BIOHAZARD ~The Twice Up Angels 作:AZ
命からがら逃げ込んだスタッフルーム。
二人は束の間の休息を取ったあと、その部屋の中を物色。何か使えそうなものはないか。
しかし、そこはあくまでスタッフルーム。ロケットランチャーやスパークショットなどといった強力な武器は都合よく落ちてはいない。
あるのは精々、医療用の救急ボックス。中には薬液。窓際には鑑賞用だろうか、グリーンハーブがいくつか植えてある。
ローズは鉢植えのハーブを回収すると、薬液に浸して少し時間を置く。
ハーブの色素が薬剤に溶けだし、薬剤はほんのり緑がかった回復薬になる。
それを瓶に詰めて、流し台へ。ローズの左手、先ほどゾンビに押し倒された拍子に、少し擦りむいたらしい。
ドバドバドバと左手に薬液を掛ける。濡れた左手をじっくり眺めて、よし、と呟く。
「それなぁに?」
「え? ああ、即席の傷薬。……父さんの記録にあったんだよね。有事の際には、こういうのが役立つって」
「お父さん?」
「あんたも、怪我してない?」
「まぁ、ちょびっと……」
ローズはエミリーの手を取ると、そこにも薬液をかけてあげる。
「ただの気休めなんだけどね。取れた腕がくっついたりとかはしないから……普通は」
「何の話?」
エミリーがぽかんと首を傾げると、ローズは空になった瓶を置き、休憩用のソファに座る。
「助けって、来るのかな。BSAAとか」
心もとなく光る蛍光灯を見ながらそう呟く。
「BSAA?……DSOなら来てくれるって聞いたけど」
「……合衆国直属の対バイオテロ組織。こんな辺鄙な田舎に?」
「知ってるの?」
「聞いたことがあるだけ。そういうのに詳しい人がいるからサ」
エミリーはローズの横にかけると、彼女の横顔を見つめる。
視線に気付いたローズは、キャップのつばを下げた。
「あんた、一緒にいたお姉さん、大丈夫なの」
ローズが訊いた。手洗い場ですれ違ったこと、彼女も気付いていたのかとエミリーは思う。
「……きっと、大丈夫だと思う。グレースは……強いもん……」
ふと、気を抜けば込み上げてきそうになってくる何かを抑えながら、気丈に答えた。
ローズはそれ以上を何も訊かず、そっか、とだけ言った。
「ローズは、大丈夫なの。家族とか」
「私は、学校の遠足でたまたま来てただけだから」
「そうなんだ……お友達とか、無事だといいね」
エミリーがそう言った時、ローズは不満げな表情で、何も言わなかった。
「学校の遠足って、二人でバディになって行動するんでしょ? そのバディの子とも」
「うるさい」
ローズはまた深くキャップのつばを下げ、エミリーの言葉を遮るようにそう言った。
そのあと、そっと、囁くような小さな声で、呟く。
「知らないよあんな奴ら、食べられてしまえばいいんだ」
そう言いきってしまった後に、ふと我に返る。
エミリーの方を見ると、明らかに困惑している様子だった。
「……ごめん。不謹慎、だね」
ローズは流石にばつが悪そうに。ソファの上で膝を抱えた。
「ううん……気持ちは、分かるよ。私だって、そうやって良くないこと考えちゃうこと、あったもん。怖い大人の人たちが、私の友達を連れて行ってしまって。それでも私、ああ、連れていかれたのが私じゃなくてよかったって、そう思っちゃって」
「そっか……」
エミリーは、遊園地内でローズがずっと一人で居た理由が何となくわかってしまって、それ以上は何も言わなかった。
「あんたは、エミリーは、学校でイヤな奴とか、いたりしないの」
ローズが訊く、するとエミリーは首を横に振りながら答える。
「……私、学校行ってないの」
「え?」
「ちょっと、最近まで、事情があって。今まではホームスクーリングでお勉強して、最近やっと、ラーニング・センターに行くようになって……だから私、まだちゃんと学校にはいけてないの」
ローズが少し、キャップのつばをあげる。舌で頬の内側を押しながら、なんとコメントすればいいかと悩んでいた。
「だから、私にとってはローズが初めてのバディ……になるのかな」
不意を突かれたように、ローズはエミリーの顔を見る。
あんなに深刻そうな身の上話をしたと思えば、唐突なバディ宣言。
すこし、分からない子だなと思ってしまう。
「まぁ、こんな状況だし。ま、バディ、か」
「嫌?」
「嫌というか、うん。まぁ、そうだね」
バディという言葉に、ローズはいい思い出がない。
最初は一緒に行動しても、途中で裏切られ、バディだった子は他の仲良しグループに合流して、ローズはいつも置き去り。
一人で居る所を見て、仲良しグループの子たちは嗤って、先生はなぜバディ行動をしないんだとローズを叱る。
それだけならまだいい。この間なんて、バディだった子に嵌められて、無人の用具室に閉じ込められ、そこで数時間を過ごした。
バディは、裏切る。
バディは、信用できない。
それがローズが今まで学習してきた、涙色に塗られた経験則。
「ローズ?」
「……私を裏切らないって、約束できる?」
ローズの声が僅かに震えている。
エミリーは、少しの戸惑いを覚えつつも、うん、と答える。
「じゃ……まぁ、そういうことで」
ローズは再びキャップのつばを下げた。
刹那――
甲高い獣の叫び声が、二人の耳を劈く。
突然の出来事、二人は身を屈めて耳を塞ぐ。
聞き覚えのある咆哮。先ほど厨房を徘徊していた、
咆哮が止むや、二人はスタッフルームの中二階へ。
ここの窓から、セーフティールームがあったセンターエリアが見渡せる。
あの目立つ巨体、このスタッフルームから少し離れた、西エリアに通ずる通路付近に居る。
化け物だけではない、その傍らには、生存者。
「うわあああああああ! やめろ! やめろこっちにくるな化け物!!」
少し太った20代くらいの男性。右手に持っているのは拳銃だろうか。しかしスライドオープンしてしまっており、もう弾丸を発射はできない。
化け物は、その男性が居る方へ、じりじりと音を頼りに歩み寄っていく。
男性はどうしようもなく、腰も抜けてしまい、地面に尻をつけながら、命乞いにも似た叫び声を上げ続ける。
「やだ! やだあああああ! だれか、だれがだずげで! うわ! うわあああああああああああああああ!」
化け物の右手が高く上がり、男性を目掛けて、一振り――。
「うっ!」
その瞬間を、ローズもエミリーも目を背け見なかった。
その次にあったのは、首と胴体と足が綺麗にせん断された、男性の悲惨な末路。
化け物は、音を立てなくなった男性の残骸を、そのまま貪り始めた。
「これ……現実なの……? 夢じゃないの……?」
「あいつが居る限り、ここも安全じゃない……エミリー、逃げよう。もっと遠くのエリアに」
二人で急ぎ荷物の回収。その時に、ローズは一枚の手紙を見つける。
『オリバー! いい加減、銃をオープンキャリーして出勤してくるのはやめろ! 開園前とは言え、銃を所持した人間が遊園地を出入りしているとクレームが来ているんだ! パークのポリシー上も、保安要員以外の武器携行は禁じられている! 勤務中はロッカーに入れればいいとかいう問題じゃないんだ。まったくジムといい、テキサス野郎にはうんざりさせられる』
その手紙を片手に、職員のロッカーへ。オリバーと言う名前を探す。
名前を見つけるが、ダイヤル錠が掛かっている。ダイヤルだとキーピックでは開かない……が、ロッカーの上に一枚の紙きれ。
『オリバー。言われた通りロッカーのカギは交換しといたよ。初期ナンバーは"1142"だ。早めに変えとけよ。またケツの番号一桁だけ変えるとかいうのはやめとけよ』
ダイヤル錠を1142に合わせてみる。しかし開かない。
そこから、末尾1桁を順に回していくと、1149で開錠。
中には、一丁のハンドガン。
「わぁ……ピストルだ」
エミリーは目を丸く。
ローズはマガジンを外し、スライドを軽く引いてチャンバーチェック。一応弾は入っている。
「扱えるの?」
「まぁ、一応。訓練だけはさせられたことがあるから」
「ローズって一体……?」
「不思議なのはアンタもだよ」
ローズは軽く笑うと、拳銃を両手で握りしめた。
――ハンドガンを入手した。