異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる 作:ひさなぽぴー
第一話 異世界からの帰還者と来訪者 1/4
皆さんは目測百三十センチちょいの少女に、曾祖父だと名乗られた経験はおありだろうか。
ない? でしょうね。
ところがどっこい、僕はある。今まさに、現在進行形で名乗られている。
もちろんそんなことをされて信じられるはずもないが、相手は僕しかいない密室の家の中に、いつの間にか現れていた。もしかしたらもしかする。
いや本当、最初は腰を抜かすかと思ったよ。戸締りをきちんとしてから風呂に入って、気持ちよく出てきたらかわいすぎる幼女が一人いたんだからね。
そんな意味不明な状況にもかかわらず、その子が好みど真ん中な容姿だったものだから、うっかり見惚れてしまったのが僕です。おかげで二重の意味で思考は停止してしまい、ぼんやりと彼女を見つめることしかできなかったのは我ながら不甲斐ない。
そこに投げかけられた「俺はお前の曾祖父だ」というセリフは、はっきり言ってとどめの一撃以外の何物でもないんだよなぁ。
色んな言葉、単語が浮かぶだけ浮かんで、うまく接続されないまま消えていく。思考が横滑りに流れていくだけ、意識があるだけの状態。頭が真っ白になるとは、こういうことを言うんだと思ったよね。
このインパクトありすぎる情報をきちんと受け止めるために、僕があれこれと質問を投げかける羽目になったのは仕方ないと思う。
「うちの家業は?」
「撚糸業。本家のほうは神職だな」
「最終学歴は?」
「名古屋帝国大学の理工学部卒」
「ここまで正解か。……悪いけど、ここから踏み込むよ。死因は?」
「同僚を逃すために玉砕。具体的な話は勘弁してくれ。今でもたまに夢に見るんだ……」
「お、思い出させてごめん」
「……いや、いいんだ、しょうがない。他に質問はあるか?」
「えーっと、所属部隊は?」
「岐阜県第三十八師団隷下、歩兵第二百二十九連隊」
「奥さんの名前は?」
「
「二人のあだ名は?」
「光源氏と紫の上。俺はコウちゃんと呼ばれることが多かったが……二人の、ってことはこっちだろ?」
「……うちのあだ名は?」
「うちの? ……ああ、あれか。
結果として、どうやら彼女の名乗りは正しそうだという結論に達するしかなかった。見事に全問正解だもんな。
いやはや、目測百三十センチちょいの少女に曾祖父だと名乗られた上に、それが恐らく正しいという経験までしている人は、世界中探してもまずいないんじゃないだろうか。問答を終えて、僕は改めてそんなことを考える。
もちろんそれだけこなしても、彼女が僕のひいじいさんだと信じ切れていない自分がいるのは事実だ。何せひいじいさんのことは写真と、今は亡き紫乃ばあの思い出話くらいでしか知らないからな。
ただある程度時間が経って、思考が落ち着いてきた今となっては、こうも思うのだ。全部本当だったほうが面白いじゃないか、とね。この辺りはクリエイターとしてのサガみたいなものだろう。
同時に、ワクワクしてきた。こんなことが現実に起こるなんて!
だからどれほど信じがたくても、僕の答えは一つだった。
「オーケーわかった、信じるよ」
「信じてくれるのか!?」
「これだけの問答に全部ほぼ即答で正解してるんだから、信じるしかないよ。理由まで説明されてるし。こんなの、身内以外で何人が知ってるんだって話でしょうが」
「……へへ、そりゃそうだ。いやあ、前世のこときちんと覚えていてよかったぜ」
ここでひいじいさんは一つ深めのため息をつくと、座っていたソファに身体を預けた。
……うちはもう、半世紀以上前から競走馬を飼っていないし、僕も父さんも世が世なら嫡男の立場だけど、名前に光の文字は入っていないんだけどな。
なんなら撚糸業もとっくに廃業している。諸行無常とは言うものの、この辺りについてはまだ言わないほうがよさそうだ。
何せ、よかったぁ……などとつぶやきながら胸をなでおろす姿は、実に見た目相応に感じるのだ。先ほど「信じてくれるのか!?」と前のめりになったときのきらきらした顔も加味すれば、余計に。それを曇らせるのは忍びない。
いやー、二度目になりますがね。実に……実に困ったことに、僕の好みど真ん中である。顔に限らず、全般的に。
芸能界でもそうそういなさそうな、とんでもなくかわいらしい顔立ちは人形なんて目じゃないレベル。肩甲骨にかかるくらいの長さの金髪はさながら最上級の絹のようだし、ブルーアパタイトを思わせる瞳は文字通り輝いて見える。
だいぶ大げさな美辞麗句かもしれないが、それくらい僕の脳が現在進行形で焼かれているという認識を持っていただければと思う。
これで中身がひいじいさんだって? 頭おかしなるで。
似たようなシチュエーションの漫画はそれなりの数描いてきたけれど、現実になるとこんなにも破壊力があるとはね。
とはいえ、状況は大体理解した。
「戦争で死んだあと異世界に女に転生して、そこで習得した魔法なり妖術なりの方法で、この世界に戻ってきた
「お……お、おお……そ、その通り、なんだが……よ、よくわかったな?」
わからいでか。だって彼女の姿を見れば、一目瞭然なのだ。
ローブなんだよ。全体的に白を基調としていて、フードがついているやつだ。ローブの下は動きやすさ重視なのか、露出の少ない軍服みたいな感じ。
どちらにせよ、まさにファンタジーと言った装いなのだ。
靴はそれに合わせるようになかなかゴツく、小さな子供な見た目をしているひいじいさんとは似つかわしくないように見える。
けれど巻き付けられたリボンっぽい紐がビビットなピンクなものだから、黒に対する差し色として機能していて可愛さは担保されている。
まあ屋内ってことで靴は脱いでもらったから、今は裸足なんだけれども。
なんていうか、全体的に「夜とはいえ、八月のど真ん中でそれはクソ暑そうだな」という感想が浮かぶ格好だ。エアコンをかけているから、今はあまり感じないだろうけど。
そんな衣装の少女がいつの間にか家にいたとなれば、おおよそ察せられるというものだ。きちんと戸締りしていたのに、いつの間にかいたからな……。先述のブーツも新品でもなんでもなかったのに、周りに足跡なんかもなかったしな。
何より、物語の類型というものはそれなりの数を見てきた自負がある。描き手としても読み手としてもだ。
情報が出揃っており、ある程度冷静さを取り戻せた今、これくらいの推測は難しいことじゃないのさ。
「これでも僕は、その手のコンテンツを供給する側にいる身だからね」
「こんてんつを供給……?」
まあそうは言っても、およそ八十年ぶりの日本であるひいじいさんにはわからないだろう。実際、僕の言いように彼女は首を傾げている。
なので、小説やマンガではたびたび取り上げられるストーリーラインであると教えたのだけど、すぐに理解が及んだようでなるほどと頷いた。
「そうした空想小説の類が流行っているんだな。しかもお前は、それを作っている作家様ってことか」
「様、なんて柄じゃないけどね。一応それで食べていけるだけの稼ぎはあるよ」
「十分すぎるだろ。はぁー、そうなのか、俺のひ孫が作家か……どんなのを作っているんだ? 見せてくれよ」
「……そ、れは、まあ、追々……追々ね。今は先に話し合っておくことがたくさんあるだろ?」
「? やけに歯切れ悪いじゃないか」
「ソ、ソンナコトナイヨー」
くっ、鋭いな! さすが年の功ってところか?
けれど今はまだ、勘弁してほしいんだ。こればっかりは覚悟がいることだから、どうか待ってほしい。
なぜって? 決まっている。身内に自分が描いたエロ漫画を見せるのって、本当に心構えがすごく必要なんだよ……!
いやしょうがないだろ! 僕の作品の八割くらいはエロなんだから!
おまけにそのほとんどが、今のひいじいさんみたいな小さな女の子が主体となれば、言うのをためらうのも仕方ないと思わないか!
もちろん全年齢向けの作品もあるが……そっちも大体主人公もしくはヒロインが小さな女の子だから……。
「そ、そんなことより! 今後どうするつもりなんだい? 能動的にこっちに戻ってきた、ってことは何かしら目的があるんだろ?」
「あー、それなんだが……」
だからどうにか僕の作品から話を逸らすべく、今後の展望についてを聞いてみたところ、ひいじいさんは口ごもった。
見た目がとんでもない美少女なものだから、うつむき気味にまごまごしている様子は本当にかわいくて困る。
思わず筆記用具一式に手が伸びた。その様子、スケッチさせてくれ。そう思いながら冊子を開く。
そうして観察モードに入りかけていたからか、見えた。ひいじいさんの口が何かを……恐らくは、ひいばあさんの名前を言いかけて、引っ込めたところが。
「米と味噌汁がどうしても食いたくて……」
代わりに出てきたのは、どこかおどけたような言葉だった。
僕も三十年近く生きてきた身だ。直前見えた、幼女の見た目にまったくそぐわない
だから僕は、彼……彼女?
彼女でいいか。彼女の言葉に、全力で乗っかることにする。
「なにて?」
「米と! 味噌汁が! もう一度食いたかったんだよ! なんか文句あっか!?」
できるだけきょとんとした……宇宙を背負った猫のような顔で聞き返せば、ひいじいさんは顔を赤くしてぴょんと立ち上がると、拳を振りかざして声を張り上げた。
ひいじいさんだという認識はあれど、今のひいじいさんは超絶美少女である。しかも小さな。いくらすごんだところで、ただただかわいいだけだった。
直前までの、これぞ酸いも甘いも経験した大人とも言うべき表情とのギャップたるやね。
「待って、かわいい。マジでスケッチさせてほしい。ちょっとの間、その姿勢のままでいてくれる?」
「スケッ……!? おま、俺がかわいいのは認めるが、いきなりそう来るやつがあるかよ……」
「認めちゃうんだ」
「もう女やってる時間のほうが長いんだ、それくらいの自覚はあるよ。ったく……ほら、好きにしろよ」
「案外ノリいいなこのひいじいさん……」
ため息交じりに言いつつも、そこにはどこかからかうような顔と口調があった。それに拳を振りかざしたポーズのまま静止する辺り、このひいじいさんかなりの素質を感じるぞ。
そう思ったのだけれど、どうやら単純に慣れから来るものらしい。
「前世でも今世でも、被写体になるのは慣れてんだよ。前世だと同僚に絵が得意なやつがいたし、今世だと貴族の生まれなもんでな」
「へぇー、どっちも興味深いエピソードだ……ん?」
けれどそれよりも、僕はその前に出てきた言葉のほうが気になった。
「待ってくれ。さっき女やってる時間のほうが長いって言った? その見た目で? まさか、若返ってるのか? それとも時間を止めている口?」
「マジで察しがいいな……まあ、その通りだ。時間を止めている口だよ。魔法でちょっとな。生まれ変わって八十年くらいだ。前世も足すと百歳超えるな、ガハハ!」
「なんとまあ……まさかのTSロリババアとは……」
うーん、そっちか……。残念だな……見た目通りの年月しか経っていない状態であってほしかった。
いや、別にTSロリババアが嫌いなわけじゃない。むしろTSもロリババアも大好きだ。それ専門の雑誌に、それぞれ漫画を定期的に掲載してもらえているくらいには好きだ。
ただ両者が組み合わさった場合、それぞれのよさを打ち消し合ってしまう可能性があると僕は思っているのだ。今回のひいじいさんのケースは、まさにそれが起こり得るケースだと思う。
だって、肉体の変化に伴う精神の変化やそこから起こる様々な出来事を、既に異世界側で消化してしまっている可能性が極めて高いじゃないか。TSの主な醍醐味はそこにあるだろうに!
本当に肉体的にじいさんだった男が、後天的にロリへTSしたパターンならよかったんだが……。
もちろん、TSしたことをさっさと受け入れて、大して深く考えることなく新しい肉体を楽しむキャラもいる。それはそれでおいしいし、そういう漫画も複数描いてきたが、せっかくのリアルTSロリババアとこうして会えたのなら、そうしたあれやこれやが見たかった……!
「ババアはわかるが、てぃーえすとかろりとかなんのことだ?」
「話すと長くなるから、それも追々ね。で、飯が食べたいってことだったけど」
まあそんなことを語ったところで、ひいじいさんに理解してもらえるとは思っていないし、むしろ距離を置かれるだろうことは容易に想像できる。
だから僕は何も触れず、さっさと話題を変えることにした。我ながら強引とは思うけれど、ひいじいさんは一瞬何か言いたげな顔をしただけで、乗っかってきてくれた。ありがたやありがたや。
「あー、まあ。やっぱ日本人なら米と味噌汁だろ」
「それは全面的に同意するけど。異世界に戻るつもりは?」
「ねぇな。そもそもの話、異世界での暮らしに満足してたらこっちに戻ろうなんて思わねぇだろ?」
「ごもっともで……家族はいないの?」
「いたけど、直接付き合いがあった人は全員見送ったよ。言っただろ、生まれ変わって八十年くらいって。それにここ十数年は、人付き合いもできるだけ絞ってたしな」
と、ここで声がトーンダウンするひいじいさん。表情も、どこかシニカルで幼女らしくないけれど……あいにくとこういうギャップが、僕は大好物なんだよな。
ロリババアの魅力って、こういうふとした瞬間に垣間見える年長者としての貫禄や態度だと思うんだよね。
ヤバいな……このままだと僕、ひいじいさんのことをそういう意味で好きになってしまいかねない。曾祖父とそういう関係って、エロ漫画家の僕でもさすがにどうなんだと思うぞ。
「死ぬ前の身辺整理みたいな話だ……大事ではあるけど……。にしても、つまり永住希望だよな……こういうとき、戸籍とかどうすればいいんだっけ……?」
「え、あ、い、言われてみれば確かに、脇田光太郎は死んでるんだもんな。えーと、やっぱり役場か?」
「どうだろう、わからない。そもそも戸籍を持たない人間が、ある日突然出現するなんてそうそうあるはずないから知る機会もそうそうないもんな……」
内心のちょっとした動揺を抑え込みつつ、ペンを動かし続ける。幸いというべきか、自分で出した懸念点が本当にデカい問題だと思われるおかげで、僕の心はすぐに凪いでいった。
自分で言っておいてなんだけど、マジでこういう場合の身分証明とかってどうするんだろう。ダメすぎる親が子供の出生を届け出ていなかった、とかで戸籍をあとから発行するみたいな話は聞いたことがあるけれど……今回のケースとはちょっと状況が違うよなぁ。
ネットで検索してすぐに出てくる話か? 出てきたとして、問題なく手続きできるかどうか……。できたとして、戸籍が問題なく発行されるまでにどれくらいの時間が……。
……うん。このことは、あとで考えよう!
これはスケッチの片手間で考えられることじゃない! 時間をかけてきちんと調べないといけないやつだ!
なんなら、法律の専門家とかに相談しないとダメなやつな可能性もある。素人が下手に手を出して、痛い目を見るのは嫌だ。
というわけで、このことは一旦棚に上げることにした。考えるのをやめたとも言う。
でもしょうがないだろう。この手の知識や経験なんて、一切ないんだから。
「……よしできた。もう動いていいよ、ありがとう」
そうこうしているうちに、スケッチが終わった。うむ、まあまあかな。
「早……そしてうまいな!? いや驚いた、これで飯食ってるのも納得だぜ」
「それほどでもないよ」
スケッチブックに描かれた、シャーペンの黒だけな絵の自分を見て、感心するひいじいさん。楽しそうに目がきらめいていて、実にかわいいのである。
その様子に、これからも定期的に絵のモデルになってもらおうと思いつつ、僕は腰を上げた。
「よし、それじゃ飯でも食べに行こうか。奢るよ。細かい話は食いながらゆっくり話そう」
「え、今から? もう七時回ってるだろ、こんな時間にやってる飯屋なんてそうそう……」
「あるんだな、これが。むしろ今の時代、深夜までやってる店だって珍しくないんだぜ」
「そうなのか!?」
そうなのだ。この点に関しては、明確にひいじいさんが生きてた頃に比べて進歩した点って言っていいだろう。
「……あ、そうだ。外に行く前に聞いておきたいんだが、あんたのことはなんて呼べばいい? 外でひいじいさん、なんて呼ぶわけにはいかないだろ」
何せ見た目は十歳くらいの少女だ。そんな女の子に向かって、ひいじいさん呼びは明らかに事案だろう。そう思われなくとも、後ろ指を指されること請け合いだ。
ひいじいさんもそこは理解できたのだろう。なるほどと一つ頷くと、胸をどんと叩いて声を上げた。
「そういうことなら、俺のことはセティと呼んでくれ。セティーア・グレンセイ、それがこの身体の名前なんだ」
まっすぐ僕を見つめる顔は、なぜかドヤ顔だった。いちいち仕草が子供っぽくてかわいいの、ずるいんだよな。
こうして僕は、見た目は美少女中身はひいじいさん、という異世界からの帰還者、セティと出会った。八月の半ば、東京で開かれていた夏の大同人誌即売会から帰ってきた日の夜のことである。
実に約5年ぶりくらいの新作オリジナル作品になります。
ヒロインがTSロリなので、まずは有識者の多いハーメルンで様子を見ようと思ってこちらに投稿をはじめました。
更新は不定期予定ですが、最低限の情報が出る第一話と第二話はひとまず連続投稿していきます。
いずれなろうやカクヨムなどにマルチ投稿する予定ですので、その際はご助力いただければなと思う次第。
え、TSロリはいつも通りだろって?
それは、まあ、その、はい(素直