BIOHAZARD ~The Twice Up Angels   作:AZ

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File.08:一人じゃない

 

「ローズ……?」

「……まって。違うの、これは……」

 

 咄嗟のはずみで出てしまった、ローズの能力。カビを用いた、不思議な光。

 今までは、なんとかエミリーに見られない一瞬をついてこの能力を使い、化け物たちに抗ってきた。

 だけども今、たった今、それを彼女に見られてしまった。

 

 すっと、顔の白いヒビのような光が消える。

 それでもエミリーの、驚きを隠せていない表情が痛い。

 

 そうだ、あの時だってそうだった。

 自分が普通と違うことを自覚したあの日。

 野外活動で皆と居た時に、一匹の野犬が現れて皆を襲おうとした。ローズは皆を助けたい一心で、なんとなく出せることを知っていたあの白い光を使って野犬を追い払った。

 その時のクラスメイトたちの驚いた表情は、今のエミリーとまったく同じそれだった。

 

 そこからだ。全てがおかしくなったのは。

 

「あいつは人間じゃない」

「魔女だ」

「アイツは呪われている。近寄らない方が良い」

 

 その理不尽な言葉が、彼女を四方八方から包み込んだ。

 何もしていないのに、皆を助けたかっただけなのに。

 クラスのカーストでは最底辺に落とされ、意地の悪い女子たちからは憂さ晴らし人形にされた。

 

「エミリー違うの」

 

 また、友達を失う。

 

「まって説明させてよ……」

 

 彼女にも嫌われる。

 

「えっと……えっと……」

 

 折角芽生えかけた友情が壊れる。また同じ悲劇が蘇る。

 最早ローズがエミリーの顔を直視できなくなっていた。

 やはり私なんかがバディを望むだなんて間違っていたんだ。全身から血の気が引くような感覚だった。

 

 ――だけど。

 

「……?」

 

 ふわりとした、暖かい少女の温もりが、ローズを包んだ。

 正気を取り戻す。エミリーがローズを抱きしめていることに気付くまで、少しの時間を要した。

 

「エミリー……?」

「ありがとう、ローズ。また、助けられちゃった」

「見て、ないの。今の」

「見たよ。でも、ローズはそれで私を助けてくれたんだもの」

 

 エミリーの温かみが、どうしても辛かった。

 彼女もまた裏切ると思った。そう考えた自分が、どうしても許せなく、恥ずかしい。

 

「あ、ありがと……」

 

 顎が震えている。その一言を押し出すことが、こんなにも難しい。

 ローズは込み上げてくる何かを抑えるので精一杯。

 

「グレースの所にいかなくちゃ」

 

 エミリーが背を向ける。

 その拍子に、ローズは頬に伝った一粒の涙を、エミリーに悟られないように拭った。

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

――

 

 アトリウム(セーフティールーム)救護室職員の日誌

 

 

 まただ。また、本部から薬液の追加発注の命令が出た。

 ここ最近、そう、この遊園地の社長が変わってからだろうか。薬品関係を発注する俺ら救護職員に本部から薬液を大量に発注するよう命令がくるのだ。それも、頻繁に。

 

 手当に使う分は十分だと言っても、それでも追加発注をしろと言うのだ。何のためにか、さっぱりだ。

 

 届いた薬液は、社長秘書のラブロスが直々に回収に来る。

 若手に持って行かせると言っても、不要だと強く突っぱねられる。愛想のない男だよ。

 

 あんな薬液を使って何をするつもりなんだろうか。

 ……これは噂だが、どうもそれをベースに血清やらワクチンやらを秘密裏に作っているという話がある。

 

 遊園地が血清やワクチンを? ばかげた噂話だなと思いながらも、俺も少し引っ掛かるところがある。

 

 今回の発注では、薬液と一緒にアンプルと注射キットも発注するよう命令が来たのだ。

 

 もし、血清やワクチンを作っていたのが本当だとしたら、何のために。

 

 ラブロスの後を追って、地下の役員室へ行けば、何かわかるのかもな。

 

 しかし、役員室行きのカードはヤツがいつも身に着けている腰のカードホルダーの中だ。腰回りを失敬というわけにもいかないだろうからな。

 

 

――

 

 グレースの持ち物の中にあった、日誌。

 恐らく、あの悲劇のあったアトリウムから必要性を感じ持ち出したのだろう。

 他にも、アトリウムからこの地下道へ通じる入口があることが記載された書類など、グレースがここに辿り着くまでをサポートした書類がいくつか。

 

「血清? 本当なの」

「わからない。でも、もし本当にあったら、グレースのこれ……消せるのかな」

「でも、地下の役員室に行くのはカードが必要」

 

 ふと、ローズ。思うことがある。

 先ほどの化け物との戦闘でひとつ気付いていたこと。上半身は見るも無残な化け物の姿だったが、対する下半身は人間のような、普通の二本足。

 腰回りにはベルトのようなものもあったし、そこに、カードケースのようなものも見えた。

 

 ローズは拳銃を構えながら、倒れた化け物のもとへ。

 触手が再び動き出すような前兆らしきものはない。仰向けに倒れた胴体部も、脈をうったりはしていない。

 

 化け物の腰回りを探る。やはり、見間違いではなかった。こいつの腰に、カードケースはあった。

 ワイヤー付きの、アクリルケースだ。

 

 中には、『ラブロス・コックス』と、彼の顔写真が入ったICカード。

 

「この人が、社長秘書……? こんな化け物が?」

「化け物に、されちゃったのかな……」

 

 横からカードを覗くエミリーがそう言う。

 

 ――役員室のカードキーを入手した

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

「せーのっ!」

 

 ローズとエミリーは、二人で一本ずつ、グレースの腕を持って彼女を背負う。

 流石に少女一人の力ではとてもではないが成人女性を担ぐなんてことはできないので、二人で協力。

 

 グレースは相変わらず意識がなく、時折か細い吐息が漏れている。

 まだ苦しんだりはしていないが、これもいつまで続くのか。

 

「ワクチンって、本当にあるのかな」

「どうだろうね。でも、もう引き返せないし。クリスたちを待ってたら、とてもじゃないけど」

「クリス?」

「うん、まぁ。そういう変な人がいるの。こういう事には詳しいけど、いちいち口うるさいっていうか」

「お母さんみたいってこと?」

「……言えてるかもね」

 

 先ほどの地下道、来た道を引き返して、役員室エレベーターがあるところまで辿り着く。

 カードを通すと、ランプが緑色に光り、エレベーターが稼働する。下から籠が登ってくる音が聞こえる。

 

「ねえ、エミリー。さっきのことだけど、あんたって、気にしないの。私がその、そういう、変な光を出せることとかって」

「……うん」

「どうして」

「ローズの膝、さっき地上で手当てしたところあったよね」

「え?」

 

 ローズは自分の膝へ視線を移す。

 膝の部分だけ、ジーンズが破れてしまっている。

 

「ローズ、あんなハーブの薬液で洗っただけなのに、もう傷が塞がってる。それに、パブリックアーケードでも普通に走れてたから、ちょっとおかしいなって薄々は思ってた」

 

 もう一度膝を見る。止血どころか、皮膚まで再生しきっている。

 

「あ……」

「それで、なんとなく思ってたの。ローズって、ちょっと不思議な子なんだなって」

 

 不思議な子……ローズにとっては余り嬉し言葉ではない。でも、エミリーが言うと、余り嫌らしくは聞こえなかった。

 

「ねぇ、エミリーは、私が化け物だって思う……?」

 

 エミリーの顔を見ずに言った。すると、エミリーは言う。

 

「ううん、思わない。だって――私もそうだもの」

「え……?」

 

 そこまで言った時、エレベータの籠が到着し、二人を迎え入れた。

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

「それで、状況は?」

 

 暗がりの国道。一台のポルシェ・カイエン ターボGTがけたたましい咆哮を叫びながら駆け抜けていく。

 電子制御されたフルタイム4WDが、アスファルトを蹴り上げ、()を目的地へと急がせる。

 

「遊園地は火災により火の海状態。そして、園内は多数のゾンビと、大型のBOWが観測されてる。そして、グレースとは……連絡が途絶えた。一言で言えば、サイアクな状況」

「とんだ遊園地だな」

 

 左耳のインカムから聞こえる相棒の声はどこかか細く、それでいて不安に満ちている。

 

「コネクションの関与は?」

「今のところは認められていない。データベース上でも特定危険地域に指定されている場所じゃないの。それなのに、どうして」

「調べてみる価値はありそうだ。……見えて来たぞ、あれだな」

 

 彼はもう一段強くアクセルを踏み込む。

 心臓部に埋め込まれたツインターボが、より一層強く吠え始め、地獄の入り口へと飛び込んでいく。

 

 

 

 

「無理をしないで。無事を祈るわ――レオン(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

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