BIOHAZARD ~The Twice Up Angels 作:AZ
「どう? 似合ってるかな」
日も暮れかけていた時だった。ダニエルたちが居なくなったことに安堵した僕。でもやっぱり人込みが苦手だから教会の敷地の隅で膝を抱えていたら、レイラがやってきて、声をかけてくれた。
彼女の姿を見て、僕は目を、それはそれは大きく見開いた。目ん玉が飛び出るんじゃなかろうかという程に。
レイラ――真っ白で綺麗な天使装束のキトンに身を包み、背中からは大きく左右に伸びた羽根。そして、頭にはヘイロウ。
「あっ、あっ。れ、レイ……」
「やっぱ、変……かな。15歳にもなってさ、こんな衣装」
僅かに頬を赤らめさせる彼女が、余計に悩ましかった。
レイラの、天使姿。勿論作り物だってことくらいわかってる。この後の劇のための、コスプレ。
そんなことわかってるんだけど、でも、僕が頭の片隅で思い描いてた、とても表に出せないような理想が、目の前に立っている。
ブロンドカラーに絡んだ青い瞳が美しい天使。
みぞおちから下腹部そして股下にかけてぐぅっと食い込んでくる歪な感覚に戸惑う。
そんな姿で困った顔なんかしないで欲しいんだ、でなきゃ、僕がおかしくなってしまうんだ。
「どうしたの、ケネス?」
「い、いいいいや、すて、素敵……だよ」
どもりなのか焦りなのか最早区別がつかない。
なんとかその場を凌ぐために言った素敵という言葉の意味を、遅れて理解する。
「あ、いや……」
しかしレイラは、どこか安心したように、僕に微笑んでくれた。
どうしてなんだい、こんな僕に、どうして微笑むことができるんだい。
君が優しいのは何故なんだい、君が僕を悩ませるのは何故なんだい。それは君が、本当の天使だからなのか。
昔から、昔からそうだ。
僕はレイラに弱い。頭の片隅にはいつも彼女がいるし、そしていつも彼女を……。
僕は、彼女を好いているのだろうか、その感情に面と向かって答える勇気がない。
今はまだ、その不安定な感情に流されていなきゃいけないような気がするんだ。
彼女は準備があるからと教会横の劇の会場へと走り去っていった。
僕の腰が軽く抜けていると気付いたのは、彼女が見えなくなってからだった。
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「見て、なんてこと。石がどかされているわ」
「役人かしら、それとも、墓荒らし?」
『二人のマリアが息を押し殺し、墓の中へと入っていったのです……』
キリストの受難と贖罪、そして復活。何度と見た、幾度と見たお芝居。
結末なんて分かり切っているのに、それでも両親は劇を食い入るように見ている。
いつもなら途中で寝てしまう。でも、今日ばかりはそうでもない。
『主なき墓の傍ら、天使が居たのです。天使は狼狽える二人にそっと説いたのです』
そっと、舞台袖から姿を現す天使。凛々しく、美しいその様相。
言うまでもない、レイラ――。
「あの方はここにおられません。かねてから話されていた通り、復活なさったのです」
他の子供たちの棒読みとは違う、芯の通った、それでいて透き通るような声。
ああ、レイラ。ずっと聞いていたいよ。君の美しい声を。ずっと眺めていたいよ。君を。
レイラ、レイラ、レイラ。……君が欲しいよ。
――パリン、とガラス瓶の割れる音がした。
何の音か、最初は分からなかった。だけど、誰かが叫んだ。「火事だ!」と
冗談かと思った。だけど、本物の火が見えたのはそこから直ぐだった。
木造の芝居小屋を炎が蹂躙するまでに長い時間は不要だった。火の手は直ぐに僕らを包んだ。
大人たちが我さきにと小屋から逃げようとする。
「ケネス! 早くしなさい!」
両親もそう叫んだ。だけど、僕は小屋の中に取り残されたレイラをどうしても放っておけなかった。
煙が回る中、彼女を探す。すると彼女は、混乱のさ中に崩れて来たセットの下敷きになっていた。
「け……ネス……」
下半身の上にスピーカーラックと照明台が乗り、身動きが取れないでいる。
僕子供一人の力ではどうしようもできない。
大人を呼ぼうにも、火の手が目の前に迫ってきている。
「やだ……しにたく……ない……」
縋るような声が痛々しい。でもそれが、レイラの最後の言葉だった。
勢いをつけた炎が、そのまま彼女を丸のみにした。
「あああああ! いや、いやああああああああああああああ! あつい、あづいいいいいいいいい!!!」
レイラが、燃えていく。大好きだった彼女が、目の前で燃えていく。
天使が燃える
天使が消えていく
僕の天使が、死んでいく。
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レイラと再会を果たせたのは、そこから数時間後。
消防が駆け付け、火を鎮めたあと、中から遺体を運びだしていた。
犠牲者は3人。逃げ遅れた老夫婦と、子供一人。
その子供一人が運び出されて来たところを、僕は見た。
色白の、美しかった彼女。
肌は酷くただれ、輝いていたブロンドの髪は消し炭になり、骨も見えていた。
……
…………
………………それでも、彼女はまだ、美しかった。
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21時頃、一台のポルシェが警察車両の間を縫い、現場へと到着する。
車両から降りる前、レオンは一丁のリボルバーを取り出し、シリンダーを左側へスイングアウト。
均等に並んだ5発の12.7×55mm弾。紫色のプライマーが妖しく煌めく。
「お前とのデートはもう少し続きそうだ」
シリンダーを戻すと、レオンはその超大型アサルトリボルバー"レクイエム"をホルスターに仕舞う。
車から降りると、武装をした数人の警官らに囲まれる。
「遊園地は現在立ち入れません」
「悪いが遊びに来たわけじゃないんだ」
懐からDSOの手帳と取り出し、彼らに提示する。
警察官らは互いに目くばせをし、怪訝な表情を作る。
「DSO……合衆国直属のエージェントがここに?」
「今は有事だ。大統領の許可もある」
レオンは警官らへ背を向けると車のトランクへ。そこからハードケースに収められたセミオートショットガン"990 TAC"を取り出しショットシェルを詰めていく。
「状況は?」
作業をしながら警官らに問う。
「生存者は今のところ定かではありません。ですが、大型の化け物が確認されていることもあり、遊園地は即刻閉鎖すべきとの命令で今は」
警官は肩越しに大きくそびえ立った隔離壁を見る。報道では生存者無しとして封鎖に踏み切ってはいるが、生存者がいない根拠など誰も持ち合わせていない。被害を最小限に留めるため、致し方の無い苦肉の策なのだ。
「BSAAは?」
「現在手配中です。市長命令で、米軍も揃い次第、合同でゾンビたちの一掃作戦に入ると」
「なら、現場を荒らされる前に終わらせよう」
ショットシェルを詰めたショットガンにストラップをつけ、背中に回す。
腰のホルスターには自動拳銃のアリゲーター・スナッパー。
全身に巻き付けたタクティカルサスペンダーには予備の弾薬とグレネード類。
「隔離壁を少し開けられるか? 人一人が通れる分でいい」
「正気ですか!? こんな中たった一人で、死にに行くようなものだ! 一体何のために」
「生存者がまだ中に残っているという情報を掴んでいる。
警官の目を真正面からぐっと覗き、そう説き伏せる。相手は頭を掻きながらレオンに背を向けると、「緊急事態下においては、DSO含む特殊機関の指揮命令には従う義務がある。だから、それに倣うまでです。ただ、生きて戻ってくださいよ、見送ったあんたがゾンビになったところなんて、見たくはない」
「俺だってなりたくないさ」
しばらくすると、隔離壁の一部が軋む音をあげながら動き出す。
僅かに開いた壁の隙間から身体を捻じ込み、レオンは遊園地の敷地内へと足を踏み込む。
「待ってろ、グレース」
ゾンビの声が犇めく皮肉な天国で、レオンは一歩、歩き出す。
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「それで、君はそのチケットをどこで?」
「ああ、その……いつものコスメを買った時にプレゼントされたの。キャンペーンだとかで」
ハンドガンを構え、園内を歩くレオン。
エントランスエリアから、最後にグレースと連絡が取れたセンターエリアのアトリウムを目指す。
視界の中にゾンビたちも入り始める。仕留める敵は仕留め、相手にしない場合はスルー。極限まで弾の消費を抑える立ち回りだ。
「私、そんな遊園地だなんて行く予定もなかったから、それで丁度2枚、招待券をグレースたちに譲ったの……それがまさか、こんなことになるなんて」
「招待券か」
「後から調べて分かったの。この遊園地、たまにこうしてお客を呼び込むためにチケットを刷ってバラまいているみたいで。特にここ最近は、過剰な程に発行しているっていう話。そんなに人を呼び込んで、こんなバイオハザードを引き起こすことが目的だったというの?」
「どうだろうな、それにしては首謀者の動機が見えない。犯行声明らしきものもなければ、計画性も読み取れない。本当に資金集めが目的だった可能性が高い」
「その資金で一体何を……?」
「さぁな、知ってそうな奴に訊いてみるしかない」
「ケネス・ローガン。一番有力な情報を持っているのは、恐らく取締役のその男。でも、今までアンブレラやコネクションに関わったとされる情報はないの。この遊園地だって――」
シェリーがそこまで言った時、次にレオンのインカムから聞こえて来たのは、いつもの温順な彼女の声では無く、緊張を含み切羽詰った声。
「レオン、気を付けて! 付近に巨大な敵影が!」
そして、突如レオンの前に現れる、ゾンビ。
直立しているのではない。真横になって、レオンの下へと一直線に飛んでくる。
レオンはバックステップを踏み、飛んできたゾンビを避ける。
「うおっと!」
「レオン!」
「シェリー聞け、ゾンビがすっ飛んできやがった」
「なんですって!」
――ウヲオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼
そして、とある化け物の咆哮。
音が振動であることを肌で理解できる程の、轟音。
その音源は、エントランスエリア付近にある建物"パブリックアーケード"の屋上。
そこに、化け物は居た。
そいつはひとしきり叫んだあと、驚異的な跳躍でレオンがいるエントランスエリアへ降り立つ。
その衝撃で大きく地面が揺れる。レオンは足を開いてバランス。
降りて来た化け物。全長は約5~6メートル級で、全身の筋肉は今にも破裂しそうな程に腫れあがっている。あの腕で握られたら、人間はトマトも同然だろう。
そしてその化け物、一番の特筆すべき点として……
それは、パブリックアーケードで少女たちを執拗に追い回したBOW
【クリーチャー『
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼」
そいつは地面に降り立った後、レオンに向かっでもう一度咆哮を浴びせる。
三つの顔それぞれが発音するものだから、音のエネルギーも3倍。
「一人で賑やかな奴だな」
そいつは、傍らで彷徨ってたゾンビの頭を鷲掴みにすると、レオンの方へぶん投げる。
レオンはすかさず、背中に装備していたトマホークを取り出し、飛んできたゾンビをいなす。
投擲物がレオンに効かないと知った化け物は、腕を構え彼へと猛突進。
レオンは突進してくる化け物の顔に数発ショットガンを浴びせるが、攻撃をキャンセルできないと知り、トマホークへと持ち変える。
化け物がレオン目掛けてその剛腕を大きく振る。レオンはそのスイングに合わせるようにトマホークの刃を添えて、力を受け流す――パリィ成立。トマホークの金属音が鋭く鳴る。
「こいつならどうだ!」
攻撃をパリィした流れで懐に手を伸ばし、引っ張り出すのは大型リボルバーのレクイエム。
化け物の顔面目掛け、有無を言わさず引き金を引く。
ズドォン! と銃が暴発を起こしたのかと疑う程の破裂音が鳴る。
シリンダーから蹴り出された12.7mm×55mm弾は、化け物の3つうあるうちの一番左の顔を強力に貫く。
「ウゴ!オゴオオオオオオオオオ‼‼」
ひとつの顔に巨大な穴が開き、血がとめどなく溢れ、その顔は声を挙げなくなる。
「どうだ、今のは効いただろ」
すると化け物、怯んだ拍子にレオンの身体を鷲掴みにし、遠方へ投げ飛ばす。
地面への落下、受け身を取る。投げられた先はジェットコースター乗り場。エミリーたちが乗り降りした搭乗口付近。
「OK、第二ラウンドだ」
化け物もレオンを追ってジェットコースター発着エリアへ。
案内板を引き抜き、長物として振り回しレオンを威嚇する。
長物を振り回されては近づけない。しかし、その化け物、立っている場所がどうも良くない。
化け物がいる場所のすぐ横に出店のキッチンカーがある。その真横に、エンジンを動かす為の、燃料が入ったドラム缶が赤く塗られている。
アリゲータースナッパー。ハンドガンでそのドラム缶を狙う。
弾丸が弾かれ、ドラム缶を貫き――大爆発が巻き起こる。
これだけ距離を取ってもなお、眩暈がするほどの衝撃。当然近くにいた化け物もタダで済むわけにはいかない。
「ギウオオオオオオオ‼‼」
衝撃と炎に包まれ、その場で片膝を着く。レオンはその好機を見逃さない。
化け物の腕を伝って背中に回り込み、そして頭頂部まで走って上り詰める。
そこで構えるのは、トマホーク。左手で化け物の頭を掴み。
「なぁ、教えてくれ。お前は一人なのか、三人なのか、それとも三頭っていうのか?」
無用な軽口を吐いた後に、化け物の、今度は真ん中の顔の脳天に斧を振り下ろす。
思ったよりも皮膚が深く、一度刺さった斧を足で踏み込んで傷を深くしてやり、そして一気に引き抜く。
化け物が再び悲鳴を挙げる。出血が止まらない脳天を押さえ悶えている。
レオンはその場から飛び降り、距離を取るが、その化け物まだ力尽きない。
「しつこさも三倍ってわけか」
残りひとつだけの顔になっても咆哮は止まらない。
そして最後の悪あがき。二本の腕を縦横無尽に振り回してなんとかレオンを殺そうと躍起になる。
今度はレオンの分が悪い。この荒れ果てた遊園地、障害物が多く広いフィールドを使えない。振り回す腕を回避する程のスペースが不足しているのだ。
「泣けるぜ」
レオンは敢えて化け物へと走っていく。そしてスライディングで化け物の股下を潜り、背中へ銃撃を浴びせるが、途端に振り返った化け物に再び身体を捕まれる。
「おい、勘弁しろよ!」
レオンを握る手は両手へ。一気に握りつぶそうとしているのだ。
何か打開策は、直ぐにアクセスできる武器は捕まれる拍子に取り出して置いたトマホーク。
それで化け物の親指の筋にあたる部分を切りつける。
無論、皮膚が硬く一度では届かないので何度も、何度も。硬い皮膚が破れ、血がにじみ出す。
もう一回、深く親指の筋を切りつける。化け物の握力が弱まったことを感じるとすかさず足を差し込み一気に手を開く。
だが、化け物はそれをよしとしない。レオンが逃げる前に、彼を食べてしまおうと大きく口を開き、彼をそこへ押し込もうとする!
口元まで運ばれたレオン、化け物の汚い歯に足を当てつっかえ棒のようにして抗う。
「代わりに……これでも食ってろ!」
そしてタクティカルサスペンダーからもぎ取った、手榴弾。代わりにそれを化け物の口へと投げ込み、喉元で爆裂。
流石に効いたのか、レオンを落とした化け物はガクガクと身体を震わせ喉元を押さえ、既にでなくなった咆哮をまた叫ぼうとする。
化け物の手から解放されたレオン。地面に着地したその時に、壊れかけのジェットコースターのレールが化け物の真上にあることに気付く。片方のレールのボルトが欠落し、もう片側のボルトだけで片持ち梁のように支えられている。反対側のボルトも、かなり緩んでいるのだろう。風や衝撃が走る度にそのレールは大きく揺れている。
「いい加減、終わりにするぞ!」
レオンは再びレクイエムを取り出すと、その壊れたレールのボルトを狙う。
弾かれた弾丸が、ボルトを破壊。
そして、取りつく相手を失ったレールは、化け物へと一直線に落ちて。
グシャァ! と鈍く湿った音を立てて、化け物を下敷きにした。
今度こそ化け物は、完全に動かなくなった。
「レオン! 大丈夫?」
「ああ、デカかったが、爪がないだけまだ良心的だ」
そう言いながらレオン、砥石を取り出し、トマホークの刃先を削った。
ディアナちゃんの可愛さに負けてプラグマタ始めました。
ちょっとパパになってくるので次回の更新遅れると思います()