ヤンデレ彼女を曇らせるために仲間を全員売ってTS悪堕ちしてみた   作:なほやん

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第7話 『裸で踊れ。——気持ちよかった』

 失態は、俺のせいだった。

 

 辺境の街を治める領主ヴァルドーの依頼で、街の地下に巣くう大百足を駆除した。報酬は金貨五十枚。大型依頼だった。

 

 だが、大百足を仕留める際に、地下水路の壁を崩してしまった。

 街の水源が汚染された。

 

 俺の指示だった。ミラが「構造が脆い」と忠告したのを、急いで押し切った。

 

 ヴァルドーの館に呼び出された。

 

 広間に入った瞬間、空気が違った。

 領主の椅子に座った男は、五十がらみ。肥えた体に金の鎖を巻き、顔は笑っていた。だが目が笑っていない。獣を品定めする目だった。

 

 その視線が、俺の後ろに並んだ五人の上を這った。一人ずつ。順番に。誰をどう使えば、この団長が一番壊れるか——そういう計算をしている目だった。

 

「水源の修繕費は金貨二百枚。お前たちの報酬を差し引いても、百五十枚の赤字だ」

「……弁済します。時間をいただければ——」

「時間?」

 

 ヴァルドーが笑った。

 

「時間は金貨では買えんぞ、小僧。水が使えない間、街の民はどうする? 病人が出たらどうする? 死人が出たら?」

 

 正論だった。反論できない。

 

「だが——まあ、弁済の方法はある」

 

 ヴァルドーの目が、再び五人の上を舐めた。

 

「お前のところの女たち、なかなかの器量だ。一人——いや、二人ほど置いていけ。下働きとして、だ。水源が直るまでの間」

 

 下働き。

 嘘だ。この男の目は、下働きを求める目じゃない。

 

「——できません」

「できない?」

「仲間を差し出すことは、できません」

「ほう」

 

 ヴァルドーが椅子から身を乗り出した。

 

「では、どうする? 金はない。時間もない。女も出さない。お前に何が差し出せる?」

 

 沈黙。

 

 リタが一歩前に出ようとした。

 俺は手で制した。

 

「……俺を、使ってください」

「お前?」

「何でもします」

 

 ヴァルドーが目を細めた。

 品定めの視線が、今度は俺の体を上から下まで舐めた。

 

 ヴァルドーが指を鳴らした。兵士たちが広間の扉を閉める。

 

「踊れ」

「……は?」

「踊れと言った。裸で」

 

 広間が凍りついた。

 

「お前が女を差し出さないと言うなら、代わりにお前が余興を見せろ。この場で。裸で踊れ。それで金貨百五十枚、帳消しにしてやる」

「団長、ふざけんな! こんな——」

 

 リタが叫んだ。剣に手をかけている。

 

「リタ。やめろ」

「やめない! こんな屈辱——」

「屈辱で済むなら安い」

 

 俺は、自分の声が静かなのに驚いていた。

 

「お前たちを差し出すよりはずっと安い。黙っていてくれ」

 

 五人が固まった。

 リタの手が震えていた。エダが唇を噛んでいた。ミラが拳を握り締めていた。フィーネが目を伏せた。ノエルだけが——片腕で盾を構えようとしていた。

 

 俺は鎧を外した。

 

 一枚ずつ。

 腕甲。胸甲。脛当て。肩当て。

 金属が床に落ちるたびに、かちゃん、と冷たい音がした。

 

 下衣を脱いだ。

 肌着を脱いだ。

 

 最後の一枚に手をかけた時、背後でリタの呼吸が止まるのが聞こえた。

 

 脱いだ。

 

 裸だった。

 広間の冷たい空気が、全身の肌を撫でた。

 

 ——あの日、鏡の前で女装を解いた時。物足りないと感じた。

 今は——どうだ。

 

 ヴァルドーが手を叩いた。

 楽士が慌てて笛を吹き始める。陽気な旋律。場違いに明るい。

 

「踊れ」

 

 剣舞の型しか知らなかったから、それを裸でやった。

 見えない剣を振り、見えない敵を斬る。

 裸体が広間の灯りを受けて、白く浮かんでいた。

 

 兵士たちが笑った。

 ヴァルドーが杯を傾けながら、満足げに見ていた。

 

 笑い声が広間に満ちていた。

 嘲りの声。蔑みの視線。見世物にされた裸の男への、明確な侮辱。

 

 ——気持ちよかった。

 

 最初は何が起きているのかわからなかった。

 

 恥ずかしいはずだ。悔しいはずだ。仲間の前で裸で踊らされている。男として、これ以上の屈辱はない。

 

 なのに。

 

 笑われるたびに、体の奥で何かが温まっていた。

 蔑まれるたびに、みぞおちに熱い液体が流れ込んでくる。

 

 あの空虚。

 宴で杯を飲んでも、仲間の温度でも満たされなかった胸の底。

 

 それが——今、満ちていく。

 

 嘲笑で。

 侮辱で。

 裸で踊る自分の惨めさで。

 

 汗が飛んだ。

 筋肉が動くたびに笑い声が上がる。戦いで刻んだ傷が、鍛えた腕が、男として積み上げてきた全部が、嘲笑に削られて消えていく。——それが、救いだった。

 一瞬、リタの顔が視界を横切った。歪んでいた。怒りと、悔しさと、自分たちの無力さへの絶望が全部混ざって、瞳が濁っている。

 その濁りを見た瞬間——生まれて初めて、俺の穴が満ちた。兵士の嘲笑とは比べものにならないほど、熱く。

 肌が晒されて、冷たくて、惨めで、滑稽で。

 

 膝が震えていた。笑いではない。歓びだ。全身の毛穴が開いて、冷たい空気が入り込んで、それすら快かった。臓器のひとつひとつが熱を持ち、嘲笑が骨の隙間まで染み込んでいく。

 

 一曲が終わった。

 

 俺は肩で息をしながら、広間の真ん中に立っていた。

 汗が床に落ちる音が、しん、と静まった広間に響いた。

 

 ヴァルドーが立ち上がった。

 

「よかろう。借りは帳消しだ」

 

 兵士たちが服を投げてよこした。

 

 服を拾う前に、荷物の中からハイレム団の旗を引き出していた。仲間の血が染みた布で、汗まみれの肌を拭った。ノエルの腕から流れた血の乾いた感触が、俺の汗と混ざり合って肌に張りつく。——たまらなく、愛おしかった。なぜそうしたのか、自分でもわからなかった。

 

 俺は服を着ながら、仲間を見た。

 

 五人全員が泣いていた。

 

 リタが、声を殺して泣いていた。握り締めた拳から血が出ていた。

 エダが両手で顔を覆っていた。指の隙間から涙が溢れている。

 ミラが壁に額を押しつけていた。肩が震えていた。

 フィーネが目を背けたまま、唇を噛み切っていた。

 ノエルだけが俺を見ていた。片腕で。泣きながら、真っ直ぐ。

 

 だがリタの涙だけが、胃の腑の底まで届いた。他の四人の涙は——素通りした。

 

 ——ああ。俺のために泣いてくれている。

 

 嬉しかった。

 泣いてくれることが。

 

 違う。

 

 嬉しかったのはそこじゃない。

 

 胃の腑の底が、まだ温かい。

 踊っている間に流れ込んできたものが、まだ重く沈んでいる。

 

 これだ。

 ずっと探していたのは——これだった。

 

「……行こう」

 

 俺は笑って、五人に背を向けた。

 広間を出る足取りは、軽かった。

 

 後ろでリタの泣き声が聞こえた。

 小さく、ひきつるような声で。

 

「——ごめん。ごめんね、団長。あたしたちのせいで」

 

 違う。

 お前たちのせいじゃない。

 

 俺は今——生まれて初めて、満たされている。

 

 それを誰にも言えないことだけが、唯一、胸に痛かった。

 

  †  †  †

 

 宿に戻った。

 

 誰も口を利かなかった。

 夕食の席に全員が揃ったが、匙が動かない。

 俺だけが食べていた。パンを千切って口に入れると、驚くほど味がした。リタが泣き腫らした目で俺を見るたびに、パンの味が濃くなる。あんなことがあった後なのに——いや、あんなことがあった後だから、舌が生きているのだ。

 

 リタの目がまだ赤い。

 エダが俺の傷に触れようとして、手が震えていた。踊った時にできた足の裏の擦り傷。些細なものだ。

 ミラが一度も顔を上げない。

 フィーネが冗談の一つも言わない。

 ノエルだけが片腕で普段通りに食べていた。だが、左手の匙が時々止まっている。

 

「——お前たち」

 

 俺が口を開くと、五人が同時に顔を上げた。

 

「あんなもの、何でもない。俺は平気だ。だから、お前たちも——」

「平気なわけないでしょ!」

 

 リタが立ち上がった。椅子が倒れた。

 

「裸で、みんなの前で、笑われて——団長がそんな目に遭ったのに、平気なわけ——」

「平気だ」

 

 静かに言った。

 嘘じゃなかった。

 平気どころか——まだ、あの温度が残っている。

 

「……なんで。なんで団長は、そんなに強いの」

 

 リタの目から涙が零れた。

 

「あたしが弱いから? あたしたちが足引っ張ってるから、団長がこんな——」

「違う」

「じゃあなんで平気なの! おかしいよ! 怒ってよ! 泣いてよ! あたしたちのために傷ついてよ!」

 

 リタの声が裏返った。

 

 ——傷ついてよ。

 

 その言葉が、胸に刺さった。

 刺さったのに——臓器のひとつひとつが、熱を帯びた。

 

 俺はリタの前に立って、頭を撫でた。

 

「ありがとう。泣いてくれて」

 

 リタの体が震えた。

 頭を撫でる手を振り払わずに、ただ震えていた。

 

「——二度と、こんなことさせない」

 

 リタが、低い声で言った。

 

「絶対に。誰にも。団長をこんな目に遭わせた奴は——」

「リタ」

「——許さない」

 

 その声は、もう泣いていなかった。

 

 乾いていた。涙の湿り気を全部焼いた後の、炭のような響きだった。

 あの「ばか」と同じ声だった。三つ目のばか。——だがもう、怒りでも照れでもなかった。リタの中で、何かが取り返しのつかない形に変わった音だった。

 

 首筋の産毛が逆立った。リタの声が変わった瞬間、体の芯が冷えた。——なのに胃の腑が重く熱い。恐怖と充足が同じ場所で脈打っている。

 ——そうか、君をそこまで追い込めたのは、俺だけなんだな。

 その思考を、善意だと思った。思おうとした。

 リタが俺のために壊れていく。その音が、今日一番深く体に響いた。

 

 宿の自室に戻り、一人になった。

 

 寝台に座って、天井を見上げた。

 

 手が震えていた。

 

 裸踊りの記憶が蘇るたびに、体が熱くなる。

 嘲笑の声。蔑みの視線。仲間の涙。リタの怒り。

 

 全部が全部、体の奥を温めていた。

 

 ——もう一度。

 

 そう思った自分に、背筋が凍った。

 

 もう一度、リタのあの顔が見たい。

 泣きながら、俺のために怒る、あの曇った顔を。

 

 もう一度——あの胃の腑が満ちる感覚を。

 

 手で顔を覆った。

 

 何かがおかしい。

 俺は、何かが決定的におかしい。

 

 だが——おかしいと知っていても、あの温度を忘れることはできなかった。

 

 手の中の杯はなかった。

 今夜は、杯がなくても満ちていた。

 

 それが一番、怖かった。

 

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