 

 けれど、しかし。

 この映像だけで、どうしてそんなことを思ったのかが……理解できない。

 

 ……が、しかし。ここまできてしまったのなら、きっと話すべき、なのだろう。

 

 ──躊躇はあったけれど、そう判断して。

 

 私は、私自身の力について、転生周りの部分についてはぼかしつつ、説明をすることにした。

 

 

 「……なるほど。観月さんを観察していた際、たまに不自然に姿を見失うことがあったのは、そういうことでしたか」

 

 

 ──観察。……たしかに、存在感を薄める前後を見ていたら、違和感を持ってもおかしくない。

 

 

 「しかし、その反応からして……ここでのこれは、無意識でしょうか」

 

 

 私が、現実逃避気味に、彼がなぜそんなことを、などという問いについて考えている間にも。

 

 彼は淡々と、その理屈を組み立てていく。

 

 

 ……中間試験の際に、気配を意識的に薄めたつもりは無かった。

 

 けれど、実際にはそれが起こっていることから考えるに……無意識的に、そうしてしまっていたのだろう。

 

 

 「観月さん。あなたは、本当は恐れているのではないですか?」

 

 

 ……そして。

 まるで、心臓に冷たい刃が押し当てられたかのように。

 

 私は、その問いを受けて、息が詰まった。

 

 

 「……敢えて言いますが、今の実力を十分に発揮できれば、今回の最終試験は、間違いなく、良い結果を出せるでしょう」

 

 

 無意識だったとしても、それを自覚してしまったのなら……自覚する前には、戻れない。

 

 恐怖か、高揚か。

 私は、喧しく鳴る心臓の音から、どうにか、意識を逸らす。

 

 ……そして、そんな私に対して。

 プロデューサーは、あくまでも静かに、淡々と。

 

 「──ここから先は、自分自身の意思で、選んでください。……前に進むか、足踏みをするか。俺は、観月さんなら前に進んでくれると、信じています」

 

 

 私は。

 

 その言葉に。

 

 ……その場で、答えを出すことは、できなかった。

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